放送直前!オリジナル3DCGアニメ『スペースバグ』中尾浩之監督インタビュー

2018.7.5
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TVアニメ『スペースバグ』第1話より (c)W.BABA&TMS

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NHKで放送され、大反響を呼んだ異色の歴史番組『タイムスクープハンター』シリーズや、実写・CG・アニメーションを融合させたライブメーション『スチーム係長』など、個性的な映像作品を数々生み出してきたクリエイター・中尾浩之。そんな彼が手がける初のTVアニメ作品『スペースバグ』が、7月8日よりTOKYO MXにて放映がスタートする。「宇宙ステーションに取り残された虫たちが故郷の地球を目指す」という異色の冒険ストーリーはどのように作られたのか?放送を目前に控え、脚本・監督を務める中尾浩之に見所などを訊いた。

──現在のような映像製作の道に入られたきっかけはどのようなものだったのでしょう?

映像関係の仕事をしたいと思ったのは中学生ぐらいからですね。その頃から8㎜フィルムで自主映画を遊びで作ったりしていたので、その流れで文化祭用に作品を作ったり、大学も映像方面のことを学びたいなと思って日本大学の芸術学部に進学しました。目指した道にはずっと迷いが無かったんですけど、僕らの頃って映画監督になるのが難しかったんですよね。映画会社に入って助監督をしながら学んでいくというシステムがもう無かったので。ぴあフィルムフェスティバルとかから監督の道に入る人も増えてきていたんですけど、コンテストの主流になっているような作風が、僕の作りたい映画とは違うなという思いがあったり。そうこうする内にパソコンでCD-ROMを使ったマルチメディアコンテンツが騒がれ始めたんですよ。

──パソコンの普及が転機となったのですか?

それまでパソコンには興味が無かったけど、実際に色々と触れられる機会があって、自分で作っていくのなら8㎜で自主映画じゃなくてパソコンでビデオ編集というスタイルもありじゃないかと。その頃はまだQuickTimeで解像度が640×480ぐらいの小さな映像をやっと加工できるぐらいだったんですけど、8㎜に比べたらずっと綺麗に作れるかなと。でも画質的にはあまり商業ベースに乗せられるものじゃないし、自主動画の域を脱していなかったのでどうしようかと思っていた時に、役者を撮影した映像をパソコンに取り込んで、一枚ずつ加工してアニメみたいにして作ってみたんですよ。それが『スチーム係長』という作品で、Photoshopで手描きの加工を加えたりCGの煙突を乗っけたりとかして、アニメと実写の融合みたいな映像に仕上げたんです。これならばTVの放送に乗っかっても他の映像と対等に扱ってもらえるかなと。それをMTV-Station IDコンテストに出してみてグランプリをいただいて、そこからCMなどの映像の仕事をいただくようになったんです。それとエンターテインメントな作品も作りたかったんで、映像製作と並行して脚本や番組の企画を書いてテレビ局に送ったりしていました。そうしているうちに『タイムスクープハンター』などの企画が実現して、今回の『スペースバグ』へ繋がっていった感じですね。

──今回の『スペースバグ』はどういった経緯でスタートした企画なのでしょうか?

『スペースバグ』は最初に日韓共同製作で3DCGアニメを作るというプロジェクトがあったんですけど、作品自体の企画や脚本がまだ決まっていなかったので、僕が入って一から原作を作ってという形でスタートしたんです。内容を思いついたきっかけは「虫」と「宇宙」というのはCGでやりやすいなというのがあって、そこからどんなストーリーを作ろうかというのを考えながら色々調べたら、宇宙ステーションなどでの実験に想像以上に色々な生き物が地球から連れて行かれているんだなとわかったんです。それで実験に使われた後はどうなるんだろうと純粋に思って、もしそんな生き物たちが宇宙ステーションに取り残されたら、彼らだって生まれ故郷の地球にいた方が嬉しいはずなんで、地球に帰るまでを描けばすごい冒険になるんじゃないかと、割とすぐ思いつきました。

アニメ『スペースバグ』第1話より

──虫には以前からお詳しかったのでしょうか?

けっこう自分の記憶の中からネタを出してきたりしましたね。よく科学系のニュースでネムリユスリカやクマムシが宇宙でも死なない話とか、面白い生態の話が出てくるじゃないですか。そういうのをいつか作品で使おうと記憶の片隅にしまっておいたりするので、今回は虫という事でその引き出しから引っ張り出して使ってみようかなというのがあります。

──登場する虫のバリエーションは多いのでしょうか?

シリーズ後半に出てくる別の虫も僕が子供の頃に好きだったり気になっていた虫が色々出てきます。個人的に蜻蛉のはかない美しさとかが好きなんですけど、登場させることができなかったのは残念でしたね。その分、他の面白い生態の虫は色々出てきます。

──ストーリーには色々な科学技術のお話も絡んできていますね。

そういった科学のトーンをどうしようかというのは悩みましたね。完全にSFですべてフィクションの世界で描くか、それともリアリティ重視で描くかの二つのパターンがありますから。僕は3DCGで作るのでリアル方向に寄せようと思って、ネタとして実際にあるようなモチーフを使って物語に組み込むようにしました。そこからどんなアクションや物語を作れるかを考えながら、製作を進めていったんです。

アニメ『スペースバグ』第2話より

──メインキャラクターの一人でもあるクモのマルボが、クモなのに太ってて動きが鈍いのも、宇宙ステーションで生まれ育ったせいたったりするのでしょうか?

それもありますが、キャラクターがトリオなんでスマートなやつ(ネムリユスリカの「ミッジ」)、学者風のやつ(コオロギの「ハカセ」)、太めで丸っこいやつ(クモの「マルボ」)といった3人組の定番を揃えてみようという発想もありました。

──虫の視点から見た人間基準サイズの宇宙ステーション内など、スケール感の演出も面白いですね。

そこは苦労しましたね。宇宙ステーション内の小道具や部屋などのセットはすべて人間が使っている物だから、それらと虫との対比を見せる必要があるんですが、虫の視点からみたら巨大なものばかりになってしまうし、かといって舞台が宇宙ステーションであることはちゃんと見せないといけないので、うまくバランスを取るのがけっこう難しかったです。

──話が進むごとにどんどん舞台が替わるのも、そんな苦労に拍車をかけているのでは?

舞台となる背景セットとかもCGなんですが、宇宙ステーション内でもどんどん舞台は変わるし、脱出後は色々な惑星に向かうので、せっかくつくったセットを数話しか使わなかったりしているので、作品の造りとしてはけっこう贅沢なんです。製作自体も四年前からずっと作り続けていますからね。脚本はすべて上がっているんですが、本編はまだまだ製作中ですので。

──これまでの『スチーム係長』や『タイムスクープハンター』シリーズなど、大人向けの個性的な作品がこれまで多かったですが、子ども向けの3DCGテレビアニメ作品である『スペースバグ』では、作品製作へのアプローチに変化はありますでしょうか?

子ども向けだからといってあまり意識はしませんでした。最近の子どもは色々な情報にも触れていますし、色々なものに触れてもっと先に行ってほしいという思いもあったので、話の展開やテーマ、設定なども子どもに見せるからといって単純にはしませんでした。僕自身が子供の頃に見ていたドラマやアニメって、すごく大人っぽい設定やストーリーのものがあったけど理解できていたし、逆に子どもだまし的なものは見透かしてしまってあまりノレなかったりと、そういうのを面白いと思って育ったので、あまり気にしてはいません。『タイムスクープハンター』も子どものことは意識していなかったけど、家族で面白く見てくれていたり、小学校の授業でも教材として使われたりという話を聞いていたので、常に広い世代に楽しんでもらえるような作品作りを心がけています。もちろんあまり難しい言葉をつかわないようにしたり、飽きさせないように説明ゼリフを抑えたりアクションを盛り込んでテンポをよくしたりと、内容がしっかり届くような描き方には気を遣っています。

アニメ『スペースバグ』第2話より

──子ども達に向けた様々なコラボイベント(7月21日から科学技術館で開催される『「スペースバグ」スペシャルイベント~科学技術館でミッジと学ぼう!宇宙と虫の不思議!~、8月1日に開催されるTVアニメ「スペースバグ」で学ぶ映画音楽(フィルムスコアリング)の楽しみ方教室』の開催が予定されている。詳細はスペシャルサイトにてご確認ください)も予定されていますが、こういった企画の立ち上げなどにも監督は関わられているのでしょうか?

企画は私だけでなく、弊社の企画チームとして「こんなのできたらいいな」ということで色々仕掛けてますね。オリジナル作品なんでなかなか知ってもらう機会が無いので、一人でも多くの子どもや御家族に認知してもらいたいということで、なるだけそういうイベントなどで作品に接してもらいたいなと色々進めています。

──やはり虫は子ども受けがいいのでしょうか?

虫と宇宙はやはりワクワクするのか子どもの食いつきがいいですね。僕自身も好きなので、作中ではさらにロボットなどのメカも絡めています。僕が昔好きだった大人向けのドラマとかアニメとかでも、話は理解し切れていなくてもあるシーンだけ強烈に記憶してたりということがあって、大人になって改めて思い返して「こういう事を言っていたんだ」と感じたりするので、『スペースバグ』もアクションシーンを気に入ってくれた子ども達が、将来大人になってより深く内容を理解したり、自分の子どもに作品を見せるみたいにずっと気に入ってもらえたらと思って作っています。

──日本のアニメは一話30分というスタイルが定番ですが、『スペースバグ』が1話10分程度となったのは?

海外だと日本のアニメのような30分枠じゃなくて10分ほどの枠が定番なので、それに合わせて作っています。だいたい日本のアニメでのAパート・Bパートでそれぞれ1話ずつで、二話まとめるとちょうど区切りよくストーリーがまとまるようにしています。全部で52話ですから、日本のアニメに合わせるとちょうど2クール・26話ほどのボリュームとなっています。

──ビジュアルなども含めて海外展開も意識しているということでしょうか。

キャラクターの方はマーベルコミックなどでもお仕事をされているグリヒルさんにお願いして、アメリカのテイストと日本のアニメらしさをミックスしたようなラインで仕上げていただきました。メカニック関係は韓国のW.BABAに担当してもらっているのですが、今回は「引き算」のデザインを意識して「もしかしたら本当に存在するかも」と思わせるようなリアリティかつシンプルで、さらに可愛らしさをプラスしたデザインでまとめてもらっています。

──日韓共同製作の3DCGアニメということで、普通のアニメとはまた作り方も変わってきますか?

今回はすべて声の録音を先に済ませるプレスコで進めていて、それに合わせてこちらでVコン(ビデオコンテ)を制作して、それを元に韓国の方でCGムービーに仕上げてもらうという形で進めています。近いのでスタッフに日本に来てもらうこともありますが、Skypeで打ち合わせやデータのやりとりや動画チェックをするなど、ネットもフルに活用して進めています。

──最後に監督からの『スペースバグ』の見所をお願いします。

宇宙ステーションの中だけで話は終わらず、そこから旅立った後は色々な環境の星にいったり、メインビジュアルに出てこないような虫もどんどん出てきます。ストーリーもコメディやアクションだけでなく、シリアスなストーリーなども展開しますので、ぜひ放送を楽しみにしていてください。

同時に、本作の第1話・2話のあらすじと先行カットが公開されている。第1話の放送は7月8日(日)朝10時30分から。

第1話「おはよう!ミッジ」あらすじ
人間のいなくなった宇宙ステーション。長い眠りから覚めたネムリユスリカのミッジはコオロギのハカセ、クモのマルボに出会う。自分がなぜここにいるか分からないミッジにハカセは何が起きたか語って聞かせる。3匹は食料を求めて宇宙ステーション内にあるはずの宇宙農場を目指すのだが…!?

第2話「失われた楽園」あらすじ
宇宙農場にたどり着いたミッジ達。そこで見たのは驚愕の風景だった。戸惑う彼らの目の前に害虫駆除のロボットが突如として現れ、攻撃を受けてしまう。一方その頃、逃げ惑うミッジ達を別の場所から見ているカエル達がいた…!

オリジナルTVアニメーション「スペースバグ」予告編 オープニング主題歌ver.




インタビュー・文:斉藤直樹
 

放送情報

TVアニメ『スペースバグ』


TVアニメ『スペースバグ』メインビジュアル


 
7月8日よりTOKYO MXにて放送スタート!
毎週日曜朝10時30分~

「dアニメストア」7月8日(日)より配信開始
「dTV」7月8日(日)より配信開始
「FOD」7月8日(日)より配信開始
「あにてれ」7月8日(日)より配信開始
「J:COMオンデマンド」「ビデオパス」7月9日(月)より配信開始
「バンダイチャンネル」7月9日(月)より配信開始
「U-NEXT」7月9日(月)正午より配信開始
「アニメ放題」7月9日(月)正午より配信開始
※配信開始日は変更となる可能性がございますので、あらかじめご了承ください。


【CAST】
ミッジ:小川夏実
ハカセ:丸山智行
マルボ:佐野康之

【STAFF】
脚本:中尾浩之
監督:中尾浩之/YOON Yoo-Byung
キャラクターデザイン:グリヒル
音楽:戸田信子・陣内一真
アニメーション制作:W.BABA / P.I.C.S.
企画:トムス・エンタテインメント
協力:トムス・ジーニーズ
製作:SPC/トムス・エンタテインメント / W.BABA 

 
OPテーマ:ウォルピスカーター『THEJOURNEY HOME』
EDテーマ:上月せれな『星の数だけありがとう』

スペシャルサイト:http://www.spacebug-special.com/
Twitterアカウント:@Spacebug_jp

(c)W.BABA&TMS