軽やかに、笑顔たっぷりに、僕らを楽しませた6人の音楽 小松未可子 TOUR2018 『Personal Terminal』渋谷TSUTAYA O-EAST公演ライブレポ

レポート
音楽
アニメ/ゲーム
2018.10.15
 Photo by 森 久

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「もしかしたら、いま一番ロックな声優小松未可子なのではないか?」そんなふうにも感じられるほど、小松未可子はバンドアンサンブルと一体していた。彼女は音楽のなかで笑顔を振りまき、見ている観客ももちろん笑顔になれた一夜だった。同時に、その軽やかな振る舞いと音楽は、声優やアニソンという言葉の枠を飛び越えていけそうな底知れなさも感じる。驚きと楽しさに満ちていた小松未可子 TOUR2018 『Personal Terminal』の渋谷tTSUTAYA O-EAST公演をレポートしたい。

ライブバンド「小松未可子」の底知れなさ

9月16日の渋谷TSUTAYA O-EASTにて、小松未可子『Personal Terminal』の東京公演が催された。開始30分前からフロアは多くの人で埋まっており、これ以上入るとモッシュピットと遜色ないほどになってしまうのでは? と思えるほどにギッシリだ。ステージの下手側(観客エリア左側)は、女性ゾーンとなっており、配慮の行き届いた設計になっているのがよく分かる。

ライブ開始5分前に事前アナウンスが始まった、もちろん声の主は小松未可子。撮影録画の禁止などとともにして、彼女はこのようなことを言っていたのが印象深い。

「ライブは自由に楽しんでください、サイリウムを持つ持たない、ハンドクラップをするしない、決まった掛け声やコールなどは、特にありません。周りの人に気を使いながら、今日のライブを楽しんでいってください!」

アニソン/声優関係のライブに足を運ぶことが多いとは思う自分だが、このような形でアナウンスをしてくる声優のライブは初めてだ。こうしたところから、彼女がいまの活動で何を成したいのかが伝わってくる。

暗転し、SEが流れる。バンドメンバー4人がステージに上がったあと、小松がステージに現れると大歓声があがる。薄青色の上着、白とオレンジが印象的なスカート、オレンジのサンダル、夏も終わってすっかり暑さも落ち着いてきた9月中頃、とても爽やかな衣装で登場したのだ。

1曲目に選ばれたのは前作『Blooming Maps』からの曲で、前作から今作への繋がりをとても強く感じさせられるスタートになった。その後には「Swing heart direction」を演奏し、どんどんバンドの演奏と小松の歌声が噛みあい始めていく。
 

Photo by 森 久

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バンドメンバーは、Q-MHzでも馴染みのある黒須克彦がベース&バンドマスターを務め、キーボードには今井隼、ドラムは元ART-SCHOOLの鈴木浩之、ギターには元serial TV dramaのギタリストで、藍井エイルのライブサポートやDISH//のプロデューサーを務める新井弘毅、そしてマニピュレーターの篠崎恭一を加えた5人がお馴染みのメンバーだ。最新作『Personal Terminal』でも、バンドメンバーが参加している曲も数多い。

先に書いてしまうが、小松未可子とその5人、というライブではなく、『小松未可子バンド』ともいうべき一体感と駆動力が、この日のライブをひたすらに楽しいものにしていたと言っていい。

この日披露された楽曲は大部分がアップテンポで、2ビートとスカのビートを時折挟みつつ、強いビート感とギターサウンドが常に会場を支配していた、体よく言ってしまえば、ロックな曲が揃い踏み、紛うことなくロックバンドのグルーヴを紡いでいたのだ。まるで全国のライブハウスを年中回り回っているロックバンドのような、抜群のバンドアンサンブルが観客を踊らせていったのだ。

いかに彼女とバンドアンサンブルが素晴らしいか、その証拠は今回ライブアルバム『小松未可子LIVE TOUR「小松の夜のパレード 2018春」@Shimokitazawa Garden 2018.04.30』を販売していたことに繋がる。小松未可子というボーカリストを引き立てるバックバンドではなく、バンドメンバー5人を含めた6人組バンドとして、確かなものになっていたのだ。

クールな歌声が会場を染め上げつつも、5人のバンドグルーヴが観客の体を踊らせ続ける、その好循環は、舞台の6人にもどんどんと広がっていく。左右に置かれたお立ち台に立って歌う小松は、歌い終わったあと、お立ち台の上からステージで演奏するバンドメンバーに視線を送って、ヤバすぎる5人に感心しているようでもあったし、このヤバいメンバーを是非観客にも見てほしい!というようにも見え、6人の結束力を感じさせてくれる。

ライブの中盤では、ギターの新井とベースの黒須が対面になって弾いているところに小松が寄っていき、ステップを踏んで踊っていく茶目っ気ぶり。序盤から曲を追うごとにどんどんと緊張がほぐれ、「音楽で楽しむ!」という6人の姿でバッチリと見せつけてくれたのだ。

Photo by 森 久

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その後「ここまで熱くやってきたので、ここで違った曲を」と言って始めたブロックでは、小松のクールな声色によくマッチし、一気に会場の空気がクールダウンしていく。別れ/失恋/すれ違いを思わせる楽曲が3曲つづき、夏の終わりから秋の始まりを告げる9月中旬にはピッタリなムードが漂い、観客の心もうっとりとしていく。それまでは舞台の端から端へと移動しながら歌っていた小松も、このときばかりはセンターポジションでその歌唱力を遺憾なく発揮していた。

クールダウンをした3曲のあとには、アップテンポのナンバーでテンションをグッとあげていく。ここから最後までも前半と同じようにギターロックがバッチリと会場を盛り上げていった。ダンスビート/2ビートにスウィングナンバーまで披露し、アップテンポに、それでいて軽やかで、笑顔たっぷりに楽しませていくライブパフォーマンスに、観客も大歓声とクラップで応えていく。最後にはまたしても、前作から今作への繋がりを意識した終わり方で、本編を鮮やかに締めた。

彼女のあだ名を使った「みーかーこーしっ!」というアンコールを求める声がどんどんと大きくなる中、メンバーが登場し、1曲目に披露したのは懐かしいナンバー。若干のどよめきが起こる中、過去の自身の曲をいまのバンドメンバーらとともに「いまの自分の形」にしてバッチリと決めてみせる。アグレッシブに変化した演奏で大きな拍手が巻き起こった。

Q-MHzの手によってカッチリとしたポップソングに仕上げられた「小松未可子」から、ギター/ドラム/ベース/キーボードのキレの良さとアンサンブルを軸にしたロックバンド「小松未可子」へとガラリと色が変わり、観客を楽しませにいく、それが小松未可子のライブの面白さだ。バンドメンバーと小松の6人で、ライブハウスという場所で新たに音楽を作り上げていく感覚が、その楽しそうな姿と笑顔から十二分にリスナー側にも伝わってくるライブだった。

Photo by 森 久

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しかもその変幻も、おおよそライブやツアーを経るごとにどんどんと変わっていくのだろう、これだけのスキルフルな5人が組んでいるのだ、期待値はかなり大きい。そんな彼女ら6人によるライブは、11月25日に恵比寿The Garden Hallで行なわれる小松未可子のバースデーライブ「ハピこし!ライブ2018 ~30 years, 30 songs~」でもう一度見られるかもしれない。ブラッシュアップされた過去曲や、アコースティックでのカバーなどがあるのではないか?彼女の音楽に魅入られている人は、ぜひとも足を運ぶべきイベントだ、そのバンド力に驚かされることだろう。

取材・文=草野 虹

バンドメンバー
ギター:新井弘毅
ベース:黒須克彦
キーボード:今井隼
ドラム:鈴木浩之
マニピュレーター:篠崎恭一

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