androp インタビュー “光”を歌い続けてきたバンドが、「Hikari」と名付けた話題ドラマ主題歌を生み出すまで

インタビュー
音楽
2018.8.29
androp 撮影=高田梓

androp 撮影=高田梓

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現在放送中のTVドラマ『グッド・ドクター』の主題歌としてオンエアされ、大きな反響を呼んでいるandropのニューシングル「Hikari」。多くの試行錯誤の末に生まれてきたのだという、ピアノの音色と優しい歌声が印象的なこの名バラードで、彼らはバンドとしての新たな魅力を打ち出すに至っている。本稿では「Hikari」制作過程のエピソードや抱いた想い、彼らの活動においてこれまでも大きな意味を持ってきた“光”をタイトルに冠した理由など、複数の切り口から楽曲を解剖。そこからはandropの今が見えてきた。

──「Hikari」は、ドラマ『グッド・ドクター』の主題歌になっていますが、曲を作るにあたって、ドラマの制作チームとは色々やり取りをされたんですか?

内澤崇仁(Vo/Gt):結構やりとりしたんですよ。4月の後半から曲を作り始めて、5月の頭からほぼ毎週レベルで打ち合わせをしていて。一番はじめの打ち合わせの前に4~5曲作って、またその3日後ぐらいに曲を作って……というのをずっと繰り返していました。

──じゃあかなりの曲数を――

内澤:作りましたね。メロディだけであればまだ負担が半減するんですけど、きっと今回は歌詞も大事になってくるだろうなと思っていたので、ある程度書いて形にしていたんです。そのぶん、作業的にも大変だったし、時期的にホールツアーとかぶっていたので、毎日朝まで作業してました。朝まで寝ずにやって、そのままライブをしたり、スタジオに行ったりっていう。

──具体的なオーダーはあったんですか?

内澤:ありました。木曜の夜10時に放送されるドラマなので、観終わった後に「明日(金曜日)さえ乗り切れば休みだ」という読後感というか、心の安らぎみたいなものを与えられる曲にしてほしいと。基本はミディアムテンポのバラードにしてほしいんだけど、医療ドラマなので、明るいだけじゃなくて悲しい終わり方をする回もあるから、そのときはゆったりとしたスロウバラードのアレンジにしたものを流したいので、その両方を持っている曲にしてほしいと。あとは、andropはデジタルっぽい音楽をすることもあるけれども、今回は人間の暖かさを感じられるようなものにしてほしいから、ピアノをメインにした楽曲にしてほしいっていう。

──めちゃくちゃ難しそうですね。いろんな方向に膨らませそうな感じがするというか。

内澤:ミディアムテンポと言っても、人によって捉え方が全然違うんですよね。最初に持って行ったデモは遅すぎると言われたので、どれぐらいなんだろうと思ってちょっとずつ(BPMを)上げて、85とか86ぐらいで、「テンポ感はいいですね」って(笑)。それをベースにして、また新しい曲を作って……という感じでしたね。

androp 撮影=高田梓

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──内澤さんの中で「これだ!」みたいに閃いた瞬間はあったんですか?

内澤:僕としては、毎回作るたびに「これだ!」「これが一番かっこいい!」と思って提出していたんですよ。それとドラマチームが思っている「これだ!」が違っていたので、毎回閃いては違っての繰り返しで。だから、「これで!」って言われたら「これか!」っていう感じでした(笑)。僕としては、自分がいいと思わないものを作って向こうがOKしてしまった場合に、自分たちが納得していないものを制作しなきゃいけなくなる、それだけは絶対に避けたかったんです。ベースとして、自分がandropとしていいと思うもの、これまで聴いてくれてきた人たちを引っ張っていけるものにしたかったし、andropだからこそ、自分だからこそできるものを作りたかったんです。他の誰でもいいものには、絶対にしたくなかったです。

佐藤拓也(Gt):内澤くんに強い想いがあることはもちろん知っていたけど、そこはドラマ側も同じなんですよね。正直、OKを出してしまえば進むだけの話だから、実際はOKを出さないことのほうが手間というか、そっちのほうが大変なので。それぐらい向こうも強い想いを持って我々を選んでくれたと思うので、そういった想いを濁ることなく届けられるような、演奏をできる状態でいなきゃいけないなって思いながら過ごしてました。

前田恭介(Ba):作詞作曲に関しては僕ができることは特にないし、基本的には自宅待機で、練習でもしておこうかなと。あと、そのときは他でサポートをしたりもしていたので、まあ、外貨を稼ぎにいこうかなと。

一同:(笑)。

内澤:何者なの?(笑)

前田:まあ、そういう活動がバンドに還元されることはいっぱいあると思いますからね。レコーディングは、「この日までにオケを録らないと間に合わない」という日があったんですけど、その日もまだ曲がなかったんですよ。ワンコーラスだけはあったんですけど。だからスタジオでいつでも録れる準備をして、曲がくるのをとにかく待とうと。で、しばらくしたら送られてきて、それをみんなで聴いて、内澤くんが合流してから録っていく感じだったから、いつもに比べてじっくり時間をかけて練れる状況ではなかったんですよね。そのなかで、内澤くんが思い描く音像にもしなきゃいけないし、バンドなんで、自分がかっこいいと思うこともしないといけないから、本当にスキル勝負というか。

──瞬発力が問われる状況だったと。

前田:そうですね。内澤くんが考えた骨組みは外さずに、こういう風に弾いたらみんなが「いいね!」ってなるんじゃないかなって思ったものをレコーディングしながらやってみて、盛り上がったら採用するっていう。

内澤:早かったよね、レコーディング。

前田:相当早かった。

佐藤:こういう状況になることもあるんだろうなっていう予測はしてたんですよ。だからといって焦らずというか、どんな曲がきても対応できる状態で待とうっていう心構えではいましたね。

内澤:僕としてもみんながそうしてくれていることがわかっていたので、どんなデモでも作れるっていう感じでしたね。メンバーに任せればandropのサウンドにしてくれるだろうっていう信頼はあったので。

androp 撮影=高田梓

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──伊藤さんは――

伊藤彬彦(Dr):前田くんと一字一句同じです!

一同:(笑)。

佐藤:外貨を稼ぎに?(笑)

伊藤:いや、自宅で待機して……とか。たとえば、「タイアップだから、ここでヘタこけないぞ」って気負ってしまうと、それが絶対に音に出ちゃうんですよね。そうではなくて、内澤くんがタイアップの関係者の方といろんな話をして、andropとして良いものに落とし込んだデモを作ってくれているから、その良さを引き出しつつ、そのとき自分ができることを地に足をつけて演奏をすれば、間違いなく良いものができる確信はあったので。ということで、前田くんと同じスタンス!

──確かに、この曲で肩の力が入りすぎるとかなり雰囲気が崩れてしまいますし。

伊藤:そうですね。こういう跳ねている感じのビートって、意識しすぎるとどんどん跳ねすぎて、沖縄っぽくなっちゃったりして(笑)。歌モノって、演奏が「俺の音を聴け!」ってなればなるほど、逆にリズムもカッコ悪くなっちゃうし、すごくフラットな感じで演奏を進めることが歌を立たせるような気がしたので、そこは意識してましたね。あと、世の中の風潮として、ブラックミュージックのリズム感がすごく流行っているけど、あれってすごくドライというか、人間っぽさを出すにしても肩に力が入っている感じの出し方ではないというか。そういう今のトレンド感も内澤くんがデモに入れていたので、そこも意識しながらやっていました。

──歌詞の方向性は最初から変わらずに進んでいったんですか?

内澤:伝えたいメッセージは変わっていないんですけど、その切り取り方とか言葉のチョイスは変えました。僕としては、この曲が聴いた人の心に届いて、その心に闇みたいなものがあるのであれば、そこに光を灯せるような楽曲にしたいなと思っていて。それは作品を観ていても思ったし、自分たちが今まで音楽に込めてきたテーマでもあるので、心の闇を照らすような、闇の中で光を見出せるようなものにしたいなと思っていました。

androp 撮影=高田梓

androp 撮影=高田梓

──お話にもありましたけど、andropはこれまでも「光」について歌ってきましたよね。そのバンドが「Hikari」という曲を作ったことは、すごく大きな意味があるんじゃないのかなと思ったんですが、このタイトルはどういうところから出てきたんですか?

内澤:何曲か作って、あまりうまくいってないときに、ドラマのプロデューサーが「僕はプレゼンをするときに大体タイトルから決める」って打ち合わせのときに話していたんですよ。まず先にタイトルを決めて、そこから内容を決めていくっていう。そこは僕と真逆だなと思って。僕は楽曲を作って、ある程度できてからタイトルを考えるので、タイトルありきで曲を作ったことってほぼなかったんです。だから、試しにやってみようかなってなんとなく思って……3曲目ぐらいだったかな。「Hikari」というタイトルで作り始めたんです。

──個人的には、「Hikari」というタイトルは、それこそバンドにとって大きなものだからこそ、これまで敢えて避けていたのかなというイメージもあったんですが。

内澤:避けていたというか、曲ができてからタイトルをつけるやり方をしていたら、たぶん「Hikari」にはしてなかったと思います。ストレートすぎるなと思って。「光」というワード自体はすごく大切な言葉であって、希望の象徴という意味合いでたくさん使ってきたんですけど、自分にとっては当たり前すぎてつけてこなかったんですよ。でも、「Hikari」というタイトルで作り始めた時期が、もう満身創痍だったんです。ツアーの終わり頃だったんですけど、これ以上振り絞っても、もう何も出てこないかもしれないという状況だったんですよね。「自分は才能ないな」と思ってしまって。

──極限状態だったこそ、自分の根底にあるものが出てきた。

内澤:そうですね。原石みたいな感じで、自分の中から零れ出てきたんだろうなと思います。

──今年の3月にアルバム『cocoon』をリリースされて、「Hikari」は次のタームの第一声になる曲でもありますよね。ここから紡ぎ出していこうとしているビジョンみたいなものはあるんですか?

内澤:どうだろう……『cocoon』をリリースする頃に、次のアルバムの曲をみんなで作ったり、集めたりはしていたんですよ。そのときに『グッド・ドクター』のお話をいただいて、「Hikari」のほうに進んでいったので、なんとなくメンバーみんな全体像みたいなものは、もしかしたらあるのかもしれないし、ないのかもしれないし(笑)。

──(笑)。またここからいろいろ考えます?

内澤:その必要はあるかなと思ってます。「Hikari」という曲ができたからこそ、また何かできることがあるような気がするので、もうちょっといろんなことと向き合ってみないとわからないかなって。(「Hikari」は)もう本当に最近できたばっかりなんですよ。7月27日にマスタリングが終わって、8月5日に配信が始まったんで(笑)。

──そう考えるとすごい世の中になりましたよね(笑)。カップリングには「Hikari」のピアノバージョンと、パシフィコ横浜で行なわれた『cocoon』ツアーのライブ音源を収録されていて。

内澤:パシフィコ横浜のライブ音源は入れたかったんです。「Hikari」をキッカケにandropを知る人もたくさんいると思ったので、その人たちにどういうライブをしているのかっていう提示があったほうがいいかなと。あと、あの日のライブは、バンドとして5年ぶりのホールツアーのファイナルで、Aimerさんに来ていただいて、「Memento mori」を一緒にやることで『coccon』を完成させることができた、すごく大切な日でもあって。

androp 撮影=高田梓

androp 撮影=高田梓

──今も『coccon』をよく聴くんですけど、「Memento mori」は何度聴いても本当に圧巻ですよ。よくあの曲を作ったなあと思って。

内澤:(笑)。あの曲はあの曲で大変ではありましたね。あと、『cocoon』は3月にリリースしたので、推し曲だった「Hanabi」を改めて夏の日に聴いてもらいたいなと思っていたりとか、いろんな想いが重なってのライブ音源ですね。

佐藤:バンドとしてはずっとホールツアーをやりたくて、なんとか実現できたツアーだったんですよ。それをあの日一日で終わらせることなく、ライブ音源としてまた改めて聴いてもらえるのはすごく嬉しいですね。

伊藤:ホールツアーをする前に、ビルボード公演があったんですよね。そこで初めていわゆるジャズっぽいアレンジにトライをしていたから、「ツアー前にリハをしてライブをしました」という感じではなく、そこまでの長い期間をかけて準備をしてきたものが凝縮されたツアーだったんですよ。単純に音源として振り返ると、自分的にはまだまだよくできるなという思いはあるんですけど、我々の今後の指標みたいなものがふんだんに詰まっていたツアーだったなと思いますね。

前田:個人的にはいろんな楽器に挑戦したんですけど、ちょっと不完全燃焼というか、もうちょっとうまくやりたかったなという気持ちもありますし、日々上手くなっているから、次はもっといいものを見せたいなと思っているんですけど。でも、バンドとしていろいろと状況が変わったりしたなかで、そこに向かってやってきたある種の節目があの日のライブだったんです。もうすぐ10周年なんですけど、そこに至るまでいままでやってきたもののひとつの区切りとして、このタイミングでライブ音源が入るのはいいことなんじゃないかなと思いますね。

──「10周年」というお話がありましたが、まもなくスタートするライブハウスツアー『one-man live tour 2018 "angstrom 0.9 pm"』のファイナルの会場、代官山UNITは、andropが初ワンマン(『one-man live "angstrom 0.1 pm"』)をした会場ですよね。

佐藤:そうです。ツアーの途中に恵比寿リキッドルーム公演もあるんですけど、それは2回目のワンマンだった会場で。

内澤:大阪も、名古屋も、福岡も、ツアーで初めて行った会場なんですよ。大阪BIGCATに関しては、僕らの曲(「MirrorDance」)で初めてお客さんのクラップが鳴った会場でもあるから、思い入れもあって。

──となると、10周年だからこそ選んだ会場なんですか? それともアニバーサリー的なものがまた別にあったりとか。

内澤:10周年への序章みたいな感じですかね。2018年12月16日から10周年イヤーが始まるんです。

佐藤:そこからの1年をどう過ごすかは絶賛作戦会議中なんですけど、そこに繋がっていく感じですね。ツアーとしても、こうやってライブハウスも細かく廻るのが久しぶりだから楽しみなんですよ。

内澤:ホールツアーってあんまり汗かかなかったもんね?

前田:(次ツアーの)初日の千葉LOOKは汗だくだろうね。

──伊藤さんはいかがですか? 久々のライブハウスツアーへの意気込み。

伊藤:いや、いまスケジュールを見ながら、実際どうなるんだろうなと思ってたんですよ。「Hikari」はああいう感じだし、でもライブハウスツアーだから熱い部分もあるだろうしで、なんでもできるから、どうしよう?って。まだ内容が固まりきっていないので、みんなはどうしたいんだろう……?っていうことが、自分がいま一番気になっていることですね(笑)。僕もワクワクしてます。


取材・文=山口哲生  撮影=高田梓

androp 撮影=高田梓

androp 撮影=高田梓

リリース情報

new single「Hikari」
発売中
「Hikari」

「Hikari」

初回限定盤(CD+DVD)  
UPCH-7434 2,300円(税別)
【CD】
01. Hikari ※フジテレビ系 木曜劇場「グッド・ドクター」主題歌 先行配信中!
02. Hikari (piano TV ver.)
03. Catch Me (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)
04. Hanabi (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)
【DVD】
「Hikari」Music Video
「Hikari」Making Video
  
通常盤(CDのみ) 
UPCH-5947 1,200円(税別)
01. Hikari ※フジテレビ系 木曜劇場「グッド・ドクター」主題歌 先行配信中!
02. Hikari (piano TV ver.)
03. Sorry (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)
04. Hanabi (one-man live tour 2018 “cocoon” tour final)

ツアー情報

androp one-man live tour 2018 “angstrom 0.9 pm”
2018.09.04(火) 千葉・千葉LOOK
2018.09.07(金) 宮城・Sendai Rensa
2018.09.08(土) 福島・郡山CLUB#9
2018.09.14(金) 埼玉・HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3
2018.09.21(金) 大阪・大阪BIGCAT
2018.09.22(土) 大阪・大阪BIGCAT
2018.10.05(金) 群馬・高崎 club FLEEZ
2018.10.06(土) 新潟・NEXS NIIGATA
2018.10.08(月・祝) 山梨・甲府CONVICTION
2018.10.14(日) 東京・LIQUIDROOM
2018.10.17(水) 愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
2018.10.18(木) 愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
2018.10.21(日) 神奈川・F.A.D YOKOHAMA
2018.10.30(火) 福岡・福岡DRUM Be-1
2018.10.31(水) 福岡・福岡DRUM Be-1
2018.11.10(土) 栃木・HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
2018.11.15(木) 東京・代官山UNIT
2018.11.16(金) 東京・代官山UNIT
代:スタンディング4,500円(税込)
※別途ドリンク代必要、6歳以下の入場不可
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