ircleインタビュー 最新作『Cosmic City』で描かれる死と希望、その背景を探る

2019.5.8
インタビュー
音楽

ircle 撮影=風間大洋

画像を全て表示(7件)

大切な人の死に直面したとき、遺された私たちはそれでも「その先」に向かって生き続けなければいけない。ircleが5月8日にリリースした最新ミニアルバム『Cosmic City』で伝えるのは、今日もこの街で生き続ける人のためのメッセージだ。メンバー以外の楽器を取り入れた前作ミニアルバム『CLASSIC』から1年。今作は、どんな音楽でも、河内健悟(Vo/Gt)、仲道良(Gt)、伊井宏介(Ba)、ショウダケイト(Dr)の4人が鳴らしていればircleである、という絶対的な自信のもとに作り上げられた。雑踏を行き交う人々の喧噪とともに幕を開ける「ラストシーン」から、永遠の別れを告げる「忘レビ」「ばいばい」、そして、讃美歌のような「ペルセウスの涙」まで全8曲。広大な宇宙とちっぽけな人間とを点と点でつなぎ、悲しくも美しい命の循環を描いた進化作について、メンバー全員に話を訊いた。

――今回のアルバム、明確に身近な人の死を感じる作品ですよね。

河内:結果的にそうなりましたね。

仲道:曲を出すタイミングではテーマを決めてなかったんですよ。でも、去年はバンドとしても個人としても、人が亡くなったり、人と別れたりっていうのが多かったんですよね、身近で。それで自然とそういう曲が多くなったんだと思います。

――前作『CLASSIC』から1年ぶりですけど、サウンドとしては、ircleの音楽性の幅をぐっと広げた前作からの流れを汲んだ作品でもあると思いますが。

ショウダ:前回のアルバム『CLASSIC』から兼重(哲哉)さんっていうエンジニアさんと組むことになったんですね。いままででは4人でセルフディレクションっていう形でやってきたけど、そのときに「それじゃ伝わらないよ」って言ってくれたんですね。俺らはわかってるつもりでも、それをちゃんと外に発信しないといけないって。それで『CLASSIC』から変わったから、今回はそれをもっと深めていったんです。

河内:前作で学んできたことを、どれだけ俺らで膨らませるかっていうところがデカかったかなと思います。エンジニアさんを圧倒したかったんですよね。

――前作を作り終えたあと、「お客さんの反応が気になる」っていう発言も見たんですけど、ツアーの手応えはどうだったんですか?

伊井:お客さんの反応も変わったんですよね。昔よりも俺らが前を向いて演奏するようになったから、お客さん参加型みたいなライブになって。

河内:一緒にやってる感じですね。別に「手を挙げろ」とか言うんじゃなくて、何て言うんですかね……シンプルに空気を共有できてるんですよ。

仲道:それに結構「ボーカルが良くなったね」って言われることが多いんですよ。

河内:やった!(笑)

仲道:それって単純にバンドとして喜ばしいことなんですよね。僕らはみんなでバーンって大きい音を鳴らすバンドだと思うんですけど、そのなかでも歌が良くなったって思われるのは、ちゃんと曲が届いてるからだろうなと思いますよね。

河内:自覚はないですけどね。楽しく歌えるようにはなってます。

ircle 撮影=風間大洋

――ircleはライブバンドだから、どんなに良い作品ができても、それでライブの手応えがイマイチだったら、前回と同じやり方を踏襲しなかったと思うんですよ。

ショウダ:やっぱりお客さんの反応が良かったのがうれしかったんでしょうね。泣いたり、笑ったりっていう人間っぽい反応を見てるのがこっちも楽しい。そういう景色が見えると、もっと良い曲を作りたいって思ったし。

河内:前回は(兼重さんの)おかげさまでブラッシュアップができたっていう気持ちがデカかったのはありますね。今回もおかげさまな瞬間はあったけど、ちゃんと自発的にできる部分が多かった気がします。

ショウダ:僕らもいろいろ準備をしていったんですよね。

伊井:より密にみんなで作りましたって言えますね。

――曲を作り上げるまでの流れは変わったんですか?

仲道:僕が原曲を持っていって、歌詞も書く曲だと、いままでも河内くんは、僕の気持ちを汲んだうえで、自分が歌いやすいように少し歌詞を直してたんですよ。でも、今回はどんなふうに料理するかは河内くん次第だなっていうふうに変わったんです。僕が持っていった原曲でも、ちゃんと河内くんの言葉が乗ってる。それは河内くんが周りのメンバーを受け入れるというか、いままで以上に対話する作業ができたからなんですよ。いままで言わなくてもわかるだろって思ってた部分も、ちゃんと確認し合うというか。

河内:ちょっと前だったら、俺が持ってきた曲は俺の曲、良が持ってきた曲は良の曲として膨らませたものがircleっていう意識だったんですよ。でも、いまはケイトが持ってこようと、伊井ちゃんが持ってこようと、ircleの曲。俺がボーカルです、歌詞も書きます、それがircleです、になったんですよね。それはジャイアン的な意味ではなく。その方程式がバンドとして、良い形だなっていうのが今回のアルバムですね。

――そういう変化が起きたのはどうしてでしょう?

河内:うーん、わからない。ただ、聴いてくれる人のことを大事にしたいってなってるんですよ、たぶん。……うん、そうですね。悪いときは「なんで聴かねえんだよ、こら」ってなるんですよ。でも、いまはその要素が小さくなって、「伝わってくれたらいいな」とか、「伝わってるなぁ、あざす!」みたいな。

――あははは!

河内:そういう陽の気分のほうが、音楽が生きるんですよね。

伊井:作り手側がそうなってくると、演奏もそれを反映できるんですよね。作り手の仲道と河内が陽になってるのが、今回のレコーディングは大きかったなと思います。……とか言って、次のアルバムは全然違うかもしれないですけど(笑)。

河内:ブラックホールに引きずり込むような、ね。

ircle 撮影=風間大洋

ショウダ:陰のアルバムを作るにしても、その準備もできてるよね。僕らは暗い曲を作るのも好きだし、それはそれでちゃんと伝わってほしい。いままでは明るい曲も、暗い曲も、そう捉えられてないギャップに「何でなんだろう?」って悩んでた時期もあって。それが兼重さんと出会ったことで埋められたんですよね。

――話を聞いてると、めちゃくちゃバンドが良い状態にあるじゃないですか。

河内:これで明日解散を発表したりね。

ショウダ:「もう何も信じない」ってなるよね(笑)。

――(笑)。リード曲の「ラストシーン」は、制作のどのタイミングでできたんですか?

河内:これは制作をしようっていう段階から、良が元ネタを持ってきてて。なんとなくリード曲にしようっていうのは言ってたんですよ。

ショウダ:次の作品を作ろうというときに、良は「速い曲を作りたい」って言ってたんです。いっせーのでバーン!ってバンドが鳴る。それがircleの強みだけど、そういう曲を序盤にちゃんと置くことが最近できてなかったので。それができたのがデカいなと思いますね。

仲道:さっきも言った、河内くんが歌詞を書くチャレンジが実った曲だしね。

伊井:もともと別れの曲だったんですよ。それを河内くんが引き継いだことで、勇気づける曲になったんですよね。「寂しいです」で終わるだけじゃない、続きがあるんです。

河内:別れだけを悲しむような曲は歌いたくなかったんですよね……うーん、言い方が失礼か。別れを歌いたいんじゃなくて、そういう内容だけで終わってしまうのは、俺は違うかなっていう気持ちだったんですよね。せめて何かを動かしたかったから。

――なるほど。

河内:でも、良が作ってきた歌詞もそこまで暗くなかったけどね。

仲道:まあ、僕はけっこう立ち直れないぐらいだったんですよ。だから、それをそのまま河内くんが歌っちゃうのはどうなんだろう?と思いながら作ったんです。でも、その悲しみもわかってくれたし、そこで止まっちゃいけない感じを出してくれたんですよね。

河内:悲しみを悲しみで終わらせちゃうと、音楽をやる価値がないと思ったんです。

――逆に言うと、ircleはどういうところに音楽をやる価値を求めたいと思いますか?

河内:音楽は人生にとって希望なんですよね。音楽を聴いたこと、始めたこともそうやし、ずっと音楽に救われたから。そういう空気でやりたいですね。前向きなものとして。別に国レベルの悲しみを政治的にどうにかしたい、とかじゃないんですよ。ただ、同じふうに思う人の悲しみを少しでも軽くできたら、音楽によって景色が変わると思うので。それぐらいは信じますね。

ircle 撮影=風間大洋

――なるほど。さっき「今回は速い曲を作りたかった」と言ってましたけど。

ショウダ:良がね。

伊井:言ってたよね、それ。

仲道:前作の反動かもしれないですね。単純に楽しいモードがそこだったんですよ。

――その想いが爆発してるのは「ただでさえ君が」ですよね。4人の個性が溢れまくったカオティックな曲じゃないですか。

河内:楽しいものでしたよ。

ショウダ:大変でしたけどね(笑)。

――これはセッションっぽい作り方だったんですか?

河内:いや、最初はガチガチに良の打ち込みだったんですよ。

仲道:でも、スローテンポになるところは、みんなで作りながら決めましたね。歌詞も<スローモーション>って歌ってるし。ああいうテンポチェンジって、いままであんまりやってなかったから、おもしろかったです。

伊井:あれをどうライブで再現しようか悩んでます(笑)。

ショウダ:俺らは極端なんですよ。何も考えないで、グルーヴをまわすような曲も好きだし、この「ただでさえ君が」みたいにバッと集中力を消費する曲は昔から好き。こういう曲は、「ああ、バンドやってるな」っていう感じがしますよね。

――「ねえダーリン」は面白かったです。最高のロックンロール。

河内:これ、最初はフォークを持っていったつもりだったんですよ。だけど、これに関しては、俺が「速いほうがいい」って言いました。

仲道:原曲と、歌詞を説明してくれてる段階で、けっこう転がっていくようなワードが出てたんですよ。ドラムのシャッフルするリズムとか。ギターもカントリーっぽかったり。

河内:やったことないような感じですね。

ショウダ:でも前作を出してから、何をどう出してもircleだっていうのがわかったから、自信を持ってやれたかなと思いますね。

ircle 撮影=風間大洋

――歌詞は女性目線なんですよね。

河内:女性目線で見たクソ男の曲ですよね。

――あははは。個人的には、河内さんってボーカリストとしてすごく男らしいタイプだなと思ってるんですけど。意外と“あたし”って歌ってるのがセクシーというか。

伊井:“あたし”がハマってますよね(笑)。

河内:けっこう女性目線で書くのは好きなんですよ。でも、最終的に完成していく段階で変えちゃったりするんですよね。それが、これはそのままなんです。

ショウダ:河内がいろいろな物とか女性の目線になることは珍しくないんですけど、最初から最後までそれで歌い切ったのは珍しいですよね。

河内:今回はけっこうアルバムの内容が重いのでね。「ねえダーリン」は周りの曲とテイストが違うから、おまけ的なポジションになるのかなって思います。

――でも、悲しみが貫かれたアルバムのいちピースとして聴くこともできますよね。

河内:そうなんです。恋人との別れだって、ちょっとした喧嘩だって、ひとつの“宇宙”(アルバムのタイトル『Cosmic City』にかけて)ですからね。

――アルバムのラストは「アンドロメダの涙」と「ペルセウスの涙」っていう二部作っぽい曲が並びますけど、どういうふうに作ったんですか?

河内:もとは「アンドロメダの涙」が先にあって、フォークソングみたいな感じだったんですよ。でも、曲が短すぎるんじゃないかっていうので、続きのつもりで三拍子の「ペルセウスの涙」を作ったんですよね。そこに「エーアー♪」っていうコーラスを乗せていって。

ショウダ:ライジングサンで夜中にみんなで歌ってるイメージですよね。

ircle 撮影=風間大洋

河内:で、それを歌ったあと、レコーディングの当日まで歌が決まってなくて、オケだけ録り終えたんです。そしたら、すごい自由な空白ゾーンができたんですよ。そこに文章の羅列みたいな早口のやつをやってみました。

仲道:ああいう語りの部分が入ってくるとは思ってなかったですよね。

河内:俺、これを初めてメンバーに聴かせるのに緊張し狂ってて(笑)。「めっちゃ良いな」って言われても、それが全然耳に入ってなくて。「本当?本当?」みたいな感じでしたね。

伊井:こういう作り方はいままでなかったですよね。オケが完パケして、そこからさらに違う曲になっていくパターンは新しかったです。

仲道:しかも、それがライブっぽいんですよ。ライブの河内くんがワーッて喋ることがあるんですけど、そのニュアンスで作れたんです。僕らのなかでライブでしかできなかったことが、CDにはできなかったことができた感動がありましたね。

河内:ああいうのは、やろうって言ってやれるものじゃなくて、どうにかこの曲を、アルバムをまとめる曲にしようっていう気持ちで叫んだだけです。

――最初にも言ったけど、今回のアルバムは「死」と密接につながってるから、「ペルセウスの涙」のゴスペルっぽく終わる曲調も意味があるのかなって思ったんですよ。

河内:まあ、呼ばれてたんでしょうね。どういうものを作ろうって決めてないからこそ、自然にこういうふうになったんです。「アンドロメダ」っていうワードが宇宙っぽいから、それはオケに反映されたんだろうし。あと、好きなんですよね。こういう神々しい、広い会場のイメージ……全然広いところでやれないくせに(笑)。そのイメージだけを最大限に膨らませたら、最終的にライブハウスみたいな曲になっちゃいましたね。

――ircleらしいと思います。アルバムタイトルの『Cosmic City』は、「ペルセウスの涙」に出てくる言葉ですね。<コズミックシティって あんたの事やからな>って。

河内:細かいところから大きなことまで全部つながっているっていうことですよね。たとえば、この机の上には、何ミクロンっていう単位でも表せんぐらい小さな宇宙があるとして、その真ん中にはそれをデカいと思ってる宇宙もある。そういうふうに小さいことも大きいことも1本の線につなげればいいなっていう気持ちが『Cosmic City』というタイトルに反映されてるんじゃないかなと思います。魂の帰還というかね。

仲道:4人で飲みに行くと、ひたすら河内くんがいまのような話をするんですよ。「人には人同士の宇宙があって……」とか。それが刷り込まれて、今回はこういう作品になったのかもしれないですよね。これは河内くんという宇宙からのメッセージですよね。

河内:コズミックエコー、ね(笑)。

――なるほど(笑)。今回は大きな悲しみに向き合いながら、アルバムが完成させたわけですけど、それはバンドにとって、やはり必要なことでしたか?

仲道:僕らとしては、それを確認しないと前に進めないタイミングだったと思うんですよね。仲が良い友だちが死んじゃったりもして、でも俺らは生きてるからっていう。それを無視することはできないから。それをバンドとして、ちゃんと忘れないように持っていくために、この『Cosmic City』は必要だったんだなと思いますね。

河内:忘れそうになったときに、ふいに聴きたくなる曲たちですね。


取材・文=秦理絵  撮影=風間大洋

ircle 撮影=風間大洋

リリース情報

ircle『Cosmic City』
発売中
¥1,500 / YMNT-1010
1.ラストシーン
2.ただでさえ君が
3.ねえダーリン
4.Heaven’s city light
5.忘レビ
6.ばいばい
7.アンドロめだの涙
8.ベルセウスの涙

ツアー情報

ircle New Mini Album リリースツアー 2019「Cosmic Tours」
5/25(土)大分SPOT
5/26(日)福岡Queblick
5/28(火)周南rise
5/29(水)岡山CRAZYMAMA2ndRoom
5/31(金)高松DIME
6/7(金)仙台MACANA
6/8(土)新潟RIVERST
6/13(木)名古屋APOLLO BASE
6/14(金)心斎橋JANUS
6/21(金)渋谷QUATTRO
  • イープラス
  • ircle
  • ircleインタビュー 最新作『Cosmic City』で描かれる死と希望、その背景を探る