吉川晃司インタビュー 特別展『三国志』音声ガイドは「自分も武将になったつもりで演じた」

2019.7.26
インタビュー
アート

特別展「三国志」主催者提供/撮影:山本倫子

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2019年7月9日(火)から東京国立博物館で開幕した特別展『三国志』。日中文化交流協定締結40周年を記念して9月16日(月・祝)まで開催中の本展は、「リアル三国志」をテーマに漢から三国、西晋時代にかけて出土された数々の実物資料を展示。史実に基づいて三国志を読み解いていく企画展だ。

開幕前日には本展の音声ガイドでナビゲーターを務める歌手の吉川晃司が来場し、本展の目玉企画である「曹操高陵(そうそうこうりょう)」の再現空間で記者会見を実施。さらに今回は、当サイトのために特別インタビューの機会も得た。古代中国の歴史に関心を持ち、ありとあらゆる三国志を読み尽くしているという吉川。そんな中国史に精通している彼に、三国志の魅力や今回の音声ガイドに込めた思いなどを聞いた。

三国志は「千年以上かけて作られた歴史エンターテイメントの最高峰」

ーーまずは、吉川さんが三国志に親しむようになったきっかけを教えてください。

30代の初めごろ、ひとつの人生の岐路を感じたことがあって、何か教えやヒントを得ようと日本の歴史や偉人の生涯が書かれた本を読みはじめたんです。ただ、日本の歴史を学んでいくと肝心なところで必ず中国の故事や古典が出てくる。例えば織田信長にしても武田信玄にしても、「史記」や孫子の兵法書から戦を学んでいますよね。そこを知らないと前に進めないと思って中国の歴史文学を読みはじめたら、むしろそちらの方にハマってしまった。三国志を読みはじめたのもそれがきっかけでした。

ーー今日、私たちが三国志と呼ぶものには、歴史の史実を忠実に書き表した『正史三国志』と史実に脚色を加えてエンタメ性の高い読み物にした『三国志演義』とがあります。さらに、本展の音声ガイドで吉川さんが朗読されている吉川英治の小説をはじめ、主に『三国志演義』をベースとした小説、マンガ、ゲームなど本当に様々なエンターテイメント作品が作られています。吉川さんはどこから三国志の世界に入っていったのでしょうか。

幼い頃に読んだ記憶があるのは吉川英治さんの『三国志』ですが、本格的に興味を持って最初に読んだのは、北方謙三さんの『三国志』です。そこから陳寿(ちんじゅ)と裴松之が書いたものの和訳、中国や韓国の作家が書いた小説の和訳版なども読んできましたが、北方さんの小説はエンターテイメントとして最高峰だと思います。そのほか、一番最近に読んだ宮城谷昌光さんの『三国志』にも感銘を覚えましたね。こちらは『正史三国志』に準じていて、北方三国志とは別の意味で最高に面白い作品です。

特別展「三国志」主催者提供/撮影:山本倫子



ーー吉川さんが思う三国志の魅力とはどんなところにありますか。

伝え方が少し難しいのですが、僕は三国志だけが特別というわけではなくて、殷から三国時代までに至る古代中国の歴史の移り変わりに興味があるんです。例えば、三国志の時代から700年ほど遡る春秋戦国時代は、史実的にも文化的にも大きな変化があってとても興味深い時代です。その上で、『三国志演義』はそうした一連の歴史上で起こったダイナミックな出来ごとやロマンチックな部分を脚色の一部として組み込んでいるのが魅力的なところだと思います。また、昔で言えば弁士のような方々、今であれば小説家や脚本家のような様々なストーリーテラーが脚色を加え、千年以上の時間をかけて作られた集大成が今の『三国志演義』で、歴史エンターテイメントとしてはもっとも完成度が高い物語と言えるのではないでしょうか。

『三国志』展は「本当の三国志に誘ってくれる貴重な機会」

ーー歴史エンターテイメントとして広く認知されている三国志ですが、今回の『三国志』展は「リアル三国志」をテーマとし、三国志の史実を伝える数々の出土品が展示されています。こうした遺物が見られるというのは、三国志ファンにとってどんな機会になると思いますか。

確かに『三国志演義』はよくできたお話ですが、『事実は小説よりも奇なり』という言葉があるように、史実の中には脚色された歴史よりも驚くような真実がたくさん落ちています。僕自身も『三国志演義』を入り口に史実を読みはじめたひとりですが、いろんな史実を見比べていくうちに「実は劉備(りゅうび)って結構な悪党だったんじゃないか」とか、逆に「黄巾党(こうきんとう)は意外と良い人たちだったのかもしれない」といった僕なりの新しい解釈が生まれてきました。今回見られるのも決して創作ではない、真実の三国志を伝えてくれる遺物ばかりですから、『三国志演義』しか知らない方を本当の三国志に誘ってくれる貴重な機会になると感じています。

特別展『三国志』展示風景

ーー今日は、会場内に再現された曹操のお墓(曹操高陵)で記者会見も行われましたね。吉川さんは、かつてNHKの番組で実際の曹操高陵にも訪れているそうですが、再現展示をご覧になった感想は?

僕が行った当時は入り口しか見られなくて、ちょっと前に出て現地の方にアピールしてみたんですが、やっぱり中には入れませんでした(笑)。それだけに今回再現された曹操高陵に入ることができた時は「なるほど、こういう場所だったのか」と感動を覚えましたね。さらには曹操高陵で発掘された白磁(罐)も間近で見ることができて、2倍の感動がありました。

特別展「三国志」主催者提供/撮影:山本倫子

ーー曹操高陵以外にも気になる展示はありましたか?

僕は馬にも乗るので馬具なども気になりますが、一番興味をそそられたのは呉(ご)の竹簡(ちくかん)ですね。今の科学を持ってすれば、武器や工芸品からもいろんなことが分析できると思いますが、やはり文字で残るものが伝えてくれる歴史の事実は大きい。竹でできたものが、よくぞこの時代まで生き残ってくれたなって。今日は会見も含めて1時間くらいしかなかったのでゆっくり見られなかったけれど、また時間をかけてじっくり拝見したいと思っています。

ーーひと足早く音声ガイドも拝聴させていただきましたが、吉川さんの重厚感ある声が三国志の世界観ととてもマッチしていました。最後に音声ガイドをお聴きになる方、ひいては本展を訪れる方に向けて吉川さんからメッセージをお願いします。

音声ガイドでは来場された方々に楽しんでいただけること、正しい情報をしっかりお届けできるようにはっきりと喋ることを第一に心がけました。正直なところ、台本にあったセリフ以外にも話したいことはたくさんありましたが、その気持ちをグッと抑えて、自分自身も三国時代の武将のひとりになったつもりで演じています。史実を知ると三国志がもっともっと楽しくなるはずです。音声ガイドを通じて真の三国志に皆さんを連れていくお手伝いができたら嬉しいです。


日中文化交流協定締結40周年記念 特別展『三国志』は、9月16日(月・祝)まで東京国立博物館 平成館で開催中。吉川がナビゲーターを務める特別展『三国志』の音声ガイドは1台550円(税込)でレンタルできる。ぜひ吉川の素敵な声とともに、真の三国志の世界に没入してみてはどうだろう。

イベント情報

日中文化交流協定締結40周年記念 特別展『三国志』
会期:開催中-2019年9月16日(月・祝)
会場:東京国立博物館 平成館(東京・上野公園)
開館時間:9時30分〜17時(金曜日・土曜日は〜21時、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)は開館)
当日券(税込):一般1600円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料
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