三宅裕司と小倉久寛が劇団SET『ピースフルタウンへようこそ』合同取材会を開催 「40年間変わらないSETの笑いをブレずに届けます」

2019.9.26
レポート
舞台

(左から)小倉久寛 三宅裕司

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2019年10月11日(金)から27日(日)にかけて、サンシャイン劇場において劇団スーパー・エキセントリック・シアター(以下、SET)創立40周年記念・第57回本公演ミュージカル・アクション・コメディー『ピースフルタウンへようこそ』が上演される。「幸福」をテーマにピースフルタウンと呼ばれる舞台で繰り広げられる群像劇を、総勢40名を超える劇団員が、笑い、ダンス、アクション満載のミュージカル・アクション・コメディーとして披露する。

都内にある劇団SETの稽古場において、座長の三宅裕司と創立メンバーの小倉久寛が合同取材会を開催した。創立40周年を迎えた心境と公演への意気込み、そして劇団こどもSETや将来について熱く真面目に、時に三宅が小倉のコメントに突っ込みを入れて笑いを取るなど、濃い内容の会見となった。

ーー創立40周年記念公演が上演されるにあたり、今どのようなお気持ちでしょうか?

三宅:その質問はよく聞かれるのですが、毎回いいものを作ろうという積み重ねでここまできましたから、40周年だということで、特別に「よし!」と力が入っていることはないです。いつもどおり面白いものを作るぞという気持ちですね。ただ、ここ何年かで上演してきたものとは、ちょっと違うなと思ってもらえるような作品になったらいいなと考えながら作っているところです。

ーーちょっと違うというのは、作風が違うということでしょうか?

三宅:作風ではなく、物語の終わり方ですね。SETがやっているのは「ミュージカル・アクション・コメディー」ですけれども、僕はあまりミュージカルが好きではないので、必ず歌ったり踊ったりするシーンには意味があるようにしています。例えば音楽事務所の話だから所属の歌手が歌うとか、物語の設定があるから歌ったり踊ったりする形をとってきました。でも今回は、きちんとした理由がありながらも、少し違った形で歌ったり踊ったりしています。今までSETの公演を観てきた方は、少し雰囲気が違うと思うかもしれません。

ーー40年はあっという間だったかもしれませんが、いろいろなことがあったと思います。今回の作品は「幸せ」をテーマにしていますが、お二人がそれぞれ40年の間で最も幸せだったと思うことがあれば教えてください。

三宅:10周年、20周年、30周年という区切りでいろいろ感じてきましたが、マスコミの仕事が忙しくて、舞台を作るのは本当に大変で苦しいことばかり思い出します。東京喜劇を作るまでずいぶん遠回りしてしまったと思うのですが、振り返ってみれば、これが一番近道だったと思えることが一番の幸せです。いろいろなことをやったからこそ、今の東京喜劇を作る位置までくることができたのだと思います。

小倉:1回1回お客さんが喜んで拍手してくださったりすることに喜びを感じます。三宅さんは、芸能界で喜劇の劇団を作って一つの歴史を残すという高い志がありましたが、僕は若い頃、劇団の人たちがみんなでワーッと騒いで楽しく酒を飲んでいるのを見て「楽しそうだな」と思ったのが、劇団に入ろうと思ったきっかけなんです。そのまま40年続いているのが幸せなことじゃないかなと思っています。

ーー40年間喜劇を舞台で演じられてきて、お客さんの反応を見てきていると思いますが、その時々に応じて反応は違うものですか?

三宅:SETは創設した時から僕が好きな笑わせ方といいますか、そういう笑いを作ってきました。ですので、お客さんに合った笑いは作っていないんです。自分の好きな笑いをずっとやってきて、その笑いが好きなお客さんがどんどん集まってくださることでいろいろな反応があったので、僕らが作る笑いは変わっていないと思います。

もともと難しい訳の分からない芝居が大嫌いなので、分かりやすくてサービス精神旺盛で、それでいていろいろな要素が入っている、そしてお客さんが飽きなくてきちんとテーマがあるものを作ろうと決めて始めたので、そこはブレていないと思います。時代によって反応が変わったり、こちらの笑いをお客さんに合わせて変えたりということはなかったです。

小倉:初めて三宅さんを客席から観た芝居の設定が、自殺をする人とそれを止める人というものだったと思いますが、三宅さんは自由自在にお客さんを笑わせていました。すごく面白くて、その時から人間がどんどん突き詰めていくと、どんなことになるんだろうという笑いをやっていたんです。それが今でも変わっていないということですね。

ーー先ほど東京喜劇とおっしゃられましたが、大阪のお笑いとの違いや三宅さんが目指していた東京喜劇というのは具体的にどんなものなのでしょうか?

三宅:僕が「東京喜劇だ」と言って作ったものが東京喜劇になるわけです。(一同笑い)だから東京喜劇はこうだ! という定義はどこにもないのですが、僕の中では吉本新喜劇とか大阪の笑いというものは、出演する人それぞれがネタを持っていて、お客さんがそれをやるのを待っていて、ネタが出るとワーッとなる感じの舞台です。それはそれで楽しいのですが、東京喜劇はそうじゃなくて、毎回新しいストーリー設定の中で笑わせるというのが一つ。そして音楽環境は常にレベルを高くして、歌やダンスのレベルの高さとズッコケたりする時のばかばかしい笑いとの落差が大きければ大きいほど、カッコよさも生きるしバカな部分も生きるというのが東京喜劇かなと思っています。

ーー今回の公演で「幸せ」をテーマに選ばれたのは、時代や社会の風潮の中で何か思うところがあったからですか?

三宅:毎回舞台を作る時のテーマは、日本人が今何を一番考えているのかなど、いろいろなことを見ながら作家と一緒に決めていきます。少し前に幸福度が世界でも高いと言われているブータンの方が日本にいらっしゃった時に、日本の幸福度はどれぐらいなんだろうと調べたらずいぶん低かったんです。こんなに生活レベルが高い国で、幸福度が低いのはなぜなのだろうと思ったのがきっかけで「幸せ」をテーマにできないかなと考えました。この作品で一応「幸せとは何か」ということを提示していますが、どう感じるかはお客さんの自由だと思っています。

ーー今回の公演で新しく挑戦したことや、ずっと変わらないもの、守っているものは何ですか?

三宅:変わらないことは、ミュージカル・アクション・コメディーという形はそのままですし、僕の嫌いな笑わせ方は排除しているところです。今、笑いが多様化していますから、SETを好きだと言ってくれる人たちが、こういう笑わせ方が好きなんだということを感じてもらえるように、そこはブレないようにしたいと思っています。

SETは昔から1年かけて津軽三味線をやったり、声だけでビッグバンドをやったり、いろいろなことをやってきましたが、ここ何年かは他の仕事が忙しいこともあり、1年かけて何かをやるということがなかなかできなくなりました。特別に全員で何かをやるということは、ここのところあまりやっていないで、ミュージカル・アクション・コメディーのレベルを全員で高くしようとしていることが、今一番挑戦していることですね。

小倉:特に変わったことをしているというのはないんですけれど、三宅さんはカッコ良さを求めるんですよ。東京で生まれ育ったカッコ良さといいますか、粋を好むというか。そういうのはずっと劇団の芝居にはありますね。

ーー今回の公演は、発案から企画までどのぐらいかかりましたか?

三宅:1年ぐらいですかね。僕もこれだけをやっているわけでないので、いろいろな事情でだいぶずれ込みました。実はほぼ台本が完成して明日から通し稽古と思っていたのですが、急に今日の明け方4時半に「ん? 違う」と思って、そこから9時半までずっと台本をなおしていました。結果、ラストシーンが全く変わってしまったので、そこからまたやらなければいけなくなりました。

ーー公演を創り上げていくノウハウは、40年前とは変わってきたのではないですか?

三宅:早くなりましたよ。劇団員・スタッフを含めて60人ぐらいいますけれども、みんな対応が早いです。劇団員とスタッフが一丸となって、あっという間に変更したところを完成させるという早さは素晴らしいですし、これは40年やってきた劇団の一番の宝物ですね。

小倉:役者側からすると、すごく早いスピードで出来上がるんですよ。昔はガリ版で刷っていたのに……。今は三宅さんがパソコンで打ったものが機械でビューンと出てきますからね。でも三宅さんは妥協をしない人なので、楽日までずっと考えているんですよ。

三宅:公演中は結果が出ますからね。笑わそうとしているのに客席がシーンとなっていたらそれは失敗なので、台本をなおさなければいけないですよね。

小倉:本番の朝5時頃にFAXが届くこともありますから。

三宅:僕らアナログだから、いまだにFAXで送っているんです。

小倉:そして台本が変更になった朝からまた稽古するんですよ。それが楽日まで続きますから公演中にどんどん良くなっていきます。もちろん毎回一番面白い芝居をやろうと思って一生懸命ですけれど……。

三宅:(小倉さんに向けて)何を言い訳言ってんだよ。(一同笑い)でも舞台上で気になっちゃうことってあるんですよ。「あれ? ここをこうすればもうちょっとウケが大きくなるかも」とか。そこそこウケていても、もう少しウケるだろうとか。毎日緊張感がありますね。

小倉:だから2日連続で観に来ていただいても楽しいと思います。

ーー今回の作品でお二人のシーンはありますか?

三宅:この間、新橋演舞場で熱海五郎一座の公演がありましたが、今まで小倉と絡むシーンを必ず作っていたんですけれど、今回はわざと作りませんでした。それは40周年のSETの公演でたっぷり絡もうと思っていたからなんです。いつもはだいたい1場面ですが、今回は2つの場面で絡んでいます。40年間の集大成を見せられたらと思いますが、きっと来年もやりたくなるので集大成にはしないと思います。あと、他の劇団員もなんでも笑いにもっていこうとするのですごく面白いです。女優の一人が普通の体型では面白くないと言って、わざとたくさん食べて太った子がいるのですが、それを上手く使ったシーンに出ているので、きっと笑えると思います。こういう劇団員を見るとすごいなと思いますよ。

ーー最近の活動についてお聞きしたいのが、2018年に創設された劇団こどもSETについてです。今年8月に第2回公演が行われましたが、こちらをご覧になった感想をお聞かせください。

小倉:三宅さんが自分の代でSETを終わらせたくないという思いで始めたのが、劇団こどもSETです。僕たちがミュージカル・アクション・コメディーを始めたのは結構歳をとってからなので間に合わなかったこともあるのですが、若い頃からやっていると、いろいろなことが身に付くじゃないですか。こどもSETを観ていると、この歳でこんなにできるのはいいなあと思いました。芝居やコメディーは、ちょっと勉強や訓練したからといって身に付くものではないので、子どもの時から三宅さんの言うことを見たり聞いたりしていれば、どんどん役者が育っていくんじゃないかなと思います。僕が川に入って魚を取っていた年齢の子たちが、お客さんがいっぱいいる前でびっくりするぐらいのパフォーマンスをするから驚きがありましたね。

三宅:僕はもう少しで70歳になるので、いつまで続けられるのかなと思った時に、まわりを見たら、当然劇団員も一緒に歳をとっているんですよ。僕たちは40年かけてミュージカル・アクション・コメディーを勉強してきたわけですから、それを伝えてから引退をしなければという思いがあります。笑いは稽古場で教えられるものではなくて、お客さんの前でやって初めて分かることが多いんです。

実はこどもSETの公演の初日に、自分が言ったせりふでお客さんがドッと笑ってくださったので、びっくりして次のせりふが出てこなくなり、みんながシーンとなってしまったことがあったんです。これはいい体験をさせたなと思っています。自分が言ったせりふでお客さんがドカーンとウケることなんて、なかなか経験できることではありませんから。歌やダンスは稽古場でやればやるほど上手くなりますが、笑いだけはお客さんの前でなければ分からないですからね。

ーーこれから40年を超えていくわけですが、どのようなことを目標にして活動をしていきたいですか?

三宅:継いでくれる若い人を育てること、そして僕がやっているSETでミュージカル・アクション・コメディーを作ること、新橋演舞場の熱海五郎一座、その他にビッグバンドのライブもやっていますが、これらをどれぐらいまでレベルアップできるかというのは、これからだと思っています。最近やっとミュージカル・アクション・コメディーのすべてのジャンルについて、知識量がたまってきました。若い頃は何かが足りなくて、そこから考えたギャグは無理があるものが多かったんですけれど、これからは隙のないギャグをたくさん作りたいですし、今やっていることをどのくらいレベルアップしていけるかというのが目標で、一応80歳までやろうと思っています。

小倉:60歳の時に還暦記念公演というのをやらせていただきまして、その時の挨拶でも言ったんですが、三宅さんはいろいろなことを思ってこの世界に入ったけれど、僕はいろいろな人と巡り合えて、その流れに乗ってここまでこさせてもらったような気がします。このまま流れに乗ってどんなところへ流れていくのかというのを楽しみにしていますという気持ちに変わりはないです。ただ、まあ……、

三宅:小倉はいつも話が長いんですよ。(一同笑い)

小倉:三宅さんは話をする時、編集をしなくてもいいように話すらしいんですよ。僕は思いついたことをベラベラしゃべるので、皆さん、あとで良い感じにしてくださいね。

三宅:これからの目標という質問に対しての小倉の答えは、「ここまで流れに乗ってきたので、これからも流れに乗っていきたいです」ということです。(一同笑い)

小倉:そんなに短い一言でまとめちゃうんですね(笑)じゃあ、そういうことで。


 
『ピースフルタウンへようこそ』あらすじ
東京都巷区(ちまたく)にある高級住宅街・青金台(あおがねだい)。治安が良く、オシャレな店が建ち並ぶ人気エリア。 ある日、この町に志賀内吹京(しがないふきょう・小倉久寛)が、妻や子供達を連れて引っ越してくる。彼らは青金台を参考にして、寂れた故郷・素裸無町(すらむちょう)を再興しようと目論んでいた。超富裕層(ことみゆうぞう・三宅裕司)は巷区の区長で、青金台の住民でもある。彼をはじめとするセレブな住民たちは、そんな志賀内一家を快く受け入れる。平和で幸福な毎日ゆえ、青金台の住民たちは常に笑みをたたえ、自然と歌を口ずさみ、身体はウキウキと踊り出す。町のあちらこちらでは、ミュージカルのような光景が繰り広げられる様に、最初は戸惑う吹京たちではあったが、次第にその不思議な魅力に虜となっていく。しかし、ある夜、不気味な現場を目撃し てしまったことから、青金台が信じがたい秘密を隠しているのではと疑念を抱くことになる。 数日後、彼らの動揺を掻き消すかのごとく、あるニュースが飛び込んでくる。東京都知事の号令で、歌とダンスで町の幸福度を競い合い、優勝した町は好きな町を吸収合併できる「幸福度コンテスト」なる破天荒な企画が開催されるようだ。果たして、町の存続をかけたバトルの結末 は!? そして、本当の平和とは、幸福とは、人間とは・・・!


取材・文・撮影=秋乃麻桔

公演情報

劇団スーパー・エキセントリック・シアター 創立 40 周年記念・第 57 回本公演
ミュージカル・アクション・コメディー『ピースフルタウンへようこそ』
 
■日程:2019 年 10 月 11 日(金)~10 月 27 日(日)
■会場:サンシャイン劇場
■料金:S席 7,000 円 A席 6,000 円
 
■脚本:吉高寿男
■演出:三宅裕司
■出演:三宅裕司 小倉久寛 劇団スーパー・エキセントリック・シアター
■主催:ニッポン放送 (株)スーパーエキセントリックシアター
■企画・制作:(株)スーパーエキセントリックシアター (株)アミューズ (株)アタリ・パフォーマンス
 
<愛知公演> 日時:2019 年 11 月 8 日(金)19:00 / 11 月 9 日(土)13:00
■会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
 
<兵庫公演> 日時:2019 年 11 月 13 日(水)18:30 / 11 月 14 日(木)13:00
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

■公式サイト:
http://www.set1979.com/