第27回読売演劇大賞贈賞式開催  橋爪功、菅田将暉は笑顔で、神野三鈴は蒼井優と涙! 松たか子はガッツポーズ!

2020.2.29
レポート
舞台

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第27回読売演劇大賞の贈賞式が2020年2月28日(金)東京・帝国ホテルにて高円宮妃殿下ご臨席のもと、開催された。

本賞は、1994年に創刊120周年を迎えた読売新聞の記念事業として創設。1月から12月までの通年単位で国内で上演された舞台作品から、すぐれた舞台作品・演劇人を顕彰するもの。日本文化の発展促進のため、古典から現代劇までを網羅したなかから選考。9名の選考委員が選んだ候補者・作品の中から演劇関係者108人による投票を行い、それをもとに最終選考会で決定される。表彰部門は「大賞」「部門最優秀賞」(最優秀作品賞、最優秀男優賞、最優秀女優賞、最優秀演出家賞)「最優秀スタッフ賞」「杉村春子賞(新人賞)」「芸術栄誉賞」。正賞受賞者には、各部門とも彫刻家・佐藤忠良氏作のブロンズ像「蒼穹」。副賞は大賞受賞者に200万円、それ以外の最優秀賞・杉村春子賞・芸術栄誉賞の受賞者に各100万円、各部門優秀賞には、記念のトロフィーと賞金10万円が贈呈される。

今年の贈賞式は新型コロナウイルスの拡大をうけ、入場前には手洗い、うがい、アルコール消毒はもちろん、入口傍には「サーモグラフィー」が設置されるという厳戒態勢の中行われた。会場内では登壇者、来賓、報道陣、館内スタッフすべてがマスク着用を義務付けられ、高円宮妃殿下でさえもマスク着用で式典に臨まれた。また贈賞式後の立食の懇親パーティーも、27回目にして初めて割愛された。

高円宮妃殿下

開会冒頭で、高円宮妃殿下は新型コロナウイルスで亡くなった方への哀悼のお言葉を述べつつ、“ショーマストゴーオン”という想いのもと作品を作った受賞者への祝いの言葉を述べられた。お言葉の中で「毎年のように言っておりますが、昨年私が観た作品が一つも(受賞作品に)入っていません(笑)。今年は(受賞しそうな作品の)情報提供をよろしくお願いいたします」と茶目っ気たっぷりで語り、会場の空気を一気に和ませていた。

■杉村春子賞:菅田将暉(『カリギュラ』の演技)

菅田将暉


松下洸平

プレゼンターとして登壇したのは昨年同賞を受賞した松下洸平。松下は「『カリギュラ』の東京千秋楽を観劇しました。感動という言葉では言い表せないぐらい、感動を飛び越して胸が痛かったです。苦しくて苦しくて。そういう作品に巡り会えることはそうたくさんあることではないでしょうし、そんな作品を作り上げた演出の栗山さんと、なによりカリギュラ役を演じた菅田将暉さんに“完敗”という感じでした」と感想を語った。

松下からブロンズ像を受け取った菅田がやや緊張した表情で挨拶を始めた。
「この度は、このような賞をいただき本当にありがとうございます。普段、作品が終わるとすぐに忘れるんですけど、この『カリギュラ』は終わって数ヶ月経つ今でも台詞とかが頭にこびりついていまして……最近はちょっとうんざりするぐらいだったんですけど、それぐらい、身体と心に残る作品と出会えたことに感謝です。何よりも、稽古場からすごく楽しい現場でした。栗山さん、キャストの皆さんが自由にやらせてくださったことが、このような賞に繋がったことに心から感謝したいと思っています。これからも、ただただお芝居をできることに感謝をして、自分らしく、楽しく、自由にやっていきたいなと思います」

■選考委員会特別賞:岡田利規(『プラータナー:憑依のポートレート』の演出)

岡田利規

この日、地方公演のため式典に来れず、VTRでの出演となった。岡田は受賞のお礼と共にプラータナーに携わったタイ人の俳優たちを一人ずつニックネームで呼び上げて彼らを称賛していた。

■最優秀スタッフ賞:服部基(『チャイメリカ』『組曲虐殺』の照明)

上田大樹

プレゼンターで登場した上田大樹は昨年映像スタッフとして初めて受賞。「服部さんの照明は作品を深く掘り下げる照明。そして美しい。ファンのように想いながら一緒にお仕事をしています」

優秀スタッフ賞受賞者(笠原俊幸、鈴木光介、塚原悠也(代理)、土岐研一)

服部基

服部「私は出演者にスポット、光を投げかけるのが仕事ですが、こうやって自分に光が当てられるのは恥ずかしいです。なんとなく居心地が悪いですね。今回の2作は栗山民也さんとご一緒しましたが、栗山さんは劇場に入る前から照明の効果をかなり緻密に考えていらしたので、劇場に入ってからハードルが高く、バタバタ、トライandエラーを一生懸命やってやってきました。今回このような賞をいただいたのは観客に作品として届けるスタッフを代表してもらえたんだと思っています。本当に幸せです」と笑顔でコメントした。

■最優秀演出家賞:松本祐子(『スリーウインターズ』『ヒトハミナ、ヒトナミノ』の演出)

松本祐子


栗山民也

プレゼンターは昨年の受賞者、栗山民也。「お友達がいっぱいでものすごく嬉しいです。昨年12月、銃弾に倒れた中村哲さんの言葉ですが『誰かのために』。その言葉がずっと胸に残っています。松本祐子おめでとう!」

優秀演出家賞(左から瀬戸山美咲、野田秀樹(代理)、蓬莱竜太)

松本は受賞のお礼を述べつつ「今、中止や延期を余儀なくされている演劇人がたくさんいる中で、今日ここに多くの方が集まられたのはありがたいことです。この仕事を始めてから22年。素晴らしいスタッフと観に来てくださった観客の皆さんのおかげです。特に濃厚に携わったこの2作品、小さな小劇場の作品でも評価されたことが嬉しいです。2作品の劇作家との出会いがこの場所に連れてきてくれたんだと思います。心の痛みに敏感に反応してそこをえぐった作品です。これからも人の心の価値観に刺激を与えられるような作品を地道に作っていきたいです」と語った。

■最優秀女優賞:神野三鈴(『組曲虐殺』『マクベス』の演技)

神野三鈴

神野さんからもらったネックレスを見せる蒼井優

プレゼンターは昨年の受賞者、蒼井優。「私は神野三鈴さんとしかお仕事をしたことがないのですが、神野さんは私にとって希望の女優さんです。昨年私が受賞した時にこのネックレスをいただき『来年は優からもらうのは私しかいない』って言ってくれて(笑)。賞がすべてではないのですが、私から受け取ってもいいと言ってくれる素晴らしい先輩にこれからも必死に、神野さんにくらいついていけたら。(他の受賞者に向けて)いつか共演させていただける日が来るのを楽しみにしています」

優秀女優賞(左から枝元萌、クリスタル・ケイ、増子倭文江、若村麻由美)

ブロンズ像を渡した直後感極まり涙する神野さんと蒼井さん

神野は涙ぐみながら「大好きな優からこの賞をいただけて幸せです。選んでくださったすべての方、ありがとうございました。そして今日、(パーティーが無くなり)美味しいお寿司を食べれなくても(笑)受賞された方への愛と演劇への情熱でこの状況下でこんなに集まってくださった皆様に心からお礼申し上げます。今日は来れなかった井上芳雄くんから『こんな時だからこそ、演劇のすばらしさを、そして作り上げた人たちの努力をたたえるように過ごしてください』とメールがありました。今日、ここで時間を過ごせばきっと免疫力が上がると思います(笑)。『組曲虐殺』は再々演で初めて役に向き合えたと思います。再演のことは井上ひさし先生を失った思いが強く、思い出せません。(目の前に座る栗山を見て)稽古中みたいで目が合うのが凄い嫌です(笑)。皆が力を合わせて作り上げたこの作品は才能以上の何かが生まれたと思います。そして『マクベス』ではベリャコーヴィッチさんはじめ、初めてご一緒した劇団東演の皆さまとご一緒出来たことが嬉しいです。栗山さんとベリャコーヴィッチさんには共通点があると思います。それは小さなかき消されそうな声に光を当てて大きなものに戦いを挑む姿。そしてお二人はその表現として演劇を選ばれたということです。この意味を考えながらこれからも続けていきたいです」

■最優秀作品賞:「『Q』:A Night At The Kabuki」(NODA・MAP)

野田秀樹

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

プレゼンターは昨年の受賞者、ケラリーノ・サンドロヴィッチ。「マスクマスクマスク。凄い景色ですね(笑)。今私は来年の最優秀作品賞となる作品の稽古をしており、日夜役者たちと濃厚接触しながら(笑)頑張っています。昨日一昨日とうちの劇団員が出演する公演が、稽古をすべて終えて劇場に入った段階で中止が決まったそうで泣きながら……いや、メールに(泣)って書いてあったんですが、悔しいと。僕らも稽古をしながら、はたしてこれは上演できるのかなと思いながらやっている異常な事態です。でも演劇というもののためにこうやってマスクをしながら集まっていることは心強いですし、震災の時にも思いましたが、上演出来ることは当たり前のことではないんだな、と痛感しています。これを乗り越えて作品を作っていきたいので、観に来ていただいたり、応援していただきたいです」

優秀作品賞( 『Le Pere 父』ラディスラス・ショラー、 『人形の家 PART2』佐藤玄、 『スリーウインターズ』南一恵、 『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』板垣恭一)

松たか子

受賞した『Q』の野田秀樹は現在ニューヨークでの公演に同行しているので、代理で出演者の松たか子がブロンズ像を受け取った。松は「野田さんが日本にいないばっかりに、何の間違いか私が受け取らせていただきました、大変名誉なことだと思っております。『Q』は野田さんがインスピレーションしてQueenが残したアルバムをもとに、想像力を最大限に使って、ワークショップ、稽古、本番を通してもずっと進化し続けることができた芝居かなあと思います。私もその中の一人で一生懸命やったつもりですが、まだまだだなあと思うことも多くて、またこの賞をいただいたことで一から歩き出したいなと思います。これからも観て良かったなあと思う芝居をやったり、観なきゃ良かったなあと思うくらいの衝撃を持つお芝居に出会えるように頑張ります」とコメントし、ガッツポーズ。

ガッツポーズ!

そして野田からはVTRでメッセージが寄せられた。「9年ぶりにお待ち申し上げておりました。受賞出来て嬉しいです(笑)。今回受賞された方々は皆昔からよく知っている方ばかりなので、嬉しいです。是非そっちに行って喜びを味わいたいのですがこんなことになってしまいました。橋爪功さんの作品は一度台本を拝見した時『これは橋爪さんがいい』と思って橋爪さんにオファーしたんですが、あの時橋爪さんが断っていたら『Q』が大賞を取れたのでは、と狭い心を持ってしまいました。改めて橋爪さんおめでとうございます。『Q』は今回特に時間をかけて取り組んだのでキャスト・スタッフに感謝しています。今回新作で受賞となりましたが、長い期間をかけて演じられてきた『古典』と肩を並べて戦わなければならなくて、同時に日本に届く海外の『新作』も時間を淘汰し、いい作品が届く。それらと戦わないとならない日本の新作に光を与えてくれることに心から感謝しています」

■芸術栄誉賞:『キャッツ』劇団四季

吉田智誉樹

吉田智誉樹・劇団四季社長が代表してブロンズ像を受け取った。
「私がこの受賞の報をいただいたのはお得意先との会食の最中でして、受賞の知らせに『え、嘘だろ!』と驚きまして、またそのメールには私がここで代表して受賞されてきて、とあったんですが、これには違和感があり。というのも私が劇団四季に参加したのは1987年『キャッツ』の初演は1983年。私が入った時には東京、大阪公演を終え、南新宿でやってました再演の千秋楽前でした。だから大江健三郎さんの小説で言うならば『遅れてきた青年』で、そんな私でいいのかなと。この作品が受賞できたのは多くの先輩たちのおかげ。ちょっと計算してみたら出演者と裏方がそれぞれ500人ずついる事がわかり、合計1000人がこの舞台を支えていた。さらに舞台を支えてくれた人達は数え切れません。その方々に贈られた賞だと思います。何よりも貢献者は浅利慶太さん。この賞を受賞してどういうか、と想像したんですが「キャッツはまだまだ現役だぞ。この賞をもらったからといって歩みを止めるな」と私たちには言うんじゃないかなと思っています」

■大賞・最優秀男優賞:橋爪功(『Le Pere 父』の演技)

橋爪功

岡本健一

プレゼンターは昨年最優秀男優賞を受賞した岡本健一。「昨年の今日、ここで受賞しました。皆さん思っていることかと思いますが、賞を取るために仕事をしている訳ではない。そんなことは考えず良い作品を作っていきたいと僕も考えていますが、いざ賞をいただくと自分一人ではなく、キャスト、スタッフいろいろな方に支えられ、そしてお客さんの力でいただいたんだな、と。昨年は『海辺のカフカ』はじめ4作品に出演し、どれも素晴らしくて『これはもしかするとまた賞を受賞しちゃうかも』と思っていたんですが、そういう時は受賞しないんですよね(笑)。舞台には人の人生を変える力があり、人と人とのふれあいを感じる場だと思っています。あと、これは拡散してもいいですが、うがいは一度、目は口の中をゆすいで出し、2回目からうがいをするのがいいんですって(笑)本日はおめでとうございました」とコロナウイルス対策までアドバイスしつつ挨拶を締めくくった。

優秀男優賞(左から菅田将暉、平田満、水谷貞雄、山西惇)

受賞した橋爪は「年甲斐もなく誇らしい想いであれこれ考えていたんですが、何を話すか忘れてしまいました(笑)。上演してから1年以上経つんですが、よくぞ覚えていてくださいました。私も高齢者で肩身が狭い想いをしていますが、今回のウイルスは高齢者が狙われると言われてますし、せっかくの場ですからもらえるものはもらっておきたいと思いここに来ました(笑)。野田(秀樹)が何か言ってましたが、確かにこの作品を紹介してくれたのは野田。ただ彼、いや奴はニューヨークに行っている。一方ラッドはフランスからわざわざ来てくれた。彼に最優秀作品賞をあげたいなと。今から変更はできないのかと。野田は不届きな奴。出国できないんじゃないかなと(笑)。三鈴ちゃんおめでとう(ありがとう! と神野が答える)、菅田くんもおめでとう!(ありがとうございます! と答えた菅田が神野とは逆側の下手にいたので「あれ、あ、こっちか」と振り向いて笑う橋爪)二人とは仕事をする機会があって、菅田くんは数式を黒板に書きまくる場面で『こいつは天才だな』と思いました。そして妻の弥生がこの受賞の電話を受けてくれたんですが、『よかったねえ、お父さん』と言ってくれたのがいちばん嬉しかったです。ありがとう弥生!」

橋爪さんと語らう皆さん

小曽根真

式典の最後はパフォーマンスとして神野の夫であり、『組曲虐殺』の舞台で生演奏をしていたジャズピアニストの小曽根真がピアノ演奏を披露してお開きとなった。

【おまけ】
サーモグラフィー初体験! 読売新聞社の式典にかける“本気”を感じました。

こんな風に映し出されていました

取材・文・撮影=こむらさき

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