世界的ヴォーカル・グループVOCES8、バーナビー&ポール・スミス兄弟にインタビュー 「目指しているのは、みなさんに新しい音楽を紹介すること」
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VOCES8 (c)Andy Staples
現在日本ツアーのため来日中の世界的ヴォーカル・グループVOCES8(ヴォーチェス・エイト)。 各地を盛り上げ話題の絶えない彼らの、来日初日に代表のバーナビー&ポール・スミス兄弟にインタビューを実施した。「クリスマス・セレブレーション」の昼・夜公演の聴きどころから、歌やVOCES8の音楽性など、さまざまなことを訊いた。
ーー12月23日の東京公演「クリスマス・セレブレーション」では、昼と夜、異なるプログラムで2つのコンサートが行われます。まず、お昼の「クリスマス・コンサート」の聴きどころは?
バーナビー・スミス:昼公演は、ヨーロッパのクリスマスを日本に運んでくるようなコンサートとなります。プログラムは、僕たちが子供の頃から教会で歌い続けてきた、ヨーロッパの合唱音楽の伝統遺産といえる曲ばかりです。ヨーロッパのクリスマスを体験する、とてもいい機会になると思います。最後にはちょっとしたサプライズもありますので楽しみにしてほしいです。
ーージュニア・
ポール・スミス:はい、子供たちに音楽を愛するきっかけを与えることは、とても大切です。開演前には、僕がロビーで、さまざまな音楽の楽しみ方を伝えるワークショップを行います。僕たちは普段からそうした子供向けの教育プロジェクトに力をいれていますが、今回は短縮版の20分のプログラムを行います。ぜひ参加してほしいですね。
ーーー方、夜の公演は「プレミアム・ライブ ベリーメリーナイト」ということで、クリスマス曲やポップスの名曲を、グルーヴ感のあるアレンジで披露されます。TOKYOというセクションでは、Original LoveやPerfume、ピチカート・ファイブなど日本の曲も歌うそうですね。
バーナビー:TOKYOをテーマにすごくクールな曲を提案してもらい、それをメンバーのブレイクがアレンジしたものを歌います。日本語の発音を勉強することは簡単ではありませんでしたが、用意していただいた日本語の歌詞を、日本人の友達が正しい発音で録音してくれて、それをもとに20分間のプログラムを準備しました。夜公演はマイクを使って歌うので、昼公演とはだいぶ雰囲気が変わります。
ーー日本の曲の中で特に気に入っているのは?
バーナビー:僕が好きなのはPerfumeの「TOKYO GIRL」かな。
ーーオリジナルも聴きましたか? かわいい女の子三人組が歌っている曲ですが。
バーナビー:もちろん聴きましたよ。
ポール:だから好きなんだ!
バーナビー:違う違う(笑)。一番覚えやすい曲だったんです。最後に歌う、椎名林檎の「長く短い祭」も好きです。
ーー来日してから日本の曲をずっと口ずさんでいるそうですね。
バーナビー:そう、これまで知らなかったフレッシュな曲だから、歌うことが楽しいんです。
バーナビー・スミス
ポール:VOCES8が目指しているのは、みなさんに新しい音楽を紹介することです。クラシック音楽が好きなみなさんにはジャズやポップスに、一方で、普段ポップスになじみのある子供たちには、クラシック音楽に触れる機会を届けたい。マイクあり、なしの両方で、異なるスタイルの音楽を歌うことは、僕たちの活動において大切です。コンサートを聴いて1日を終えたとき、何か新しいものを知ることができたという充実感と、心地よく安心した気持ちを抱いてほしいですね。
ーーお二人の音楽体験は、教会の合唱団からスタートしていると思いますが、今の活動はすべてのジャンルに開かれています。それはなぜでしょうか。
バーナビー:英語には、「バラエティは人生のスパイスだ」という言葉があります。好奇心を持ち続けることは、とても大切です。クラシック音楽以外を学ぶことは、全てのジャンルの音楽を歌ううえでのスキルを上げてくれます。とはいえ一番大きいのは、一つのスタイルに固執しすぎないことで、僕たち自身が音楽を楽しみ続けられるという理由です。あらゆるジャンルの音楽を愛し、楽しんでいることがステージから伝わればいいと思っています。
ポール:この10年ほどで、世の中の音楽の聴き方は大きくかわり、スマートフォンでSpotifyをタップすれば、すぐに世界中の音楽にアクセスできるようになりました。あらゆる音楽に触れ、知ることが簡単になった今、ジャンルにかかわらず音楽を分かち合うことは、とても自然な行為です。
ーー宗教曲やクラシック曲と、ポップスやジャズでは、作品へのアプローチは変わるものですか?
バーナビー:僕たちは、聴衆に音楽を通じてその作品の本質を伝えようとしています。その意味で確かに、宗教作品を解釈するときのスタンスは、ジャズやポップスを解釈するときのスタンスとは違うでしょうね。常に心がけているのは、その音楽に正直であることです。
つまり、ジャンルによって僕たちの演奏の見え方が変わるのは、僕たちがどうということではなく、作品の本質的な姿が違うからということになります。
ポール:おもしろいのは、客席がすごく盛り上がって大きな拍手が出るのはアップビートの曲を演奏したあとですが、終演後、あの歌はずっと忘れないと言われるのは、彼らがとても静かに拍手をしていたクラシカルな作品の場合が多いことです。静けさのなかに、まったく違うエネルギーがあるのでしょう。
バーナビー:人が涙を流すのは、強いエモーションを感じたときです。歌が終わって、2、3秒の静寂があって、ようやく拍手が起きるような……。
ポール:あれは本当にマジカルな瞬間ですよね。大好きな時間です。
ーー日本ではクリスマスのお祝いの仕方が、キリスト教圏の国とは少し違うかもしれませんが、VOCES8の歌うクリスマスキャロルを聴くことは、新しい体験になるかもしれませんね。
ポール:僕たちは最近、2年に一度は日本でクリスマスシーズンを過ごしています。もちろん僕たちが育った教会の伝統的なクリスマスとは雰囲気がだいぶ違いますが、日本のクリスマスをお祝いする雰囲気も楽しくて好きですよ。あたたかく迎えられて音楽を分かち合うのは、とても素敵なことです。コンサートを通して、クリスマスに家族を大切にすることの良さを伝えることができればいいですね。
とはいえ、ロンドンでも、日曜の朝に教会に行く若い人の比率はどんどん減少しています。ロンドン中心地の1マイル四方には43の教会がありますが、みんな仕事が終わるとすぐに街を出てしまうので、教会に人は集まりません。そうなると、人々にとって宗教とは何を意味しているのか、教会の存在する意味、さらには、コミュニティとは何を意味するのかという話になってきます。教会は単に神に祈るための場所でなく、コミュニティでもあるのです。
今、私たちが教会を一つの活動の中心に選んでいるのは、教会での集まりが減っている昨今、音楽でコミュニティの繋がりを強くすることに貢献したいからです。音楽を、人々をつなげるためのツールとして使っているといっていいでしょう。学校やコンサートホールで歌うことにも、根本的には同じ目的があります。
ーー聴衆とつながることができたと感じるのは、どんなときでしょう。
ポール:心を開いた会話ができたとき、僕たちと聴衆の間にバリアがなくなったと思えたときです。家のパーティーで歌っているときのような感覚がお互いに芽生えると、その瞬間が特別になります。予定通りのことばかりしていれば、そんなマジカルな瞬間は訪れません。時にはリスクを取ることも大切です。ステージ上では、常にフレッシュなものや初めてのことを探しています。
ーーフレッシュでいるために、どうしていますか。
バーナビー:たっぷり寝ることですね! それがすべてですよ。8時間の良い睡眠がとれたらなんでもできます。
ポール:それは、身体的なフレッシュさのことでしょう(笑)。
バーナビー:そう(笑)。でも、音楽のフレッシュさもそこに由来していると思いますよ。何かを演じているならば疲れていても大丈夫ですが、キャラクターを脱ぎ捨てた時、よく眠ってフレッシュな状態なら、自分自身でいるだけで良いパフォーマンスができます。理想ですね。
(左から)ポール・スミス、バーナビー・スミス
ーーところで、お二人はもともと一緒に教会の合唱団で歌っていたけれど、ある年齢で辞めなくてはいけなくなったとき、離れたくなくてグループを結成したと聞きました。
ポール:基本的にはそうです。僕たちは兄弟ですから、家族という意味では離れることはないんですけれどね(笑)。10歳のときからロンドンのウエストミンスター教会の合唱団で一緒に歌っていました。21歳くらいでやめることになったとき、自分たちの楽しみのために、趣味で歌を続けたいと思ったことが始まりです。
バーナビー:実家のパーティーで友人たちを招き、歌っていたことが始まりです。そうしたらある人からコンクールに出ることをすすめられ、それにあわせて8人のグループを組んで出場したら、優勝したことがVOCES8の始まりです。とても幸運なアクシデントがきっかけでした。その後、グループ名に合わせて人数は変えずにここまで来ています(笑)。でも、合唱作品は8声や4声のものが多いですから、8人というのはとても便利なんですよ。
ーー合唱団で歌っていた子供の頃、歌はお二人にとってどんなものでしたか?
バーナビー:毎日3、4時間歌うことを続ける中で、歌が生きることの一部となりました。合唱団を離れたとき、まるで人生の一部を失ったような気持ちになって、歌なしでは生きられない自分に気がつきました。いつの間にか、歌うことが喜びになっていたのですね。
ポール:僕も子供の頃は、何の疑問もなく楽しいから歌っていました。それが、人間として成長して、音楽についてより意識的に考えるようになる中、歌うということが、愛に導かれた積極的な選択となったのです。
僕は大学で、政治学、哲学、経済学を勉強したので、卒業後は最初、歌とは関係のない仕事に就こうと考えました。でも歌から離れてようやく、音楽こそ自分が情熱を注げるものだと気づいたのです。仕事をやめて、ヴォーチェス・カンタービレ音楽財団とグループを立ちあげました。最初の2年ほどは経済的に難しかったですが、今では世界中を旅して音楽を届けることができるようになりました。
ちなみに、歌うということは科学的に、人間が喜びを感じる最高の方法の一つだとわかっているそうです。僕たちはそれが仕事なのだから、本当にラッキーですね。
ーーグループのコミュニケーションをフレッシュに保つ秘訣はありますか?
バーナビー:8人いつも自然な感覚でいられるように、小さな変化を取り入れています。ある立ち位置で何十回かうまくいったあとでも、あえて一度それをくずし、場所を変えてみることもあります。そうすることで、作品について新しい経験を得られるからです。
ポール:指揮者がいるようなグループではありませんから、どんな音楽が生まれるかについては、8人全員に責任があります。バーナビーがアーティスティックディレクターを務めていますが、彼の仕事は指示をすることではなく、ファシリテートすることです。全員をアーティストとして尊重し、それぞれが良い音楽だと信じている通りに歌っている状態が理想です。そこから生まれる責任感は、アンサンブルを新鮮に保ちます。議論を戦わせる必要もあり、時間がかかりますが、お互い向上するためには不可欠です。それに8つの頭があることは、2つしか頭がないより良いに決まっています(笑)。
ポール・スミス
ーー8人それぞれ、かなり個性が違うそうですね。
バーナビー:そうですね。これは、何十分ものステージを楽しんでいただくためには重要なことです。良い音楽は、個性的な声が合わさることで生まれます。食事と同じで、いろいろな栄養素、味や香りが全部感じられて、うまく一つにまとまっている料理のほうが美味しいでしょう。
ーー今回は、新しいメンバー構成で初めての来日公演となります。これまでは女性が2人でしたが、3人になりました。
バーナビー:はい、発足以来初めてのことです。アルトを歌っていた男性の代わりに女性メンバーのケイティが入りました。グループの声の配分として、みなさんから聴こえるものはそんなに変わらないと思います…もちろんビジュアルは大きく変わりますが(笑)。新メンバーは新鮮なエネルギーを運んで来てくれるので、嬉しい存在です。
ポール:誰かがやむを得ず抜けるときにオーディションを行うのですが、多くの応募があるので、競争率は高いですよ。新しいメンバーには、レパートリーやVOCE8の音楽性について多くのことを勉強してもらわなくてはいけません。かなり大変だと思います。
バーナビー:ケイティは、とてもよくやってくれています。日本のみなさんには、ちょうどステージをこなしてなじんできたところを聴いていただくことになるので、ご期待ください!
ーー歌は人間にとって初めての音楽経験であることも多く、たくさんの人が楽しんでいます。そんな「歌う」ことを仕事としていることについて、どう感じていますか?
ポール:良い問いかけですね。僕たちは、情熱を傾けられる音楽を仕事にできてとてもラッキーです。そんな中で、単に歌うだけでなく、人々が歌うということを勇気づける存在になりたいと思っています。
僕たちは歌に人生を捧げ、趣味で歌っているみなさんよりも大くの時間を費やして、音楽について考え学ぶことができます。重要なのは、そうして得た知識を用いて、僕たちと同じくらい歌が好きなみなさんをインスパイアすることだと思っています。
ーーVOCES8は子供向けの音楽教育にも積極的に取り組んでいますね。
バーナビー:子供達は、いつでも驚きをくれます。演奏について気づいたことを問いかけると、必ず想像した以上のおもしろい答えが返ってきます。それに、いつも正直です。子供に教える経験は、僕にとっても勉強になります。
ポール:教育プロジェクトを始めたのは、演奏だけでなく、教育やコミュニティをサポートすることにも貢献したいという考えがあったからです。それまで歌ったことがない、でも音楽の道に進むポテンシャルを持つ全ての子供たちに、可能性を開くことが使命だと思っています。ただ、実際にやってみると簡単なことではありませんから、情熱がなくては続きませんね。
日本は、子供達が学校教育でクラシック音楽に触れる良い環境が整っていると思います。それが楽しくクリエイティブな授業かどうかという意味では、もしかしたら改善すべき点もあるのかもしれません。一方でイギリスでは、音楽教育の内容はクリエイティブですが、教える先生が圧倒的に少ないのです。
私たちは東京学芸大学で、よりクリエイティブで楽しい授業のための先生向けのワークショップを行っています。日英、それぞれの強みと弱さがあると思うので、お互いの経験から学び合うことができるといいですね。
ーーコンサートをきっかけに、歌を勉強したいというお子さんも出てくるでしょうね。そんな時の親御さんへのアドバイスは?
バーナビー:全ての機会を生かすべきだと思います。時間がないとか、他のことに忙しくて余裕がないと思わず、全ての可能性にイエスと言うほうがいいと思います。
ポール:人生において大切なのは、情熱に従うことです。もちろん、歌の道を選べば努力が必要になりますし、自分の全てを投入しないといけなくなりますが、それが実を結んだときのすばらしさはかけがえのないものです。逆に、それが本物の情熱に基づいていなければ、努力はより苦労を伴うものになるかもしれません。
ーーそれでは最後に、聴衆のみなさんにはどんな気持ちで会場に足を運んでほしいか、メッセージをお願いします。
バーナビー:とにかく、オープンな心でいらしてください。実は僕自身、毎日このグループの歌を聴けることがすごくラッキーだと思っているんです。休暇で1ヶ月ぶりに仲間の歌を聴けたときなどは、なんてマジカルな時間なんだろうと感じます。何か新しいものに触れられるかも……という期待とともに、楽しみに会場にいらしてください。
【VOCES8】12/23(日・祝)東京公演プロモーションムービー
文:高坂はる香
公演情報
14:00開演 (15:00開場)
▶ 全自由席 ¥3,000
▶ ジュニア
※4~12歳のお子様が対象となります
19:00開演 (18:00開場)
▶ 全自由席 ¥4,000
▶ &PARTY ¥6,000
▶ U18
2公演通し券
▶全自由席 ¥6,000 ▶ &PARTY ¥8,000
※各公演約70分間の内容となります
スペシャル・パートナー : 楽天
後援 : InterFM897/J-WAVE
協力 : ユニバーサル ミュージック合同会社