JAPON dance project 2018×新国立劇場バレエ団『Summer/Night/Dream』インタビュー、「固定観念を外して自由に楽しんで」
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撮影:西原朋未
海外で活躍する、あるいは活動経験を持つ日本人ダンサーを中心に、モナコ・東京の2都市を拠点として活動するJAPON dance project(JDP)。新国立劇場バレエ団のダンサーとのコラボレーションによる3回目の公演はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』を題材にした『Summer/Night/Dream』だ。ダンスを通じて現代の日本文化を表現することを目的に活動してきたJDPとしては初のストーリー物の舞台となる。
今回の出演はJDP設立メンバーの遠藤康行、小池ミモザ、柳本雅寛に服部有吉(元ハンブルクバレエ/H/Wバレエ学校芸術監督)、津川友利江(元バレエ・プレルジョカージュ)を迎え、さらに新国立劇場バレエ団(以下新国)からは米沢唯、渡邊峻郁のほか8名が参加する。8月25・26日の公演を前に遠藤、小池、柳本の3人に話を聞いた。(文章中敬称略)
■3回目でストーリー物に挑戦
――今回はシェイクスピア『真夏の夜の夢』がテーマということです。JDPとしてストーリーのある作品を取り上げるに至った経緯を教えてください。
小池 今回3回目ということもあり、ストーリーのあるものに挑戦してみたいと思ったのがきっかけです。その中でいろいろなストーリーを検討した時、『真夏の夜の夢』が一番しっくりきた。 作品にいろいろなメッセージが込められ、JDPのチャレンジも含め、柔軟性がある見え方ができると思いました。
遠藤 今回の作品はダブルミーニングではないですが、シェイクスピアが言いたいであろうことと、僕らが考えていることを舞台上で表現したいと思っています。
――JDPのメッセージというと。
小池 私がひとつ思ったのは、例えばシェイクスピアの時代にしても今にしても、「こうしなければいけない」「誰と結婚しなければいけない」「これがいい、これが良くない」など社会の枠がありますよね。お話では登場人物がその「一番大切だ」とされている枠から逃れようとして自然界に迷い込むのですが、自然の中では一番大切だと思っていた枠はそんなにたいしたものではなかったという、そういうイメージです。そして登場人物は自然界でいろいろな経験をして、人間界に戻ってくるわけですが、その時は以前と全く同じではないなと。
またシェイクスピアが言いたかったことのひとつには愛情の形もあると思うんです。今回は職人たちをはじめ細かい役は割愛していますが、原作の中では人間たちや妖精たち、職人は職人なりの自分たちのやっている仕事に対しての愛情だったりと、いろいろな愛が描かれています。そのどこを見せるかということを、今後話し合って詰めていきたいなと。シェイクスピアからインスピレーションをもらいながら、JDPなりのオリジナルなものを創作して行くという感じです。
■ボキャブラリーの違うダンスの表現にも注目
――オベロンを遠藤さん、タイターニアを小池さん、パックを柳本さんのお三方が演じられますね。配役についてのお話を。
遠藤 タイターニアはすんなり決まったのですが、パックは柳本さんか服部君で迷いました。
柳本 服部君は昔ハンブルクバレエで踊っていて、小柄でシャープでテクニシャン。最初は彼にパックをと思っていたんですが、そこからいろいろ話し合いをして僕がやることになりました。というのも、この物語は4人の人間の、2つのカップルによって物語が展開する。ならば服部君の方がよく動けるなと。それにつくりながら踊るのは結構大変。だったらパックであれば自分を外に置けるので。そうすれば後ろに下がって作る方に専念できるし、僕は僕の立ち位置を自分で作れる。
――フレキシブルに動けるというのもあるのですね。
小池 柳本君はすごくパックに合っていると思うんですよ。一般的なイメージではパックは小柄でよく動くというのがありますし、バレエでもそういう配役をされることが多いですが。だからそういう固定概念を逆に壊したいなと思いました。
――そこですでにJDPらしさが出ていると。妖精王と女王、オベロンとタイターニアについてはいかがでしょう。
遠藤 妖精王とはいえ、結構人間的なキャラクターでもあるんですよね。
小池 妖精と人間をはっきり分けた感じではないかな。もちろん妖精の王・女王ですが、原作では人間界の王・女王も登場します。ですからその両方の意味合いも含むところがあるかもしれません。
――さきほどお話にも出ましたが、今回は服部さんと津川さんがゲストで出演されています。このお2人を選ばれた経緯と理由を。
柳本 服部君はドイツにいたときの僕の繋がりです。
遠藤 津川さんは僕がマルセイユバレエにいた時にプレルジョカージュにいて、その時から知っていたんです。昨年横浜バレエフェスティバルで津川さんに『ロミオとジュリエット』を踊ってもらった時に親しくなり、彼女の踊りも何度も見ているのでぜひ、ということでお願いしました。
――服部さんと津川さんでデメトリアスとヘレナ。ここにライサンダーとハーミア役で新国の渡邊・米沢の2人が加わりますね。
小池 踊りの種類が違うので、それによってキャラクターの見方がはっきりして面白いかなと思いました。服部君と津川さんはコンテンポラリーベースの人で米沢さんと渡邊さんはベースがクラシック。もちろんコンテンポラリーの動きもしてもらいますが、動き自体で違ったキャラクターが見えてくるのではと。
撮影:西原朋未
■一人ひとりが感じたものすべてが正解
――お客様にはどういったところを楽しんでほしいと思いますか。
小池 観る方が一人ひとりの想像力やイマジネーションを掻き立てられるようなものができればいいなと思います。
遠藤 ダンス面でも、いいものを追求して見せたいなと思っています。
柳本 先入観や固定概念を取り払いたい。例えば今回はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』で、お客様もそれなりに知っていて、それぞれ頭に思い描いているものがあると思います。でもそういうベースから離れて、違う視点で何か提案できるようなものになればと。コンテンポラリーというのは、そういう意味では過去の2作品もそうですが、ベースとなる物語がないので、ストーリーは自分で想像して楽しむというおもしろさがある。でもクラシックバレエはある意味逆で、ストーリーの上に成り立っていて、ベースがある。だからコンテンポラリーを見慣れていないとちょっと距離を置かれてしまう。そういう垣根を越えられるきっかけになるようなものになればいいなと思います。そういう意味で、先入観にとらわれないような、新しい『真夏の夜の夢』をお届けできたらなと。ストーリーもあまり本来の原作にとらわれず、原作の裏に何があるのかといったようなところや、コンセプトやメッセージも僕らなりにあるのですが、それを言うとまたそれにとらわれてしまうので敢えて言いませんが(笑)。
――頭を自由にして、見たままのものを感じる、と。
柳本 ご覧になったもの全てが正解なんですよ。
――お客様一人ひとりが見たもの全てが正解だと。
柳本 つまらなかったと思ったら、それもまた正解です(笑)。
■JDPを通し、日本を出て得たものを日本のダンスに還元したい
――JDPの結成から現在まで目指しているものは何なのかを、お話いただけますか。
柳本 今回は服部君と津川さんの2人が入っていますが、新国のダンサー達のほかに毎回こうしたゲストを呼ばせてもらっています。彼等のように日本を離れ海外のプロのバレエ団で踊ってきている日本人ダンサーはたくさんいるんですよね。そういうキャリアと経験を持ったダンサー達がダンサーとして、あるいは振り付け家として発表する場所があまりない。そういうもののきっかけになればいいなと思うのが、このJDPプロジェクトであり、重きを置くところだと僕は思います。
小池 逆輸入じゃないけれど、日本を出たからこそわかる日本の良さというものを、私たちはよく知っている。そういうのは日本にいる時には分からないんですよね。 日本にいた時に見られなかったものが向こうに行くと分かったり、見えたりする。そうやって学んできたことをバレエ界に繋げる架け橋のような、そんなプロジェクトになりたいなと。
――それぞれが海外で蓄積してきた経験などを、日本のダンス界に還元したい、そしてさらに新しいものを作りたいと。
柳本 そういう意味では、定期的にこうして新国で公演ができるのは非常にありがたいなと思います。
――2年に一度ではなく、毎年あってもいいですね(笑)。
小池 できればやりたいけどクリエーションが大変なんですよね。実は1年ってあっという間。それぞれのキャリアもあるし。舞台装置や衣装など、クリエーションは結構時間をかけてやるものなので。
柳本 モナコにロゴスコープという芸術研究機関があり、JDPはそこに所属しているので今度は「日本からの作品で」ということで、そこに呼ばれるようなものができればとも思います。隔年で日本とモナコ、1年ずつで。
撮影:西原朋未
――最後にお客様にメッセージを。
遠藤 固定概念から脱し、一人ひとりの心が動いてほしいと思います。精一杯、一生懸命頑張ります。
小池 見た後にも心に残るような舞台にしたいです。結構後になってじわじわきて、そこからインスピレーションが湧いてくるとか、こんな考え方もあるのかとか。観客の方々の中に残れたら、普段使わないようなイマジネーションの扉を開けられたらいいなと思います。
柳本 メンデルスゾーンでもないしシェイクスピアでもありません(笑)。どこまでいろいろなことにとらわれずに見られるかという、遊びのようなところもあるので。その極みですね。リスペクトを込めていい加減にやっていきます(笑)。
取材・文=西原朋未
公演情報
■会場:新国立劇場中劇場
JAPON dance project(JAPON dance projectメイン・メンバー)
遠藤康行、小池ミモザ、柳本雅寛
■美術:長谷川 匠
■照明:足立 恒
■衣裳:ミラ・エック
服部有吉(元 ハンブルクバレエ団)、津川友利江(元 カンパニー・プレルジョカージュ)
新国立劇場バレエ団ダンサー:米沢 唯、渡邊峻郁、飯野萌子、池田理沙子、川口 藍、柴山紗帆、原田舞子、益田裕子、渡辺与布
■JAPON dance project 2018×新国立劇場バレエ団『Summer/Night/Dream』公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/