中村隼人が歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』に出演 『壽浅草柱建』への思いを語る
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中村隼人
歌舞伎俳優の中村隼人が、2021(令和3)年1月2日(土)に歌舞伎座で開幕した『壽 初春大歌舞伎』に出演中だ。演目は、第一部『壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)』。明治23年に曽我ものの舞踊として初演された『新柱建』に着想を得て、今回、新たな振付と演出で上演される。出演は尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村莟玉、中村鶴松。新たな1年を前に、隼人が取材会で思いを語った。
■おめでたくて新しい曽我ものの舞踊
鎌倉時代の出来事を題材にした『曽我物語』は、日本三大仇討ち(かたきうち)もののひとつに数えられる。曽我十郎と曽我五郎兄弟が、父親の仇である工藤祐経を討つまでを描いた人気作で、数々の狂言や舞踊の題材となってきた。
「『壽浅草柱建』では、『(寿曽我)対面』でも知られる人気のキャラクターたちが勢ぞろいし、物語になぞらえた踊りをおみせします。振付は今回のために考えられました。化粧は『対面』と同じですが、衣裳は五郎も十郎も長袴ではありません。工藤が兄弟に渡す通行手形は、浅草寺のお札になるそうで、洒落ていますよね。歌舞伎がお好きな方々が、曽我ものと聞き『対面』から想像されるものとは、少し違ったものをご覧いただけます」
江戸時代の人々にとって、仇討ちものは、本懐を成し遂げる縁起が良いものだった。そのためお正月には、曽我ものが上演されることが好まれてきた。
「仇討ちものですし、一富士二鷹……と縁起物に数えられる“鷹”狩の要素もあります。最後は七福神の形で決まります。お正月らしい、おめでたい一幕をお見せできれば」
第一部『壽浅草柱建』左より、喜瀬川亀鶴=中村鶴松、小林妹舞鶴=坂東新悟、小林朝比奈=坂東巳之助、曽我五郎時致=尾上松也、曽我十郎祐成=中村隼人、工藤左衛門祐経=中村歌昇、大磯の虎=中村米吉、茶道珍斎=中村種之助、化粧坂少将=中村莟玉
歌舞伎座では、1月は3部制となる。収容人数は通常の50%におさえ、各部2演目ずつ、完全入れ替え制で上演される。 第一部では隼人らが出演する本作が幕開きを飾り、2幕目に市川猿之助が出演する『悪太郎』も上演される。
■歌舞伎座で新年を迎える心境
タイトルの「浅草」は、「はながたつどう」と読む。何事もなければ2021年1月に、『新春浅草歌舞伎』(以下、浅草歌舞伎)を盛り上げていたであろう花形俳優たちが、一堂に会する一幕だ。隼人は2012年より毎年1月、浅草歌舞伎に出演してきた。
「浅草歌舞伎には、高校2年生の頃から皆勤で出させていただいていました。ですから毎年12月は、舞台の合間に先輩方に役を習い、稽古をみていただき、クリスマスも大晦日も忙しく過ごしていたんです。大変でしたがそれが心地よくもあり、先輩にお話を聞き、成長できるチャンスでもありました」
中村隼人
2021年1月の浅草歌舞伎は中止に。その後、1月の歌舞伎座で今作の上演が決まった。
「うれしかったですよ。浅草のメンバーは、国立劇場や歌舞伎座、新橋演舞場など、皆バラバラになると思っていたんです。それだけに、大看板がこれだけ出演する新年の歌舞伎座で、このような場を用意いただけたことは非常にありがたいです。皆とは『これまで続いてきた浅草歌舞伎の功績が認められたのだとしたらうれしいね』と話しています。今回浅草でできないことは残念ですが、浅草の精神は受け継げそうです。2022年には、成長して浅草の舞台に立ちたいです」
■荒事の五郎、和事の十郎
今回は松也が五郎、隼人が十郎を勤める。2015年の浅草歌舞伎で「曽我もの」の舞踊『春調娘七種』を上演した時も、松也が五郎、隼人が十郎を勤めた。
第一部『壽浅草柱建』左より、喜瀬川亀鶴=中村鶴松、小林妹舞鶴=坂東新悟、曽我十郎祐成=中村隼人、小林朝比奈=坂東巳之助、曽我五郎時致=尾上松也、工藤左衛門祐経=中村歌昇、大磯の虎=中村米吉、茶道珍斎= 中村種之助、化粧坂少将=中村莟玉
「いつかは歌舞伎座の舞台で『寿曽我対面』をやれたらいいですね。松也さんの五郎、僕の十郎。お客様にもこの役者はこの役があうね、と楽しんでいただきたいです。そんな未来を感じていただける舞台になるように、今回もがんばります」
さらに隼人は、五郎役にも関心を示す。
「五郎も挑戦してみたいですね。線の太い役も、やっていかないといけないと思っています。荒々しくて激しい荒事の五郎、やわらかくて優しい和事の十郎、両方やると見えるものがあると思います。普段から、立役の俳優も女方をやったほうが良いと言われるのも、同じ理由ですよね。動きづらい衣裳が分かれば、女方さんのためにどう動くと良いかも分かるようになります。身長や体系的に、僕は女方には向かないのですが、猿之助さんからも『早替りをやるようになるなら、娘役でなくとも女方を勉強しておいた方が良い』と」
中村隼人
■少しでもステップアップした自分でいたい
歌舞伎座は8月に興行を再開した。隼人は9月、10月、11月は歌舞伎座に、12月は南座に出演している。再開以降、俳優たちは、感染症対策のために楽屋の行き来を控え、共演者とさえ舞台上ではじめて顔を合わせるのだそう。
「11月は、猿之助さんの『蜘蛛の絲宿直噺』で、頼光役を勤めさせていただきました。御簾の中で自分の出番を待っていると、何度も早替りした後の猿之助さんがダッシュで入ってきて、息を切らしながら『おはようございます』みたいな毎日です。『いいね、あなたは楽そうで』って言われたり、御簾が上がるまでの間に『隼人、あそこもう少し上手に寄って』と教えていただいたりしました(笑)」
限られた条件の中でも、前向きに芝居に取り組む姿勢をみせる隼人だが、自粛期間中は、「公演が中止になった時も辛かったのですが、8月に歌舞伎座が再開した時も“今年は選ばれなかった”と落ち込んだりもして」と苦笑も見せる。
「何かしていないと考えすぎて、落ち込んでしまうので、緊急事態宣言が明けてからは、新しいことを色々はじめました。コロナ前の自分よりも、コロナ後の自分がステップアップしていることを目標にしています」
自分で稽古場を借り、先生を呼び、長唄や三味線、鼓をマンツーマンで指導を受けた。
「『NARUTO-ナルト-』のご縁で市瀬秀和さん(刀道六段・師範)に先生をお願いし、日本刀の稽古もはじめました。研いだ抜き身の日本刀をもった時は緊張しました。本当に重いので、遠心力で振った後は、しっかり止めないといけません。初めて振った時、(止めきれず)床にガッと突き刺さってしまったりも(笑)。これまで歌舞伎で型として覚えていた、刀を左におろしたら左足を一歩引くとか、構える時の手の位置とか、どれも理にかなった動きだと、あらためて感じ、目から鱗でした」
『壽 初春大歌舞伎』は2021年1月2日(土)から27日(水)までの上演。最後に隼人は、「2020年はたくさんの舞台が中止になってしまいましたが、2021年、あるいはもっと先に、できる見通しが立っているお話もたくさんあります。それがとてもうれしいです。こんな時代だからこそ、歌舞伎座にお越しいただける方には、明るく華やかな時間を過ごしていただければと思います」と意気込みを語り、取材会を締めくくった。
中村隼人
取材・文=塚田史香
※写真の無断転載禁止
公演情報
■第一部 午前11時~
一、壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)
曽我五郎時致:尾上松也
曽我十郎祐成:中村隼人
小林朝比奈:坂東巳之助
大磯の虎:中村米吉
化粧坂少将:中村莟玉
喜瀬川亀鶴:中村鶴松
茶道珍斎:中村種之助
小林妹舞鶴:坂東新悟
工藤左衛門祐経:中村歌昇
二、猿翁十種の内 悪太郎(あくたろう)
修行者智蓮坊:中村福之助
太郎冠者:中村鷹之資
伯父安木松之丞:市川猿弥
今井豊茂 脚本
一、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月
藤屋伊左衛門:中村鴈治郎
扇屋夕霧:中村扇雀
太鼓持鶴七:中村亀鶴
同 亀吾:中村虎之介
同 竹三:中村玉太郎
同 梅八:中村歌之助
扇屋番頭藤兵衛:中村寿治郎
扇屋女房おふさ:上村吉弥
扇屋三郎兵衛:中村又五郎
祇園一力茶屋の場
大星由良之助:中村吉右衛門
遊女おかる:中村雀右衛門
鷺坂伴内:中村吉之丞
斧九太夫:嵐橘三郎
寺岡平右衛門:中村梅玉
梅王丸:松本幸四郎
桜丸:市川染五郎
杉王丸:大谷廣太郎
金棒引藤内:松本錦吾
藤原時平:坂東彌十郎
岡 鬼太郎 作
眠駱駝物語
手斧目半次:中村芝翫
紙屑買久六:片岡愛之助
駱駝の馬太郎:中村松江
半次妹おやす:市川男寅
糊売婆おぎん:中村梅花
家主女房おいく:坂東彌十郎
家主佐兵衛:市川左團次