聴き手の心のなかを燃やし続ける、チェリスト・宮田大による豊かな演奏~『DAI MIYATA CELLO RECITAL TOUR』公演レポート

2021.1.21
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『DAI MIYATA CELLO RECITAL TOUR』

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チェリストの宮田大が、2020年12月~2021年1月にかけて、『DAI MIYATA CELLO RECITAL TOUR』を開催した。

宮田は世界的指揮者・小澤征爾にも絶賛され、日本チェロ界の代表的アーティスト。今回、2020年12月5日(土)の香川・観音寺を皮切りに、全8カ所を3つのプログラムを世界的に活躍するピアノの名手である福間洸太朗、西尾真実と各会場で共演し、演奏を披露した。

この度、2021年1月8日(金)東京・紀尾井ホールにて行われた本ツアーについてレポートが届いたので紹介する。


野外で火を起こして暖まるには、ちょっとしたコツがいる。
最初は乾いた樹皮や新聞紙など小さく切り分けたものに着火し、炎を絶やさないように丁寧にそれらを加えていく。
火を拡大するために、もう少し大きな枝などにそれを移す。燃やす材料の乗せ方も重要だ。そして、さらに太い枝をくべ、火力を強くする。炎が一段と大きく、全体に広がっていく。
その火を安定させるには、より大きな薪をくべる。木炭を投入することで、火力を一定に保つこともできる。
こういった手順をしっかりと踏むことで、火は大きくなり、そして安定する。
チェロ奏者の宮田大も、まったく同じように音楽を組み立てる。

この日、一曲目に弾かれた作品は、グラズノフの「吟遊詩人の歌」だった。宮田のチェロは、冒頭の叙情的な主題をすっと爽やかに奏で始めた。感情過多にならぬよう抑制も効いた、繊細な入り。
中間部を経て、最初の主題が帰って来たとき、それはより能弁で、表情豊かなものに変わっていた。彼ならではの歌謡性もぐっと香り立たせ。
最初の一音から美音を振りまき、歌を歌で満たすスタイルで通す奏者もいる。打ち上げ花火のように華やかで、一瞬だけ輝く美。
しかし、宮田のように曲の組み立てがうまい奏者は、一瞬だけでは終わらせない。火は燃え続け、時間を超えて、聴き手の心のなかへじわりと広がっていく。

(左から)福間洸太朗、宮田大

1月8日、東京・紀尾井ホール。2020年12月から今年1月にかけ、宮田大は、3つのプログラムを携えての全国8箇所でのリサイタル・ツアーを行っていた。
この日は、ピアニストの福間洸太朗との共演。意外なことに、2人の実力派による共演はこの日が初めてだという。

宮田大(チェロ)、福間洸太朗(ピアノ)

管弦楽作品のチェロとピアノ編曲版も、宮田は果敢にリサイタルに組み入れる。これまでもガーシュインの「パリのアメリカ人」やファリャの「恋は魔術師」などを演奏してきた。
今回は、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」を編曲した「アラビアン・ウェーブ・ファンタジー」が初演された。山本清香が原曲のエキゾティックな旋律をそのまま生かし、全体で15分程度にまとめている。

原曲ではヴァイオリン独奏のシェヘラザードの主題が、チェロで朗々と奏でられる。最初からチェロのために書かれた旋律のように、まったく違和感がない滑らかさで。
クライマックスへの運びは、やはり丁寧だ。そして、その流れにふさわしい薪を丁重に受け渡していくような福間のピアノ。豊かな起伏が作られてゆく。

続いて、レスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲」が演奏される。
こちらも、弦楽合奏のために書かれた原曲を小林幸太郎がチェロとピアノのために編曲したもの。
飄々と、軽やかに奏でられるチェロ。透明感があり立体的に響くピアノ。原曲の元ネタであるルネサンスのリュート曲のテイストもふんだんに漂ってくる。
圧巻は、最後の第4曲パッサカリアだった。突如としてチェロは重音を響かせ、野太く歌う。その頂点で、炎が煌々と揺らめいた。

宮田大(チェロ)、福間洸太朗(ピアノ)

プログラム後半は、ラフマニノフのチェロ・ソナタ。福間の表現力が一段と冴え渡る。ラフマニノフは、彼の得意とする作曲家。これぞと確信した色彩をぐんと強調する。
この曲は、歌謡性にあふれ、情緒も豊か。ただ、その歌に導かれるままに演奏してしまうと、目鼻のハッキリせぬ、べったりと甘い音楽になりがちだ。
宮田の組み立ては、細やかで、じつに説得力に満ちていた。主題は明確に描き分けられ、同じ旋律でも提示部と再現部での変化を鮮明に示す。
だからこそ、この曲の歌が爛々と輝く。その情感が聴き手のなかにもずっと残り続ける。

宮田大(チェロ)、福間洸太朗(ピアノ)

ピアソラの「リベル・タンゴ」をアンコールに披露。色気をにじませたポルタメントと颯爽としたキレの良さが交代で表れるチェロ。そして、その濃厚極まりないアンサンブル。なんという贅沢なドルチェ。

ホールを後にして、すっかり冷え込んだ都心の空気を吸い込んだ。一都三県に非常事態宣言が発出されて最初の夜の空気だ。でも、心のなかでは、火はまだ燦然と燃え続ける。

(左から)福間洸太朗、宮田大

文=鈴木淳史


なお宮田は、コロナ禍で活動が制限される中でも、コンサート活動は細心の対策を重ねながら継続しており、今年6月には同じく東京・紀尾井ホールにて、昨年12月にデュオ・アルバム「Travelogue」をリリースしたギタリストの大萩康司と、アルバム発売記念コンサートが予定されている。

公演情報

『DAI MIYATA CELLO RECITAL TOUR』 ※終了
 
2020年
12月5日(土)香川県 観音寺市民会館(ハイスタッフホール)大ホール【Aプロ】
12月9日(水)大分県 しいきアルゲリッチハウス【Aプロ】
12月12日(土)埼玉県 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール【Aプロ】
12月13日(日)神奈川県 葉山町福祉文化会館ホール【Aプロ】
12月28日(月)福岡県 福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)【Bプロ】
2021年
1月8日(金)東京都 紀尾井ホール【Cプロ】
1月9日(土)神奈川県 ミューザ川崎シンフォニーホール【Cプロ】
1月10日(日)大阪府 住友生命いずみホール【Cプロ】
 
【Aプロ】
カミーユ・サン=サーンス:白鳥
アストル・ピアソラ:オブリビオン
ダーヴィト・ポッパー:ハンガリー狂詩曲
レオシュ・ヤナーチェク:おとぎ話
ベーラ・バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
加羽沢美濃:デザートローズ
マックス・ブルッフ:コル・ニドライ
マヌエル・デ・ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」 – (チェロとピアノ編)/小林幸太郎編曲
ピアノ:西尾 真実
 
【Bプロ】
カミーユ・サン=サーンス:白鳥
セルゲイ・ラフマニノフ:ヴォカリーズ
マヌエル・デ・ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」 – (チェロとピアノ編)/小林幸太郎編曲
加羽沢美濃:デザートローズ
ジュリオ・カッチーニ :アヴェ・マリア
セルゲイ・ラフマニノフ:チェロソナタ 作品19
ピアノ:西尾 真実
 
【Cプロ】
アレクサンドル・グラズノフ:吟遊詩人の歌 作品71
ニコライ・リムスキー=コルサコフ:シェヘラザード op.35 より「アラビアン・ウェーブ・ファンタジー」〜チェロとピアノのための〜(山本清香編曲)
オットリーノ・レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲 (小林幸太郎編曲)
セルゲイ・ラフマニノフ:チェロソナタ 全4楽章
ピアノ:福間 洸太朗

 
公式サイト:https://daimiyata.com/

公演情報

『宮田大&大萩康司 デュオ・リサイタル』
 
日程:2021年6月11日(金) 18:15 開場 19:00 開演
会場:紀尾井ホール
 
【出演者】
チェロ:宮田大
ギター:大萩康司
 
【曲目】
サティ :ジュ・トゥ・ヴ
ラヴェル:亡き王女の為のパヴァーヌ
ニャタリ:チェロとギターのためのソナタ
・アレグレット・コモド
・アダージョ
・コン・スピリート
ピアソラ:タンゴの歴史~カフェ1930
ピアソラ:タンティ・アンニ・プリマ
ピアソラ:ブエノスアイレスの冬
ピアソラ:ブエノスアイレスの夏
※曲目は変更する場合がございます
 
料金】全席指定 S席:6,000円 A席:5,000円
発売日】一般発売:2月27日(土)~
 
主催:日本コロムビア株式会社
 

リリース情報

「Travelogue」
宮田大(チェロ)・大萩康司(ギター)
DENON/COCQ-85518(UHQCD)  ¥3,000+税
 
収録内容
ルグラン :キャラバンの到着
ピアソラ タンティ・アンニ・プリマ
ニャタリ:チェロとギターのためのソナタ
ショパン :チェロ・ソナタ Op.65
サティ :ジュ・トゥ・ヴ
ラヴェル :亡き王女のためのパヴァーヌ
ピアソラ :オブリビオン
ピアソラ :ブエノスアイレスの冬

 
[録音]
2020年7月2-3日録音  上田サントミューゼ
 
  • イープラス
  • 宮田大
  • 聴き手の心のなかを燃やし続ける、チェリスト・宮田大による豊かな演奏~『DAI MIYATA CELLO RECITAL TOUR』公演レポート