MOROHA Zepp Tokyo、渋谷WWW Xを経て中野サンプラザで無観客ライブをした理由を語る
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MOROHA
12月16日に『MOROHA BEST~十年再録~』ツアーのファイナルとしてZepp Tokyoでのワンマンライヴを完遂し、12月18日には『MOROHA BEST RELEASE TOUR ~置いていかれた曲達~』と題して、ベストアルバムに収録されなかった楽曲達で構成したライヴを行ったばかり。そんな彼らが12月18日のライヴ後に「12月19日に中野サンプラザで無観客ライヴを開催、その模様をMOROHAのYouTubeチャンネルで生配信する」と発表した。過去最大キャパシティのワンマンライヴを行った直後に無観客ライヴを開催するとは、瞬時に何故?と首を傾げそうになったが、Zepp Tokyoでアフロが放った言葉を思い出せば、むしろその「何故?」から彼らの本質が浮かび上がってくるのであった。
「Zepp Tokyoが埋まったなら、次は武道館。そのあとはアリーナだ。……なんて一瞬でも考えた自分に吐き気がする。恵比寿リキッドルームも通過点だったよ。Zepp Tokyoも通過点。武道館もアリーナも通過点だ。俺とUKが何も持たずに「MOROHAやろう」と誓って目指した場所は、そんなちっぽけな場所じゃなかったはずだ。俺たちが目指すのは、あなたの、お前の、君の、心だ!」--。
目の前の「お前」と愚直に交感し続けるライヴが彼らの真骨頂なのは大前提だ。しかしそれはキャパシティや距離によって変化するものではないし、今目の前にいなかろうと、今日もどこかで歯を食いしばって生きるお前に用があるのだと。誰にも理解されずとも夢を抱いて生きていく孤独に歌いかけたいし、だからこそ俺達もふたりぼっちのまま表現し続けるのだと。最大キャパのライヴハウスをソールドアウトさせた今だからこそ、その本質だけで勝負したいと考えた結果の無観客ライヴなのだろう。映像の配信だけの状況は、むしろこれまでで最も逃げ場がなく「ふたりだけ」の力が試される。そんな「大一番」の一日を見届けようと、彼らが到着するのと同じ16時に会場に入った。
MOROHA
さぞ緊張感のある楽屋だろう……と思ってドアを開けると、FM軽井沢で放送中のレギュラー番組『MOROHAの!こちら二両編成』をふたりだけで収録中。話題は、「MOROHA最初期の楽曲にはメロディがあって、アフロは意外と歌える」、「曽我部恵一氏のアルバムが素晴らしかった」、「Zepp Tokyoで販売予定だったUK監修の『18禁タブ譜』があまりに過激で販売禁止になった」などなどだ。特にUKが販売する予定だったタブ譜に関しては、雑誌ほどの厚さがあるにもかかわらずタブ譜自体は2Pであること、それ以外は完全なるエロ本であることについてアフロが徹底的に突っ込み続ける。UKからすると、「タブ譜とは言っても、俺はそんなに簡単なギターを弾いてきたつもりがない。だからフルイにかける意味でも刺激的なものにした」とのこと。時間にして10分ほどの他愛ない会話だが、マシンガンのような速度で転がっていく。早速、ふたりの阿吽の呼吸を感じさせる1日の始まりである。
●対等な関係でいたら良いという根本に立ち返らせてもらったのがツアーの初日●
ーー早速ふたりのエンジンが全開のところを拝見して、楽しい1日の始まりなんですが。年の瀬にもの凄いニュースが飛び込んできたので、今日は取材に伺いました。なんと、「仮面ライダージオウ」に登場する変身ベルトの声をアフロさんが担当されるとのことで。
アフロ:うおい、そこか!!
UK:ハハハ。
アフロ:でもまあ、実際凄いニュースだよね。でももっとすごいのは、UKが作ったタブ譜(『GRAY ZONE』/UKが編集したタブ譜冊子。しかしほぼ全てがエロコンテンツで、販売予定だったZepp公演直前に販売禁止が決定した)のほうなのよ。
ーー拝見しましたが、エロコンテンツが9割以上、実際のタブ譜はたったの2Pでした。
UK:そう、刺激的過ぎるっていうことで、発売禁止を食らっちゃって。現時点で中身を言えないんだよね(笑)。
アフロ:でもまあ、これがMOROHAの幅だよね。
UK:そうそう、大人から子供までね。そのタブ譜は結局通販で売ることにしたんだけど。
ーーでも、そういうコンテンツも含めてMOROHAの表現として捉えて、アグレッシヴな姿勢で観に来てくれる人は増えた1年だったんじゃないかと思うんです。その辺は自分たちとしてはどうですか。
アフロ:確かにお客さんは増えてきてはいるけど、でも昔から変わらずMOROHAを観にきてくれる人は気合い入ってるから。まあ、今年に関して言えば一回「おい大丈夫か?」と思うことはあったんだけどね。
ーーそれはどういうこと?
UK:あまりにライヴハウスでのマナーが悪過ぎるお客さんがいたんだよね。もちろん、お金払って来てくれてるから自由にしてくれればいいんだけど、人としてのモラルの部分はライヴハウスどうこう以前の問題じゃんか。あれは……『MOROHA BEST』ツアーの初日かな。あまりにそういうお客さんが多かったからライヴ中にも言って、それでもよくならなかったから、ライヴが終わった後に俺がちょっと悪態をついたの。
アフロ:「お前らみたいなヤツは二度と来んな」と言い切ってたよね。で、俺はそれが凄く気持ちよかったの。俺は、上手いこと傷つけない言い方ないかなと考えちゃってたのね。でも、そんなヌルいこと考えてるんじゃなくてハッキリ言うべきだろ、こっち(UKの言い方)だろ、って気づかせてもらった感じがしたんだよね。あのまま進んでたらヤバかったと思うし、お客様は神様だって言葉もあるけど、でもお客さんも人間だって思うからこそ音楽にも力が入るわけでさ。だからうるさいと思ったらうるさいと言えばいいと思うし、俺らがつまらなかったら「つまらない」と言ってくれたらいい。そういう対等な関係でいたら良いという根本に立ち返らせてもらったのがツアーの初日で。
ーーその根本を忘れてしまうような人達でもないと思ってしまうんですけど、何か自分達の中でも変化が多い1年だったんですか。
アフロ:まあ、メジャー1年目でグッと行くということの中には、まずは分母を増やしてから本当に好きな人が残ったらいいなという気持ちがあったの。これまでは、とにかく現場に来てくれる人達に刺す感じだったでしょ。だけどそこにプラスアルファ、より広く持っていける選択肢をとったわけで。そうなると、言葉選びのひとつひとつも考えなきゃいけないなって刷り込まれていく感じがあったのね。でも、そういうヌルい気持ちを断ち切ってくれたのがUKくんだったんだよね。で、UKがそうしてハッキリ言ってくれたことがフルイになって、本当に好きでいてくれる人だけが残って、その人達がZepp Tokyoにも来てくれたんだなと思う。だってさ、あの雰囲気って真剣そのものだったじゃない?
ーー拍手すらためらうくらい、ひたすら見入って聴き入るライヴだった。それに、真剣そのものな人達を前にするからこそ、ふたりも目の前の人と1対1でぶつかっていったじゃないですか。場所を選ばず本当にブレないライヴをするんだっていう証明のような日で、それが素晴らしかったです。
アフロ:浮ついたものがひとつもなかったよね。そう思うと、やっぱり信じてよかったなって。UKもハッキリと言ってくれてよかったし、その結果、俺達を信じてくれるお客さんがあそこに来てくれたんだなって思えたね。それに俺達には演出とかを入れる選択肢もないし、ふたりでやる選択肢しかない。それに、演出も何も入れずいつも通りにふたりだけでやることが、Zepp Tokyoというデカい場所へのカウンターにもなると思ったし。……まあ、こっちが普通だろ、とも思うんだけどね。火柱とか映像とかを入れても、そっちのほうが印象に残るのは恥ずかしいことだと思うからさ。まあ、会場の一番後ろまで届いてたのかと言われたら、それはわからないよ? 人がどう思ってるかどうかなんて、規模感にかかわらずいつもわからないんだよ。ただ俺達は間違いなくやり切った。それだけなんだと思う。
ーーZeppのラスト、「五文銭」をやりましたよね。「お前の話をしろ」と言って「二文銭」で始まったライヴが、ご自身のことも聴く人のことも愛情で包みこむようなエンディングを迎えたところに感動したんですね。あれが今のMOROHAなんだなって。MOROHAを大事に思っている人のことを自分のことのように大事にできるようになった、そういうスケールを感じたんですね。
アフロ:ああ、そうか。確かにいい流れではあったよね。俺が思うのは……本当にスタッフに恵まれたなと思ってて。この前だったらさ、もうSOLD OUTはしてたけど、エリザベス宮地さんに俺が隠し持っていた
ーーそうですね(笑)。
アフロ:でも、そうやってそれぞれが生活の中で音楽と関わってるんだと思うと、一人ひとりの顔が浮かんだり、愛情が強くなったりすることは増えたよね。実際、関わる人も増えたし。
UK:ただ、まだ自分達の音楽は替えが効くものなんじゃないかと思うんだよね。だけど偶然にもいろんな人の生活にハマってくれたんだったら、それを外さないことが大事だよね。
ーーじゃあ逆に聞くと、MOROHAの音楽は、人のどういう部分にハマってきたんだと思います?
UK:やっぱり、誰もが持ってる気持ち--それはポップな気持ちではなくて、日々の些細なことの積み重ねで荒れてきた気持ちに俺達の曲や気持ちが入っていったんじゃないかな。たとえば何かが上手くいかない時って、歯磨き粉が切れたくらいで「なんでこんなに上手くいかないんだ」って心が荒んだりするじゃん。そういう生活の中の気持ちに、俺達の音楽が入っていってるんじゃないかと思う。
ーーそうして着実に伝え続けた結果、Zepp Tokyoも昨日のWWW Xでの番外編ライヴも大成功で終えたわけですが、立て続けに無観客ライブを行うと。これはどういう経緯があってのことなんですか。
アフロ:たしか2週間くらい前に連絡があって、中野サンプラザでライヴをする予定だった韓流スターが突然来られなくなって、スケジュールに穴が空いたみたいなのね。それでユニバーサルの人から、何かやりませんかって連絡があって。それで俺らもアホだから、ツアーの直後だからこそいいんじゃねえかっていう話になって。それで無観客でライヴするかと。
UK;だから、意図とか目的なんて一切ない(笑)。
アフロ:そうそう(笑)。でも、これは一貫してるんだけど、ノリでやれないチームってダサいと思うんだよ。俺とUKがやりたいと思った時にやれるチームがいいし、事情が先に来たら負けだと思ってるから。そういう意味では、MOROHAの一貫してるところが出てるんだろうね。
ーー自分達の表現は全部自分達の言い訳を殺すためだ、と以前から話してもらっていますよね。そういう意味では、観客がいない今日のライブは本質を問われるものでもあると思ったんですが。
アフロ:ああ、それは俺も思う。全部が自問自答だと思うから。まさにそういうライブだよね。ただ、いつもカラオケにひとりでラップを練習してると、自分だけで泣きそうになる時があるの。リスナーとか関係なく、自分だけでグッとくることがある。やっぱりリスナーの一番手は自分自身なんだよね。そう考えたら、今日ここでやることはいつも通りで変わらないはずだと思う。生配信もするけど、カメラの向こう側の人のことを想像してもグッとは来ないんだよ。自分自身に歌うしかないのは変わらないね。ただ、「YouTubeを御覧の皆様へ」っていう曲で「YouTube見てるんじゃなくてライヴに来い」と言ってたのが、こうしてYouTubeの生配信をして、敢えて「ライヴに来るな」と言ってるわけじゃない? それくらいには、考え方の幅も視野も広がってきてるんだろうね。それは今話してて思った。……ま、広げすぎて、UKはタブ譜と名のついたエロ本まで作っちゃったけどね。
UK:……まあ、これは初めて言うんだけど、今アフロはにナレーションの仕事が多く来てたり、フロントマンらしいオファーもたくさんもらってたりするじゃない。そういう存在感が昔からあったアフロを見てて、「俺がこのままキャラを生かせないままだったら死んでしまうな」と思ったのが2015年頃なんだよね。それで自分の得意なことをもっと出そうと思って、エリザベス宮地さんと一緒に「日本グレーゾーン」という映像作品を当時作って。だから今回のタブ譜も、アフロへのカウンターのひとつなんですよ。なんなら、自分のキャラを出そうと思って2016年当時、『TERRACE HOUSE』に独断で応募したからね」
アフロ:ハハハハハ! 知らなかった。
UK:一回も話してないからね。もちろん落選したけど、志望理由も「アフロというフロントマンがいて、俺も自分を出さないと死んでしまうから」って書いたから。それくらい、俺自身も自分を表現したいと思って何事もやってるんだよね。
アフロ:だってMOROHAの始まりが何かって言ったら、音楽でもなんでもなかったのよ。町田駅前にダンボールだけ敷いて、ふたりで人生相談やろうぜって言ってさ。そうやって、何かやってみたと言える人生にしたいと思ったところから始まったのがMOROHAだから。根本が今も変わってないってことだと思うんだよね。
ーー自分を前に出していつまでも刺激を与え合っているのがMOROHAの素晴らしいところだと思います。しかもアフロくんのほうも、仮面ライダーを変身させる役割の声だっていうのもいいですよね。ぶっ刺したり包み込んだりしながら、人の背中を押して変身させていくのがMOROHAの表現だなって。
アフロ:上手い方向に持っていくなあ。でも、そうであったらいいよね。それでどこまで行けるか。俺も楽しみだね。
●音楽と歌を通して自分を表現するのは、木彫りのようにして自分の情けなさと弱さを浮かび上がらせるのと一緒のこと●
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こんな会話を終えた直後からUKは、発売禁止になった「タブ譜」の通販告知映像の確認。そのクオリティに全員で爆笑しながら、今度はレーベル担当氏の「MOROHAのリスナーには、無観客だと言っていても会場に来ちゃう人が多いんじゃないか?」という話から「何人来るか、当てようぜ!」という、突撃人数予想大会が始まった。チーム全体がノリノリでMOROHA自体を材料にして瞬時に大盛り上がりする空気。ストロングスタイルかつ獰猛なライヴからは想像もできないほど、仲間に対する信頼とユーモアに溢れているのがMOROHAのふたりであり、そこに集う人々だ。ああ、本当に居心地がいい。
と、ひと盛り上がりしたところで、アフロはセットリストに向き合い始めた。元々曲順のイメージは組んであったようだが、じっとセットリストと向き合い続け、最終的な曲順が決定したのはリハーサル直前の17時50分のことだった。最後に追加された楽曲は、「YouTubeを御覧の皆様へ」。ライヴに来い、今ここにあるものだけがすべてだ--やはり、それだけを愚直に伝えるための「YouTube生配信」なのである。アフロはさらに、セットリストにライヴ全体の流れをメモしながら真剣な表情を強めていった。
18時5分。楽屋でUKがステージに向かい、サウンドチェックを開始した。ラップのない状態で鳴り響く曲を聴いていると、改めてUKの紡ぐメロディの美しさを実感する。さらに、今日のホールのように反響の大きな環境で際立つのは、彼がメロディとともに両立しているビートの強さだ。MOROHAを結成して間もない頃、その編成の独特さに対し「HIPHOPのビートが足りない」と言われたことをキッカケに「弾きながらビートを作り出す方法」をUKが独自に作り出したという話を以前に聞いたことがある。ギターのボディから会場中に反響するドシッドシッという音の重みは、彼の、そしてMOROHAの試行錯誤の足跡そのものだと言えるだろう。
アフロがリハーサルに入ったのは18時19分。ゆったりと登場したが、その表情は見るからに引き締まって緊張感を漂わせている。ひとりでラップを練習する時にも感極まることがあると話していたが、その言葉通り、リハーサルも彼にとっては自身との対峙の場所。つまり真剣勝負だ。その意志を軸にして、スタッフ陣が一気に意志をひとつにしていく空気を感じる。マイクのリヴァーブの調整や照明のイメージもスムーズに共有されていき、少し遅れて始まったにもかかわらず、リハーサルは19時ぴったりに終了。短時間で円滑な進行だったが、しかしアフロを見れば、汗をびっしょりとかいている。それもそのはず、彼はリハーサルでも何しろ全力で歌い尽くしたからだ。
アフロ:俺、ライヴ前のルーティンを作らないの。いつも、その日によって時間の過ごし方も変えちゃう。だってルーティンを作っちゃったら、何かあった時にそのルーティンのせいにしちゃうでしょ。これがあれば落ち着くってものをなくすことが、本当の意味で心を落ち着かせることだって考えてるんだよ。
そう話す目は鋭い。何よりも自分自身と対峙するしかない舞台だからこその緊張と興奮が確かに滲んでいる。
19時45分。今度はUKが何やら書き物をしている。見てみれば、セットリストをコピーした紙を見ながら、それを自分の字で清書しているのである。
UK:自分の字で清書しないと、たとえばセットリストを間違えた時に人のせいにしちゃうでしょ。だから毎回、ライヴの前に自分で書くんだよね。
アフロがルーティンを設けないという話にも通ずるが、自分のすべてを自分で引き受けるという精神性が一貫しているふたりである。「これは俺の人生なんだ」と歌い続けてきたことを裏切らないし、本当にブレがない。
この日もMOROHAの盟友・エリザベス宮地氏がカメラを構えてふたりの一挙手一投足を撮影していたのだが、宮地氏がふとTwitterを見るなり「本当に、会場の入り口に来たと呟いている子がいる!」と興奮気味に楽屋を飛び出した。お得意の突撃インタヴューに向かったのである。「本日の公演はございません」という看板が置かれた中野サンプラザのエントランスに立っていた青年に宮地氏が話を聞くと、彼はびっくりしながらも、自分が生活の中で今抱えている歯がゆさ、そんな時に出会ったMOROHAの魅力、MOROHAにどれだけ奮い立たされ勇気づけられてきたかを一生懸命語ってくれた。今日は生のライヴが観られなくても、MOROHAの音楽と存在が、自分の日々と心で鳴り続けているのだと。目の前に観客がいなくても、MOROHAは自分達自身が必死に遺してきた音楽と生き様で今日も人と出会い続けているのだ。
19時58分。いよいよふたりが舞台袖へと向かう。観客のいない会場の照明が落とされると、静かに配信開始が知らされた。アフロもUKも、真っ直ぐにステージを見据えてからゆっくりとステージに立った。20時ジャスト、開演だ。
MOROHA
まず披露されたのは「ストロンガー」だ。観客ゼロの中、それでもアフロは前だけを睨みつけて《破壊する ぶっ壊す 駄目なもんは全部》と叫び続ける。己の弱さ故にバカにされた経験、その悔しさと怒りすべてをガソリンにして突き進むのだと、MOROHAの核心を強烈な闘争心でぶちかます鋭すぎる名刺だ。生配信とあって、今日初めてMOROHAのライヴを目にする人もいるだろう。だからこそ、このふたりは手加減なしで初っ端から食らいつくのだ。立て続けに「革命」、「俺のがヤバイ」と披露されていくごとに、アフロのパフォーマンスがより一層大きく激しくなっていく。前を見据えてはいるが、それ以上に歌と自分自身に没入してエモーショナルな表情になっていくのが目に見える。
楽曲の紹介もMCもない。ただ曲と言葉の爪痕を残していくだけのライヴだ。「tomorrow」や「拝啓、MCアフロ様」のように自分の過去を出発点にして今の自分と向き合う歌では、特にアフロの内面が爆発していく。自問自答のライヴだと話してくれた通り、届けるよりも伝えるよりも、ただ自分自身に潜っては何かを掴もうともがいているようにすら見える。たったそれだけのステージなのだが、だからこそひと時も目を離してはいけない緊張感と没入感が観る側にも生まれて来る。「お前もそうだろ? 毎日闘ってるだろ? 俺ひとりじゃないだろ?」と、言葉ではなく姿そのもので訴えかけてくる凄絶なパフォーマンスが連打されていった。
MOROHA
そして最も素晴らしかったのは、「五文銭」だ。ブルーな感情も弱さもなんとか突破しようともがき続けるのはなぜか。誰のため何のためにもがき続けるのか。答えの出ない自問を繰り返しては、それでも走り続けるしかないのだと改めて自分達自身に伝える歌。美しい旋律が転調する展開を象徴にして、MOROHAの闘争心と人への慈愛の両方が誘爆し合った楽曲。このステージを丸ごと表す1曲
の最後に、アフロはこう叫んだ。
「客席に客がいないライヴは初めてじゃなくて。情けない話、俺達はずっと弱かったから、客席に共演者すらいないライヴを何度もしてきたんだ。だけど胸張って言えるのは、その時も一滴も出し渋らなかった。誰も見てなくとも、力一杯自分の悔しさと恥ずかしさを叫んできたんだ。だって、一番大事な人間が俺達を観てる! UK、俺達が俺達を観てるぞ! 中野サンプラザで、俺達が俺達を観てる! よく見とけ、1アコースティックギター、1マイクロフォン、俺達がMOROHAだ! 俺はたくさん負けてきたけど、いつか俺は俺を褒めてやりたい。よく頑張ったって、最後まで逃げなかったって。そしていつか俺は、俺のことを幸せにしたい!」--。
この日のライヴに限らず、音楽と歌を通して自分を表現するのは、木彫りのようにして自分の情けなさと弱さを浮かび上がらせるのと一緒のことなんだと、アフロがかつて話してくれたことがある。歌えば歌うほど、削れば削るほど、足りなさが見えていく。その弱さを知れば知るほど、じゃあ自分で愛せる自分にならなければ逃げじゃないか、ということにも気づいていく。そんな歩みがこの叫びの中に凝縮されていたし、MOROHAの本質がまさに表現されていた。ラストは「YouTubeを御覧の皆様へ」。かつてはYouTubeを見て音楽を漁っているだけの人々へ「ライヴに来い」と必死に怒鳴っていた楽曲が、これが俺達だという堂々とした佇まいで歌い鳴らされていることが、この日のライヴのすべてだったのだと思う。
MOROHA
取材・文=矢島大地 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-
セットリスト
イベント情報
12/19(水)12:00〜1/10(木)23:59