みゆな『ユラレル』リリースツアー・東京公演にみた、新しき才能の多彩さと力強さ
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みゆな 撮影=上飯坂一
みゆな TOUR 2019-ユラレル‐ 2019.11.16 下北沢GARDEN
11月16日、下北沢GARDEN。みゆなのセカンド・ミニ・アルバム『ユラレル』のリリース・ツアー、『みゆな TOUR 2019-ユラレル‐』に足を運んだ。
強い逆光で目が眩む中、ドラム、キーボード、ベースが幽玄なエレクトロ・サウンドを奏でだす。加速するビートに乗り、闇の中からすっと現れた女性がマイクを握る。低音域がぐっと押し出される、スパイシーなハスキー・ボイス。1曲目「ユラレル」から、音源で聴くよりもさらにパワフルでエモーショナルな歌声が、フロアを大きく包み込む。
みゆな 撮影=上飯坂一
「踊って、嫌なこと忘れて、楽しんでいってね」
迫力満点の歌声と、明るい呼びかけのギャップがなんだか面白い。曲はクールなダンス・チューンの「ユラレル」から、ビートの効いたR&Bタイプの「グルグル」へ。オーディエンスにクラップを求め、伸びやかにスキャットを決める、パフォーマンスは自然体。サウンドは曲ごとにかなり変化し、アコースティック・ギターをかき鳴らして歌う「進め」は、明るく力強いロック・テイストの応援歌で、「ガムシャラ」はアップテンポのポップなギター・ロックだ。「エレクトロも似合うな」「ロックもいいね」と、様々なイメージが浮かぶ多彩な曲調。その中心にあるのは、どんな曲調でもねじ伏せてしまう、圧倒的なパワーと声のうねりだ。切ない恋歌「くちなしの言葉」での、やさぐれたムードと若くピュアな情熱との、絶妙なアンバランス。うん、ファルセットもきれいなんだ。
みゆな 撮影=上飯坂一
「本当にいい景色です。みなさんと、もっと距離を縮めたいです」
ここからは、一人でアコースティック・ギターの弾き語り。フォーキーなスロー・チューン「たんぽぽ」に続き、「カバーをやります」と言って歌ったのは、崎山蒼志と君島大空の「潜水」だった。みゆなと同い年の崎山と、20代前半の君島。次世代を担う尖った才能と共鳴する、みゆなの若く鋭いセンスを感じるいいシーン。
メンバーをステージに呼び戻しての「僕と君のララバイ」はライブのちょうど折り返し地点。スローな曲だが、饒舌なドラムのおかげでしっかりとグルーヴがある。ドラムは柏倉隆史、ベースは村田シゲ、キーボードは中村圭作。オルタナ、パンク、ポストロックなど、幅広く活躍する名手揃いだ。「color」では、柏倉の最高にかっこいい変則ビートが聴けた。この暗い世界に一つだけでも幸せはありますか? マイクをぎゅっと握ってまっすぐ前を見て歌いかける、激しく純粋なライフ・ソング。歌い終えたみゆなが、この曲について説明すると長くなりすぎて「ライブが終わっちゃう」と笑った。莫大な感情の揺れと、繊細な思考の埋蔵量。簡単に要約することができない、それがみゆなの歌。
みゆな 撮影=上飯坂一
続いて披露した「埋葬」は、「面白半分で作って、1、2回しか歌ってない曲」。アコースティック・ギターを荒々しくかき鳴らし、感情むき出しに歌うストレートなロック・チューンだが、これが抜群に良かった。どぎついほどに感情的で攻撃的だが、あまりにピュアで一途で、むしろ爽快。たぶん、怒りと裏切りの恋の歌だろう。一緒に墓場に埋まろうか? まったく、なんて歌詞だ。いつ音源になるんだろう。
「シモキタ、もっと暴れろ!」
ラフな言葉使いでぐんぐん煽る、ライブはそろそろ終盤だ。ここから盛り上げアップ・チューンの三連発で、まずはセリフ入りの「ふわふわ」は、めまぐるしいテンポ・チェンジを交え、より濃厚により演劇的に。一転して「缶ビール」は、オーディエンスにコール&レスポンスを呼び掛け、♪缶ビールを買って、の大合唱。でもみゆな、まだ未成年。ファンキーなベースがリードするダンス・チューン「天上天下」は、みゆなもオーディエンスもステップを踏んで盛り上がる。痛快この上ない「自分応援ソング」を、ここにいる誰もが自分のことのように一緒に歌う。みゆなの歌は、届いている。
みゆな 撮影=上飯坂一
「嫌なことがあったら、逃げてもいい。でも帰ってくる場所を作ってください。私はみんなのために歌ってます」
本編最後に歌われたのは、ミニアルバム『ユラレル』のラストを飾った「生きなきゃ」だった。1曲目「ユラレル」と同じく幽玄なエレクトロ・サウンドから始まり、後半は強烈にラウドでエモーショナルなロック・バラードへと展開する、ドラマチックな大曲。今歩いてる道に後悔はあるのかい? 生きなきゃ。痛切な思いを乗せた、生々しい言葉が突き刺さる。どぎついようで、心底は優しい言葉たち。歌詞を知らなくても全てがちゃんと耳に届く、みゆなのライブにはメッセージがある。
みゆな 撮影=上飯坂一
「曲決めてないんだけど。何やります?」
アンコール、グッズのパーカーを着込んで登場したみゆなが、笑顔で呼びかける。飛び交うリクエストの中、「埋葬!」という声を拾って突っ込みながらも、やる気満々のみゆな。「じゃあ、手拍子バージョンで!」と、猛烈に激しい曲なのに、無理やりノリノリの手拍子と満面の笑みを添えたパフォーマンスが、なんともシュールで可笑しい。そしてかっこいい。「初心を忘れず、これからも精進していきます」。ぺこりと頭を下げたみゆなに、あたたかい拍手が贈られる。喜怒哀楽をかき混ぜて、エレクトロもロックもR&Bもフォークも飲み込んだ、力強い音に乗せて思いきりぶっ放す。そしてこの、圧倒的なボーカル力。初めて観るみゆなのライブには、解説無用のカオスのパワーがあった。
実は直前に声帯を腫らし、この日まで絶不調だったらしい。しかしリハーサルで思い切り歌えたことで吹っ切れたという、その歌声は最後までパワフルなままだった。おや、終演のアナウンスも本人だ。やっぱり声が弾んでる。最初から最後まで、ここにいる全員を楽しませたいという思い溢れる90分。音源や映像で強調される、ダークで攻撃的な一面だけがみゆなじゃない。やはりライブを観ないとわからない。この声とこの歌で、まだ17歳の高校生。みゆなの未来には、楽しみしかない。
取材・文=宮本英夫 撮影=上飯坂一