odolが到達した、ライブと舞台、実像と映像が混じり合う無二の音楽体験
odol 撮影=小田部 伶
odol ONE-MAN LIVE 2019 “individuals” 2019.12.22 渋谷WWW
「odolがずっと模索してきたライブのあり方、ひとつの完成形を作ることができました」――ほぼノンストップでMCらしいMCのなかった本編を終え、アンコールを促されて登場した際に、森山公稀(Pf/Syn)が話した言葉だ。年末恒例となってきたWWWでのワンマンは今年で3度目、年末のワンマンという意味では4回目を迎える。
今年は過去曲を再構築するアプローチ“Rework Series”の第一弾として「狭い部屋」をデジタルリリースしたり、中国ツアー、アース製薬「温泡」のCMのために書き下ろした新曲「身体」のデジタルリリース、また、ミゾベリョウ(Vo/Gt)が相鉄都心直通記念ムービーの楽曲、「ばらの花」(くるり)×「ネイティブダンサー」(サカナクション)のマッシュアップ曲に、yui(FLOWER FLOWER)と共に歌唱で参加したことも記憶に新しい。また7月のワンマンでギターの早川知輝が脱退。10月の自主企画『O/g』からは5人体制のライブを見せるなど、良い意味で今のodolのライブ・アレンジや今後の楽曲を模索し、実際に表現するプロセスそのものに意義があった1年だと総括できるだろう。
odol 撮影=小田部 伶
その集大成として彼らが選択したのが、今回の“individuals”と名付けられたライブだ。これまでもファンから上がっていた、odolのライブが舞台や一本の映画のようだという感想、いわゆるテンプレのロックバンドのステージングではないという特徴により特化したもので、今回の演出を担当する石向洋祐(POOL inc.)との対談の一部やティザーが事前に公開され、おそらくライブハウス規模では珍しい体験となるであろうことを予感させていた。
odol 撮影=小田部 伶
開演前のBGMは今回の“individuals”のために森山が制作したアンビエントなインスト。ステージ上には薄い布状のもので囲まれた立方体が据えられ、前面にはライブ・タイトルが投影され揺らいでいる。内部にはスタンドランプ、素朴な椅子など部屋をイメージさせる小道具が並ぶ。楽器はというと、ステージ上手にギターとドラム、下手にベースとキーボードという、ちょっとオーケストラピットのような雰囲気だ。緩やかに暗転した場内。ステージのメンバーが現れ、BGMに続くようにアレンジされたイントロから「人の海へ」が演奏される。
odol 撮影=小田部 伶
立方体には、渋谷のスクランブル交差点だろうか。まさに人の海とリンクするモノクロの映像が投影される。そしてミゾベは声だけで姿は見えない。まるで人の海に埋れているような演出だ。続く「GREEN」ではミゾベが囲いの中にいるのか映像なのか、遠目にはわかりづらい照明。というのも姿はあるものの、人物がまるでバグったように部分的に見えたり見えなかったりする。一瞬、SIAのステージを思い出してしまった。1曲目からそうなのだが、実物の不在がむしろ曲や歌を際立たせる。そして、不思議なもので演奏するメンバーが黒子に徹するほど、4人が今どんな音を出しているのかに集中できる。
odol 撮影=小田部 伶
odol 撮影=小田部 伶
一言でスタイリッシュな映像とも言い切れない面白さがあったのが、「狭い部屋」のタイトルをホラー調の赤い文字で投影した瞬間。誰も笑いはしなかったと思うが、個人的にはユーモアを感じた場面だ。囲いの中でギターを弾き歌うミゾベは文字通り狭い部屋にいる。楽曲の視覚化はここで最もわかりやすい形を迎え、すでに自分がこの状況に慣れていることを実感した。だが、メンバーはいつも以上にモニタリングを頼りにアンサンブルが崩壊しないよう、緊張感のある演奏をしているように見える。井上拓哉(Gt/Syn)がシューゲイザー色の強いソロを弾く「愛している」も、熱量に任せたものではなく、ギターによるオーケストレーションのようで、きちっと尺が決まっていたのではないだろうか。
odol 撮影=小田部 伶
ミゾベのパラノイアックな動きもよりパフォーマンス的だった「four eyes」もダンスチューンというより、限られた空間を意識させ、少し懐かしいはずのナンバー「飾りすぎていた」もアレンジをグッとアップデートすることでどの曲もリリース時期を意識させない今のodolの解釈が貫かれていた。そこも時間を経過してきたライブ・アレンジに対する成果だろう。
odol 撮影=小田部 伶
ミゾベが囲いの中から外に出たのが、始まりの季節を思わせる「時間と距離と僕らの旅」だというのも腑に落ちる。そこで舞台を見るような緊張感から少しだけ解き放たれて、素朴な音像が立ち上がる新曲「身体」へ。ここでようやくメンバーの姿が見えるぐらいの照明に変化したことが、まさに「身体」で感じられる温もりとリンクするようで、よりステージと楽曲に集中できた。今聴くと架空の民話的なメロディに感じる「虹の端」が珍しく披露されたのも嬉しい。
odol 撮影=小田部 伶
モノクロの夜景とリフレインされるピアノ、ファルセットで通すミゾベのボーカルが情景に添えられるト書きのように感じられる「声」も、映像との相性が良い。最低限の音数で曲を推進する楽器隊の中でも垣守翔真(Dr)の繊細なハイハットワークやスネアの効果的な音色など、リズム楽器以外の聴かせ方が洗練されてきた。ここまで12曲、シームレスに一つの物語のように繋がってきたライブ。「声」のアウトロでの残響が鳴る中で、以前も今も暗闇に光を見つけて安堵するようなキーボードの音が響く。モールス信号のようなあの単音から、ラストに「夜を抜ければ」が丁寧に流れ込んできた。垣守とShaikh Sofian(Ba)のタフなリズムも音の良さが曲の推進力になっている。一時期、本編ラストの定番だったこの曲を久しぶりにラストに配置していたのだが、明快にステージが明るくなる演出は、夜を抜けて見えなかったものが見えてくる体感を得られる仕組みだったんじゃないだろうか。
odol 撮影=小田部 伶
アンコールは一幕の舞台に対するカーテンコールのように、オーディエンスも思いを素直に溢れさせ、身体を揺らす、いわゆる“ライブ”の様相に変化。本編では拍手をするタイミングもない演出で、それを存分に楽しんだ後のステージとフロア双方の気持ちの交換だ。今回のライブを通して見えたもの、それは演出を凝らすことで逆に1曲1曲を濃厚に伝えられるということ。受け取ったアイデアを能動的に形にするodolというバンドのフラットな勇気に力づけられた。
取材・文=石角友香 撮影=小田部 伶
odol 撮影=小田部 伶
セットリスト
1. 人の海で
2. GREEN
3. 狭い部屋
4. 愛している
5. four eyes
6. 飾りすぎていた
7. 大人になって
8. 時間と距離と僕らの旅
9. 身体
10. 虹の端
11. 眺め
12. 声
13. 夜を抜ければ
[ENCORE]
14. 憧れ
15. 生活