PAELLAS “静かに燃える”4人がツアー・東京公演で鳴らしたもの

レポート
音楽
2019.7.17
PAELLAS

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sequential souls RELEASE TOUR
2019.7.6 LIQUIDROOM

照明が落ちるとそこは真っ暗になる。薄明りさえなく、文字通り、真っ暗。その闇のなかからMATTONの歌声とシンセの音とがほぼ同時に聴こえてきた。歌が祈りのようだ。数十秒が過ぎたところでドラムのキック音がそこに重なる。音源と違うのはそのキックの響きに重みがあること。そしてまず、真っ暗だったステージにグリーンのライトが灯される。メンバー4人の顔やカラダはまだよく見えない。グリーン・ライトのなかに4人が影のように浮かび上がり、確かにそこにいることがわかるくらいの状態だ。そのようにしてオープナーの「Pray For Nothing」は演奏された。曲が終わって、「ありがとう」と伝えるMATTON。

2年6カ月ぶりとなったニューアルバム『sequential souls』を携え、PAELLASが全国7都市を巡る『sequential souls RELEASE TOUR』を行なった。7月6日(土)、東京・LIQUIDROOMでの当公演は、6公演目(福岡で迎えたファイナルのひとつ前)にあたるもの。観客のノリがいいとか悪いとか、歓声や拍手が大きいとか小さいとか、ロックバンドじゃないので、恐らくPAELLASのライブはそういったことに左右されてパフォーマンスの良し悪しが決まるものではない。演奏者3人(ギター、ベース、ドラム)が定位置から動くことはないし、ボーカルのMATTONとてカラダをくねらせたり泳ぐように腕をヒラヒラ動かしたりステージの端へと動いたりすることはあっても、観客を煽ったり激しい動きを見せたりすることはない。それでもこの日の4人は“静かに燃えている”ことがよくわかったし、観客たちもその官能的とも言えるグルーブに静かに身を任せ、静かだがその時間を大いに楽しんでいることがよくわかった。繰り返すがロックバンドじゃないので飛び跳ねたりする人はもちろんいないし、コール&レスポンスが行われるわけでも当然なく、所謂“盛り上がっている”という状態がわかりやすく目に見えるライブではない。が、しかし、ステージの上と下には確かな信頼感がある。確かな演奏とボーカルに対する信頼感、鉄壁にして極上のアンサンブルに対する信頼感。フロアの人々は確かにそれを持ちながらユラユラしているし、ステージ上のメンバーたちはみんながそれを持って観ていることを信じながら淡々と演奏を続けている。だからそこは静かながらも熱い空間になる。自分もフロアでユラユラと曲に身を任せながら、この夜はいつも以上にそのことを実感した。

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2曲目「Horizon」、3曲目「Ride」。新作から2曲続く。ライトはグリーンからレッドに変わった。PAELLASのライブは基本的に演出めいたものが一切なく、ただ音楽だけがそこにあるといったもの。それだけにライトの色ひとつが観る者たちのイマジネーションをかきたてる。ほかのどのライブよりもライトの色ひとつが遥かに効果を持つ。「Ride」の途中でようやくメンバーの顔が少し見えるようになった。が、それでもほかのライブと比べるとステージに当たる照明のトーンは暗く、ステージ上がはっきり明るくなって彼らの表情まで読み取れるようになったのはライブの終盤のほうだった。それだけに生音ひとつひとつと歌声の色合い、その温度の変化といったものが直截に伝わってくる。視覚ではなく聴覚に訴えてジワジワと高揚させる、PAELLASのライブとはそういうものだ。

「改めまして、PAELLASです。今日はお越しいただいてありがとうございます」。MATTONが前半・中盤で言葉を発したのは3曲目を終えたあとのそれと、あとは1曲終わる度に必ず加えていた「ありがとう」くらいのもの。そこから終盤に至るまではMCがなく、ただただ曲が繰り出されていった。それだけに曲ごとのリズムやBPMのちょっとした変化が肝になる。ちょっとした変化がアクセントになりながら、曲と曲とがなんらかの意味性を持つようにして繋がっていく。そんななか、色味を変える役割を担っているのが、第一にAnanのギター、第二にプリセットされたシンセ(同期の操作はドラムのRyosukeが担当)だろう。とりわけAnanのギターは色彩豊かで、曲によってさまざまな表情を見せる。ナイル・ロジャースのように正確かつそれ自体にグルーブが宿っているようなカッティングでノリを生み出しもすれば、曲によってはブルーズのギタリストのようなソロをエモーショナルに弾きもする。ときにヴィニ・ライリー(ドゥルッティ・コラム)を想起させるギターを聴かせもすれば、ときにトム・ヴァーラインを想起させるギターを聴かせもする。ヒンヤリしたトーンのなかにも熱さがあり、繊細さのなかから大胆さが顔を出し、夢幻を表現しているようでいて快楽の方向に忠実な表現に感じられる瞬間もある。彼はギタリストとしてどんどん進化し、その幅を広げていっている。ライブ中盤で一旦MATTONが引っ込んで演奏されたインストナンバー「Airplane」などは、Ananのギターが歌っているようにも聴こえてきた。


この夜、本編で演奏されたのは18曲で、アンコールが3曲。全21曲で、約2時間。『sequential souls RELEASE TOUR』ということで新作『sequential souls』からは2曲を除いてほぼ演奏されたが、昨年のミニアルバム『Yours』からも6曲中5曲が演奏され、さらに2017年作『D.R.E.A.M.』からも6曲中4曲、2016年作『Pressure』からは3曲と、過去作からも満遍なく選曲されていた。音源で聴くとなると作品ごとに音色やビート感がけっこう変化していたものだったが、それらを混ぜて構成されたライブで聴くとなると、曲が誕生した時期の違いをまるで感じない。数年前の曲と最近の曲とが違和感なく混ざり合い、現在のPAELLASの曲、現在のモードとして響いてくる。もともと時間の経過に対しての耐久性が楽曲に備わっているということもあるが、それ以上にアレンジ力と、現行サウンドに対しての彼らなりの確信があることによってそうなるのだろう。ということで、(曲数の多さもある故)ここではもう1曲1曲がどう響いたかまでは書かないでおくが、なにしろライブ全体の流れはスムースにしてよく練られ、何かひとつの大きな物語を見せられたような感覚にもなったものだ。

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そんなわけで、アンコールでまずMATTONだけが再登場した際(このタイミングで初めてたっぷり喋ると予め決めていたようで、彼は自ら椅子も持って出てきた)、こんなふうに話していた。「えー、18曲やりました。これでもけっこうもれた曲もあって。作りましたねぇ、曲。今日ちょうどツイッターでエゴサーチして見てたんですけど、PAELLASとThe Paellasは別のバンドなのか、っていうツイートがありまして。知ってる人はほとんどいないと思うけど、別じゃないです。その頃の曲も合わせると、さらにすごいですよね」。確かになかなかのレパートリー数だが、それだけたくさんの曲がありながら、デコボコがない。あっちを向いたりこっちを向いたりしていない。それでいて各楽曲の個性が立っている。これはなかなか稀有なことではないかと、この夜のライブで21曲を聴き通しながら思ったりもしたのだった。

振り返ればUKロック的な音のあり方で始まり、そこからややサイケデリック方向に行き、ハウス傾倒期もあって、2年前くらいにインディーR&B方向へ。そのような変化を経てきたバンドであるが、現在の彼らの音を聴いていると最早これはソウルミュージックと呼びたくなる種類のものだなと思ったりもする。官能的で、聴いてるうちにジワジワ体温が上昇するようなあのグルーブは、例えばRhye、あるいはマックスウェルとかシャーデーあたりにも通じる気がするが、今では彼らは日本語詞で歌い、かつてよく言われた“洋楽的なバンド”というところからも脱却しているように思える。つまり、言うなれば日本特有の現代ソウルミュージック。かといってシティなんとかみたいな洗練の度合と軽みに傾いたポップ音楽とは違い、もっと奥行きがある。少なくともこの日本に、似たようなバンドがない。即ち唯一無二。どんどん研ぎ澄まされ、磨かれ、音数よりも選びとられた少ない音の説得力が比類なきものになり、今のPAELLASがある。孤高という言葉が実に相応しく思えるようになったなと、そう感じた約2時間だった。
 

文=内本順一 撮影=大橋祐希

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