松本幸四郎×藤間爽子が語る 日本舞踊未来座=彩SAI=『檜男=ぴのきお=』『春夏秋冬』への思いとは

インタビュー
舞台
2019.6.5
(左から)松本幸四郎、藤間爽子

(左から)松本幸四郎、藤間爽子

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日本舞踊協会が2017年よりスタートさせた未来座SAIシリーズの第三弾が、2019年6月21日(金)~23日(日)に国立劇場小劇場にて上演される。未来座は松本幸四郎をはじめとする日本舞踊協会のメンバーが、日本舞踊への固定概念を打破すべく、伝統を継承しながら革新的な作品の上演を目指し、第一回公演では「賽」と銘打ち、水をテーマに4つの演目を上演、第二回公演は「裁」として、世界的に有名なオペラ「カルメン」を題材に『カルメン2018』を上演した。第三回公演の今回は「彩」という字を当て、『檜男=ぴのきお=』『春夏秋冬』の二本立て上演となる。

この公演について、未来座立ち上げメンバーの松本幸四郎と、『檜男=ぴのきお=』に出演する藤間爽子に話を聞いた。

ーーSAIシリーズも3回目を迎え、今回は「彩」という漢字を当てています。なぜこの字なのか、その思いを教えてください。

幸四郎:今回のように作品を二本立てで上演するというのは未来座になって初めてです。第一回は「水」をテーマに作った4つの作品を上演して、第二回はストーリーのある「カルメン」を上演しました。今回は全く違う2演目、簡単に言えば舞踊劇と舞踊ショーという2作品を見せるということで、踊りというものの様々なカラー、様々な面を見ていただきたいという意味で「彩」という字にしました。

ーー2演目のうち、まず『檜男=ぴのきお=』からうかがいます。新作舞踊の題材として、なぜ童話のピノキオを選ばれたのでしょうか。

幸四郎:新作を創作するにあたり、案がいろいろ出た中から、ディズニーアニメにもなっており広く知られている「ピノキオ」でいこう、ということになりました。いわゆるファンタジーですが、人間ではないピノキオという人形から、人間の様々な面や感情といったものが逆にストレートに伝わるのではないかと思っています。

松本幸四郎

松本幸四郎

ーー今回、爽子さんはピノキオ役でご出演されます。

藤間:最初お話しをいただいたときは「私、女なのに」と思ってしまったんですけど、女性が少年を演じるというのも面白いと思いました。私は踊っているときは無我夢中になるので、好奇心あふれるまっすぐな少年であるピノキオを演じられることがとても嬉しいです。

ーー爽子さんは、阿佐ヶ谷スパイダースの劇団員として演劇の舞台にもご出演されたり、TVドラマにもご出演されたり、日本舞踊家と並行して女優としての活動もされていますが、女優を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

藤間:小さい頃から演劇などの舞台はよく見ていて、母も祖母も女優をやっていましたし、ずっとあこがれを抱いていましたが、どこか一歩を踏み出せずにいました。大学を卒業するにあたり、周囲の友人たちが就職を決めていく中で、もしかしたら今やらないと後悔するのかな、と思ってそこで女優という道を選びました。

ーー幸四郎さんも歌舞伎役者と俳優と両方でご活躍されています。そんな幸四郎さんからご覧になって、爽子さんの魅力はどういったところにあると思われますか。

幸四郎:様々な舞台に出演されていますが、未来座第一回公演で花柳輔太朗さんの作品に出演した時は猫の役で、今回はピノキオということで、なかなか人間の役が回って来ませんね(笑)

藤間:阿佐ヶ谷スパイダースでは犬の役でした(笑)

幸四郎:未来座のときはかなり激しい踊りで心情を表す部分がありましたが、やはり舞台でお芝居を経験しているからこその力を感じましたし、身長154cmと小柄だけれども光る存在でした。舞台から客席に感情が飛び出していくような表現は、誰しもできることではないと思います。日本舞踊協会は日本舞踊家が集まっている組織ですが、その中でプラスアルファとしてお芝居の経験があるというのは非常に大きいです。

ーー「ほし組」と「つき組」の2チームに分かれてのダブルキャストになっていますが、これはどういった狙いなのでしょうか。

幸四郎:未来座の公演は、日本舞踊協会が主催で行う大きな公演の一つです。4000人を超える会員の中からメンバーが集まって一つの公演をするというのは、協会にとっても日本舞踊界にとってもお祭りのようなものですから、一人でも多くの方に出演、参加してもらうためのダブルキャストでもあります。また、同じ演出・振付でも違う人が演じることで全く異なる印象を受ける面白さを、見比べることで感じていただけるのではないかと思います。

藤間:私自身はダブルキャストということ自体が初めての経験で、どういう形で稽古を進めていくのかもまだわかっていないのですが、やはりいいところは盗んで、互いに刺激し合いながら、でも私は私のピノキオという役を作っていけたらな、と思っています。

(左から)藤間爽子、松本幸四郎

(左から)藤間爽子、松本幸四郎

ーー続いて『春夏秋冬』についてお聞きします。なんといっても人間国宝の井上八千代さんがご出演されるということで非常に楽しみです。

幸四郎:未来座の公演に際して毎回会議を行っていますが、第一回のときから八千代先生にご出演いただきたいという話は出ていて、それを今回実現することができました。新作公演に八千代先生がご出演される場を創ることができてとても興奮していますし、また新たな八千代先生が見られると思います。

ーー監修が花柳壽應先生です。壽應先生もこれまで日本舞踊の様々な可能性を広げる活動をされてきました。

幸四郎:いろいろな流派が集まって一つの舞台を創ることが毎年のようにできるようになったのは、壽應先生が切り開いたことだと思います。それだけ日本舞踊界にとって大きな存在ですし、本当にとんがったことをやられてきた方です。踊りを進化させて新しいものを創るという壽應先生の精神を、今回出演される方々には感じていただきたいです。壽應先生を驚かせることができるような、まだこういう可能性があったんだ、と思っていただけるような舞台を目指したいですね。

ーー未来座の公演も、壽應先生がこれまでされてきた活動も、日本舞踊というジャンルの中でコンテンポラリーを生み出していると思います。伝統芸能の中で現代性、新しさを追求することにどのような思いを抱いていらっしゃいますか。

幸四郎:古典への敬意や尊敬から始まることだと思います。追求していくと、やはり古典はすごいな、と思う部分があるんです。しかしそれと同時に悔しさといいますか、「これを今、作れないのか」という思いが生まれてきます。そんな思いが、新作という形で表れているのだと思いますね。

ーー爽子さんは、壽應先生が総合演出を務めた『日本舞踊×オーケストラ』の2014年公演にご出演されています。その時にどんなことを感じましたか。

藤間:オーケストラで日本舞踊を踊るという、大変貴重な経験をさせていただきました。壽應先生は日本舞踊の可能性を常に考えていらして、斬新なこともされていて、それは日本舞踊家が須らく考えるべきことだと思いますので、私も古典を大切にしながら、次へ継承していくために新しいことにも挑戦していきたいと思います。

藤間爽子

藤間爽子

ーー東京オリンピックを来年に控え、日本の伝統文化・芸能への関心が高まってきています。この機会に多くの方に公演に足を運んでもらえるよう、日本舞踊の魅力や今公演の見どころなどを教えていただけますか。

幸四郎:日本舞踊はよく歌舞伎と対比されますが、女性がいる、というのはとても大きなことです。今回のように、女性が女性の役だけではなく、男性の役もできる世界です。日本舞踊家という踊りの専門職の職人技を見て頂きたいですし、着物を着て踊ることはこんなに格好よくて美しいのか、ということを感じていただきたいですね。「檜男」では坂東巳之助くんが語りをやるのですが、彼も日本舞踊家でもあり、歌舞伎役者でもあり、俳優でもあります。そうした何かプラスアルファの特技を持った方の集まりのですから、そういったところも楽しみに来ていただければと思います。

藤間:固定概念や、見てもわからないんじゃないかという意識を捨てて、気軽に見に来ていただきたいです。前回の「カルメン」を見たとき、セリフなしで踊りの身体表現だけでここまで物語を伝えることができ、見る者を感動させることができる日本舞踊って素敵だな、と改めて思いました。言葉がなくてもわかるので、第一回公演のときに見に来た外国人の友人がとても感動してくれました。今回も年齢も国も問わず、多くの方に見て頂いて、何か持って帰っていただけたらと思います。

ーー演目が「ぴのきお」ということもありますし、子連れで見たい、というお客様も多いと思います。

幸四郎:特に年齢制限は設けていません。昨年は4、5歳のお子さんも見て楽しんでくれたそうです。これまで日本舞踊で子供向けの作品がなかったということもあり、今回「ピノキオ」という題材を選んでいますから、割引もありますし、ぜひ若い方、お子様にも来ていただきたいです。

(左から)松本幸四郎、藤間爽子

(左から)松本幸四郎、藤間爽子

取材・文=久田絢子 撮影=荒川 潤

公演情報

第3回日本舞踊未来座 =彩(SAI)=
■演目:「檜男=ぴのきお=」・「春夏秋冬」 ※2作品を上演。
■会場:国立劇場小劇場 (〒102-8656 東京都千代田区隼町4-1)
■日時:2019年6月21日(金)~6月23日(日)全8回公演 ※開場時間:開演30分前
6月21日(金)12:00☆ / 15:30☽ / 19:00☆
6月22日(土)12:00☽ / 15:30☆ / 19:00☽
6月23日(日)12:00☆ / 15:30☽
※檜男 ★ほし組 ☽つき組
 
■主な出演:
「檜男=ぴのきお=」
☆ほし組 檜男:花柳大日翠/かりん:若柳佑輝子/こおろぎ安:花柳輔蔵 /おじいさん:若柳彦三衛門
☽つき組 檜男:藤間爽子  /かりん:中村梅    /こおろぎ安:松風光陽 /おじいさん:猿若清方
ほか
語り(録音) 坂東巳之助
「春夏秋冬」井上八千代 ほか
 
料金:8,000円(全席指定・税込)
(1)25歳以下は3,000円、15歳以下は6,000円を当日会場受付にてキャッシュバック。(2)障害者割引1,000円を当日会場受付にてキャッシュバック。※前売・当日売に関わらずキャッシュバックいたします。公演当日に限ります。(1)(2)ともに年齢が確認できる証明書、障害者手帳を日本舞踊協会受付にご提示ください。

■公益社団法人日本舞踊協会 公式サイト:http://nihonbuyou.or.jp/
 
■スタッフ:
監修/花柳壽應
 
◆「檜男(ぴのきお)」
脚本、演出、振付/西川扇与一
振付/花柳昌太朗
作曲/麻吉文、鶴澤津賀寿
衣裳アドバイザー/花柳登貴太朗
 
◆「春夏秋冬」
振付/藤間恵都子(春)、 花柳基(夏)、井上八千代(秋)、五條珠實(冬)
美術/矢萩春恵
 
舞台監督/清野正嗣
音響プラン/市来邦比古
照明プラン/品治尚貴
大道具/金井大道具(株)
小道具/松竹衣裳(株)小道具課
衣裳/松竹衣裳(株)
かつら/(株)大澤
照明、音響/(株)パシフィックアートセンター
制作/吾妻徳穂、中村梅彌、花柳輔太朗、松本幸四郎
   吾妻寛彌、花柳源九郎、花柳幸舞音、花柳寿美藏、若柳里次朗
 
■主催:公益社団法人 日本舞踊協会
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