入江雅人、企画・作・演出『帰郷』ついに開幕 福岡弁が織りなす笑いと切なさで魅せるゾンビ物語

2019.1.26
レポート
舞台

舞台『帰郷』プレビュー公演

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福岡県出身の俳優・作家・演出家の入江雅人が、福岡出身の役者たちとともに福岡弁で上演する舞台『帰郷』が、2019年1月25日(金)に東京・俳優座劇場で開幕した。開幕に先立ちキャストから届いたコメントと、初日に行われたプレビュー公演の様子をお伝えする。

キャストより開幕に向けての意気込み

池田成志
見てどう感じてくれるのか?益々わからなくなってきました(笑)
我々福岡人がこんなセンシティブに描かれるなんて!
少々の照れくささと、引っ張りだすおじさんおばさんの元気をどうぞ優しい目でご覧くださいませ。

田口浩正
とにかく、みんなとのグルーヴを楽しみ、頑張る所存でございます。
気楽に、観てください。

坂田聡
これだけ濃い福岡弁をしゃべる機会もあまりないと思うので、楽しんで、丁寧にやろうと思います。
今年一発目、一生懸命やりますんでよろしくお願いします。

尾方宣久
他では観ることのできない、唯一無二の芝居になったと思います。
全力で挑みます。

岡本麗
とにかく、おもしろいと思います。脚本も役者もおもしろいので、十分に楽しんで頂けると思います。
楽しんで、観て頂きたいです。

入江雅人
これまで10本近く作ってきたゾンビモノの作品の集大成でもあり、一人芝居でやってきたこともちりばめていて、僕が作ってきた芝居の集大成でもあると思います。今までになかった静かなトーンの芝居も入って、新しいものもみせられると思うので、ぜひ観に来てほしいです。福岡の人にももちろん観てもらいたいし、東京にいる、福岡や他の地方から出てきている人にも観てもらえたら。ちょっと悲しい話ではありますが、絶対に、故郷やかつての友人のことを思い出したりできる、温かい想いが胸に燈るような芝居です。出演者の方も皆さん良いと思いますので、是非、観に来ていただきたいです。


物語は1980年の福岡から始まる。真夏の暑い夜、映画監督を志すしげお(池田)はクラスメイトと共に文化祭で上映するホラー映画の撮影をしていた。彼らはそこで不思議な体験をする――。

舞台『帰郷』プレビュー公演

しげお役の池田をはじめ、クラスメイト役の田口、坂田、尾方、入江は全員高校生役として登場する。仲間たちで集まれば、くだらない話を延々としてただひたすらに笑い合っていた高校時代を思い起こさせるような青さと懐かしさが漂うシーンである。

舞台『帰郷』プレビュー公演

5人の呼吸の合った福岡弁が生み出す独特のグルーヴ感が、高校生たちの若さみなぎるパワーの表現にもつながり、おかしさを生みながらテンポよく話は進む。福岡出身者以外にとっては耳馴染があるとは言い難いはずの福岡弁だが、なぜか耳に心地よく響いてくる。かつて入江が今作についてのインタビューで「すごく魅力的な言語」と語った福岡弁の魅力が良く伝わってくる。親しみを感じさせる響きを聞きながら、言語の持つ音感やリズムと、言葉のニュアンスの伝わり方には相関関係があるのではないか、などと考えさせられる。

舞台『帰郷』プレビュー公演

時は流れ、2021年。かつての仲間たちの間でも、東京で暮らす者と地元に残った者に分かれていたが、そんなとき日本中がゾンビパニックに見舞われる。そして彼らの運命にも大きな影響が出てしまう。

舞台『帰郷』プレビュー公演

地元に残ったしげおと、東京へ行ったトオル(入江)を中心に話が進んでいく。お互いの思いがすれ違いながらも、あの高校時代から深いところで繋がっている絆を感じさせる場面がちりばめられ、観客自身も故郷や旧友を思い出して心が揺さぶられる瞬間が訪れるだろう。そして「ゾンビパニック」の示唆するところについては、観る者によって様々な意味を持つのではないだろうか。

舞台『帰郷』プレビュー公演

そんなしみじみさせるシーンがあるかと思えば、コントを思わせるようなシーンもあり、客席は笑いに包まれる。出演者は6人のみだが、ほとんどの出演者が複数の役をこなすなどして、各俳優の様々な魅力を堪能できるのもこの舞台の見どころだ。池田の軽妙さとシリアスさのギャップの大きさは別の人が演じているのではと本気で思ってしまうほどで、俳優としての懐の深さを見せつける。

舞台『帰郷』プレビュー公演

舞台装置はほぼなし。視覚でリアルに訴えかけるのではなく、観客の想像力をかきたてる演出で、ほぼ素舞台に近い場所が、家の中にも、山の中にも、海辺にもなることができる。俳優の肉体と演技、照明や音響などの演出でここまで表現できるのだという、演劇の可能性が最大限に生かされた舞台だ。

舞台『帰郷』プレビュー公演

笑いがふんだんに盛り込まれた前半から、事態が深刻化していく後半はそのストーリーにぐっと引き込まれる。どんなに時が流れても、会えばあの頃の仲間たちに戻る彼らの友情と、心の中に流れる故郷への想いがより切なさを強くする。そして岡本麗演じる母の大きな愛がこの物語を柔らかく包み込み、人が人を思う気持ちをより豊かに描く。

舞台『帰郷』プレビュー公演

彼らを待ち受ける運命、そして彼らが選んだ道とは。夏の終わり、そして青春の終わりを告げるラストシーンでは、このままこの舞台が永遠に続けばいいのに、と思わずにはいられない。幕が下りる瞬間、まるで私たちの青春も終わってしまうような、そんな錯覚を起こすほど胸に迫る作品だ。

今作は入江が長く温めていた企画で、自身の集大成ともいえる作品だという。演劇への愛、映画への愛、地元への愛、人間への愛等々、様々な「愛」の詰まった温かな舞台をぜひ劇場で目撃して欲しい。

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

舞台『帰郷』
 
■企画・作・演出:入江雅人
■出演:池田成志、田口浩正、坂田聡、尾方宣久、岡本麗、入江雅人
 
■日時・会場:
<東京>2019年1月25日(金)~2月3日(日) 俳優座劇場
<福岡>2019年2月8日(金)~10(日) イムズホール
 
料金:全席指定6,800円(税込)
■主催・制作:エイベックス・エンタテインメント
 
■公式サイト:https://www.kikyou2019.com/
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