DYGLの“凱旋”ツアーファイナルにみた、国境を越えるロックミュージックとアティテュード

2019.11.12
レポート
音楽

DYGL 撮影=Koki Nozue

画像を全て表示(9件)

DYGL JAPAN TOUR Extra Show at SHIBUYA CLUB QUATTRO
2019.11.5  渋谷CLUB QUATTRO

いつの間にこんなに同志が増えていたんだろう。11月5日渋谷クラブクアトロ、DYGLのセカンド・アルバム『Songs of Innocence&Experience』リリース・ツアー、国内ファイナル。ぎゅうぎゅう詰めのオーディエンスのおかげで、関係者席で背伸びしても見えやしないからフロアに降りる。どっちにしたって見えないが少しでも熱気に近づいたほうがいい。ロンドンに拠点を移して1年以上、世界基準のロックを肌で感じながら急成長を続けるバンドが母国でどんな姿を見せてくれるのか。19時10分、熱狂のパーティーの始まりだ。

DYGL 撮影=Koki Nozue

「俺たちも自由に演奏するのでみんなも自由に楽しんでください。ルールがあるとつまんないから」

1曲目「I’m waiting for you」を歌い終えた秋山信樹(Vo/Gt)が呼びかける。ハコの都合は知らないけど撮影も好きにして。炎上したらごめんなさい、と笑わせる。いい雰囲気だ。「Take It Away」から一気に3曲、尖ったパンクとクールなニューウェーブとハッピーなダンス・チューンを織り交ぜたような、DYGL特有のグルーヴあるロックンロールを畳みかける。とんでもなくラウドで荒々しいが、抜けのいい明るさと余裕のおかげで音に打たれても痛くない。国内ツアーのファイナル、バンドもしっかり気合が入っている。

DYGL 撮影=Koki Nozue

「自分の人生に満足してない人、狂った世の中に満足してない人のために演奏します」

そして消費税10%にムカついてるお前らのために。と言う秋山の言葉にフロアが湧いた。ゆとり世代と呼ばれた自身のフラストレーションを吐き出したという「Bad Kicks」には、70年代のロンドン・パンク、ニューウェーブ、パブロックなどの匂いが濃厚にする。パンキッシュな「Slizzard」も、エコーたっぷりのギターにサーフ・ロックのイメージがよぎる「Spit It Out」も、重たいレゲエの「Boys On TV」も、ロンドン生活で受けた刺激がなければここまで血肉化しなかっただろう。アティテュードがそのまま音に出る、当たり前のことを当たり前にやれるバンドの強みをひしひしと感じる。

DYGL 撮影=Koki Nozue

次は愛についての曲を――。「Hard to Love」に込めた思いを、「本気で愛すること、本気で憎むこと、どっちにしてもまっすぐに誰かと向き合うことは難しい」と説明する、ぶっきらぼうだが真摯な語り口がいい。台本のあるMCではこうはいかない。「A Matter of Time」からは重量感のあるスロー・チューンが4曲続くが、なんたってハイライトは12曲目「Only You(An Empty Room)」だ。秋山のむせび泣くようなソウルフルな歌い方が最高にエモーショナルな、砂糖を入れないストレートなラブソングに、エフェクティブな浮遊感いっぱいのギター・サウンドがよく似合う。この豊かな包容力、これもDYGLの懐の深さ。

ベースの加地洋太郎が早くも缶ビールを開けて「乾杯!」と笑顔で言う。サポート・メンバー谷口のなんでも屋な活躍ぶりを秋山が称える。ステージ上の風通しの良い信頼関係がフロアに涼風を吹かせる。ここからの秋山のMCは長かった。「Songs of Innocence&Experience」には、対立する矛盾をそのまま入れようと思ったこと。世の中に出て元々持っていた純粋さを失ってしまうこと。夢を持つ人も持たない人もやりたいことをやればいいと思うこと。ザ・フーのピートが「ロックは悩みを解決しない。でも悩みを持ったまま踊らせることができる」と言ったこと。そういう気持ちがわかる人がいたらいいね。起承転結など考えない、クールなのに熱く響く強い言葉だ。

DYGL 撮影=Koki Nozue

「A Paper Dream」は明るく弾む曲なのに、ボーカルはまるで怒っているかのように激しかった。「I’ve Got to Say It’s True」では、英語のフックにフロアから大合唱が起きた。このバンドのアティテュードとメッセージはきちんとオーディエンスに伝わっている。「ツアー本編で一回もやらなかった曲を」と紹介した「Happy Life」の、キラキラしたネオアコ感に彼らのUKロックへの深い愛情が透けて見える。It’s My Happy Life,It’s Your Happy Life。これは僕と君の歌。

DYGL 撮影=Takuya Yamaguchi

ギターの下中洋介がマイクに向かい、「今日はけっこうお得だね」と笑う。秋山がアコースティック・ギターに持ち替えて「As She Knows」を歌う。ビートルズがカバーするアメリカのガールズ・ポップのような、ポップとロックの絶妙な塩梅が最高だ。そしてこの日何度目かのハイライト、大スケールのロック・バラード「Nashville」の圧倒的な存在感。力強いビート、かきむしるギター、ふり絞るハイトーンのシャウト、オルガンの重厚な音色。ヴィンテージでありながらブランニューでもある、これがDYGLのロック。真っ赤なライトに照らされたエイトビートの疾走チューン「Come Together」が終わると、いよいよライブは最終章だ。

DYGL 撮影=Koki Nozue

ここからの秋山のMCは、さらに長くそして熱かった。ロンドンで感じた差別の問題。震災以降も解決されない東北の現状。沖縄出身の秋山が思う今故郷で起きていること。全ての人の心の問題。自分に正直に生きていくこと。表現したいことがあればやればいい。聴いてくれる人のために俺は自分のやりたいことをやります。それが正しいスピリットとして残っていけばいい――。ともするとライブの流れを途切れさせかねない長いMCは、しかし一つの曲のようにぴたりとハマった。怒号のような歓声と拍手がその証拠だ。本編ラストはサイケデリックにギラつく「Don’t You Wanna Dance In This Heaven?」から切迫のパンク・ロック「Don’t Know Where It Is」へ、強烈なフィードバック・ノイズの余韻を残してのカタルシス。

DYGL 撮影=Koki Nozue

そしてアンコールは楽しくラフに朗らかに。下中がリード・ボーカルに立ち、ギターはスタッフが弾く。「打ち上げです」とおどけながらぶちかました1曲は、90年代ブリット・ポップのアンセムの一つ、パルプ「Disco2000」だ。ここぞとばかりミラーボールがぐるぐる回る。ドラムの嘉本康平はニヤニヤを通り越してほとんど爆笑してる。秋山は「この後めちゃめちゃやりづらい」と笑ってる。こうしたファニーな一面もDYGLの大事な個性。最後の最後はメンバー4人だけでの「ALL I WANT」で、明るくハッピーに締めくくる。強烈なバックライト、手を上げっぱなしのフロア、多幸感あふれる空気と、しっかり刻まれたメッセージ。贅肉の一片もない、熱気あふれる2時間10分のロック・パーティー。

DYGL 撮影=Takuya Yamaguchi

バンドはこの後、台湾、香港、中国をめぐるアジア・ツアーに出る。聴いてくれる人のために俺は自分のやりたいことをやります。その思いはどこへ行っても変わらないだろう。国と国じゃない。人と人だ。DYGLの音楽とスピリットは風のように自由に境界を越えてゆく。次に見る時はさらにスケールの大きいバンドになっているだろう。2020年代のロックの指針の一つがきっとここにある。


取材・文=宮本英夫 撮影=Koki Nozue、Takuya Yamaguchi

  • イープラス
  • DYGL
  • DYGLの“凱旋”ツアーファイナルにみた、国境を越えるロックミュージックとアティテュード