『2019 東美アートフェア』レポート 102軒の美術商が東京に集結! 見て、触って、喋って、とことん芸術を愉しむ3日間

2019.10.5
レポート
アート

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10月4日から6日まで東京・新橋の東京美術倶楽部 東美ミュージアムで開催中の『2019 東美アートフェア』。3日間に渡って行われるこの催しは、東京美術商協同組合に加盟している102軒の美術商が一堂に会し、自慢の逸品を披露する毎年恒例の展示販売会。近年はディーラーとコレクターの交流の場としてだけでなく、古美術、近代美術、現代美術、茶道具、工芸など多彩なジャンルの芸術が間近で見られる機会として多くの来場者を楽しませている。ここでは初日の様子を取材。このイベントの魅力と今年の見どころをレポートする。

東京の美術商を中心に102軒がブースを出店

毎年、秋風を感じ始めるこの時期に開催される『東美アートフェア』。18回目を迎える今年も、主催者の東京美術商協同組合(東美)に加入している500軒以上の美術商の中から102軒がブースを出店し、エントランス前には開場前から開幕を待つ人だかりができた。昨今のアート市場の盛り上がりもあってか、来場客の中には外国人の姿も多い印象だ。

東京美術倶楽部・エントランス

何と言っても価値ある美術品を間近に鑑賞でき、作品によっては実際に触れられるところが『東美アートフェア』の醍醐味。そして確かな眼と知識を持つ美術商と双方向にコミュニケーションしながら造詣を深められることも美術展では味わえない体験といえる。また、東美の会員は東美の厳しい審査を通過した美術商のみ。つまり、プロ中のプロからお墨付きを受けた信頼の置ける美術商のみが集まっていることも東美アートフェアの価値を表すポイントだ。もちろん気に入った作品があれば購入も可能だ。

各フロアの入り口近くには生花の展示も

会場は1階、3階、4階の3フロアで構成。まずは1階から散策を始めると、入り口すぐそばにブースを構える「古美術 あさひ」で、さっそく貴重な体験をすることができた。ブースの真ん中に並べられた煌びやかな蒔絵印籠に目を奪われていると、そばにいたスタッフが「印籠って何段かに分かれるんですよ」と目の前でパカッと印籠を分解してくれた。時代劇などを見て印籠というものは知っていても、こんな形を見たことがある人は意外と少ないはず。

「古美術 あさひ」の展示風景

ほかにも、印籠職人の多くがもともと刀装具の職人だったこと、ひとつの印籠を造るには一年以上の時間を要したこと、最初は薬入れとして造られた印籠もだんだん男のおしゃれの一つとして華美なものに変わっていったことなど、店主から印籠にまつわる様々なウンチクを聞くことができ、最初の一歩目から濃い知識を得られた。

今年は「刀剣」も登場!

今年の102軒のうち新たな出店は2軒。そのうちの一軒が日本刀などを扱う「日本刀剣」だ。ここ数年、ゲームやアニメの影響で幅広い層の注目を集める刀剣。実際に所有するのは一部のコレクターだが、「昨今は若い方からのお問い合わせも増えています」とスタッフは言う。

『金梨子地家紋散金蒔絵鞘 細太刀拵』 「日本刀剣」ブースにて

ここでは南北朝時代に造られ、江戸時代に様々な装飾が施された『金梨子地家紋散金蒔絵鞘 細太刀拵』のような銘刀をはじめ、現代の名工が作った美術刀まで幅広い年代の日本刀を展示。武器から美術工芸品へと価値が変わっていった日本刀の歴史が感じられる。

『脇差 姪 備前長船住横山祐包作』 「日本刀剣」ブースにて

「これなんて刃紋が綺麗な富士山になっているでしょ?」と見せてくれた『脇差 姪 備前長船住横山祐包作』の刀身には、確かに富士山と月を連想させる優美なラインが。一方で、現代の作家による刀身彫刻も展示され、刀身の上に施された不動明王の彫刻をルーペで覗き込めるようになっている。焼き入れも彫刻もひとつのミスが刀そのものを台無しにしかねない作業と聞くと、それぞれの作品の凄みが一層伝わってくる。

作家本人にいろいろ聞いちゃおう!

現代作家の個展を行うブースには、アーティスト本人が来場しているケースが少なくない。この日は「靖雅堂夏目美術店」のブースに日本画家・加来万周さんの姿があった。今回の個展では、富士山をモチーフにした10点の新作を発表。富士山とは遠く離れた熊本の出身だが、初めて富士山を見た時、その美しさに畏れに近い衝撃を感じて、この霊峰を描き始めたそうだ。「綺麗というより、畏れにも近い美しさを感じましたね」と加来さん。最初は透明感のある青を基調とした作品だったが、富士山が見える景色を何度も訪ね歩くうちに神々しさへの念が増し、金と黒が中心の煌びやかな作風に変わっていったという。

「靖雅堂夏目美術店」のブースで個展を行っている加来万周さんの作品

「林田画廊」には「箔画」という独自の画風で注目を集める松崎和実さんが来場。箔画とは、箔に描いた魚類等の絵をアクリル板に貼り、浮いて見えるように額装する技法。かつて水墨画を学んだ松崎さんは、竹の葉の揺らぎによって周りの空気まで感じさせる水墨画の自然表現に着想を得て、額装の中に魚の魚影を落とすことによって、水を描かなくても魚が水の中を泳いでいるかのような浮遊感を表現している。

「林田画廊」で個展を行っている松崎和実さん

江戸時代の図譜にヒントを得ているという金魚や鯉の細かな描写も目を見張るところ。図譜に描かれた魚が生き生きと泳ぐ姿を描き続けながら、最近では“擬人化”もテーマのひとつに置き、一匹一匹の表情に個性を与えているそうだ。

偶然の出逢いを求めていくのも楽しみ方のひとつ

『東美アートフェア』には関東以外の美術商も出店している。例えば「ウロコヤ横井商店」は名古屋から、「古美術かじ乙」は金沢から出店している茶道具の老舗。他にも京都や大阪など地方からの出店も多く、そうしたエリアからやって来た古美術商の話が聞けるのも貴重な機会だ。特に「古美術かじ乙」は、茶道具のコレクションで有名な東京・高輪の畠山記念館にも多くの名品を納入しており、同館の所蔵品を代表する重要文化財『伊賀花入 銘 からたち』もこの店が関わって納めたものだという。

「ウロコヤ横井商店」の展示風景

そのほかにも会場を歩いていると様々な作品との出逢いがある。「青龍堂」の目玉展示は、大正・昭和初期を代表する日本画家・速水御舟が昭和7年に描いた『花の傍 大下絵』。こちらは歌舞伎座が所蔵している『花の傍』の最終的な大下絵で、最晩年の御舟が試行錯誤を重ねた跡が伺える貴重な作品だ。近くには完成作のパネルも並べられ、両者を見比べると、床の柄や椅子の装飾などに変更が見られ、時代性に合わせて洗練されていった作品の中に昭和モダンの風を感じることができる。

『花の傍 大下絵』ほか 「青龍堂」ブースにて

また、同じ階の「村越画廊」では「ZOO」をテーマに、動物をモチーフにした5名の現代作家による作品を展示。30代から40代の作家が生み出す作品はどれも大胆かつ奇抜だ。例えば、陶芸家・桝本佳子は蛸唐草模様のタコと壺が融合した「蛸壺」、動物と別のものをダジャレで融合させた彫刻作品で知られる櫻井かえでは、バスとスイカとカバが一緒になった「バスイカバサン」などを出品。ユーモアたっぷりに表現された動物たちに癒される。

櫻井かえでの作品 「村越画廊」ブースにて

こんな風に偶然の出逢いを求めるのも『東美アートフェア』の楽しみ方のひとつだろう。

『2019 東美アートフェア』は、東京・新橋の東京美術倶楽部 東美ミュージアムで10月6日まで開催。見て、触って、話して、とことん芸術鑑賞を楽しんでみては。

イベント情報

2019 東美アートフェア
 
10月4日(金)11:00-20:00
10月5日(土)11:00-18:00
10月6日(日)11:00-17:00
 
会場:東京美術倶楽部 東美ミュージアム
 
入場料:一般:1,000 円(700 円)/学生(高校生以上):500 円
※ いずれも消費税込み
※ ( )内は前売券、または20名以上の団体券
※ 中学生以下、障害者手帳をご持参の方(付添者1名を含む)は無料。
※ 割引・無料には入館の際、学生証、障害者手帳をご提示ください。
は入場当日に限り有効です。

■2019 東美アートフェア オフィシャルサイト : http://www.toobi.co.jp/artfair2019
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