能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻” 開催が決定

2020.4.16
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能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻”

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2020年10月18日(日)よこすか芸術劇場にて、能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻”が開催されることが決定した。

オペラ『カーリュー・リヴァー』は、イギリスの20世紀を代表する現代音楽の巨匠ブリテンが、能『隅田川』を見て触発され作曲した作品。能とオペラ、仏教的世界観とキリスト教的世界観の対比など、この2作品を連続上演することにより、魂の物語を多面的にたどり、東洋と西洋、日本とイギリス、文化の融合を、舞台芸術(本作品)を通して体験するという。演出は、能楽界の新時代を牽引しよこすか能をプロデュースしている観世喜正と、演出家としても頭角を現すオペラ歌手彌勒忠史がタックを組み、オルガニスト・指揮者として実力、人気ともに高い鈴木優人が、初めて現代オペラを弾き振りする。

観世喜正、彌勒忠史2名より、「上演に寄せて」コメントが到着した。なお、上演を前に7月26日(日)には横須賀芸術劇場リハーサル室にて『演出「観世喜正×彌勒忠史」二人による プレトーク”幻“』と題したプレイベントが行われる予定だ。

観世喜正

観世喜正

『隅田川』は世阿弥の息子、観世十郎元雅の作品として知られる悲劇の名作です。
念仏の場面で、子方の梅若丸の幽霊を舞台上に出現させるか否かを、元雅と世阿弥が親子で論争した話しが『申楽談義』に載っており、14世紀の前半にそうした真剣な演出議論を行っていたことに驚きを覚えます。
この演目、人買い商人に連れていかれた都の少年・梅若丸を、母親が狂乱となりながら探し歩く、『狂女物』といわれる形式の能で、観阿弥作の『百萬』、世阿弥作の『桜川』、作者不詳ながら秋の名作とされる『三井寺』など、それら親が子を探す作品は、必ず最後に親子が再会を果たし、ハッピーエンドとなります。
しかし現行演目の中で唯一この『隅田川』だけが、息子は亡くなっており親子の再会の果たせない真の悲劇として描かれています。
演目名の『隅田川』も、横須賀を始め、関東の方にはどなたにもお馴染みの川の名前。遠く平安時代の伊勢物語・東下りをモチーフに、室町時代の十郎元雅が描いた、いわば関東のご当地ソングともいえる演目ですが、この演目が20世紀後半に、イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンによって、能をモチーフとしたオペラ『カーリュー・リヴァー』として再生されたことは実に興味深いことです。
能とオペラ、東洋と西洋、仏教(念仏)とキリスト教(賛美歌)、いくつもの対比と踏襲を通して、テーマへの共感、能とオペラの演劇性の融合に繋がっていきました。
今回は、市川海老蔵さんの『源氏物語』で度々共演させて頂いた、声楽家の彌勒忠史さんと横須賀芸術劇場さんとの御縁とが重なり、能の『隅田川』に続けてオペラの『カーリュー・リヴァー』を上演できることになりました。
彌勒さんのアイデアにより、能舞台をそのまま使用してオペラにつなげるという手法で、両方の作品を一つの舞台でご鑑賞いただける形となります。
ぜひ、両作品をご覧いただき、「違い?」「共通性!」などなど、お客様方の色々な視点、感覚から多くのご感想をお聞かせ頂けたら、この上ない喜びです。

彌勒忠史

彌勒忠史

この度、能の『隅田川』と、20世紀イギリスを代表する作曲家、ベンジャミン・ブリテンが、その『隅田川』から霊感を得て作曲したオペラ『カーリュー・リヴァー』を連続上演することとなりました。
観客の皆様には、観世流シテ方でいらっしゃる観世喜正先生のプロデュース、ご出演により、何百本という蝋燭に照らし出された幻想的な舞台で演じられる『隅田川』をご覧いただいたのち、全く同じ舞台で、今度はキリスト教世界に翻案された、同じ魂を持つ物語をご覧いただきます。
そもそも、このような上演形態の公演が発案されましたのは、観世喜正先生が、毎年、横須賀芸術劇場において蝋燭能をプロデュース、上演されてきたこと、そして私が同劇場にて、やはり毎年、『オペラ宅配便シリーズ』をプロデュース、演出してきたという背景があるためです。そして、光栄なことに、2018年まで数年にわたって、市川海老蔵丈の『源氏物語』で観世先生と共演をさせていただいたことから、直接お話をする機会を得て、『何か面白いことをご一緒に』とお声がけをさせていただきました。
私は『オペラ宅配便シリーズ』においても、しばしば日本人としてのアイデンティティを前面に出した演出を行います。それにはいくつかの理由があるのですが、やはり私自身が西洋藝術音楽を生業としながらも、日本で生まれ育ち、日本文化のバックボーンを持ち、さらに能、歌舞伎、文楽といった伝統芸能が好きであるために、それらの要素を舞台上にちりばめたくなる、というのが一番大きな動機でしょう。
ブリテンが『隅田川』に触発されたように、私も今回の『カーリュー・リヴァー』は能の要素を多く取り入れて演出したいと考えています。例えば、まず小道具や衣装などを、能そのものではなくとも、インスピレーションを得た形でデザインすることを考えています。
そして、これは演出法、劇作法に関わることですが、『カーリュー・リヴァー』初演時の演出プランを、あたかも能における型のように扱ってみようと思っています。もちろん初演時と舞台セットも違えば、衣装も小道具も照明も違うわけですから、当時の演出プランでそのまま舞台が成立するわけではありません。しかし型が、特定の心情や情景を表すために非常に有効であることを鑑みた時、初演時の所作や動線を“伝承”し、型として扱った上で、そこから新しい表現“型破り”を生み出せれば、と考えているのです。
幽玄の世界と日本に里帰りしたオペラのコラボレーションに、どうぞご期待ください。

公演情報

能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻”
 
■公演日時:2020年10月18日(日)14:00開演 17:10終演予定
能『隅田川』 *日本語字幕付き
ブリテン作曲 オペラ『カーリュー・リヴァー』 *原語上演、日本語字幕付き
■会 場:よこすか芸術劇場
料金:S10,000円 A8,000円 B6,000円 C4,000円
発売日:4月25日(土)
 
能『隅田川』
狂女:観世喜正
梅若丸:観世和歌
渡し守:森 常好
旅人:舘田善博
笛:竹市 学 小鼓:飯田清一 大鼓:亀井広忠
後見:観世喜之 遠藤喜久
地謡:弘田裕一 駒瀬直也 中森貫太 中所宜夫
佐久間二郎 小島英明 桑田貴志 中森健之介
 
B.ブリテン作曲 オペラ『カーリュー・リヴァー』
指揮/オルガン 鈴木優人
狂女 :鈴木 准
渡し守:与那城 敬
旅人:坂下忠弘
霊の声:横須賀芸術劇場少年少女合唱団団員
修道院長:加藤宏隆
巡礼者たち:金沢青児 小沼俊太郎 吉田宏 寺田穣二
寺西一真:山本将生 奥秋大樹 西久保孝弘
演奏:カーリュー・リヴァー オーケストラ
フルート:上野星矢
ホルン:根本めぐみ
ヴィオラ:中村翔太郎
コントラバス:吉田 秀
ハープ:高野麗音
パーカッション:野本洋介
オルガン:鈴木優人
副指揮者:平野桂子
合唱指揮:谷本喜基
 
演出:観世喜正、彌勒忠史
美術:能―岡田舞台
衣裳:能-観世九皐会/オペラ-友好まり子
照明:能-加瀬隆純/オペラ-稲葉直人
舞台監督:斉藤美穂/小池和彦(能)
演出助手:オペラ-伊奈山明子
主催・制作 :公益財団法人横須賀芸術文化財団
協賛:エイビイ/株式会社ヤチヨ
助成:芸術文化振興基金
後援:横須賀市、ブリティッシュ・カウンシル
beyond 2020 プログラム 認証事業

作品解説

能『隅田川』
能『隅田川』は、場面が移り変わるごとに変化していく母の心情を、能ならではの表現で描いています。
武蔵と下総の境を流れる隅田川。渡し場にやって来た母は、緩急のある囃子に合わせて物狂の心の高ぶりを示します。乗船を乞う際には、古の在原業平の『名にし負はば、いざ言問はん都鳥、わが思ふ人はありやなしや』の歌に子を思う気持ちを重ねて、物狂の芸を見せます。
隅田川の船上。船頭は、ある少年の話を語り始めました。『一年前の三月十五日、まさに今日、人商人の連れていた十二三才の少年が、病のため隅田川のほとりで亡くなった』と。第三者の視点による語リですが、船頭の少年への同情がにじみ出ています。また、能面のわずかな動きを通して、話をじっと聞く母の不安も感じられる場面です。
対岸で母は船頭を『少年の年齢は。名前は…』と問い詰めます。その少年こそ我が子梅若丸と確信した母の絶望……。梅若丸の塚の前で泣き伏した母が、大念仏に加わると、地謡の謡う、哀愁に満ちた大念仏の響きの中から、『南無阿弥陀仏』と梅若丸の声が聞こえ、梅若丸の亡霊が現れます。母は手を差し伸べますが、亡霊の姿は消えてしまいます。やがて夜が明けると、草の茂る塚に立ち尽くす母の姿がありました。観る者に深い余韻を与える作品です。作者は世阿弥の息子、観世元雅。(法政大学能楽研究所 兼任所員 中司由起子)

B.ブリテン作曲 オペラ『カーリュー・リヴァー』
1956年2月、東京で能『隅田川』を見たブリテンは『シンプルにして感動的な物語…それはまったく新しい “オペラ的な” 体験だった』と語った。そしてオペラ(教会上演用寓話)『カーリュー・リヴァー』は生まれた。舞台は架空の川へと移され、中世イギリスの宗教劇へと変換された。修道士たちの単旋律聖歌、時を刻む打楽器と、雅楽の笙のように空間に広がるオルガンで、厳かに物語が始められる。
カーリューとはダイシャクシギのことで、海岸の泥地や内陸の湿地を好む鳥である。はじめ低く、続いて滑らかに音高を上げて鳴く声が『カーリュー』と聞こえることからその名がついたとされる。母が、奪われたわが子を捜し彷徨い、狂女となって嘆く旋律はまさしくこの鳴き声だ。巡礼の人々や旅人に寄り添う川のせせらぎ、渡し守の舟漕ぐ動き…音楽は情景を目の前に浮かび上がらせる。西洋と東洋が混じり合う不思議な響きの隅々に、能『隅田川』への作曲家の敬意が満ちている。狂女が旅の果てに辿り着いた場所で人びとと祈りが一つになった時、そこにいる皆が奇蹟を『体験』する。(オペラ歌手 鈴木准)
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