家庭と演劇の両立を! パショナリーアパショナーリア『40才でもキラキラ!』稽古場レポート&町田マリー×中込佐知子インタビュー

レポート
舞台
2018.10.30
左から中込佐知子、町田マリー

左から中込佐知子、町田マリー

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左から町田マリー、延増静美、高野ゆらこ、富岡晃一郎、中込佐知子

左から町田マリー、延増静美、高野ゆらこ、富岡晃一郎、中込佐知子

稽古も夜、本番も夜。出産後、「もう演劇を続けられないかも」と思うのと同時に、「どうせやるなら、社会やお母さんと接点が欲しい、演劇の意味をそこに見つけたい」と思うようになりました。お母さんたちが観やすくすることで、ゆくゆくの演劇人口を増やしたい。今の私の活動には、そんな大きな願いがあります。

朝から夕方まで稽古して、夜は家族と過ごす。専売にしたいわけじゃなく、自分たちと同じような団体がどんどん増えたらと、もっともっと一般的になればと願っています。だって、その方がきっと、幸せじゃないですか?夫婦の時間や家族の時間を持てるし、自分らしくもいられる。それらはどちらも人生においてすごく大事なことだから。

お母さんたちに捧ぐ「40才でもキラキラ!」。この演劇に子どもたちがどんな反応をするのかは、幕が上がらないとわかりません。そして、それが今の楽しみでもあります。(町田マリー)

町田マリー

町田マリー

女優の町田マリーと中込佐知子が「家庭と演劇の両立」をテーマに立ち上げたユニット「パショナリーアパショナーリア」(通称パショパショ)。2017年10月の旗上げ公演「絢爛とか爛漫とかーモダンガール版ー」では、公演の託児費用と小中高生の料金の無料化をクラウドファウンディングによって成功させた。

昭和初期の東京で文筆家を目指す4人の女性の、仕事と結婚、友情に恋愛、そして人生に迷う赤裸々なその姿には、今を必死に生きる私たちにそのまま重なる普遍的で温度感のあるメッセージが込められていた。

そんな旗上げ公演から1年を経て、町田マリー自身が脚本を担当した新作『40才でもキラキラ!』が、2018年11月4日(日)に京橋ララサロンにて上演される。2人のほか、ゲストには、延増静美、高野ゆらこ、富岡晃一郎を迎え、家庭と演劇の狭間で戦う女性たちの葛藤をリアルに描く。公演を間近に控えた稽古場を取材した。

【story】
本番前の楽屋。高校の演劇部時代からの仲間たちとの共演。年齢を重ね、日常に追われながらもそれぞれのやり方で演劇を続けてきた。結婚、そして出産。絶賛子育て中の女優達の、本番直前のリアルな状況とは!? 


お母さんに捧ぐ演劇は、子どもも笑えればより最高に

稽古は、公演に来る予定の子どもたちの人数と年齢の確認から始まった。予約の際に年齢を書く欄を設けているのもパショパショ流だろう。

お母さんに楽しんでもらいたい。

そして、それは同時に一緒に来る子どもたちを引き込むエッセンスを散りばめなければならないということなのだ。 「○才くらいはこういうのが好きだよね」「○才はこっちの方が面白くなってくる頃じゃない?」「大人的にもそこは結構刺さる!」 それぞれの視点に立っての分析、実生活での経験を生かした創意工夫に余念がないキャスト陣。絶妙なラインを一丸となって本気で探っている様子に、思わず胸が熱くなる。

 

「子どものための演劇や親子演劇じゃなくて、どちらかといえば、子育てをしているお母さんのための演劇なんです。でも、お母さんのためにやるなら、子どもも楽しくないとって思っていて…。分からなくてもいいんですけど、なんか楽しい、なんか笑っちゃう。そういうすごく感覚的なところなんですけど、実はとても難しいことに挑戦しているんですよね」(町田)

その言葉通り、1つ1つのセリフや動きに対して綿密な演出がつけられていく。

確立した人間関係に裏打ちされた演出。この演劇は、みんなで作る

今回の演出は、“町田マリー&楽しい会”。パショパショの2人は勿論のこと、ゲスト陣や稽古場に遊びに来た友人たちによって出されたアイデアが演出に活きていくのだ。小道具をはじめ、音響の工夫、きっかけやセリフの間合い、動きの大小。1つ1つにみんなで意見を出し合って作り上げる。そういった想いがひとつの空気として自然に稽古場に流れていた。

幾度となく同じ舞台に立った仲間との新たな形での共演。毛皮族で長年一緒にやってきた延増静美、高野ゆらこの2人とは、言葉以前の共通の感覚を持っていることも強みだという。

「しばらく一緒にやっていなくても、お互いが言わんとすることがわかるし、私が思っていることもわかってくれる。すごく頼りにしていますし、心強いです」(町田)

高野ゆらこ

高野ゆらこ

妊娠中期に入った部長役を演じる高野ゆらこ。観る側がすっと腑に落ちるセリフの言い回しや、ドンピシャな間合いでのダイナミックな動き。独特の声色と緩急のついた身体性を以てのリアクションの数々に目を奪われてしまう。

延増静美

延増静美

0歳児のママを演じる延増静美。自然に共感を誘うそのリアリティもさることながら、せき止められない想いや小さな情緒の揺れまでが繊細に現れる表情の変化に目を見張った。

町田マリー

町田マリー

 演者としてのそれぞれの魅力をよく知っているからこその配役と演出がそこかしこに光っていた。

「台本を書くっていうのが初めてだったっていうのもあって、みんなのことを知っているから、つい当て書きにしちゃうんですよね。でも、今回はそれでよかったんじゃないかなと思っています」(町田)

中込佐知子

中込佐知子

飄々と、そしてチャーミングに先輩ママ女優を演じるのは中込佐知子。言葉の奥の日常が垣間見えるそのセリフ使いに、表には出てきていない夫婦関係や生活風景を想像する。舞台に奥行きが生まれる時、リアリティはより加速する。

「ゴメさん、こういうところあるから」そんなセリフも当て書きだったとしたら、面白い!

富岡晃一郎

富岡晃一郎

そして、四種四様の個性が炸裂する女優陣の中、絶妙に調和しながらも、自由に物語を遊泳するのが、逆紅一点の富岡晃一郎。軽やかな身のこなしと確立されたキャラクター、そして、そこにただいてくれることへの大きな安心感は、公演中の子どもたちの託児を二つ返事で担う役柄とそのままリンクする。

妻であり、母であり、女優。その自分を全力で生きる

子どもとの時間、夫婦の時間、そして、私の時間。午前中から夕方までに設定された稽古時間も、「家庭と演劇の両立」のモットーに準じている。それぞれの生活の限られた時間にギュッと集まって、演劇を作る。 タイムリミットがあっても、いやあるからこそ、突き詰められる演劇があるのかもしれない。どんどんと面白くなっていく稽古を前に、そんなことを思った。

物語は、舞台の本番間近の楽屋から。それぞれの家庭の事情を抱える子持ちの女優4人。授乳、トイレ、メイク、声出し…。幕が上がる直前までやることが盛りだくさん。そして、なんで“こんな時”に!?ということが起こってしまうのが子育てだ。本番10分前を切った楽屋で、時に女優として、時に母として、そんなあれこれに対応しながら、きっと“こんな時”だからこそ、ぐぐぐとこみ上げてくるものがあって…。

それは、女優と母とか、女優と妻とか、もっと言えば女優じゃなくとも。

自分と自分の狭間で、もっと自分らしく生きたいと願っている全ての人へ。

寄り添い、訴える、底知れぬ演劇の力がそこにあった。

爆笑がそこらじゅうに仕掛けられているこの演劇は、ちょっと油断すると目頭が熱くなってしまう演劇でもあった。

4人の女優が本番を前に、母と女優を行き来する姿を目の当たりにしながら、私は、私の私たる時間と場所を守りたいと切に思った。母である私も、演劇を好きな私も私は好きなのだ。とても素直にそう思えた。

稽古場を出たその足で、保育園のお迎えに行くのは私も同じだった。その道すがら、来た時よりも足取りが軽く、日々を愛する勇気が満ちてきた。それは紛れもなく、演劇の力だった。

休憩中の一幕、終始笑顔とアイデアが溢れる稽古場

休憩中の一幕、終始笑顔とアイデアが溢れる稽古場

日々のごほうびに!とか、奮発して……とか、そんなんじゃなく、もっと自然でさりげない日々の楽しみとして演劇があれば、家庭はもっと幸せだと思う。家庭を愛する人、演劇を愛する人。多くの人にこの演劇を見て欲しい。

そして、パショナリーアパショナーリアが演劇に乗せて全力で投げかけているメッセージが、社会に、世界に届いて欲しいと思う。



町田マリー×中込佐知子稽古場インタビュー~家庭と演劇の両立を掲げて

——パショナリーアパショナーリア立ち上げに至る、きっかけのようなものはあったんですか?

中込 なんだったっけ?(笑)。きっかけっていうよりは会っているうちにって感じだったような…。最初の出会いは「演技者。」っていう舞台をドラマ化している番組があって、その山内健司(現在は山内ケンジ)さんの脚本監督の回で共演したんです。

町田 もう14年前とかですね。時々ご飯食べに行ったり、一緒に芝居を見に行ったり…。私が出産する頃にもよく会っていて。立ち上げようとした当時の私は、「演劇活動はこれがもう最後かも」っていう気持ちになってしまってたんです…。

中込 簡単に両立できない世界だったよね。私は今小学生の子どもが2人いるんですけど、やはりしばらくの間は演劇から離れていました。それで、やりたいなあと思っていた時にマリーちゃんから声をかけてもらったんです。

——お互いのターニングポイントが重なった、すごくいいタイミングだったんですね。

中込 そうそう。幼稚園の送り迎え生活の時はなかなかそんな時間もなくて…。就学するとやっぱり少し手が離れるので。ちょうどそんな時期でした。子育て中の女優さんに、演劇を続けられる場所になれたらと思います。

町田 『パショナリーアパショナーリア』は、実在人物ドロレス・イバルリの別称ラ・パショナリア(情熱の花)からとったんです。スペイン戦争で男たちが戦う中「跪いて生きるくらいなら、立って死んだ方がましだ」という名言とともに立ち上がった女性です。

——そうだったんですね。女優としての生き様をすごく感じる命名です。

町田 舞台って、出ていないと次のオファーをもらえないものだから、続けていくことが大事なんですよね。子どもを産む女優さんもどんどん増えていますし、産みたい方もいると思います。自分の経験から、そういう人たちが産後にやれる場所がないっていうのは問題だと思ったんです。

中込 今回ゲストで出てくださってる延増さんもお子さんがいて、「産んでからも演劇ができる場所があってよかった」っていう言葉をもらったんですよ。あれはすごく嬉しかったね。

町田 嬉しかった! 「パショパショがあるから女優を続けられる」。そういう場所になればっていう思いもあるんですよね。

中込 どんどんそうなったらいいよね。お母さんによっては、外に出るのが億劫になって、家にこもっちゃう人も結構いると思うんですね。子連れってどこ行くのも壁が多いから。

町田 こんなに自分の時間が作れないもんなんだって思いました。

中込 それで、世界から置いてかれてる、取り残されてるって思って、また落ち込んじゃったり。だから、演劇におけるそういう壁を取っ払えたらいいなって話していたんです。

町田 私自身も芝居が全然観に行けなくて。保育園だってみんなが預けられるわけじゃないし、預けているママ達はその間働いていて観られないし、幼稚園ママも結局お迎えに間に合わせようと思ったら観られないし、夜はもっとハードルが高い。じゃあ、いつなら心置きなく観られるの?!って。そういう実態に直面して、クラウドファウンディングで託児の無料化に取り組んだんです。

——託児システムがあっても、金銭的な問題であったり、予約状況であったり、現実的に結構高い壁があるなって感じます。

町田 そうなんです。観られたとしてもにプラス託児代がかかってしまうと、家計と両立していけないじゃないですか。演劇がすごく特別なことになってしまう。だから、まず託児の無料化からだと思ったんです。突然熱出したりしても、気軽にキャンセルできますしね。

——今回は、赤ちゃんから子連れ可で、内容はお母さんに向けた演劇なんですよね。それもなかなかないと思います。

町田 旗揚げ公演を経て見えてきたリアルもありました。毎回託児の無料化は難しいとしたら、どういう方法でもっと観やすくしていこうかとか。今回は、赤ちゃんから一緒に観られる土足禁止のスタジオさんに出会えたこともあって、子連れで来られるならもっといいよねって。

中込 子どもとずっと家にいると、時間もすごいゆっくり流れるしね(笑)。普段と違うことをやってみるってすごく大事だと思うから、そんな感覚でもいいからたくさんのお母さんに楽しんでもらえたらなって思います。

町田 他にも男性のお客様、6,70代のご夫婦、家族みんなで来られる方など、幅広い層の方からご予約をいただきました。そんな演劇もなかなかないんじゃないかと。家族で観られる演劇として 少しづつ広まりっていることが実感できて、嬉しかったです。観客のお母さんたちにとっては楽しみであり、女優のお母さんたちにとっては居場所。パショパショがそんな場所でありつづけられたらと思います。

取材・文/丘田ミイ子
写真/近郷美穂

公演情報

パショナリーアパショナーリア「40才でもキラキラ!」
 
■脚本:町田マリー
■演出:町田マリー&楽しい会
■出演:延増静美 高野ゆらこ 富岡晃一郎 中込佐知子 町田マリー(あいうえお順)
■日時:2018年11月4日(日)12:00/15:00
■会場:京橋ララサロン
■公式ブログ:https://ameblo.jp/pashonaria/

 

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