グラフィティ・アーティストとしてではない、バンクシーの魅力とは? 『バンクシー展』主催者インタビュー

2020.3.10
インタビュー
アート

『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』展示風景(イメージ)

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2018年以降、世界各国で100万人以上を動員している展覧会『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』(以下、『バンクシー展』)が、今春、日本に初上陸する。
バンクシーはイギリスを拠点に活動する匿名のアーティスト。ステンシルを使用したグラフィティに風刺を込め、世界各地のストリート、壁、橋などに作品を残している。戦争、環境、貧困問題など、社会問題に根ざした批評的な作品が評価されるほか、テーマパークやホテル、映画の制作なども手掛けている。
今回、本展覧会キュレーター兼プロデューサーであるIQ ART MANAGEMENT CORP代表のアレクサンダー・ナチケビア氏に、バンクシーと『バンクシー展』の魅力について話を聞いた。

『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』キュレーター兼プロデューサーのアレクサンダー・ナチケビア氏

──まずは『バンクシー展』の構成や内容について教えてください。

バンクシーのオリジナル作品を70点ほど展示します。ほかにも立体オブジェクトや限定プリントの展示や、映像でバンクシーを紹介するマルチメディアな体験空間も予定しています。

──バンクシーはストリート・アーティストという印象が強いですが、70点ものオリジナル作品をどのようにして集めたのですか?

バンクシーは実はキャリアの初期からアートワークを販売しています。ストリート・アーティストという印象が強いかもしれませんが、現在でもバンクシー自身がアートワークを制作しています。多くのコレクターが購入しているので、連絡をとって作品を預けてくれるよう頼みました。まず初めにロシアで展覧会をした際、コレクターの人たちは、本当に自分たちのコレクションが戻ってくるのか半信半疑だったようです。ロシアで成功してからは、みなさん信頼して預けてくださるようになりました。

──ロシアでの展覧会は、どのような反響でしたか?

3ヵ月弱で30万人の来場者が訪れ、多くの感想をいただきました。バンクシーが多面的でとても驚いたというコメントが特に多かったですね。バンクシーがグラフィティ・アーティストとして路上でアートを描くだけでなく、優れた現代アーティストとしてスタジオでも作品を描いていることを知らない人が多いようでした。

──今回の展覧会は、主催者としてどのような意図・メッセージを込めているのでしょう?

人々は、壁に掛けられただけのアートなんてもはや見たくないと思っているのではないでしょうか。何らかの形でアートの一部になりたい、感情を共有したいと思っていると。そこで、この展覧会は、来場者をバンクシーの世界に案内するような展示構成になっています。

例えば、展示構成の一つを「アーティスト・スタジオ」と呼んでいます。それは映画『イグジット・スルー・ザ・ギフト・ショップ』の中で紹介されている「スタジオ・バンクシー」を再現したものです。そこにバンクシーの姿があるのですが、顔はありません。この姿を見た人は最初「これはなんだろう?」という顔をします。でもその後、バンクシーが誰なのか、誰も知らないことに気づくのです。一体、どんな顔をつければよかったのでしょうか? この“謎”こそ、彼のアーティストとしてのコンセプトの大部分を占めているのだと思いますね。

アーティスト・スタジオ

二つ目の目的は、プリント作品についても伝えたいと思っています。これが何なのかを知っている人はほとんどいないのではないでしょうか。アーティストが自分の原画と同じものを自身の手で作った限定版プリントのことですが、原画との違いは、特殊な技術を使ってプリントし、限定版にしているところです。珍しいものではなく、永遠と作り続けられています。

──それは、バンクシーだけではなく他のアーティストも作っているのでしょうか。

《モナ・リザ》のプリント作品が数点ありますし、マレーヴィチの絵画のものもあります。近年になって、アートプリントは技術も向上し、完成度が高くなりました。今回はそのような側面も展覧会で伝えていきたいなと思っています。

──では、アートとはつまりどういうものなのでしょうか。

実際の作品には、イメージだけではなくエネルギーやオーラがありますよね。アート作品はアーティストのソウルの一部です。バンクシーの作品の写真はインターネットで何百万回と見られますが、原画を見る機会があれば、そちらを見に行きたいと思う方が多いと思います。原画を見て、感じたいからではないでしょうか。

──そういう意味では、日本人はほとんど実際のバンクシー作品を見たことがないので、とても楽しみです。

路上に描かれたバンクシーの作品の寿命はとても短いです。私はパリを訪れる度に、バンクシーの素晴らしいアートワークを見て回りますが、最近見に行ったら、何点かは上塗りされていました。今回の展示会で重要なのは、何よりバンクシーのアートを生で見られることですね。

──今回来日する作品のなかで、特におすすめの作品はありますか?

《ベリー・リトル・ヘルプス(Very Little Helps)》(ほとんど何の役にも立たない)という作品があります。鑑定書には、『パンツはほぼ何の助けにもならない』(“Very little helps pants”)と書かれているのです。

なぜこのようなことが書かれているかというと、面白いエピソードがあります。イギリスのとある企業による試みで、有名人に普段着ている下着を提供してもらい、オークションに出品し、その売上を慈善団体に寄付するというものがありました。その企業はバンクシーと連絡を取り、彼のパンツを提供してもらえないか尋ねました。すると、バンクシーはパンツの代わりに、このパンツの作品を企業に送ったのだそうです。バンクシーが添えた手紙にはこう書かれています。「残念ですが、私の洋服ダンスにはきれいな下着がありませんでした。パンツの代わりにこのアートワークをお送りします。これを売って、慈善団体に寄付してください」。この企業は、彼のアートワークを高値で売って、慈善団体に寄付したそうです。

《ベリー・リトル・ヘルプス》

──とてもバンクシーらしい作品ですね。

はい、私もそう思います。

──バンクシーの作品のテーマは多岐にわたると聞いていますが、その他にどのようなテーマの作品があるのでしょうか。

例えば《ナパーム(Napalm)》という作品があります。この作品には、ニック・ウト(Nick Ut)という報道写真家がベトナム戦争で撮った有名な写真が使われています。写真に写っている少女はナパーム弾でやけどをして、服はすべて焼け落ちています。

バンクシーはこの写真を使用し、少女の両隣にロナルド・マクドナルドとミッキーマウスを配置しました。一体、どんなメッセージを伝えているのでしょうか?

──マクドナルドとミッキーに挟まれて泣いている子ども、という構図はなんともショッキングですね。

これがバンクシーの手法の一つなのです。イメージを吸収し、なぜそれがこの世界で起きているのかを気付かせるのです。この作品は、世界中で人々が苦しんでいることを表しています。私たちの生きている社会というのは、マクドナルドやミッキーマウスに囲まれた複雑な社会で、この少女をどこかへ連れていこうとしています。現実社会で、まさにこの絵のようなこの問題が起きているのだと理解するのです。バンクシーの作品には、このような多くのメッセージが込められています。

《ナパーム》

──確かに、複雑な社会がこの絵に凝縮されているような気がします。

バンクシーの魅力は、世界中のあらゆるニュースの中から、特定のニュースを取り上げて、その出来事や問題の深刻さを提示し、私たちにとって重要なものとして提示してくれることです。

ロシアでも彼のメッセージが深く心に刺さった、という感想をたくさんいただきました。きっと日本の方も多くのことを感じてくださると思います。

イベント情報

『BANKSY展 GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)

期 間 :2020年3月15日(日)〜9月27日(日) 10:00〜20:30(最終入場20:00)※会期中無休
会 場 :アソビル(神奈川県横浜市西区高島2‐14‐9 アソビル2F)
主 催 :BANKSY~GENIUS OR VANDAL?~製作委員会
企画製作:IQ ART MANAGEMENT CORP
後援:tvk(テレビ神奈川)、ニッポン放送、J-WAVE、 FMヨコハマ
オフィシャルホームページ:https://banksyexhibition.jp
※本展は謎に包まれたアーティスト「BANKSY」によってオーソライズやキュレーションされた展覧会ではなく、コレクターのコレクションが集結する世界巡回展です。
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