チョット変わったビートルズ本

2020.3.17
コラム
音楽

画像を全て表示(2件)

※大手レコード会社の洋楽部門での豊富な経験を持つ筆者によるブログ「洋楽天国」提供記事をお届けします。

チョット変わったビートルズ本

今週の金曜日(3月20日)、チョット変わったビートルズ本が出版される。タイトルは「ポール・マッカートニー作曲術」。著者は作曲・編曲家・音楽プロデューサーの野口義修。何が変わっているかと言うと、ポールが書いたヒット曲が分解されている。プロやアマチュアのミュージシャン向けかもしれないが、ビートルズ・ファンにとっても、新発見が山盛りだろう。

たとえば「イエスタデイ」。野口はこう解説する。
「イントロはギターでFormit3のワン・コード。メロディーもAとBのふたつのみ。間奏はなく、エンディングもAメロの最後の2小節の応用です。シンプル・イズ・ベストを体現している楽曲です。最初の小節(Fメジャー)の「ソーファファ」という心に残るメロディーで第一印象は決まりです。これは「い音」というコード外の音(非和声音)からコードの構成音に解決するメロディーのテクニックです」

本をチョット読んではCDを聴き、チョット読んではまた聴くという事で理解できる。

ポール・マッカートニーとジョン・レノンの曲は「ノーザン・ソングス」という音楽出版社が著作権を管理している。1963年に設立された。ビートルズのマネージャーのブライアン・エプスタインが音楽著作権に精通するディック・ジェイムスに設立を頼んだ。結果ディック・ジェイムスが50%の株を、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが20%を、ブライアン・エプスタインが10%の株を持つことになった。

その後ディック・ジェイムスは「ノーザン・ソングス」をジョンとポールに内緒で、イギリスのテレビ局のATVに売却する。1985年、「スリラー」で大儲けをしたマイケル・ジャクソンがATVの音楽部門を買収する。マイケル・ジャクソンはその後、スライ・ストーン(スライ&ザ・ファミリー・ストーン)が書いた数々のヒット曲、「ファミリー・アフェア」、「サンキュー」や「スタンド」を保有するスライ自身の音楽出版社やソウル・ミュージックの天才作家チームでプロデューサーのケニー・ギャンブルとレオン・ハフの「二人の絆」他のカタログやレイ・チャールズが歌った「ホワッド・アイ・セイ」やパーシー・スレッジが歌った「男が女を愛する時」といった黒人音楽の古典的名作を買い集める。買う条件は、自分が歌いたい曲。

途方も無い浪費癖のマイケル・ジャクソンは金が無くなる。1995年、ソニーにATVの半分を売る代わりにソニーが持っていた音楽出版社と合弁会社、ソニー/ATV音楽出版社をつくることで合意した。この時マイケルはソニーから120億円(1$110円換算)を受け取る。そしてこの時のソニー社長は大賀典雄(おおがのりお)。東京芸術大学音楽学部声楽科を卒業し、ドイツのベルリン国立芸術大学音楽学部を卒業した声楽家でもある。

当時ソニー音楽出版社の幹部で、後年ワーナー/チャペル音楽出版の社長になるデイヴィッド・ジョンソンが回想している。
「マイケル・ジャクソンが保有する、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの音楽著作権を管理するノーザン・ソングスを含むATVミュージックの株をソニーが50%買収する案件で、ニューヨークのソニーの役員会で私が説明することになった。前日買っておいたビートルズの楽譜集を当日大賀さんに手渡した。会議で私が説明していたが大賀さんは何も聞いていないようだった。説明の間中、大賀さんはビートルズの楽譜集をめくりながら無言で人差し指で指揮をしていた。私が説明を終えたとたん顔を上げ『なんて素晴らしい作品なんだ』と言い、破格な買収金額にもかかわらず役員会はあっけなく終了した」

>>2020年3月16日「洋楽天国」より