片平なぎさが35年ぶりに風間杜夫と共演 妻として母としての思いにぐっとくる 舞台『セールスマンの死』

インタビュー
舞台
2018.7.18
片平なぎさ

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アーサー・ミラーの傑作戯曲を長塚圭史が演出する『セールスマンの死』。奇しくも戯曲の初演の年に生まれた風間杜夫が主人公のセールスマン、ウィリー・ローマン役を演じ、風間との共演はテレビドラマ『スチュワーデス物語』以来35年ぶりとなる片平なぎさがウィリーを支え続ける妻リンダに扮する。片平に作品への意気込みを聞いた。

ーー翻訳劇に挑戦されるのはこれが二作目だそうですね。

舞台自体3年ぶりで、翻訳劇は16年前にチェーホフの『ワーニャおじさん』でエレーナを演じて以来なんです。だから、外国人になるのが二回目(笑)。『ワーニャおじさん』のときは、何を描こうとしているのかが難しくてなかなか理解できず、演出の栗山民也さんが一日に30個も40個も下さる課題をクリアしていくうちにできあがっていく。最終的にはとても気持ちいい! と思ったわ。舞台のもつ独特の雰囲気、お客様の視線を感じているということもあり、一から百まで順を通して演じることで、気持ちの流れに無理なく乗っていくことができて。演者としてはいけないことかもしれないけれど、悦に入ってしまったところもありましたね。今回の『セールスマンの死』について言えば、日本が今おかれている状況とリンクするところが非常に多いなと思うんです。もちろん舞台はアメリカですが、異国の物語だという感覚が本当になくて、すごく自然に溶け込めそうな気がします。台本を読んで、70年くらい経っているのにまったく古さを感じないんですよね。

ーー今の日本とどんなところがリンクするとお感じになりましたか。

仕事、定年、住宅ローン、年金生活、親の期待に苦しむ子供たち、今の日本と一緒じゃない!?と思うところが多くて。もちろん現在の日本では、作中のように、車も電気製品もそんなに壊れませんけどね(笑)。でも、抱えている住宅ローンを返し終わったころには定年がやってきて、迎える年金生活も今後目減りしていくだろうという不安がある。70年経っても何も変わっていない、みたいな。そうお感じになりませんか?

片平なぎさ

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ーーご自身が現時点で戯曲を読まれてぐっときたところは?

私は子育て経験者ではないですけれど、女性にとって息子は異性だという話はよく聞きます。娘は頼もしい友達だけれども、息子はいつまで経ってもどこか恋人のような感じというか。壊れかかっている夫を支えるために、その息子を切り捨てようとする場面があるんですが、それがすごく、苦しい決断だっただろうなと思うんですよ。妻としての思いと、母としての思いがあって、すごく苦しい決断をする。そこが一番心にぐっときましたね。

ーーどうにかならなかったのかな……と、戯曲を読んでいて思ったりもします。

私も同じことを思いました。何かやりようがあったんじゃないの? と。ウィリーの幻想、思い出の中に出てくる若きリンダが、ウィリーがお兄さんのベンにアラスカ行きを誘われたとき、阻止してるんですよね。今の生活でいいじゃない、十分幸せじゃないって阻止する。だけど今、夫が、あのとき行っておけばよかったと苦しんでいる姿を見て、リンダは負い目を感じているのかも? という見方もできるな。何度か読むうちにそう思えてきて、そうするとまた全体の見方も変わってくるというか。まだお稽古に入っていないですし、私の読み方だけで決めつけてはいけないと思うので、ああいう解釈もできる、こういう解釈もできるといういろいろな方向性を、お稽古場に入るまでに何回も読んで考えていきたいと思っています。

ーー演出の長塚圭史さんとはどんなお話をされていますか。

演出して出演もされている『ハングマン』を観に行ったときにご挨拶させていただいたんですが、「まだ僕、何もやってないですよ」とおっしゃってました。役者でかつ演出もされるってどんな感じなんだろうと思いながら舞台を拝見しましたが、立ち姿がお父様(長塚京三)にそっくりで。親子って不思議だなあと思いました。

ーーウィリー役の風間杜夫さんとは『スチュワーデス物語』以来35年ぶりの共演になるとか。

風間さんがおやりになると思うと、とてもチャーミングなウィリー・ローマンになるだろうなって想像できるんです。そんな思いで戯曲を読んだら、すごくぐっとくるんですよ。何となく映像化できてしまう。そうさせてしまう風間さんってすごいなと思うんです。字面だけ追っていると、かんしゃくもちだし、どこか手をつけられない困ったオヤジという感じがして、そこからかわいげを見出すのが難しい。でも、風間さんが演じられると思うと、ウィリーがすごくチャーミングに感じられる。そうすると、リンダとして心底ウィリーを愛することができると思うんです。どんなにハチャメチャでも、奥さんはこの人を支えたいと思うんだろうなというのがわかる。共演できるのが本当にうれしいです。

片平なぎさ

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ーー片平さんが感じられる作品の魅力とは?

二日間という短い時間の中で、ローマン一家の25年間がこんなに鮮明に描かれる、その手法がすごいですよね。名作と言われているだけあるなと思います。登場人物一人ひとりがこの25年間どんな人生を送ってきたかが鮮明に想像できる。そしてそこに託されている問題が、現代の日本とリンクしていて、とても考えさせられます。私はサラリーマンではないですけれど、現役として仕事をしていく中で、元気で活力があってバリバリやっていた時代というのはもう過ぎていて、ここから老いていく自分みたいなものを、年々感じているわけです。役者としてもやりたい気持ちはあっても体力的能力的についていけない、そんなことも徐々に始まってきているわけですよ。正直不安もありますよね。作品を読んで自分が置かれている「今」を考えさせられる時間を与えられた気がします。そして、ならば今、生きて頑張れる間に何をすべきなのか、何を楽しむのか、後悔のない終わり方をするためにはどうしたらいいのか、そんなことを考えるに至ります。きっと誰にでも絶対それぞれ抱えている悩みや問題があるわけで、その意味で、誰が観ても誰かに自分を投影できる作品だと思うんです。遠く離れたアメリカの物語ではなくとてもすごく身近に感じられる作品ですよね。

ーー意気込みをお願いします。

ウィリーの思い出の中に生きる若き日のリンダと、壊れていく夫をおびえながら一生懸命必死になって支えていく現在のリンダ、その二人のメリハリを楽しみたいと思いますね。そのどちらのリンダも心底夫を愛している、その姿が何よりも大事で強く伝えなきゃいけないポイントじゃないかなと思っています。

片平なぎさ

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取材・文=藤本真由(舞台評論家)撮影=山本れお

公演情報

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース 『セールスマンの死』
 
日程:2018年11月
場所:KAAT 神奈川芸術劇場 <ホール> ※11月3日、4日はプレビュー公演
 
スタッフ:作 アーサー・ミラー
     翻訳 徐賀世子
     演出 長塚圭史
     美術 二村周作
     照明 齋藤茂男
     音響 加藤温
     衣装デザイン 伊藤佐智子
     ヘアメイク 谷口祐里衣
 
出演:
風間杜夫 片平なぎさ 山内圭哉 菅原永二
伊達暁 加藤啓 ちすん 加治将樹
菊池明明 川添野愛 青谷優衣
大谷亮介 村田雄浩
 
発売:2018年7月中旬先行発売、7月下旬一般発売開始
お問合せ:かながわ 0570-015-415(10:00~18:00) ※地方公演あり
企画製作・主催 KAAT 神奈川芸術劇場
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