本広克行×平田オリザの舞台『転校生』 キャストオーディションの最終選考をレポート
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パルコ・プロデュース公演『転校生』のキャストオーディションの最終選考が、都内某所で5月8日(水)、9日(木)に開催された。
2015年に、劇作家・演出家の平田オリザによる戯曲を、映画監督・演出家の本広克行の演出で上演された群像劇『転校生』。4年ぶりとなる本公演では平田オリザが翻案した男子校版が新たに加わり、女子校・男子校の2バージョンを同時公演する。前回も全キャストをオーディション選出の新進女優たちが演じたが、今回もまだ見ぬ才能の発掘を目指し、女性21名、男性21名をオーディションで選出する。
今回の応募数は、総勢2128名にのぼる。厳正な一次審査を経て、男性73名、女性128名が最終選考に臨んだ。選出したからには途中で挫折せずに俳優として活躍してほしい、という主催者側の思いもあり、審査では役者を目指す真剣さが問われる。
そのような状況の中でも若手の育成に力を注ぐ本広克行によって、終始和やかな雰囲気だった同オーディションの様子をレポートする。
「舞台は声が通らないとね」 グループワークと自己PRで、協調性、発声力などが試された
最終選考では一次審査を通過した約200名が7組に分かれ、実技審査を行う。審査内容は男女ともに、グループワークでのワークショップと個々による自己PRとなっている。
『転校生』は、高校生の学校の休み時間を描いた群像劇であり、大人数が舞台に上がり、少人数のグループに分かれて同時に会話を展開する同時多発会話劇だ。個性や表現力はもちろん、他のメンバーとの連携力も見られる。会場にいるのはライバルであり、共に作品をつくり上げる仲間にもなるかもしれないメンバーなのだ。
緊張感、女子同士の微妙な駆け引き、同じ境遇を共にすることで芽生える仲間意識……、なんとも言えない空気の中、女性グループの実技審査が始まった。全国から参加者が集まった会場には、劇団に所属する者やフリーのタレント、演劇は未経験だが熱い想いで応募してきた者など、出自や経歴はさまざまだ。
高校生を演じることもあり、応募資格の年齢は18歳から25歳までとなっている。そのため「今年25歳なので、最後のチャンスだと思って応募しました」と訴える応募者も見られた。
まずは「相手を見つけて自己紹介をしよう。なるべく多くの人と話して」と指示が出る。オーディション会場にピリピリした空気感はない。相手を見つけ、声を出し合いながら肩の力を抜いていくが、すぐに笑顔が見られるようになった。
『転校生』最終選考
『転校生』最終選考
続いて、8人のグループに分かれてのフリーズフレームの課題が出された。「危機」というテーマが提示され、8人全員でそのシチュエーションを静止画として表現する。それぞれのグループで、メンバー同士で案を出し合い、実際に試しながら、これはと思う危機的状況を試行錯誤する様子が見られた。
『転校生』最終選考より 「黒ひげ危機一発」を演じるグループ
「黒ひげ危機一髪で、それは抜いた剣?」
参加者も交えて、演じているグループのテーマを当てていく。トイレを我慢しているシチュエーションを、人数を生かして連続性のある動きで見せるなど、ユニークな発想もあった。
『転校生』最終選考
次は「年齢順に並んで」「今度は、身長順に」と、整列するように指示が出る。他のメンバーと確認し合いながら、ときには「こっち、こっち」と大きな声を出して、顔を見合わせながら参加者たちは列を完成させた。
すると本広から、列のままで壁の最後方まで下がるように声がかかる。声が通るかを確認するために、距離を取った場所から順番に名前と身長を言うように、指示が出る。舞台でも映える素質も見定めているようだった。
『転校生』最終選考
グループワークで体を動かすと、自己PRへ。本広に呼ばれたものから順にアピールしていく。
「同年代の仲間と演じてみたかった」という声や、2015年のオーディションも受けていて再チャレンジとなる子も。モデルをしている女性への「自分一人が主張するのではなく、みんなと力を合わせていく必要があるけれど、できる?」という問いかけには、力強く頷く姿が見られた。映像経験者やミュージカルに出演経験のある参加者には、会話劇への関心や想いの強さが確認されていた。
『転校生』最終選考
「3分以内に収めて」 タイトロープを演じながら自己PR
『転校生』最終選考
『転校生』最終選考
「男子、面白いなぁ」と、本広。
入室してきた当初は、女性グループよりも表情が固いように見えた男性グループも、すぐに笑い声があがるようになった。持ち前のセンスで笑いを取る参加者も多く、サービス精神が豊富なメンバーが揃っていたようだ。
男子の課題は比較的に女子よりも体を使うものになっていたが、基本的な流れは同じだ。
『転校生』最終選考
「このメンバーの中に爆弾の人がいます。その人にバレないように心の中で思いながら逃げてください」「次に、爆弾から守れるシールドになる人がいます。爆弾から逃げながら、シールドの人に近づいてください」「30秒後に爆発します」と、指示が次々に出る課題では、軽やかに場内を走り出す参加者たち。
その後、シールドをうまく使って助かった生存者を確認すると、明らかに人数が多い。「爆弾の人との間の直線上に、シールドの人がいないと駄目だよ」と、再び確認すると、「やっぱり死んでましたー!」と手を挙げる参加者も。
すると、本広が多くのメンバーから爆弾役に抜擢されていた一人の参加者を、いじり始める。
「高橋さんだっけ?」
「田中です!」
どっと笑いが起きた。
『転校生』最終選考
グループワークでひと通り体を動かすと、男子も自己PRに移る。女子と同様に、最後方に下がって近づきながらアピールをしていくのだが、「タイトロープ(綱渡り)をしながらと」いう課題が付け加えられた。
『転校生』最終選考
最初の数名は、まるで渡っている綱も想像できるかのような絶妙な演技をする者が続いたが、「こういうのは3分以内の方がいい。時間も気にしながらね」と声がかかり、その後の参加者はタイトロープの演技の裁量に頭を悩ませることになった。
シチュエーションをコント仕立てにして、綱渡りをしながら給仕しながら自己紹介をする者、何者かに追われ、特技のキックボクシングでシャドーの敵を倒しながら進む者、綱から落下して死んでしまう演技をする者、綱渡りの演技にはあまり執着せずに自身のアピールをする者など、個性の違いが見られた。中には、「面白い人たちばかりで、ハードルが高いんですけど……」とこぼす参加者も。審査が始まってから2時間を超えても、笑いの絶えない会場だった。
最後、プロデューサーの毛利美咲から「他の作品で声がかかる可能性だってあるから、みんな、しっかりボイトレしてね」とエールが贈られた。選考結果発表は近日中に公式HPにて。舞台『転校生』は8月17日(土)〜27日(火)に、紀伊國屋ホールで上演される。
取材・文・撮影=石水典子
公演情報
ある高校の教室。普段と変わりない1日の始まり。他愛のない日常の会話。そこへ、「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」と言う、転校生がやってくる。身近で起きている出来事をとおして、人間の存在の不確かさが浮かび上がる21名の群像劇。