変わる『フジロック』、参加者はどうする？

『FUJI ROCK FESTIVAL』（以下、フジロック）が1月31日にオフィシャルサイトで表明したマナー向上に関する新たな取り決めについて、SNSやブログなどのインターネット上で大きな話題を呼んでいる。

同時に発表された販売スケジュールの話題が霞むほどにまで反響を巻き起こしているのは、『FESTIVAL CRISIS 〜だから互いに変わる・変える〜』と題した声明文と会場内への持ち込み禁止物、会場内での禁止行為、そしてフェスティバルに関する注意事項の4つだ。

そもそも、なぜこんなことがアナウンスされたのだろうか。まずは「購入前に」と書かれたマナー向上についての声明文からみていこう。

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■購入前に
〜マナー向上・お互いに変わる〜

注意事項やマナーを守れない方のご来場はお断り致します。
また、事務局が運営上必要と判断した場合、その告知時期・方法に関わらずルールや注意事項を変更する場合がございますので予めご了承下さい。
尚、購入後の払い戻しは一切行いません。注意事項やルールをご理解の上、をご購入下さい。

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CRISIS（クライシス）とは“危機”の意味。よって「フェスは危機に瀕している。だからお互い変わろうよ」という呼びかけに始まり、冒頭から強制退場を辞さない構えを見せていることからは、注意事項やマナーを守れない人がよっぽど多かったのだろうと理解できる。かねてから『フジロック』はわりと強めな調子で注意事項を列挙していたという印象があるけれど、今回のように前面に押し出す形は初めてではないだろうか。

■『フジロック』が禁止した「モノ」と「行為」

続いて、『フジロック』が今回禁止したモノと行為を改めてみてみよう。

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□会場内持ち込み禁止物
◎組立式X型アウトドアチェア（ヘリノックス等）
◎傘
◎多くのスペースを占有するシートや設置物・視界を遮る設置物等
《対象となる物》
・ブルーシート他、利用人数に見合わないスペースを要する敷物
・タープ・パラソル・サンシェード・テント（キャンプサイト除く）その他、視界を遮る設置物
◎持ち帰らないシート・椅子・テント・キャンプ備品等ゴミとなるもの
◎録音機器
◎ビン・缶類（クーラーボックスに入れての持ち込みも不可）
◎花火等の火薬類
◎この他、動物(ペット類全般) 、法律で禁止されている物、危険物全般

□会場内禁止行為
◎歩きタバコ、混雑場所での喫煙、禁煙エリアでの喫煙
《禁煙エリア》
モッシュピット / 各ステージ音響ハウス・照明タワーより前方 / KIDS LAND / RED MARQUEEエリア内全域（テント外含む） / BLUE GALAXY / ORANGE CAFE / CRYSTAL PALACE TENT / STONED CIRCLE / Cafe de Paris / 優先テント内
◎周りに危害を与える行為（モッシュ、ダイブ等の危険行為の他、たたんでいない椅子等の突起物を伴う荷物の持ち運び）
◎ゴミの放置やポイ捨て
◎持ち込んだ椅子やシート、テント等備品類の置き去り行為
◎椅子やシートの放置・場所取り行為
◎禁止エリアでの椅子・シートの利用
《利用禁止エリア》
・RED MARQUEEエリア内全域（テント外も含む）
・各ステージ音響ハウス・照明タワーより前方、モッシュピット
◎出演アーティストの撮影・録音・録画行為

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これらのうち８割はもともと禁止されていたのだが、それを知っている人も知らない人も度肝を抜かれたのは新たに禁止された「ヘリノックス等の椅子」だろう。中には椅子の持ち込み使用が全面禁止されたと読み違いをしている人も少なからずいるようだがそうではない。また、ここ数年の『フジロック』参加者ならば、なぜヘリノックスがピンポイントで禁止になったのかの理由が分からない人はいないと思うが、しばらく参加していない人やこれから参加を考えている人にはヘリノックスの何が問題なのか分からないかもしれないので説明すると、禁止されている「周りに危害を与える行為」にある「たたんでいない椅子等の突起物を伴う荷物の持ち運び」の項目に該当するのがヘリノックスタイプの椅子であり、それらをたたまずに持ち歩く行為が問題なのである。

近年、軽くて座り心地のいいヘリノックスやそれに似たタイプの椅子を背負ったり、頭にかぶったりして場内を移動する人が大変多く、混雑時や日暮れ以降は前を歩く人や前から来る人が持ち運んでいるその椅子の細くて堅い脚が体にぶつかったり、目に突き刺さりそうになったりと大変危険なのだ。

それに対し、これまで『フジロック』が何もしてこなかったわけではない。『フジロック』の公式SNSはもちろんのこと、キャンプよろず相談所やフリーペーパー『フェスエコ』を通じて再三にわたり「畳んで持ち歩こう」と畳む方法まで図解して呼びかけてきた。その努力むなしく、そうした危険行為を他の来場者への配慮なしに平然とやってしまえる残念な人たちが年々増加していき、個人の声かけなどで注意してどうにかなるレベルではない規模の大人数がマナーの悪い人たちとして存在していた。もしかするとその数が多すぎて、自分がしていることが危険な行為であることに気がつかない人さえいたかもしれない。

一方で、そうしたマナーの悪い人たち以上に多くいたはずの毎回きちんと畳んで持ち歩いていたヘリノックス愛用者の参加者たちからすれば、今回の決定にはやるせない気持ちでいっぱいだろう。それでもやはり、誰かが失明したり傷ついてしまってからでは遅いのだから仕方のない判断だったとしか言いようがない。また、これまでも歩きタバコは禁止されてきたが、禁煙エリアが明記されたのは初めてのことだ。愛煙家には少々面倒なルールかもしれないが、これもまた時代の移り変わりの余波が苗場まで到達してしまったということだろう。その他、ここでは言及しなかった項目含めた全項目には禁止された理由がしっかりと明記されているので詳しく知りたい人はオフィシャルサイトで確認してほしい。

これまでの『フジロック』ではマナーや会場内での行為についての大部分を参加者に委ね、参加者の自由を尊重する形式を取ってきていた。もちろん最低限の禁止事項はあったが、それらは今回のような誰でもわかる事細かな説明もなく20年以上運営されてきていた。裏を返せば、参加者の自己責任能力の高さやマナーの良さによって守られてきた空間でもあったわけだ。しかしながら、著名な音楽ライターやメディア、そして一般の参加者らが指摘してきた誰の目にも明らかだった迷惑行為や危険行為などの問題ひとつひとつを禁止、または注意事項を守れない場合は退場させることも辞さないという強固な姿勢をとることで、ある参加者がある参加者の自由を意図せず奪うことや、意図せず危害を与えてしまうような危険行為を未然に防ぎ、安全が優先されたことになる。そしてマナーが悪い人が得る有益さを野放しにすることなく、マナー良く楽しむ人たちを守るためにルール改定が為されたことが『フジロック』が変わり、変えるということなのかもしれない。

では、私たち参加者はどうしていくのか。

■主催者、参加者が共に作り上げるフェスティバル、それが『フジロック』です

中には禁止された持ち込み物や行為のほとんどと無縁の人も多くいるだろうし、ルールを守って使っていたモノが禁止されたことで買い換える必要が出た人もいるだろう。また、今回主催者側がルールや注意事項を明白にしたことで、参加者同士のトラブルも激減すると予想できる。

そもそも禁止行為をする人には『フジロック』に対する愛はなく、特定のアーティストへの愛をもって参加するのだと思う。そうした人とフェスを愛する人の温度差は否めないし融和することもない気もするが、お互いがストレスをなくして安全に楽しめるように、最低限のマナーとルールは守りたいところだ。だからこそ、今回規定されたルールを振りかざして他人を批判したり、主催者任せにするのではなく、参加者同士でも「これ、禁止だよ」と気軽に教えてあげるためのコミュニケーション・ツールとして使いこなせたら理想的だろう。

毎年オフィシャルサイトに掲げられる「フジロックとは」のメニューの先には『フジロック』の成り立ちが記されている。その文章を締めくくる言葉は「主催者、参加者が共に作り上げるフェスティバル、それがフジロックです」だ。
求めるばかりで何もしないのでは始まらない。だからまずは今回のおふれと、同時に「自分のことは自分で」「助け合い・譲り合い」「自然を敬う」の『フジロック』３原則を周知することに注力しようではないか。そして「なんでヘリノックスダメなの？」から始まって、参加する全員が個々にその理由を知り、考え、理解することをしていけば、『フジロック』はもっと快適で素晴らしいフェスへと変わるはずだ。自分が『フジロック』を楽しみ、他人と自然に迷惑をかけない。これが『フジロック』のマナー向上への第一歩になると信じて、皆でやってみないか？

そんな『フジロック』の3日通し券を最もリーズナブルに入手できる『期間限定早い割引（早期割引）』は、2月10日から受付開始となる。今年参加予定の人は今回発表された内容をよく確認してから、自分の参加スタイルに合うを見つけて入手してほしい。

文＝早乙女‘dorami’ゆうこ