「石原正一ショー」久々の年末公演を石原正一が語る~「西遊記×うる星やつら×仮面ライダー×プリキュア、な世界です」

2018.12.18
インタビュー
舞台

石原正一。 [撮影]吉永美和子

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作・演出・俳優のみならず、ラジオパーソナリティや漫画朗読師など幅広い顔を持つ石原正一が、70~90年代のドラマやアニメをオマージュにした群像コメディをお届けする「石原正一ショー」。多くの俳優たちから「ぜひ出たい」の声が続出するなど、むしろ作り手側から愛されているプロデュース企画だ。中でも関西小劇場界の人気俳優が一堂に会する、年末新作公演が名物となっていたが、ここ数年は休止状態に。しかしその封印を破って、元NMB48の福本愛菜を主演に迎え、新作『西の遊のキッコ』を年の瀬に上演する! というわけで石原正一ショーの歴史から、新作の内容までのあれこれを、石原に直撃してきた。

■漫画みたいな世界の中で、ほかでは見せない顔を見せてもらいたい。

──石原正一ショーは、気がついたら20周年を過ぎていたんですね。

95年が旗揚げだったので、3年前にお祝いする旬を逃してしまいました(笑)。当時僕は、生瀬(勝久)さんが座長をしていた劇団そとばこまちに在籍していたんですけど、本公演がお休みだった時期に知り合いを集めて、既成の戯曲2本を上演したのが最初です。で、この時の会場が24時間利用可能だったので、最終日にオールナイトイベントをやったんですよ。その余興のために寸劇を書いたら、それが先に上演した2本の芝居よりも受けて、爆笑やったんです。

──それは今のような、何かの作品をオマージュにしたもので?

はい。『プレイガール』という、70年代の女探偵物のドラマを、それぞれの俳優たちのキャラに置き換えてやってもらって。そしたら「またやらないの?」「私も出してください」という人が20人ぐらい集まったので、翌年長編化して上演しました。「ああ、こんな下らない芝居、ほかにないなあ」と思いつつも、それもまた好評で。99年には劇団を退団するんですけど、それからすぐ「正一ショーをやったらいい」と声をかけてくださった人がいて、その年の夏に『キン肉マン』と『スケバン刑事』を足して2で割った『キン肉ひろみ』という作品を作りました。

石原正一ショー『ハリー・ポタ子』(2011年)。『ハリー・ポッター』をベースに様々な魔女っ子キャラが登場した。

──今もタイトルやキャストを変えながら再演し続けている、石原さんの代表作ですね。そこから関西小劇場のシンボルといえる、OMS(扇町ミュージアムスクエア/03年閉館)での年末公演が始まったのは?

その年に、川下(大洋)さんと三上(市朗)さんと後藤(ひろひと)さんがやってる「大田王」に出た時に、(公演会場だった)OMSのスタッフさんに「年末空いてるからやったらどうですか?」と言われて、そのままトントン拍子で話が進んで『よろしくキャノンボール99』を上演しました。それは映画『キャノンボール』と同じように、いろんなキャラがレースに出るだけという話です。川下さんと後藤さんがガチャピンとムックをやったり、三上さんがキャプテン・ハーロックになったりと、いろんなキャラを惜しげもなく出しまして。そこからOMSが閉館するまで、毎年お世話になっていました。

──その後も一回り大きなHEP HALLに進出したり、東京公演を実現したりと、広がりを見せています。

イベントで一緒になった今奈良(孝行)君に誘われて、東京でプロレスの芝居を作ったのをきっかけに、東京の俳優たちとも大勢知り合えて。それで04年に『天使だらけの傷』という作品で、HEP初進出&東京初公演を実現しました。ただ、東京からもいろんな人たちがワーッと集まって、キャストが総勢42名にもなって「楽屋があと2つ欲しい」という状態になりました(笑)。それでしばらくしてから、プライベートでいろいろあって、年末の芝居がなかなかできない状態になったんです。音楽ライブやイベントとかはやってたんですけど、新作上演は『恋しんぼ』(09年)以来になります。蟷螂襲さんを主役に料理バトルものをやろうとしたのに、いつの間にか『深夜食堂』みたいな渋い芝居になったという(笑)。

──石原さんは「いろんな俳優の隠れた個性をもっと生かしたい」という思いから、正一ショーをやっているとうかがったことがありますが、それが「もっといろんな役をやりたい」と思う俳優たちから、特に支持されている理由なのかなと思います。

それは今も変わらないです。「この人のこういう面が見たい」というのは僕にとってもモチベーションですし、お客さんも「こんな顔なかなか見ないなー」というのが楽しいと思うので。こういう漫画みたいな世界で遊んでもらったら、あまりほかではやってないポジションとか、見せていない所を出しやすいんじゃないかなあと思います。今回も本当に、みんなアホな演技に付き合ってもらってて、「何やらせてくれとんねん!」って空気になってますよ。ただキャストの中に、現役の中学生が何人かいるんですけど、稽古中にこの大人の悪ふざけを真面目に見ていることに、心苦しさを感じています(笑)。

石原正一ショー『ボボボーボ・坊っちゃん』(2006年)。夏目漱石『坊っちゃん』が元ネタの群像コメディ。

■愛菜ちゃん主演は、『キル・ビル』でユマ・サーマン手に入れたようなもの。

──今回年末公演を再開するきっかけになったのは。

よしもとクリエイティブ・エージェンシーの知り合いから「昔OMSでやっていたようなことを、またやりませんか?」と声をかけられて、年内に1本作品を作ろうという話になったんです。それで劇場を探したら、ちょうどAI・HALLが年末空いてまして。よしもとがAI・HALLを使ったことは、今まで一度もなかったそうで、劇場の方から「よしもとからオファーが来たけど、本当に正一ショーやるんですか?」って問い合わせが入りました(笑)。

──主役に福本愛菜さんを迎えたのは?

愛菜ちゃんとは以前からラジオで共演したりしてたんですけど、そとばこまちに客演した時に一緒になって、その時に「すごくやれるじゃないか」と思ったんです。アイドルで磨かれているから素材はさすがだし、天然のオーラが強烈なんで。ただその時はおしとやかな芝居をしていたので、もっとラジオの時のような、コメディエンヌな所を生かした演技が見たいなあと思ったんです。そうしたら出演OKもらえたので、じゃあ今回はスターリング福本愛菜だと。もう(クェンティン・)タランティーノが『キル・ビル』でユマ・サーマンを手に入れたような(笑)「よっしゃ、いける!」という感覚がありました。

──チラシの「わたし、ワクワクしてきたわ!」というキャッチから察するに、今回は『ドラゴンボール』ネタでしょうか?

いやいや。僕はよく声がフリーザ様に間違われるので、ラジオで自己紹介の時は「わたしの戦闘力は530000です」とか言うんですけど(笑)、実は『ドラゴンボール』はあまり通ってないんです。むしろイメージしたのは、堺正章さんや夏目雅子さんが出ていたドラマ『西遊記』の方ですね。今回は、三蔵法師や孫悟空たちの子孫が「西遊記学園」を舞台に活躍する、『うる星やつら』のようなにぎやかな学園モノになります。

(左から)石原正一、福本愛菜。

──世の中いろんな『西遊記』がありますが、学園モノというのはいろいろ斜め上でした。

最初はベタに、天竺に向かう途中であちこちの村で戦って……というストーリーにしようと思ってたんですよ。でももっと正一ショーらしい世界にしたいなあと考えた時に、(劇団☆)新感線の中島かずきさんが脚本を書いた『仮面ライダーフォーゼ』を思い出したんです。当時「仮面ライダーを学園モノにする」という発想に「そこかあ! さすが中島さん」とヤラれたなあと。それで、お釈迦様の教えを彼らの子孫たちが学んで引き継いで、学園および世界の平和を守る、という話になりました。天竺行ってる場合ちゃうわ! って(笑)。

──ということは『西遊記』×『うる星やつら』×『仮面ライダー』という雰囲気の世界に。

あと、そこに『プリキュア』が入ります。女の子たちがメタモルフォーゼしてバトルになる、という所が。やはり『仮面ライダー』を見て戦隊モノを見て『プリキュア』見るというのが、日曜の子どもたちのゴールデンタイムですから(笑)。この4つをかけ合わせた何か、みたいな舞台になると思います。

──いろんなコスプレキャラが出るのも、正一ショーの楽しみの一つですね。

孫悟空は猿だから、漫画やアニメの猿キャラクターたちとの対決を考えてます。また悟空たちも中国の妖怪っちゃ妖怪なので、日本の妖怪にも出てもらおうかと。出演者で一人、水木しげるの漫画に出てくるような人がいるので、何かしらのキャラをやってもらうつもりです。でもそんなにキテレツなキャラがどんどん出てくるというのではなく、悟空をもうちょっと立たせる感じで考えてます。

──あと正一ショーの特徴としては、乾杯とかで明るく終わるパターンが多いことがありますね。

そうですね。個人的には暗い芝居も好きなんですけど、正一ショーに関しては祝祭にしたいんです。プロレスの勝利の余韻みたいな、そういうのをみんなで分かち合えるのが、会場でライブを見る醍醐味だと思うので。あとザ・クロマニヨンズが今年シングルリリースした『生きる』が、自分の中ではドーンと来たので「これやな」と。いつも勝手に「この芝居のメインテーマはこれだ」っていうのを決めてるんですけど、今回ハマるのはこの曲ですね。世の中絶対楽しくないっていうのはわかってるけど、でもハッピーになりたいという。そんなヒロトの気持ちが、ちょっと隠れテーマみたいになってるんです。

──「いろいろあったけど、来年は楽しい年になるといいなあ」と誰もが考える時期に観るには、まさにピッタリじゃないですか。

年の締めくくりに、スカッとするお芝居になればと思って作っています。あとAI・HALLは、僕が芝居を見始めた頃の関西の演劇の空気とエネルギーが、やっぱりある劇場だと思うんです。正一ショーとしても初の劇場ですし、ぜひその空気を体感してほしいと思います。

石原正一。

取材・文=吉永美和子

公演情報

第29回石原正一ショー『西の遊のキッコ』
 
■作・演出・出演:石原正一
■出演:福本愛菜、樋口みどりこ(つぼみ)、千田訓子、花田咲季、澤田誠、平宅亮(本若)、池川タカキヨ(ニットキャップシアター)、坪坂和則、モンスーンT@TSU、勝賀瀬彩莉、庄司伊織、島林祈星、岩村幸音、新井元輝、後藤英樹、中道裕子、西山ひな、酒井高陽、生田朗子

 
■日程:2018年12月27日(木)・28日(金) 27日=15:00~/19:00~、28日=12:00~/16:00~
■会場:AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
■料金:前売3,500円 当日3,800円
 
■公式サイト:https://sainoyunokikko.wixsite.com/stage​
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