金属恵比須7.6ワンマン・ライヴ「ルシファー・ストーン」レポート~史上最高に濃いセットリスト! 

レポート
音楽
2019.8.6
金属恵比須 2019.7.6 シルバーエレファント (撮影:飯盛大)

金属恵比須 2019.7.6 シルバーエレファント (撮影:飯盛大)

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プログレッシブ・ロック(以下、プログレ)は聴きますか?と聞かれ、私は言葉に詰まった。マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』は名盤だと思うし、ムーディー・ブルースの『童夢』には衝撃を受けて繰り返し聴き続けた。ジェネシスのピーター・ガブリエルのボーカルにはビリビリしびれるし、NHK-FMで「今日は一日プログレ三昧」が放送されるときには時間が許す限り聴いて楽しんでいる。でも私はそれらを聴くとき、“プログレ”だという意識をあまり持っていなかった。

これまで基本的にあまりジャンルを意識せずにポップス、ロック、メタル、クラシックなど、幅広い音楽を聴いてきた。ジャンルは何でもいい、聴いて自分の心が震えればそれでいい、と思っていたが、それはジャンルについて不勉強なことへの言い訳にすぎなかったのかもしれない。さすがに近年は、少しはジャンルを意識しようと心がけているが、それでもなかなか自分の中で判然としないのが、プログレというジャンルだ。プログレと一言でいっても、その音楽性は端的に語ることができない。一般的にプログレの特徴は、1曲が長いとか、変拍子や転調が多いとか、シアトリカルであるなどと言われているが、それだけではあまりに漠然としていて、やはりその正体はつかみきれない。

プログレとは何なのか?その問いと向き合うときがきたのかもしれない。そう思いながら2019年7月6日(土)夕刻、吉祥寺シルバーエレファントを訪れた。この日そこでは、プログレ通として知られるスターレス髙嶋こと髙嶋政宏による絶賛をはじめ、プログレファンの圧倒的な支持を受けているバンド「金属恵比須」のワンマンライブ「ルシファー・ストーン」~伊東潤『家康謀殺』刊行記念ライヴ~が行われた。以前から金属恵比須とのコラボレーションを行ってきた伊東潤の新刊『家康謀殺』のテーマソングとして発表された新曲が、ライブタイトルにもなっている『ルシファー・ストーン』なのである。

左:高木大地(金属恵比須)、右:伊東潤

左:高木大地(金属恵比須)、右:伊東潤

会場の明かりが落とされライブが始まる前の緊張感が漂う中、会場内に流れてきたのは2016年に放送されたNHK大河ドラマ『真田丸』のテーマ音楽だった。武田家の滅亡によって乱世をもがきながらなんとか生き残ろうとする真田家の物語で人気を博したドラマのテーマ音楽を使ったのは、2018年に伊東潤の小説「武田家滅亡」とのコラボレーションで小説と同名のアルバムをリリースしている金属恵比須ならではの演出だ。ヴァイオリンソロの印象的なメロディーが、金属恵比須の登場を待ちわびるファンたちのテンションを更にあおる。

登場したメンバーがそれぞれの位置につき、1曲目に始まったのは『阿修羅のごとく』。早速厚みのある演奏がガツンとはらわたに響き渡る。ボーカルの稲益宏美の美しく伸びのある声、キーボードの宮嶋健一が繰り出すメロディアスな音色が印象的だ。その勢いのまま一気に2曲目『鬼ヶ島』へとなだれ込む。リーダーの高木大地の太いボーカルと、栗谷秀貴が奏でるベースの重低音が絡み合いながら厚みのある音を作り出し、変拍子、転調、とプログレ王道の怒涛の展開を見せる。

MCを挟み、3曲目に演奏されたのは、先述の新曲『ルシファー・ストーン』。アイアン・メイデンを彷彿とさせるようなアップテンポで重厚なメタルナンバーは、先に演奏された2曲とは異なる空気を醸し出す。高木の速弾きギターフレーズと、疾走感ある後藤マスヒロのドラミングを聞きながら、自然と心身がリズムを刻み出す。

後藤マスヒロ

後藤マスヒロ

本人たち曰く、これまではハードロック・ヘヴィメタル(以下、HR/HM)な要素をあえて打ち出さないようにしていたという。しかしこの曲は、これまで押さえつけていた彼らのHR/HMへの愛情が一気に解き放たれたような印象を受けた。バンド名にも入っている通り、彼らの「金属」面の本領発揮ともいえるのではないだろうか。

続いて演奏されたのは、ドラマティックな展開でじっくりと聞かせる『光の雪』。稲益の力強くも切なさを宿した歌声が曲の世界観をより美しいものにしている。

稲益宏美

稲益宏美

高木から「カバーをやります」という前置きがあって演奏されたのは、プログレアイドルグループ・xoxo(Kiss&Hug) EXTREME、通称キスエクとのコラボレーション曲として2019年3月31日にリリースされた『Nucleus』だ。この曲はスウェーデンのプログレバンド・アネクドテンの楽曲で、キング・クリムゾンを思わせる重厚で複雑な攻めた展開がこれぞプログレ、と思わせてくれる。続いて演奏されたのは、ラウドさの中に抒情性を感じさせる『ハリガネムシ』。間奏では各パートのソロ演奏が披露されたが、それぞれの演奏力の高さを堪能することができた。

宮嶋健一

宮嶋健一

栗谷秀貴

栗谷秀貴

ライブ開始から約50分強が経過したところで、高木が「早いものですが、最後の曲です」と宣言すると、客席からは「えー!」という、まだ早すぎるといわんばかりの声が上がったが、間髪入れずに稲益が「一曲がなげーんだよ!」と言うと、客席の声は爆笑に変わった。実際、ここまで演奏した曲は6曲。2曲演奏が終わる毎にMCが入っていたが決して長くしゃべってはいなかったので、やはり1曲がそれなりの長さであったことがおわかりいただけるだろう。しかし各楽曲の完成度が高いため、長いと全く感じさせないところがこのバンドの魅力だ。

とはいえ、1時間弱の時点で最後の曲とはいくらなんでも早すぎるのではないか、と思いきや、高木の「『武田家滅亡』組曲を全曲やります」の言葉に、客席は一気に沸き上がった。この曲自体はライブで演奏されたことはあるが、これまでは機材の都合上途中で一度演奏を切っていたため、全曲通しでの演奏はこれが始めてだという。その長さ、約20分。

宮嶋健一

宮嶋健一

組曲と言うだけあり、一つのドラマを語るような演奏に引き込まれた。レッド・ツェッペリンの名曲「カシミール」を思わせるリフに始まる「新府城」は、宮嶋の奏でるキーボードの音色が幻想的な空気を生み、これから始まる破滅への序曲であることを感じさせる。そしてアップテンポの「武田家滅亡」では、稲益のボーカルが破壊力を増して縦横無尽に楽曲の中を、そしてステージ上を駆けまわる。サビでは「武田家!」「滅亡!」というコール&レスポンスで客席のボルテージも最高潮に達した。シルバーエレファントに響きわたる観客たちの「滅亡!」の声を聞きながら、小説「武田家滅亡」の世界へトリップしたような感覚になり、まさに金属恵比須の持つシアトリカル性が際立った瞬間だった。

後藤マスヒロ

後藤マスヒロ

続く「桂」は、一転して静けさの中に儚さを感じさせる楽曲で、この緩急が心地よく、聞く者を飽きさせない。そこから物語は次々と展開し、「勝頼」ではヘヴィなナンバーを聞かせ、「内膳」では稲益のボーカルと宮嶋の弾くピアノの音色が美しい旋律を奏で、「躑躅ケ崎館」の不穏をあおるサウンドは迫りくる滅亡へのカウントダウン、そしてついに「天目山」ですべては終わりを告げる。滅亡を美しく描いた楽曲からカタルシスが得られ、組曲全曲演奏終了後は小説を1本読み切ったような達成感と満足感があった。

栗谷秀貴

栗谷秀貴

稲益宏美

稲益宏美

本編最後は、ディープ・パープル的なアグレッシブなギターリフから始まる『イタコ』。メンバー同士の演奏のぶつかり合いは、ステージ上に火花が飛び散るような激しさを見せた。

高木大地

高木大地

アンコール後、ライブの最後を締めたのは『箱男』メドレー。クラシカルな華やかさも感じられる宮嶋のキーボード演奏に酔いしれながら、高木のギターソロに聞き入り、宮益と高木のボーカルの掛け合いの妙味を楽しみ、力強くうねる栗谷のベースラインと、圧倒的な安定感と攻撃性を兼ね備えた後藤のドラムを味わい尽くすことのできる、「史上最高に濃いセットリスト」(稲益)の幕切れに相応しい、素晴らしい構成だった。

高木大地

高木大地

怒涛のように過ぎ去った1時間40分強。総じて、攻撃的なメロディーと演奏が耳の中にねじ込まれるような感覚だった。耳を軽くなでるような、BGMとしても気軽に聴けるような演奏では決してない。聴く側も真剣に向き合う覚悟を持たなければ、楽曲の持つ力の強大さについていくことができない。しかし、彼らの楽曲と向き合いそれを受け止めることができたとき、自身の音楽観にきっとプログレッシブな変化がもたらされることだろう。彼らの演奏には、それだけの力があると感じることができたライブだった。

プログレとは何か?その答えはそう簡単には「これだ」と決めることができないが、少なくとも金属恵比須にとってのプログレとは、既存のジャンルや曲へのリスペクトを持ちながら、現代における進歩性や革新性を追求し続け、現状にとどまらず進み続けることなのではないだろうか。それと同時に、リスナーを育てることもバンドの使命とするならば、聴く者がプログレッシブな耳を持ち続けることができるように、これまで以上に広く深く届くような熱量を発していって欲しい。

2019年8月12日には、彼らの熱狂的な支持者であるスターレス高嶋主催のイベント「スターレス髙嶋presents 金属恵比須 LIVE&TALK」が開催される。ワンマンライブの大成功を経て乗りに乗っている彼らが、高嶋とどのような濃密なイベントを繰り広げるのか、要注目だ。

取材・文=久田絢子  写真撮影=飯盛大

公演情報

金属恵比須ワンマン・ライヴ
「ルシファー・ストーン」
~伊東潤『家康謀殺』刊行記念ライヴ~(公演終了)

 
■会場:吉祥寺シルバーエレファント
■日時:2019年7月6日(土)OPEN 16:45 / START 17:30
■料金:前売3,500円
■公式サイト:https://yebis-jp.com/


「スターレス髙嶋presents 金属恵比須 LIVE&TALK」

■会場:中目黒楽屋
■日時:2019年8月12日(月・祝)OPEN 17:30 / START 18:30
■料金:前売3,500円/当日4,000円
■チケット発売中 http://rakuya.asia/home.shtml

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