ディープ・パープル「スモーク・オン・ザ・ウォーター」に観客総立ち、ヒット曲で畳み掛けた圧巻のパーフォマンス
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ディープ・パープル 撮影=森好弘
『The Long Goodbye』2018.10.18(THU)大阪・フェスティバルホール
1968年にデビューし、2016年には「ロックの殿堂」入りを果たしたレジェンド、ディープ・パープル(DEEP PURPLE)。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、「ハイウェイ・スター」、「ハッシュ」といった代表曲の数々は、たとえロック音楽に疎い人でも、イントロを耳にしただけで「あ、知ってる」となるだろう。
2017年には20枚目のアルバム「インフィニット」をリリースするなど、精力的に活動。2017年5月より「The Long Goodbye」と名付けたワールドツアーをおこなっているが、そのツアータイトルから「ついに最終章か」と噂をされている。しかし日本公演の4日目となった10月18日、大阪・フェスティバルホールでのパフォーマンスは、「Goodbyeはまだまだ先だろう」という確信が持てる、エネルギッシュなものとなった。
ディープ・パープル 撮影=森好弘
会場内は、ディープ・パープルとともに人生を歩んできたオールドなファンから、10代後半の若いリスナーまで、幅広い世代で埋め尽くされた。ロック史に残る普遍の名曲を生み続けてきた世界最高峰のバンドだからこその光景だ。そんな中メンバーが登場し、おなじみのギターリフが威勢良く鳴り響く。日本でもCM、テレビ番組などで何度となく使用されてきた「ハイウェイ・スター」だ。Vo.のイアン・ギランはかつてと変わらず、スタンドマイクを長めに伸ばし、斜めに構えて歌うスタイル。そして、73歳になっても特徴的なハイトーンシャウトは衰えていない。Gt.スティーヴ・モーズのソロパートでは、「うん、いい感じだ」と言わんばかりにOKサインを作ってみせた。
ディープ・パープル 撮影=森好弘
ちなみに「ハイウェイ・スター」は、1972年8月にフェスティバルホールでおこなわれた初来日コンサートの一発目に演奏された曲。そのことを知るファンにとっては、きっと感慨深い幕開けとなったのではないだろうか。さらに2曲目には、「ハイウェイ・スター」と共に1972年リリースの名盤『マシン・ヘッド』に収録され、一時期はライブのオープニングナンバーとして定番となっていた「ピクチャーズ・オブ・ホーム」。ステージセットも含めてこの日はシンプルな構成だったが、この曲におけるスティーヴ・モーズのギター、ロジャー・グローヴァーのベースなど各演奏を聴いていると、どのプレイヤーもきわめて主張的で、十分にハデだ。続いて、ラシュモア山の彫刻をパロディ化したジャケットでおなじみ『ディープ・パープル・イン・ロック』(1970)の人気曲「ブラッド・サッカー」、メンバーの顔面が火の玉となって宇宙に飛び出しているジャケット『ファイアボール』(1970)の「ストレンジ・カインド・オブ・ウーマン」を繰り出す。やっぱりディープ・パープルは、いつも正攻法だ。気を衒(てら)う様子はひとつもない。みんなが聴きたい曲を、出し惜しみすることなくどんどんやってくれる。5曲目「サムタイムズ・アイ・フィール・ライク・スクリーミング」では、イアン・ギランが構えるマイクに、スティーヴ・モーズ、ロジャー・グローヴァーも顔を近づけて一緒に歌うパートがあったが、イアンがマイクを上にあげたら二人も背伸びし、下に構えたら彼らも膝を折って歌うという茶目っ気たっぷりの場面も見られた。
ディープ・パープル 撮影=森好弘
ディープ・パープルのライブといえば、楽器隊による即興もまじえたロングセッションも見どころのひとつ。今回の各曲の間奏時におけるグルーヴィーなセッションは、ディープ・パープルの王道的側面しか知らないリスナーには、ちょっとした驚きがあったのではないだろうか。またこの日、存在感を際立たせていたのが、Key.のドン・エイリーだ。強靭なギターリフで攻める10曲目「タイム・フォー・ベドラム」のあとに設けられた。ドン・ヘイリーによるキーボードソロの時間では、フューチャーミュージック、チップチューン、ノイズなどがプレイされ、そこに「上を向いて歩こう」も交えるなどして観客を楽しませた。終盤、ついに“世界でもっとも有名”かつ、ギターを始めたばかりの人が必ず最初にコピーする、あのギターリフが鳴り響く。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だ。この日のライブで一番の歓声があがり、サビでは大合唱が起こった。イアン・ギランもその大きな盛り上がりに「アンビリーバブル!」と驚きを隠せなかった。
これは余談だが、筆者の目の前に、お一人では歩行困難な年配の男性がいらっしゃり、ずっと座ってご覧になっていた。だが、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の中盤、もう居てもたっても居られなくなったのか、奥様であろう女性にそっと耳打ちをして立たせてもらい、女性に腰の辺りを支えてもらいながら、拳を振り上げて一緒に歌っていた姿が目に焼き付いている。曲が終わって元どおりに座った男性は、何やら嬉しそうに女性と話していた。改めてロックのすごさを実感し、また世界的な名曲が持つチカラに感動を覚えた。
ディープ・パープル 撮影=森好弘
「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のあとには、エディ・コクランの「サマー・タイム・ブルース」を特別にセッション。これはなんとも嬉しいサービスだ。そして、続いてはお待ちかねの「ハッシュ」。<ナ〜 ナナ〜ナ〜 ナナ〜ナ〜 ナナ〜ナ〜>と再び全員が歌う。そしてライブのラストを飾ったのが、「ブラック・ナイト」。日本のコーヒーメーカーのCMで長期間使われていたこともあって、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」と並んでおなじみの曲。誰もが「ダーダ! ダーダ!」と口ずさまずにはいられなくなり、その光景に思わず笑ってしまった。後半のヒット曲の畳み掛けはもちろん圧巻だったが、プレイヤーたちのテクニックが堪能できる中盤の展開も、ディープなファンにはきっとたまらないものがあっただろう。インターバルは一切なく、また長いMCもなし。ほぼノンストップで駆け抜けたディープ・パープル。彼らに“サヨナラ”は、もう二度と訪れない。
ディープ・パープル 撮影=森好弘
取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘