全演目、三遊亭円丈作品で「実験落語neo〜シブヤ炎上まつり2018〜」開催

2018年7月5日、『実験落語neo〜シブヤ炎上まつり2018』が開催された。

『実験落語neo』は、かつて渋谷ジァンジァンで開催されていた三遊亭円丈主催の新作落語の会『実験落語』の復活と銘打ち、2016年6月にスタートした。シリーズ11回目にあたる今回は、昨年4月に上演し好評であった、全演目が三遊亭円丈作品という「炎上まつり」の第二弾である。出演者は、三遊亭円丈、柳家喬太郎、立川談笑、玉川太福（曲師：玉川みね子）、笑福亭羽光。円丈以外は、全員ネタおろしということになる。

18時開場とともに、ロビーでのウエルカム落語がスタート。毎回、三遊亭円丈の”色物弟子”の三遊亭はらしょうが務める。唯一無二のドキュメンタリー落語家として活動をしているはらしょうが高座にかけたのは、本人作の『浅草観音温泉』と円丈の代表作『悲しみは埼玉に向けて』。ロビーは満席、19時開演に向けて、観客のテンションを上げるのに一役買っていた。

19時の開演とともに高座に上がったのは、笑福亭羽光。演目は『失われたキンタマ』。新作落語では珍しく円丈師匠宅で稽古をつけてもらったとのこと。マクラでは、その稽古の厳しさを語る。ネタがネタだけに、”キンタマ”の揺れ方の指導になったそうだが、真剣に語れば語るほど、客席に笑いが起こる。本ネタに入ると、マクラを受けての揺れ方の動作がますます笑いを誘う。円丈のネタには珍しい下ネタではあるものの、それを意識させない痛快な一席となっていた。

次に登場したのは、玉川太福。昨年の「炎上まつり」に続いて二度目の円丈噺への挑戦である。今回の演目は『宇宙瞑想曲』。円丈自身もそんなにかけたことのない演目とのこと。「サンサーラ」という節から始まった浪曲版『宇宙瞑想曲』は、輪廻転生をテーマに壮大でありつつも、円丈ならではというところの裏切りもある演目である。太福が語り、うなり、曲師・玉川みね子の三味線の音が、初めて合わせたとは思えない絶妙なタイミングで入り、その話の輪郭がより明確に浮かび上がる。太福が浪曲にすることで、より一層、演目の魅力が際立つ一席だった。

次は、立川談笑が登場。演目は『ムムムム』。胎児と対話するSF要素の詰まった一席である。オリジナルは、産まない決断をしようとする両親に、胎児が復讐を誓いながら産まれてくるという、肝が冷えるようなストーリーだが、改作の名手でもある談笑が少しニュアンスを変えるだけで、希望に満ちた作品に昇華させ、客席を暖かい空気に包んでいた。

中入りを挟み、柳家喬太郎が登場。演目は『わからない』。何が原因なのかも分からないままに絞首刑になる男の話である。不条理劇を見ているかのような一席。演劇でも主演経験のある喬太郎の演技力が生きる演目であり、あまりのシリアスさに客席は静まり返る。人の心の核心に迫り、聞き入らずにはいられない、新作落語の底知れない可能性を感じさせる高座であった。

トリは、三遊亭円丈。代表作の『グリコ少年』の一席。自身の作品集であるこの会を振り返り、「（『わからない』を）恐いですね〜」と語り、客席の空気を一気に弛緩させる。お菓子に対するワクワクする気持ちを思い出させる、楽しい一席である。最後には、客席にお菓子をまき、自身もキャラメルを食べて、「一粒300m」という言葉とともに、新作落語のレジェンドは客席を走り抜け、歓声の中ロビーに消えていった。

その後、舞台上ではエンディングの映像が上映され、羽光、太福、談笑、喬太郎の高座後のインタビューが流れた。高座の映像とともに編集され、ドキュメンタリー作品のような趣の映像であるが、その中で喬太郎が語った「客席をこんな空気にできるのなら、まだやれると思いました」という言葉が印象的だった。

幅広いジャンルの演目に、円丈が新作落語のレジェンドたる所以が感じられる。また、それぞれが自身のネタのように感じられるくらいの一席に仕上がっていて、終始、熱量の高さを肌で感じることのできる会となっていた。

次回は、10月25日(木)開催の『実験落語neo〜シブヤ炎上ミックス〜』。円丈ほか、柳家権太楼、玉川奈々福、神田松之丞、立川吉笑が出演。落語、浪曲、講談が並ぶ、楽しい会になりそうだ。

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