成河、千葉哲也、章平が9年ぶり再演の『BLUE/ORANGE』を語り合う~演劇は伝えるというより、伝わるもの

2019.2.16
インタビュー
舞台

(左から)千葉哲也、成河、章平  (撮影:中田智章)

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2010年に初演され、話題を呼んだJoe Penhall作の『BLUE/ORANGE』が9年ぶりに還ってくる。精神病患者の診断を巡り、繰り広げられる丁々発止の会話劇で、人間の本性を垣間見せる衝撃作。前回に引き続いて千葉哲也が演出し、成河と千葉が役替わりで出演。新たに章平が参加する。再演は「念願だった」と語る成河と千葉、そして章平が、思いを語り合った。

ーー成河さんはこの作品と『春琴』の演技により第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。節目となる作品のひとつでしたね

成河 はい。その時が千葉さんとの初対面。お互いTPTで知っていましたが、演出家のチームが違ったから、あまり行き来がなくて。一昨年亡くなられた(中嶋)しゅうさんが共通の知り合いで出会わせてくれたんです。

千葉 成河くんのことはよく体が動く人だなぁと思っていたから、この作品で動きを封じてやろうと。そして、しゅうさんは手がかかりました(笑)。

成河 台詞は覚えないし、自分のシーンはカットする。「俺の台詞をとにかくカットしろ」という共演者に初めて会いました(笑)。

千葉 「これはいらないんじゃないか」って言うから、「覚えられないんじゃないですか?」と聞いたら、「いや、いらないと思う」とキッパリ。

成河 もっともらしくおっしゃるんですよね。

成河

ーー思い出が詰まった作品ですね。そこに、新たに章平さんが参加されます。

章平 この作品に出られて光栄です。初演の時、僕は大学1年生で、まだこの世界に入っていませんでした。脚本を読んだら衝撃的な作品で、楽しみです。お二人とも初めましてですし。

千葉 成河くんの推薦だから。

成河 この作品はしゅうさんと千葉さんと三人でまた必ずやるつもりで、この5年くらいずっと構想を練っていました。しかし、しゅうさんが亡くなって、どんな形で上演するのか、たとえば僕らが前回と同役でしゅうさんのポジションにどなたか入っていただくか?などを、プロデューサーを含めて話し合いました。その頃、『テイク・ミー・アウト2018』で初めて章平くんを拝見したんです。アフリカ系アメリカ人スラッガーの役で、年俸何億のスター選手をすごい筋肉と低い声で演じていた。まさか年下とは思わず、こんなベテランがどこにいたんだ?って(笑)。千葉さんに話したら、いいんじゃない?と。

千葉 前回は、境界性人格障害患者の青年・クリストファー役を成河くん、僕が正義感に溢れた研修医ブルース、しゅうさんが上司のロバート医師を演じました。でももう枯れきった僕にブルースは無理だから(笑)、ロバート役に。

千葉哲也

成河 それで僕はブルース役になり、章平くんにクリストファーをお願いしました。

ーー役を変えると、以前の記憶がある分、苦労しませんか。

千葉 しないですね。まず翻訳を変えるので、新作の気持ちで取り組みます。セットは多少踏襲するかもしれませんが、基本はこのチームで新しく作りたい。

成河 前回、しゅうさんが言いたくなくてカットした台詞がいっぱいあるので、今回は千葉さんにちゃんと言ってもらいます(笑)。

千葉 あ、俺が言うのか!中嶋しゅうの呪縛みたいになって、その台詞いらないんじゃないか?って頑張ろうかな。

成河 ダメです!(笑)

ーーロンドンの精神病院を舞台に、研修医とベテラン医師が精神病患者の診断を巡って対立する物語で、権力、エゴ、人種問題など様々なテーマが内包されています。

千葉 9年前とは感覚が相当違う気がしますね。演出としては難しい話にせず、もっとシンプルにいい人、悪い人、頭のおかしい人、というふうに人物を明確に描きたいです。衣裳は前回ちゃんと医者の格好をしていましたが、今回は全員、普通の服にしようかな?とか。

成河 ブルースはどちらかと言うと中庸な人で、正義を訴え、弱者の味方をし続けながら、気持ちが大きく揺らいでいく。人間あるあるで、最後には本性が少しむき出しになります。人が豹変する様、自分でも気づかないような自分の中の変人性、もう一人の自分を見つけてしまうようなことはお客さんにも起こりうると思います。

関係性でいうと、僕がこの歳になって正論を言った時に、隣で千葉さんが「お前何言ってんの」とブツブツ言う……みたいな構造が、ぴったりかと。演劇はこうじゃなきゃダメなんですよ!と理屈っぽく語る僕の本性が劇中に出てくるといいのかも。

千葉 成河くんには元気いっぱいのブルースをやってもらいたいですね。

成河 前回の千葉さんは、枯れた哀愁漂うブルースでしたから。

千葉 俺も今度は元気いっぱいにやるよ!

成河 やってください。僕たち、長台詞での大げんかを頑張らないと。

千葉 そんな強烈な二人の間に、章平くん演じるクリストファーがいるわけです。

章平 お二人の会話の応酬の前で、僕は首を左右に振っていますよ。僕自身、クリストファーみたいな役は初めて。台詞の中では難しい専門用語が羅列されますが、起きていることはどこでもありそうな人間模様だと思います。今もお二人の話を聞いているだけで勉強になりますが、クリストファーも患者として会話を聞く立場。重なる面がありますね。

章平

千葉 劇場が小さく、お客さんとの距離が近いから、嘘がバレてしまいます。だからちゃんとその人物としてそのまま立っていればいいと思う。格好良いものや〇〇らしい、ぽいものではなく、人がいる!というほうがいい。演劇的なリアリズムでいきたいです。

成河 そのためにはどんな言葉を喋るのか、翻訳が大事。小川絵梨子さんの訳が楽しみです。

ーー成河さんから見た演出家としての千葉さんはどんな方ですか。

成河 変わっていると思いますよ。演者ですし。ご自分が書かれた作品を演出する方はいらっしゃいますけど、演技をして演出もする方は少ないですよね。役者としてどうアウトプットすべきかという話が通じるので、演出家としてこれ以上頼もしい方はいないです。

ーー成河さんもそのうち演出を手がけるようになるのでは?

成河 どうでしょうね? でも、千葉さんのスタンスを見ると、無しではないのかなぁと思います。きっと千葉さんにとって、演者も演出家もスタンスは変わらないですよね?

千葉 ただ、仕事が違いますよね。演出家は責任を取らなきゃいけないから。たとえば、劇中で曲を流したりすると、初日にこれが千葉のセンスだと思われるのがすごく恥ずかしい。以前は演出をすぐやめようと思っていましたが、この頃ちょっと楽しくなってきました。最近、やっと馴れて、いい意味で力が抜けてきた感じ。

ーーワンシチュエーションの会話劇で、台詞量が多いですが、自信は?

章平 いやぁ、大変ですよね。

千葉 前回は3週間くらいの稽古で覚えてたんじゃないかなぁ。そういえば、本番で台詞を忘れたことがありました。ブルースは何か言われて、それに対して答える役回りなのですが、一回だけ能動的に喋るシーンがあったんです。その台詞がわからなくなって、しゅうさんに「とにかく先生、お願いします」と言ったの。そうしたら、「先生こそお願いします」って(笑)。

成河 しゅうさんは全く助けない(笑)。

千葉 それどころか、しゅうさんは自分が間違えたと思ったらしくて、次の幕の台詞を喋り始めたんです。僕は「いや先生、それはまだ早いです」(笑)。これ一体いつ終わるんだろうとハラハラ。

成河 僕は舞台袖でスタンバイしていて、一体どうするんだろう?と思ったら、急にしゅうさんがドアを開けにきて、舞台上に招かれました(笑)。あれ?もう入っていいの?みたいな。

千葉 良かった、成河くんがなんとかしてくれる、と思ったよ(笑)。

章平 それ、ドキドキしますね。一瞬たりとも気が抜けなさそうです。

成河 クリストファーは医者たちはどうでもいいと思っている役だから、勝手にやってろ!でいいんじゃない? 章平くんの新宿生まれを出せばいい。どうせこいつらは上野と神田の生まれだろう?って(笑)。演劇人としてすごそうだけど、俺は生まれが違うんだぜ!って。

千葉 しっかりその場にいてくれればいい。章平くんの良いところが出ればいいです。

ーー章平さん、憧れる俳優さんや出てみたい作品はありますか。

章平 それが、自分の中にはなくて。この仕事をやっていて、おかしいんじゃないかってちょっと不安です。これを絶対にやりたい!という固執がない。何でもやりたいし、何でもできる役者でいたいんです。

千葉 僕も、これを目指すというものはなかったなぁ。与えられたものをただ一生懸命にやってきただけ。

成河 僕もそうでした。日本の演劇って、伝統芸能以外では、うちが正しい、いやいやうちが正しいと主張しながらそれぞれがやってきたので、憧れをひとつ持つのはおかしな話です。その都度憧れても、それ本当かな?と疑うことも必要だと思います。

千葉 若い時はもう天狗で、俺が一番すごいと思っていた。その鼻がバキバキに折られて今ですから(笑)。

ーー先輩たちに聞いてみたいことはありますか。

章平 僕は演技では、舞台上で生きていればいいというのが指標になっています。一方で、お客さんにこれを伝えたいというものもある。僕の中でそれらが乖離している気がして、悩ましいです。

千葉 僕は100人観たお客さんが全員面白いと感じるものは作れないと思っていて。50人が面白いと言ったら、他の50人はつまらなくてもいい。どちらでもないものが一番怖いです。演劇はもともとわからないものだった気がするし。お客さんは吸収しに来てくださるから、何か教えようと思わなくてもしっかり受け取ってくれます。今回は特に劇場が小さいから、伝えなくても伝わるんじゃないかな。

成河 章平くんが言うこと、よくわかります。難しいですよね。戯曲と向き合って、これだ!と思ったら、伝えたくなりますよね。実は何が大事かをわかっていれば十分で、誤解されることもまた面白いと思えるようになったのは最近かもしれない。もちろん、何が大事かをわかっていないのは論外だけど、ただ伝えようとすると台無しになることもある。

千葉 演者は結末がわかっている分、裏切れるんですよ。お客さんがこのシーンはこうなるだろうと思った時、あれ、何も変化しない?とか。人の行動って必ず理由があるわけじゃない。 電車の中で人間観察していると、すごく面白いじゃないですか。それを僕らはお金をいただいてやっているわけで。反対に、お客さんはストーリーが読めた瞬間に引くよね。ほら、思った通りって。

成河 今、思い出したことがあります。クリストファーを演じていた頃、新宿駅のホームを歩いていたら、前からリュックを背負った普通の女の人が歩いてきたんです。彼女は急に人混みの中で立ち止まって、リュックを逆さにして中身をザーッと地面にぶちまけた。で、わーっと何かを探して、また全部入れて背負って去っていった。理由は何にもわからないけど、それって絶対に見ちゃうでしょ? こういうことか!と妙に納得したことを覚えています。理由がわからなくても、目が離せない何か。

千葉 見ている人が想像できるのがいいですよね。

成河 本人は意味ありげに中身出したわけじゃない。効率しか考えていないから、中身をザーッと出して、探して、ない!で終わり。

章平 その出来事を9年経った今でも覚えていらっしゃるわけだから、衝撃の大きさがわかりますね。

成河 伝えることより、隠すほうが大事だったりもします。わかっていると、どうしても伝えてしまうけど。難しいよね。でもこの作品で挑戦しよう!

千葉 絵だと思って、感じてもらえばいいんじゃないですか。美術館で絵画を見る時って、こういう気持ちで描いたなどの説明はないでしょ? 見る人が勝手に想像するんです。芝居がそういうものになればいい。

章平 はい、頑張ります!

――深い話になりました。最後にメッセージをどうぞ。

千葉 演劇を長年やってきた中でも、この作品は相当楽しみです。観ないと損ですよ。

成河 9年前は7、80人と小さな劇場で上演、約2000人弱の方々にご覧いただき、話題にもなりました。今回はなるべく長くやりたいとわがままを言って、36ステージを上演します。フラっと来た方がびっくりするお芝居だと思いますので、ぜひ観ていただきたいです。

章平 僕がこの場に居られるのは光栄ですし、一瞬一瞬を大事に取り組みたいです。僕がもがき続ける姿をぜひご覧いただきたいです。

取材・文=三浦真紀
写真撮影=中田智章
ヘアメイク/山下由花
スタイリング/小田優士(章平)
衣装クレジット
・コート ¥168,000- ALMOSTBLACK
・パンツ ¥30,000- Riprap
共に(FAN/03-6447-4566)
その他、全てスタイリスト私物


 

公演情報

舞台『BLUE/ORANGE』
 
 
■日程:2019年3月29日(金)~4月28日(日)
■会場:DDD青山クロスシアター
 
■作:Joe Penhall
■翻訳:小川絵梨子
■演出:千葉哲也
■出演:成河、千葉哲也、章平
 
料金:7,800円(全席指定・税込) ※未就学児入場不可
 
■主催・製作:シーエイティプロデュース
■予約・問合せ スペース 03-3234-9999
■公式サイト:
https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2019/blue_orange/index.html​
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