tacicaインタビュー “らしさ”の想定内で想定外の音を――充実の近作にみるバンドの現在地

インタビュー
音楽
2018.9.14
tacica 撮影=風間大洋

tacica 撮影=風間大洋

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tacicaが描く世界はゆっくりと、しかし確実に変わりつつある。プロデュースとギターに野村陽一郎、ドラムに中畑大樹(Syrup16g)を迎えた現在の編成はまさに鉄壁で、今年4月の『三大博物館~静と動の邂逅~』では、アコースティック・セットとエレクトリック・セットの二部構成で、新たなイメージを提示してみせた。制作も好調で、4月にリリースしたバンド史上初のダブルAサイドシングル「ordinary day/SUNNY」から、同じくダブルAサイドの最新シングル「煌々/ホワイトランド」へ、静と動を併せ持つスケールの大きな作風は、ますます広がりつつある。バンド内部の化学反応と、創作のモチベーションについて、猪狩翔一(Vo/Gt)と小西悠太(Ba)に話を聞こう。

――前のシングルと、イメージがつながっている気がしたんですよね。それは意図的に?

猪狩:そうですね。地続きで作れたらというイメージをみんなで共有しつつ、両A面で、初回盤にはライブ音源を2曲入れて。同じような感じで出したかったんだなということを、視覚的にもわかるようにしました。

――その発想はどこから?

猪狩:そもそものことを言うと、去年の『新しい森』というミニアルバムから、今回のチームになってるんですね。ドラム中畑大樹、ギター野村陽一郎で、野村さんに関して言うと、プロデュースをお願いすることから始まっていて「ギター弾けるんだったらやってくださいよー」みたいな感じで、4人で音を出したらすごくいい感じだった。今から曲を作っていく上で、これは何かあるなと思って、そのまま『新しい森』というミニアルバムを作って……というところからの流れはありますね。

――バンド感がはっきり見えたという感じなのかな。

猪狩:そうですね。正規のメンバーはこの二人だけど、そもそもはバンドなので。二人でアー写とかPVに写ったりすると、ユニットみたいな見え方をしてしまう、それがあんまり……なので。やっぱりバンドとして見られたい、ということかな。そもそもサポートで入ってくれる人たちも、完全にサポートの域を超えてるんで、その楽しんでる感じが、露骨に反映されてる感じはありますね。

――小西さんは? 現在のバンド感について思うこととか。

小西:すごく安心できる環境だなと思ってます。最初の段階から4人で音を出してるんで、安心感もあるし、スピードも速いし、ジャッジもしやすくなった。いい意味で、シビアにこだわらなくなった。「ヨレてるけど、このほうがバンドっぽくてかっこいいよね」ということもあるし、勉強になることも多くて、すごくいい環境で録れた作品ですね。特に今回はそれがより強くなった感があります。

tacica 撮影=風間大洋

tacica 撮影=風間大洋

――そうなると、作る曲も、何をやっても大丈夫という感じになりますか。

猪狩:そこは……難しいところなんですけど。何をやってもtacica感というものが――ちょっと前まで「誰々っぽいね」という意識がやっぱりあって、そこに執着しすぎたり、いろいろ葛藤はあったんだけど、だんだん自分たちの色を出せる自信が出てきて、「何やっても俺らっぽくなるね」というところから、最近はさらに一歩進んだところがあって。じゃあtacicaっぽいって何なんだ?というところから、みんなが思うtacicaっぽいという想定内で、想定外のことをやっていかないと、面白さは出ないのかな?と。

――ほおおお。なるほど。

猪狩:僕ららしいことを、僕ららしくするのは簡単というか。今まで培ってきたものでなんとかなるんだけど、一見僕ららしくないものを作った上で、それを消化して僕ららしく鳴らすというところでの楽しみが、最近はあるかもしれないです。

――そこはちょっと、具体的に聞いていきたいんですけど。たとえば前作の「SUNNY」のように、昔のU2みたいなディレイ・ギターで力強く進んでいく、ああいう明快な感じは、tacicaにありそうでなかったように思うんですけどね。やってる側はどうですか。

猪狩:「SUNNY」は意外に僕らの王道的な部分があって、U2みたいな付点八分のギターが鳴るあの感じって、たぶんエッジの発明なんですけど、ああいう要素が、野村さんが入ったことによる大きいポイントだなとは思います。たぶんね、みんなU2好きなんです。

――僕も好きですよ(笑)。

猪狩:ああいうのが入るとがっつりモチベーションが上がる。という曲です(笑)。

――楽しんでやってる感じはすごくしますね。音の抜けがいい。

猪狩:この「ordinary day」「SUNNY」「煌々」「ホワイトランド」で言うと、4曲の中では「SUNNY」が一番、今までの俺の流れを汲んでるなとは思います。

――ああそうか。じゃあ一番踏み越えたのはどれですか、自分の感覚として。

猪狩:「ordinary day」は新しかったような気がします。というのは、作り方がそもそも違ってて、みんなの話し合いで「こういう曲を作ろう」というところから始まってるから。

小西:6/8拍子で、キャッチーな曲ってあんまりないよねという話をしていて。猪狩が作ってきた詞とメロディを、野村さんとのやりとりで仕上げて、自分はある程度出来上がって初めて聴いて「すごくいい曲が出来たんだ」と思って、そこからベースラインを考えていくという感じでした。そういう作り方は、今までなかったんですよ。だからこの中では新しいと思います。

猪狩:サビを3~4回書き直したんですよ。基本的にサビからとか、Aメロの始まりからできる曲が多いんですけど……最近すごく思うんですけど、できたものに対して「これは良くない」と言われると、やっぱり嬉しくなくて。一番最初にできたような、その曲の中心になるポイントであればあるほど、「うーん?」ってなっちゃうんだけど、僕は特にそういうのが態度に出やすい人間だから(笑)。もし僕が野村さんの立場だったら、僕にそれを言うのって、めちゃくちゃしんどいだろうなと思うんですよ。

――ははは。自分で言う。

猪狩:たぶんそういうことを言ってくれる人って、大事だと思うんです。明らかに機嫌が悪くなることをわかりながら言うという、ものすごくエネルギーのいることをしてくれる人は、メンバーと同じ目線で物事を考えていないと無理だと思うので。そして乱暴な言い方をすると、過程なんてどうでもいい、出来上がったものにみんなが納得して「いい曲だね」というところにだけ執着して、そもそも音楽で集まった人間たちなんだから、いい音楽を作る以外に円満な関係になる方法はない。そういうことを、「ordinary day」を作っている時にずっと考えてましたね。そういう意味でもめちゃくちゃ思い入れがあります。

――そういう話を聞くと、聴き方が変わりますよ。

猪狩:野村さんと話すのは、だいたい夜中の12時ぐらいなんですけど。1週間近く毎日電話して、お互い家族がいるから、「あ、ちょっと」とか言って、ドアを閉めて違う部屋に行く感じが、相当怪しい電話だよなと思いながら(笑)。この曲に関しては、そういうやりとりがずっとありました。

――すごく興味深い。そのあと、今回の「煌々」は、どんな出来かたをしたんですか。

猪狩:「煌々」は、(去年の)ツアーの空き時間に骨組みを作りました。長いツアーだったし、わりと時間もあったので、前乗りしてホテルに着いてもやることがないんですよ。だからギターを持ってる時間が家よりもあって、リフみたいなものを作って、楽屋で聴かせて、リハ前にステージでみんなで音を出して、「いいじゃん」ってなったものを録音したりして。「煌々」は、野村さんに「このリフ、ずっと弾いててください」と言って、そこにワーッとメロディをつけて、作っていきましたね。ツアーのグルーヴみたいなものが、ちゃんと消化できてる感じはします。

――あのリフ、本当にずっと弾いてる。ループでいいんじゃないかと思うぐらい(笑)。

猪狩:ずっと同じコードなんですよ。途中でちょっと崩すんですけど、イントロもAもBもサビもほぼほぼ同じコードで回ってる。

――演奏者から見ると大胆な曲じゃないですか。

小西:でもリズム的に、人を乗らせるリズムなので。そういう曲に関しては、変にコードを変えないほうがダンスミュージックになるというか。

――ダンスミュージックですよね。構造は。

小西:リズムもちょっと、サンバっぽい感じだし。あとこの曲も、さっきの話じゃないですけど、tacicaっぽくないことをtacicaっぽくやるみたいなところがあって、こういうリズムはたぶん、自分たちの中からは出てこないんですよ。それを野村さんや中畑さんが入ってやってみたら、意外と収まりが良かったという感じもあって、自分たちらしさもちゃんと残ってて、やったことのないことをちゃんと出来てるなという部分が、この曲にはあるかなと思ってます。コードをループさせるのも、うちらはあんまりやってなくて、展開が多い曲が多いんで。という曲です。

――これはとても乗れるリズムでしたね。祝祭のリズムだなと思いました。歌詞は?

猪狩:特にメッセージ性があるとかではなくて。最近は特に、日記みたいに歌詞が書けるのが一番いいかなと思っていて、妙に押しつけがましいメッセージ性みたいなものは、あんまり書かないようにしてるかな。

――めちゃめちゃメッセージを感じますけどね。

猪狩:(笑)。

――体温を上げろよ、息を切らせ、一生使い切るまで贅沢に、鳴らして鼓動を。グッときますよ。

猪狩:それはでも、メッセージじゃないですもん。なんかこう……いや、メッセージですね。

――(笑)。自分を鼓舞してる感じはしますよ。

猪狩:自分です。誰かに命令してる感じじゃなく。あんまり暑苦しいところではない、厚かましさみたいなものは意識してるかな。BGM的なものになれたらいいのかなという感じは、若干していて。

――BGM?

猪狩:聴き流せない要素があることを、今まですごく魅力に感じていたんですけど。最近は、引っ掛かりはちゃんとありつつも、聴いてくれた人が生活していく上での、ちゃんとBGMになりえるものが、今すごく自分の中では魅力があるなあと思っていて。かつての自分たちを否定してるわけではなくて、最近のシングル2枚に関しては、そういう意識はすごくあります。

tacica 撮影=風間大洋

tacica 撮影=風間大洋

――日記みたいに書いた歌詞を、BGMになればいいと思って届ける。

猪狩:今現在の自分の気持ちを歌詞にするのって、けっこう最近のことなんですよ。それまでは、自分で思うところの過去が歌詞になることが多くて、今自分が何を思っていようがあまり関係ない。怒っていようと、泣いていようと、笑っていようと、反映されない。逆に言うと、反映しようと思っても、記憶の改ざんになってしまうから、とにかくただ過去に思っていたことを書いていたんだけど。最近は、今現在思っていることを日記みたいに書けたらいいなと思って、それが『新しい森』あたりからすごく色濃くなってきた感じがしますね。

――何なんでしょうね。

猪狩:何ですかね。自分の中にルールみたいなものがあって、説明しにくいんだけど、使える言葉だとか、言い回しだとか、もっと言うとNGワードみたいなものが自分の中にはあって。それは自分が作ったもので、誰のせいでもないんだけど、それがすごく息苦しくなっちゃった、NGが多すぎて。どうにかしないとこれ以上は書けないなという、それが『新しい森』を作る前のことで。

――ああ、そんなことが。

猪狩:で、一回書き方を変えてみようと思った――というのがきっかけですね。

――そのタイミングでバンドも固まった。すごい偶然、いや必然ですね。もう1曲「ホワイトランド」は?

猪狩:「ホワイトランド」は、秋のツアーが終わったあと、12月くらいに書いた曲です。わりと落ち込んでる地元の友達がいて、元気づけようとか、そんな気はさらさらないんですけど、ただ単に「すげえ落ち込んでるな、しかもクリスマスに」と思ったんで。女運ねえなとか、日頃の行いが悪いからかなとか。

――あはは。そんな情報はいらない。

猪狩:曲を書こうというよりも、何かできそうだなと思ってわーっと書きました。地元の友達なんで、雪深いイメージの曲になればいいなと思ってました。

――結果的に、元気づける曲になってると思いますけどね。大袈裟な事じゃなくていい、そういう夢をまた見よう。これはいいフレーズ。小西さんは演奏者としてどのへんがポイントですか。

小西:前のツアーの終わりには8割方できていて、4月の『三大博物館』のときに、大阪でやったシークレット・ライブでも弾き語りでやったんですけど。土台がすごくしっかりした曲なので、世界観を壊さずに、どう抑揚をつけるか?という感じでした。メロディもいいし歌詞もいいんだったら、余計なことはしないほうがいいだろうと思って、あんまりうるさくしないでおこうと。

猪狩:めっちゃうるさいけどね。

小西:ギターはね(笑)。

――このギター、ヤバい。ものすごい歪み、何のエフェクトですか。

猪狩:ファズです。二人で踏んでます。これは演奏に関して言うと、ただ単にギタリストのストレス発散です(笑)。

小西:リズム隊がどれだけ抑えても、最後に全部持っていく。

猪狩:リズム隊はとにかく職人気質に淡々とやってもらって、その反面でギターはめちゃくちゃにする。吹雪のイメージなんですけど。

――わかります。そんな気がしました。

猪狩:レコーディング中は地獄でした。ずっとグォーッ!っていってて、海外のバンドみたい(笑)。

――これはさっきから話してる「tacicaらしさ」でいうと、どのへんがそうですかね。

小西:やっぱりギターじゃないですかね。「ここでファズ来るんだ」という、前半の静かさは何だったんだろう?というところが(笑)。

tacica 撮影=風間大洋

tacica 撮影=風間大洋

――最高です。あと思ったのは、この曲も「煌々」も、未来という言葉が印象的に使われてるんですね。目線がはっきり前を見てる。

猪狩:ああ、そうですね。意図的に、今はあんまり暗い曲を歌いたくないというのがすごくあって、それは個人的なこともあるけど、全体を通しても、そういうものがいいのかな?と思ったりしてて。

――今の時代で、ということ?

猪狩:うん。でも個人的な要素が大きいですね。比喩として、明るいものを表現する上での暗いワードとか、負の表現はいいと思うんだけど、曲全体で言わんとしてることが、あんまりネガティブなものにならないようにという意識は、最近すごくありますね。

――そこは確かに、近年のどこかで変わった気はします。

猪狩:根は変わってないんですけどね。

――この間の『三大博物館』での、エレトリック・セットとアコースティック・セットの使い分けも、すごく刺激でしたし。10年以上やってきて、こんなに新しい発見があるというのは、素晴らしいと思います。今はいい波が来てる、という感じですかね。

小西:4人になったのが、一番でかいのかなと思います。幅が広がると、いろいろなことに余裕が出てくるのかなと。2年前はまだ3人だったので、各々でやることが多い感じだったんですよ。レコーディングにしても、どれがいいんだろう?とか、迷うことも多かったんですけど、4人になるといろいろな会話ができるぶん、余裕が生まれて、「もっとこうしていこう」と言い合えたりとか。

猪狩:そもそも、各々の良さがあって、4人でやっていく上で3ピースの良さも再確認するんですよ。そういう意味でのフットワークの軽さは持っていたいなと思ってます。余裕ができたというのも、楽をするわけではなく、より音楽に注意を注げるという意味での余裕であって、結果として出来上がってくる音楽がすべてだと思ってるから。たとえばこのあと、「これは3人でもいいよね」「これは2人かも」「これは打ち込みなのかな」ということもあるかもしれない。今の段階で言うと、サポートを交えた4人でtacicaです、というイメージよりも、俺らが持っていなきゃいけないのは、音楽に純粋であるための選択肢をたくさん持てるという意識。それが、今のtacicaの強みになればいいなということで。出来上がってくるものに対して純粋に向き合ったときに、いつでもどんな形態でもやれるという、それが今現在の僕らの答えですね。

――はい。

猪狩:4人になっていいですねって言われても、次に出るアルバムが、4人じゃない可能性もあるわけで。出来上がる音楽次第というところですね。

――ツアーも楽しみにしてます。何を見せてくれますか。

小西:今回も、いい感じになると思うので、楽しみに来ていただけると。すごいファズが聴けると思います。

猪狩:おまえが踏むわけじゃない(笑)。


取材・文=宮本英夫  撮影=風間大洋

tacica 撮影=風間大洋

tacica 撮影=風間大洋

ライブ情報

tacica 2018 TOUR ~煌々etc.~
9/28(金)さいたまHEAVEN’S ROCK
10/05(金)弘前Mag-Net
10/07(日)仙台MACANA
10/10(水)広島Cave-Be
10/11(木)高松DIME
10/13(土)福岡DRUM SON
10/19(金)名古屋CLUB QUATTRO
10/21(日)札幌BESSIE HALL
11/04(日)金沢GOLD CREEK
11/11(日)大阪umeda TRAD
11/21(水)東京EBISU LIQUIDROOM

リリース情報

両A面 SINGLE 「煌々 / ホワイトランド」
発売中
煌々

煌々

・初回生産限定盤 <シングル曲+ライブ音源収録>¥1,200(税込)  
・通常盤
<シングル曲のみ>¥1,000(税込)
【収録内容】
1.煌々
2.ホワイトランド
<初回生産限定盤>
3. acaci-a (TOUR2018  "三大博物館 ~静と動の邂逅~"@マイナビBLITZ赤坂)
4. Co.star (TOUR2018  "三大博物館 ~静と動の邂逅~"@マイナビBLITZ赤坂)
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