円谷プロ 新社長 塚越隆行 就任後初独占インタビューで「ウルトラマンの未来」を語る

2018.11.6
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タカハシヒョウリ 塚越隆行氏 撮影:早川達也

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円谷プロダクションによる新プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』が発表された。本プロジェクトはウルトラマンシリーズの魅力を新世代に残すべく、歴代作品にスポットを当てたものとなっており、『ウルトラQ』から『帰ってきたウルトラマン』までの厳選エピソードを、シリーズ全体としてではなく、映画のように1つの作品として訴求していくというもので、厳選されたエピソードを、Premium Theater(上映イベント)、ビデオグラム(ソフト)、出版書籍、音楽、CLASSIC ARTS(特別商品)として展開する。

第1弾として選ばれたのが『ウルトラQ』から「2020年の挑戦」。2018年11月17日に、東京・イオンシネマ板橋にて本作のPremium Theaterを実施し、本編の上映と共に、本編監督の飯島敏宏氏と漫画家の浦沢直樹氏のトークショーも行われる。またこのイベントは全国のイオンシネマでライブビューイングも実施される。

挑戦的とも言えるこのプロジェクトにあたり、SPICEでは塚越隆行新社長に取材を申請。今回この願いが叶い、塚越氏就任初の単独インタビューとなった。聞き手は特撮への造詣が深く、自身も別名義で特撮リスペクトバンド「科楽特奏隊」のギター・ボーカルを務めるオワリカラ・タカハシヒョウリ

塚越新体制となった円谷プロが目指す方向性とは?独占でお送りする。


「社長が来た」!

ウルトラマンシリーズを製作する円谷プロダクションに、新社長がやってくる。そんなニュースが届いたのは、昨年の3月頃だった。

しかも新社長は、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンで数々の作品を手がけた塚越隆行氏だという。前任の大岡新一氏が円谷作品のキャメラマン出身で、生粋の円谷育ちであることとは対照的な「外部の血」が流入してきたわけだ。

外部から新たな社長を迎えた円谷プロダクションが作り出す「新しいウルトラマン」は? 過去の資産との向き合い方は? 権利関係の係争中だった海外への展開は? いや、難しいことは良い。1ファンが気になるのは、ただ一つ

「円谷プロはどーーなっていくの!?」

しかし、そんな疑問をよそに就任後の塚越社長は、現在までまったくメディアに登場しなかった。ちょっと不気味なほどの静けさの中、就任から1年以上が経過したこの秋、沈黙を貫いていた塚越社長がついにメディアの前に姿を現すという。『ULTRAMAN ARCHIVES』という新たな「挑戦」とともに。

ここからは、塚越社長自身の言葉で語られる「社長就任」のこと、「ウルトラマン」のこと、『ULTRAMAN ARCHIVES』のこと、そして「未来」のこと。

さぁ、円谷プロは、ウルトラマンはどーーなるんですか、社長!

『ULTRAMAN ARCHIVES』発表会での塚越氏 撮影:早川達也

円谷英二とウォルト・ディズニーは同じビジョンを持っていたと思う

塚越:去年のちょうど8月に円谷プロの社長となって、1年と2ヶ月、色々と仕込んでいたんだけど、「ULTRAMAN ARCHIVES」の発表会で初めてマスコミさんの前に出たばかりなので、最初のインタビューですね。

タカハシ:光栄です。新社長にウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンの方が来るというのは、「すごい所から来るぞ」というのでファンの間でも、かなり意外だったんですが。どういった経緯で円谷へ来たのでしょうか。

塚越:26年間ディズニーにいて、本当にディズニーにはお世話になったというか、色んなやりたいことをやらせてもらいました。アメリカのスタジオならではの色んなことも教えてもらったんですよ。ディズニーにいたからスタジオジブリさんとも付き合うようになったし、本当にあの26年間は僕にとっては貴重な時間だったんです。そんな中、間をちょっと省いちゃうんだけど、「円谷プロダクションをディズニーのような会社にしてほしいんだ」というオファーをもらって。

タカハシ:それはまた……すごいオファーですね。

塚越:それで考えたんですよ。人生っていつか終わるからね。僕はこの後、何していこうかなという中で、ディズニーに対しての恩義であるとか、業界に対する恩義であるとか、ディズニーでの26年、自分の30年のキャリアをどこでどうするかということを考える年頃だったんですよね。そんなお年頃(笑)。

タカハシ:お年頃(笑)。

塚越:その中で、今までずっとアメリカで戦略的に作られた世界的な作品を日本で紹介する、ということも僕の仕事だったわけだけれども、やっぱりどこかで日本のコンテンツを世界に出すというところに携わってみたい。そんな時に円谷プロダクションをディズニーのような会社に、という話をもらって。最初はピンと来なかったんですよ。でも色んなことを思い出して、僕が子供のときに実はウルトラマンと相撲を取ったこととかね。

タカハシ:デパートの催事場みたいな所にウルトラマンが来てくれたんですね!

塚越:自分が『ウルトラQ』であるとか『ウルトラマン』とか『セブン』だとかを観ていた頃の思い出とか色んなことを考えてね、これはすごいことを言われているのかもしれないと思って。これは余談になるんだけれども、偶然にも1901年に円谷英二は生まれているんだけれど、ウォルト・ディズニーも1901年生まれなんですよ。

タカハシウォルトディズニーと円谷英二は同級生 !!

塚越:僕にとってはやっぱりウォルト・ディズニーというのは偉大な方なんだけれども、円谷英二という方も子供たちや色んなお客さんに夢のある世界を届けようとした人。ウォルトは、ミッキーマウスを生み出して色んな長編を出していく。円谷英二さんもウルトラマンをはじめとする大発明をたくさん残された。多分、色んなことをやりたかった方だと思うんですよね。

タカハシ:発明家みたいな方ですよね、本当に色んなアイデアを持っていた。

塚越:例えば飛行機の話を映像ドラマで作りたかったとか、色んな夢をお持ちだった方だと思うんですよ。お客さんにそういう夢であるとか希望であるとかを届けたい、という想いの強かった人だったんじゃないかと。その遺志を僕らが継いで、もちろん『ウルトラマン』という傑作を伝えていくこと、そしてもうひとつは、やっぱり円谷英二さんが持っていた作品に対する情熱を伝えていくということ。これは僕にとっては日本のウォルト・ディズニーになってほしいなという。まあご本人は、ウォルト・ディズニーになりたかったかどうかはわからないですけれども(笑)

タカハシ:2人が同じようなビジョンを持っていたと。

塚越:そう、同じビジョンとパッションを持っていた人たちだと思うんですよね。僕は、偶然ですけどディズニーにいて、ここに来ることができたという立場なので、チャンスを生かして、そういうことができたらいいなと思っています。それが、僕が円谷プロに来た大きな理由です。

ウルトラマンは凄く日本的

タカハシ:塚越社長は、やっぱり今までたくさんのキャラクターに携わってきたわけじゃないですか。例えばミッキーやピノキオであったり、アベンジャーズであったり。そういった色んなキャラクターを今まで観てきた目線から、ウルトラマンにしかないもの、ウルトラマンというキャラクターの独自性ってどう写りますか?

塚越:今それをまとめているところなんですよ。それを、どういうふうに表現しようかと考えています。『ウルトラマン』シリーズというのは、そのなかに色んな要素が入っていて、その要素って見方によっては色んな取り出し方ができるんですよ。でも、その中でここのところが円谷の、またはウルトラマンの「コア」だよな、というところをやっぱりまず僕らが再認識する。

撮影:早川達也

塚越:それでいうと、ポイントだと思うのは、ウルトラマンってすごく日本的だと思ってるんです。さっきの話に戻るけど、世界に向けて!といった時に、「ヒーローものをやっていくということは、じゃあアベンジャーズみたいなものをやるんですか?」とか言われることもあって。ステレオタイプにはそうなっちゃうんだろうけど、僕はそうじゃなくて、せっかく日本で作っているんだから、日本の良いところ、ウルトラマンが持っているデザインや内容もそうだし、その日本人としての良いところというのをちゃんと炙り出して、そこをコアにしようかなと思っています。これが多分、海外の人も良いなと思ってくれるポイントになるんじゃないかなと。

タカハシ:なるほど。

塚越:僕は若い頃、特にアメリカの文化に接して育ってきたんですよ。アメリカの映画を見てテレビシリーズを見て、カッコ良いな、と思ってきたんです。子供のときは本当にメディアの力が大きくて、ひとつのテレビ番組または映画というものの影響力がすごかった。今は色んなものが出てきて、世界的に色んなものを受け入れる体質というのがあるじゃないですか。そういう中では日本の良いところ、僕らが無意識に持っている良い考え方や良い概念、例えば小さな具体的な例でいうと「おもてなし」という言葉がオリンピック招致のときに話題のキーワードになりましたけども、そういう要素って海外から見ても良い文化として捉えられる。

タカハシ:違う価値観だからこそ魅力的に思われるでしょうね。

塚越:ウルトラマンがおもてなししてるというのじゃなくてね(笑)。 でもウルトラマンの中に僕らが潜在的に見たり感じたりしている表現があって、これが世界から見ても格好良いと思われる。それが僕らのコアだと思うんです、それをちゃんと出したいなと。日本でもそうだし、世界に発信していくという意味でもそうだし、それがやっていけたら嬉しいなというふうに思っています。

タカハシ:円谷英二さん自身も、海外へ向けてということを意識していらっしゃいましたよね。『ウルトラマン』にも具体的な日本的シーンをあまり入れない、あからさまに現代日本というふうに限定しないでワールドワイドな世界観でやろうとしていたというところがありますね。

塚越:そういう普遍的なところをちゃんと表現しようとしていたと思うんだよね。円谷英二さんもそうだし、その後の方々もそうだし、それこそ金城哲夫さんの脚本であるとか成田亨さんのデザインも含めて、監督さん、脚本家さん方というのは、そこを踏襲していると思うんですよ。例えば金城さんなんかは沖縄の方だからこその視点から、「日本ってこういうところなのか?」ということを描けた人かもしれないし。だから、これが日本です!とか、ウルトラマンは日本です!とか言うつもりはないんだけれども、僕らが持っている良いところを俯瞰してみて、そこがウルトラマンとか円谷作品の良い側面、良いコアコンピタンスみたいなことになっていってくれたら良いなと思っています。

ここからは思う存分海外展開をしていこうと思っている

タカハシ:その海外展開についてですが、今は権利関係がかなりクリアになったというニュースが出ているじゃないですか。実際に海外でウルトラマン作品を配給することに関してはもうハードルがなくなった状態なんでしょうか。

塚越:中国では一部の作品について難しいところがありますが、海外に展開していくことに問題はないと思っています。これから僕らが作っていく作品群については。

タカハシ:それは、今まであったハードルがなくなったという理解で良いですか?

塚越:中国では裁判で円谷プロの主張が認められなかった部分があるので、そこで争点となったタイトル群については展開することができなかったし、この係争がある間にアメリカ含めて海外で大きくビジネスをやっていくということは道義上もあまり良いことじゃない、というふうなブレーキが去年までは多分かかっていたと思うんですよ。僕がここへ来たのがちょうど去年の8月。そして、今年の4月にアメリカの一審でもこういう結果(勝訴)になったからね。

※編集部注『ウルトラマンシリーズ』の『ウルトラQ』(1966)から『ウルトラマンタロウ』(1973)までの作品群による海外利用権をめぐる裁判で、制作した円谷プロと、権利を譲渡されたと主張するタイ人実業家サイドとの間で争いがあり、20年以上にわたって複数の国で裁判が行われてきた問題。各国判決において著作権自体の帰属は一貫して円谷プロに認められたものの、海外利用権の帰属については国により判断が異なっており、『ウルトラマン』の海外展開で大きな障害になっていたが、20184月にアメリカのカリフォルニア中央区地方裁判所における一審判決で円谷プロが全面勝訴したと発表された。


ここからは思う存分海外展開をしていこうと思います。今日の話のもうひとつのポイントになってくると思いますが、僕らがウルトラマンの初期のものみたいなところだけやっていくのかどうか?というところ。やっぱり、常に新しいウルトラマンを僕らは模索しているわけで、原点のものを大事にすると同時に新しいものを創っていく。それについては世界というレベルでもまったく問題ない、というふうに思っています。

タカハシ:それは楽しみですね。スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』という作品があったじゃないですか。あれって原作に出てくるウルトラマンが、映画では様々な問題から出てこないわけですけど。今後は、そういった感じで何らかの海外の作品にウルトラマンのライセンスを貸すみたいなこともあり得るんでしょうか。ゴジラが「レジェンダリー・エンターテイメント」の作品に出張しているような形で。

塚越:これは相手さん次第なんだけれども、「貸す」という発想はないですね。

タカハシ:制作のイニシアチブはやはり円谷プロが取ると。

塚越:こういうのを僕らは作りたいと思っている、ということに乗ってきてくれるかどうかだと思うんですよ。今後もそういう意味では世界的なコンテンツを創っていきたいと思っているので、その時のチャレンジは、さっきも言った僕らが持っている要素と、世界のクリエイティブとがどういう化学反応を起こすかがポイントだと思います。僕らは『ULTRAMAN ARCHIVES』の発表会でお話ししたけれども、「プロダクションからスタジオに、キャラクタービジネスからブランドビジネスに」ということを考えています。そういう意味からすると、お客さんがどういうことを思ってくれるかということを一番大事にしていきたいので、キャラクターの貸し借りとかキャラクターの露出ということを優先には考えないです。

タカハシ:「作品づくり」においてベストなパートナーを見つけることができればやるということですね。

塚越:そう! 作品としてね。

タカハシ:ファン的には海外に行ってがっかりした作品も今まであるわけなんですけど……。

塚越:ウルトラマンってやっぱり日本を背負っているような気がするんですよ。みんなが頑張ってほしいと思ってくれているという感じもありますし、そこで変なことはできないなという。

『ULTRAMAN ARCHIVES』は20代~30代の映像が好きな人達にアプローチしたい

タカハシ:それでは、『ULTRAMAN ARCHIVES』についてもお話を聞かせてください。今日始めて概要を知ったんですが、かなり挑戦的な内容でびっくりしたんですよね。まず1エピソード単位をパッケージにして、それもメディアだけじゃなくライブイベントと音楽と出版と全体的なメディアミックスでやるというのが、ちょっと「アーカイブス」と聞いて想像していたものとはだいぶ違って驚きましたね。

塚越:それは嬉しいですね、かなり嬉しいです。

タカハシ:どういう経緯で誕生したプロジェクトなんでしょうか。

塚越:僕の方向性は簡単に言うと2つあって、ひとつには今まで作ってきたものをちゃんと敬意を持って大事にして、それを大事だと思ってくれているお客さんに対してどういうことができるかということを考えていくこと。もうひとつは、個々の作品の魅力を広げていくことです。そんな話をしている中で、ふと誰かが言ったんだよね。「それって映画みたいにですか?」って。その時に、そうだよ、これは映画じゃないの、と思ったんです。25分という尺でいうとテレビ番組というイメージがあるかもしれないけども、実は作っていた人たちって映画のように作っていたんだよね。

タカハシ:確かにそうかもしれないですね。

塚越:テレビシリーズだけど、一つ一つが独立して存在しているわけで。シリーズとして作品を総括りにすることが悪いとは言わないけど、でも勿体ないな、と。監督、脚本家の方々から他のスタッフの皆さんに至るまで、ものすごい労力とお金と技術をかけて、総結集で作られてるわけですよ。円谷英二さんの映画に対するノウハウであるとか技術であるとかビジョンがたくさんあったからできたことだと思うけれども、そこが結集した結果じゃないですか。それを映画のように一本一本を作った皆さんをリスペクトする形で出せたらいいなという。

タカハシ:一本一本語るべき所たくさんありますしね

塚越:僕らの頃合いの年代は、言わなくても語り始めちゃうんですよ。もううるさいぐらいに(笑)。 いろんなことを逆に教えてくれる。僕も知らないことが多いから教えてもらっているんだけれども、それぐらいよく知っているし、ものすごく愛してくれている。もちろん、こういう人たちにも、こういうものが倉庫に眠っていたから一緒に楽しみましょうよ、という感じもある。それと特に僕が今回注力しているのは、20代とか30代とか映像が好きなひとに見てもらいたいなと思っているんです。僕は若いときに、それこそ小津安二郎監督だとか黒澤明監督だとかの作品を観て、こういうことを日本の先輩たちはやっていたんだ、という思いがあったんです。じゃあ円谷プロも自分たちが作ってきたものであるとか、熱意であるとか、携わってきた人たちのことを伝えていくことをちゃんとやるべきだろうと。そういう想いがこのプロジェクトに繋がってきています。

タカハシ:プロジェクト自体としては非常に面白いです。僕らみたいなファンからするとものすごく観たいんですけど。ただ20代30代にこれを訴求していくことの難しさというのも感じていて、その辺はどうアプローチしますか?

塚越:そこでメディアの皆さんの役割と僕らの役割ということをよく考えるんですよ。たとえば、若い世代のファンも多い漫画家の浦沢直樹さんに、『ULTRAMAN ARCHIVES』の取組みに参加して頂くというのが僕らのひとつの考えたことです。

タカハシ:インフルエンサー的な「人」を通して作品を伝えていくといことですね。

塚越:今後も若い人たちに、20代30代で観ていない人に興味を持って観てもらうためのチャンス、それを作っていくのが僕らの仕事だと思ってるんです。特典を付けて、これを観てくれたらシールあげます、と言ったって仕方ないんですよ。コンテンツそのもの、作品そのものに興味を持ってもらわないといけないわけで。

タカハシ:確かに。

撮影:早川達也

塚越:『ULTRAMAN ARCHIVES』の発表会でも、その役割をみなさん(メディア)にもお願いしたい、と言いたかったんです。だって20代30代の方にどう語るか、どうリーチするかということを一番よく知ってるのは皆さん、プロの方々ですよね。今年の4月と9月にはライセンシーさん向けの説明会を実施したのですが、これは商品を作って頂くためです。ブランドを作っていくということは作品は経由するけれども、それだけじゃないんですよ。例えばモノであったり、例えばコトであったり、色んなものを通じてお客さんはそのブランド価値というものを理解してくださる。もちろん作品は大きいですよ、一番形作るから。でもそれ以外の展開も重ねてブランドはできてくると思うんですよね。そのために一緒に作っていきましょう、という意味でのライセンシーさんへの説明。そのあとに僕が考えたのがメディアの皆さんにこれを伝えるというところをご一緒させてください、と。それがうちにとって本当に喉から手が出るぐらい欲しい協力関係なんです。

――光栄なのと同時にプレッシャーもあります。でも浦沢さんは良いラインをチョイスされたなと。

塚越:ファミリーであるとか、ニュージェネレーションで付いてきてくれるところ、またコア層というところはよく知ってくれているところなので、僕が今社内で話しているのは、「文化的好奇心のあるところ」に、と。11月17日に行うULTRAMAN ARCHIVESのプレミアムイベント(Premium Theater スペシャルトーク&上映会)にどういう人が来てほしいかというと、さっき言ったみたいに僕ら世代の人たちが「やっぱりあれ、いいんだよ」と言って来てくれるのと、初めてだけれども浦沢さんが紹介してくれるから聞いてみたい、どんな話なんだろう?と来てくれるお客さんと、半分半分いてくれたら大成功だなと。

今回の『ARCHIVES』は儲け話ではなく、スタンスの話

タカハシ:僕は85年生まれなので、『ウルトラマン80』(1980)の放送終了後、次の『ウルトラマンティガ』(1996)までの間の、まさにウルトラマン不在の時代の人間なんですね。なので僕の同世代の一般の方というのは、基本的にTVでウルトラマンを通ってないんですよ。僕みたいなマニア寄りの人は逆にその当時レンタルビデオが隆盛していたので、ウルトラマンがテレビでやってないから昔のやつを観て昔の作品に詳しくなった、という突然変異みたいな人がいるんですけど。一部にすごく濃い人がいて、後はウルトラマンにはあまり馴染みがなくて、どちらかというと戦隊ヒーローとかに馴染みがある方が多いんです。

タカハシ:僕も上は60ぐらいの方から、下は若い方まで、ウルトラマン好きな人と話をすることがあるんですけど、やっぱり昭和のウルトラマンが好きな方、平成ウルトラマンが好きなヤング世代、今のニュージェネを好きな人って分かれてるんですよ。基本的には分断していて、接する機会も少ないし、例えば今ニュージェネが好きな人たちは、なかなか昔の作品を見る機会が少ないんですね。僕がウルトラマン楽曲のカバーアルバム『ウルトラマン・ザ・ロックス』をやった感じというのも、その間をちょっと繋げたら良いかなと思って。僕らこういうことをやっていると60代の方で喜んでくれる方もいるんですよ。あぁ、俺の好きだったやつを君らはカバーしてるんだと言ってくれるし、逆に若い世代の人たちは音楽が格好良いから作品観てみようという人も出てくる。

塚越:それがまさに『ULTRAMAN ARCHIVES』ですよ、その役割が。まさにそういうことをこのプロジェクトを通じてやりたいんです。

――せっかく機会を頂いたので、SPICEとしてもずっと記事として残っていく、Webの中でのアーカイブスとして展開できればと思っています。

塚越:コンテンツとかストーリーというのは、今おっしゃられた、「残っていくところ」ってあると思うんですよ。円谷プロはそれを残していきたいと思っていて。キャラクターというのは非常に大事な要素なんだけれども、それだけじゃなくて、その背景にあるのは多分普遍性だと思うんですよ。今おっしゃられたようにずっと読まれていくということは、その普遍性がみんなにどこまで伝わるかということだと思うし、僕らが作っていく作品というのはまさにそういうことを狙っているわけだから、そういうふうに言ってもらえるような活動が僕ら自身できていたら、本当にご一緒できるんじゃないかなと思います。

タカハシ:僕自身は、もともとミュージシャンとして活動しているんですけど、『特撮博物館』という展覧会イベントがあって、その開会式で庵野秀明さんが、特撮というのはもう死にかけている、という趣旨のことを言ったんですね。このままだと様々な財産なども失われるかもしれなくて、多くの人が次の世代に伝える努力をしないと本当になくなってしまうかもしれない、という危機感を持っていると。だからこのイベントに絶対お客さんを入れたいということを言っていたんですけど、それすごく格好良いなと思って。それで自分ら的に、ちょっとでも音楽でそういうことができないかな、と思って特撮音楽のバンドを仲間たちと組んだんです。それがもしかしたら『ULTRAMAN ARCHIVES』でやりたいこととも近いのかなと思って、応援したいと思って聞いていました。

塚越:庵野さんは格好良いですよ。本当に真摯に特撮のことであるとか、もっと言うとウルトラマンのことも好きでいてくれるので、本当に格好良いしありがたい。素晴らしい人ですね。

タカハシ:ただちょっと微妙な話なんですけど、『ULTRAMAN ARCHIVES』の意図やフォーマットがすぐに受け入れられるかというと、すごく難しいところがあるなとも思ってるんですね。もちろん続けていくことが、ブランドを確立する上ですごい重要な施策だと思うんですけど、やっぱりなかなか最初のうちは大変な部分があるだろうなという予想があります。

塚越:僕もそう思う。多分ね、商売で儲けようと思ったらこれはやめたほうがいい。今回の『ARCHIVES』というのは儲け話じゃないんですよ。これはスタンスの話なんですよ。発表会でもお話したけれども、円谷プロがどこを向いていきますか?という。一番はやっぱり作品に対してずっとそれを大事にしていくという気持ちなんですよ。これがなかったら新しいものは作れない。そのスタンスをちゃんと活動にする、ということのひとつがこれなんです。だから利益ありきで考えたらこんな発想はないですよ。商売としてのやり方もたくさんありますが、それはそれで。

タカハシ やらないといけないですよね。

塚越 これを単体で見ると、商売になるのか?とご心配される方も多いかもしれないけれども、どうしたら良い形にできるかも考えていますから、長くやっていこうと考えています。

撮影:早川達也

作品が観た人にどういうイメージを残しているのか、というのが一番大事

タカハシ:面白いなと思ったのが、形態としてDVD、BDがセットじゃないですか。これって以前手がけていらっしゃったディズニーのMovieNEXと同じで、ひとつのパッケージで基本的に完結しているというスタイルですけど、そこに対するこだわりというのはどういうものなんでしょう。

塚越:まさに同じです。プラットフォームを売っているんじゃないんだ、という姿勢にやっぱり立ちたかった。世の中には仕事のやり方ってたくさんありますから、中にはバージョンとか色々なものを出すことによって、市場に商品を次々に出して商売にするというやり方もあります。それは否定しないです。ただ僕がやっぱりディズニーの時代からずっと考えているのは、僕らがお届けしているのは作品ですから。プラットフォームではなくてね。だから本来は全部一緒にしたいんですよ。いまの円谷プロの力では、MovieNEXそのものはできないので、せめてBDとDVDを一緒にしました。はじめ社内でもBDにはこっちの特典入れて、DVDにはこっちの特典入れて、とか色んなことを考えていたみたいなんだけれども、それはもうやめようと。

タカハシ:一般的な特撮業界の風習ですよね。

塚越:そうじゃないと。僕らがお届けするのは中身だから、BDもDVDも、こっちが得だとかそういうことじゃなくて、同じものをセットにして出そうと。

タカハシ:ある意味特撮業界では革命的というか、特撮のソフトってバージョン違いが次々出ていってどれを買ったらいいのか分からない。市場にカタログがあまりにも並んでいて、どれが最新で決定盤なのか分からないというのが常だったんですけど。今後ウルトラマン作品を見るならこれだ、というのが分かりやすいひとつあるというような感じのものを目指すということなんでしょうか? 市場にカタログが氾濫するのではなくひとつに集約されていくような。

塚越:それもちょっと、違うんですよ。僕らが扱っているのは「作品」なので、本当はこの「形」というのが邪魔なんですよ。だから一番は観てくれた方のここ(頭を指差して)だよね、ここに残せることが大事であって、それを極力「形」じゃなくてやりたいんだけど、今はまだ仕方なく、というところがあって。

――もう少しそのところを詳しく聞かせてもらえたら。

塚越:人の記憶、または思い出。ソフトってその人たちの人生に影響できるものじゃないですか。だから僕らの作品が観た人にどういうイメージを残しているのか、というのが一番大事なことだと思っています。

――作品の形ではなくて、その作品がどういう影響を与えるか、ですか。

塚越:そう。でもその時に僕らってやっぱりどこかで商売が絡んでるんですよ。それは大事ですよ、仕事でやってますから。大事だけど、削ぎ取っていったとき、何を一番にイメージしながらどういうビジネスをするかというのも大事なんです。それじゃあ円谷プロは?と言った時に、英二さんは創りたいもの。円谷プロだからこそできるもの。それをお客さんに喜んで見てもらいたい、と。そこがエッセンスだったと思うんですよね。そこは変えちゃいけない遺伝子だと思うんです。

タカハシ:うんうん。

塚越:先の話に戻って、会社としてどこにプライオリティを置いていくかという、優先順位の話ですよね。といって会社だからもちろん利益も生まなくてはいけない。でも、商売ばっかり考えて作品を考えるんじゃなくて、作品があるからこっちもある。その時に判断しなくちゃいけない色んなものが出てきたときに、何が一番大事だっけ?というところに立ち戻れるようにしなきゃいけないかな、というふうには思っています。

皆さんともっと面白いウルトラマンをつくっていきたい

タカハシ:突っ込んだ話になるんですけど、今の特撮のテレビ番組は基本的におもちゃスポンサーありきのものですよね。やっぱり商売ですから、おもちゃ発信から逆算されて作られていることが多い。その中でももちろんストーリーやキャラクター設定をちゃんと作られていますが、基本的にはおもちゃの売上に支えられているところがあるじゃないですか。今のお話と若干剥離する部分もあると思うんですね。そこは今後のテレビシリーズのことになると思いますが、いかがでしょうか。

塚越:バンダイさんとも仲良く仕事させてもらってますけども、バンダイさんの理念というのは「おもちゃを通じて子供たちに夢を」ということなんだと思います。これは素晴らしいことだと思っています。物が介在して、それが子供たちにとって良い思い出や希望になっていく。ただ一方で、僕がお話してきたことと離れている部分があるとすれば、じゃあ作品は?ということですよね。作品として夢や希望を持ってもらうということです。子供たちに夢を届けるのは作品でありおもちゃであり。もっともっとバンダイさんと開発していきたいと思うんです。パートナーシップですよね。

タカハシ:バランスのところですね。基本的には作品が軸にあって、というスタンスは変えずに。

塚越:さっき普遍的な、という話があったと思うんですけれども、心に残るものというのはその普遍性だと思うんですよ。50年経っても見られる、子供のときに見たけれども大人になっても改めて発見がある。おもちゃも同じで、それを大事にしていくということかなと思っています。

撮影:早川達也

タカハシ:最後に、本当に今回がファンに届く社長の初めての声ということになるんですね。ファンに向けて今後の円谷プロについてメッセージ的なものをいただけたらと思います。

塚越:これまで好きでいてくれていた人にとっては、もっともっと好きになってもらえる状況を作っていきたい。もうひとつは新しい円谷プロ。このあとの50年は、いろんな変化があると思います。皆さんと一緒にもっともっと面白いウルトラマンを作りたい。みんな、そういうふうに言うと、あれほどの傑作を超えられるものか、乗り越えられるはずがない、と否定すると思うんですよ。でもそういうふうに自分たちが思っていなかったら「遺伝子」じゃないですよね。実力のほどを知れという言葉もあるかもしれないし、実力はどこまでか分からないけども、やっぱり円谷英二が始めたことに挑戦し続けて、その「遺伝子」にあるものを続けていく、ということが僕らの使命だと思っているから、それはやらなきゃいけない。超えられないかもしれないけど、僕らのアウトプットを見てください。

インタビュー・文:タカハシヒョウリ 編集:加東岳史 撮影:早川達也

イベント情報

『ULTRAMAN ARCHIVES』Premium Theater スペシャルトーク&上映会​

https://m-78.jp/ultraman-archives/

【イベント情報】
2018年11月17日(土) 18:00~
<内容・会場>
スペシャルトーク&上映会/イオンシネマ板橋
ライブビューイング/イオンシネマ全国14劇場
※イオンシネマ板橋より全国14劇場へライブビューイング
<スペシャルトーク>
登壇者:監督・飯島敏宏氏、漫画家・浦沢直樹氏
<上映作品>
『ウルトラQ』「2020年の挑戦」上映 ※モノクロ・モノラル
※ライブビューイング会場(イオンシネマ14劇場)
江別(北海道)・名取(宮城)・浦和美園(埼玉)・幕張新都心(千葉)・シアタス調布(東京)・港北NT(神奈川)・
新百合ヶ丘(神奈川)・金沢フォーラス(石川)・各務原(岐阜)・大高(愛知)・京都桂川(京都)・茨木(大阪)・広島(広島)・福岡(福岡)
> イオンシネマ板橋3,000円 他劇場2,000円 ※ソフトドリンク付き
2018年11月2日(金)より、各劇場Webサイトにて
インターネット(e席リザーブ):0:15~/劇場窓口:各劇場OPEN時~
 
★飯島敏宏(監督)×浦沢直樹(漫画家)スペシャルトークショー
『ウルトラQ」『ウルトラマン』など初期ウルトラマンシリーズの数多くの作品で監督を務めた飯島敏宏監督と、代表作「20世紀少年」などで国内外での受賞歴も多数の、漫画家・浦沢直樹氏をゲストに迎えます。
ウルトラマンシリーズの礎を築いたクリエイターの一人である飯島監督と、『ウルトラQ』『ウルトラマン』を初回放送当時6歳でご覧になった世代で、日本を代表するクリエイターである浦沢氏の二人によるスペシャルトークショーを実施します。