梅津瑞樹「演劇は、生きる上でやらざるを得ないもの」 SOLO Performance ENGEKI『HAPPY END』への想いを語る

インタビュー
舞台
2021.2.11
梅津瑞樹

梅津瑞樹

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俳優にとって、一人芝居は他のどの作品とも違う特別な意味を持つ。

興行としての責任も、観客の視線も、すべて自分一人に注がれる。幕が上がれば、共演者は誰もいない。その身ひとつで観客を作品世界に誘(いざな)わなければいけない。足のすくむような恐怖に、つま先が冷える。けれど、万雷の拍手を浴びたとき、その恐怖は喜びに変わる。恐怖が濃ければ濃いほど、喜びもまた濃くなる。

そんな一人芝居に、新たに挑もうとする俳優がいる。梅津瑞樹、28歳。「舞台『刀剣乱舞』慈伝日日の葉よ散るらむ」で山姥切長義 役を演じ、頭角を現した気鋭の俳優だ。大学卒業後、虚構の劇団の劇団員として小劇場を中心に活動。小劇場と2.5次元舞台。ジャンルの異なる2つのフィールドで育まれた才能は、一人芝居という挑戦の場で、どんな花を開かせるだろうか。

風太は、僕の鏡像です

ーーこれまで一人芝居の経験はありますか。

僕の所属している虚構の劇団は、研修生のときに正式な劇団員に昇格するためのステップとして「一人芝居プロジェクト」というのをやるんです。そこでは出演はもちろん、脚本や演出、音響や照明のプランニングも全部自分でやらなくちゃいけなくて。お客様から代をいただいた上でお見せするという意味では、それが僕の初めての一人芝居でした。

ーーどんな内容だったんですか。

当時、僕がリアルにコンビニ店員で。身近なものの方がやりやすいかなと思って、コンビニを舞台にバイトであった出来事をいろいろ盛り込んでひとつのお話にしました。『一番長い日』っていうタイトルなんですけど、「財布忘れたから取りに行ってくる。その間、この子、見ててくれない?」って子どもを置いて行っちゃった若いお母さんとか、店頭に置いてあるiTunesカードをこっそり盗んで、買ったふりして「これ使えないんですけど、どういうことですか?」ってレジに持ってきたクレーマーとか。そういう人たちがいろいろ出てくるお話でした。

梅津瑞樹

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ーー面白そうですね。というか、梅津さんにもそういうバイト時代があったんですね。

ありました。それこそ、そのお話を書く前はもっと生々しいものを書く予定で。僕には芝居というやりたいものがあったけど、やりたいことをして生活するにはお金が必要で。だけど、やりたいことではお金を稼げないから、やらないといけないバイトを続けざるを得なくて。そういう鬱屈した想いを一人芝居で吐き出そうとしたら、(主宰の)鴻上(尚史)さんにダメだって言われました(笑)。

ーー今回挑戦するSOLO Performance ENGEKI『HAPPY END』の主人公・風太は売れない役者です。バイト時代の苦労も経験した梅津さんには共感できるところも多いのではないでしょうか。

過去の自分を見ているというか、鏡像ですね、これは(笑)。劇中で、30(歳)過ぎて路上で石を売っているシーンがあるんですけど、一歩間違えれば、同じように将来石を売ってるかもしれなかった自分がすぐ隣にいますから。だから、僕としては本当に親しみやすいキャラクター造形だなと、台本を読みながら感じました。

ーーシンプルに聞きます。一人芝居は楽しいですか。それとも難しいですか。

楽しいですね。言ってしまえば、何やっても自由なんです。逆に言えば、全部自分で責任をとらなければいけない。でもそれこそが醍醐味というか、自分で自分のケツを拭くこと自体の面白みってやっぱり大きくて。「ああ、今とっさにこんなことやっちゃったよ」「さて、ここからどうしようかな」というドキドキやワクワク感はひとり芝居でしか味わえないですね。

演劇は、そう簡単になくならない

ーーこの『HAPPY END』は世界的危機によって人類の滅亡が予告された世界が舞台です。世界的なパンデミックに襲われた今の状況と非常にリンクしている設定ですが、梅津さんもコロナ禍によって出演舞台が公演中止となった一人。先の見えない状況の中で、もう演劇ができないかもしれないと感じたことはありましたか。

その不安はなかったです。演劇は紀元前からあって、今日に至るまで長い年月の中で決してなくならなかったからこそ、今もこうして僕らはお芝居をすることができている。なんなら2.5次元舞台のように新しいムーブメントも生まれて、それがどんどん勢いを増して。もしかしたら50年後には2.5次元舞台が歌舞伎と同じような扱いをされているかもしれない。それくらい演劇って生命力の強いものだと思うんです。

だから、演劇はそう簡単になくならないと僕は信じている。これは、コロナの前から鴻上さんがよく言っていたことでもあったので、僕自身、芝居ができない時期はありましたが、演劇が一生できなくなるかもしれないという不安は一切なかったです。

ーー自粛期間中、舞台が恋しくなることはありましたか。

そもそも常日頃から家にこもって自問自答する時間が長い人間なんですけど(笑)、去年の自粛期間はその時間がいつにも増してたくさんあって。いろいろ考える中で、こうしてズルズルと演劇を続けているけれど、今はもう自分の人生と切っても切り離せないくらい演劇が密着していて、僕が生きる上で演劇はもうやらざるを得ないものなんだなと再認識したところはありました。

梅津瑞樹

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家にいるときも、つい一人でお芝居をしちゃうんですよ(笑)

ーーどういうことですか(笑)。

普段から友達と家で映画を見ているときに、画面の中には出てこない第三の人物として映画に介入する遊びをするんです。映画の本筋とは別に、僕と友達の間で繰り広げられるもうひとつのお話が同時並行で進んでいって、映画がハッピーエンドとかで終わったその横で、僕らも違う結末を迎えているみたいな。

ーー相当変わった遊びをしていますね(笑)。

それが去年の自粛期間はより多くなったというか。読んでいた本を、途中から声を出して読みはじめたり。コインランドリーに行くときに、道中、数秒ごとに違う人を演じて歩いてみたり。ご飯を食べているときも、今日は違うキャラクターで食べてみようとしてみたり。そういう遊びの感覚で、演じることが日常に溶け込んじゃっているんです。

ーーお話を聞いていると、生きることと演じることが梅津さんにとっては不可分なんでしょうね。

そうですね。よく考えたら常々そういうことをやっていて、そのことを改めて認識した自粛期間でした。そんなことばっかりやっているから「本当の僕はどこ?」ってなるんですけど(笑)。 

いつか怒りが枯渇するんじゃないかという怖さがある

ーー大学では文芸学科に通って書くことを学んでいましたよね。そういうところも含めて、表現することへの欲求がすごく強いんだろうなというイメージがあります。

これは常々いろんなところで言ってるんですけど、僕にとって表現することへの原動力は怒りなんです。文章を書いていたときも、俳優をやっている今もそう。常に他人の才能に嫉妬したり、悔しい想いをしている。その怒りがあるから僕は表現をしているだけで。たぶん怒りがなくなったら、何もしなくなると思う。

だから、常に誰かの何かを見たときに、「羨ましいな、くそっ!」と思う感情を忘れないようにしようとしているところはあります。

梅津瑞樹

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ーーでは、もし今回の作品のように世界の終わりを知ったら、梅津さんは何がしたいですか。

僕だったら路上でパフォーマンスがしたいかな。池袋のサンシャイン通りとかで(笑)。

ーーやっぱり表現がしたいんですね。

したいですね。

ーーそこまで表現することにある種“取り憑かれている”のはなぜなんでしょう。

なんでしょうね。ひねくれて育ってしまったんですよ(笑)。もう28歳で、いい大人なんですけど、いまだにこんな感じなんです。

人と人って奥底の部分ではわかり合えないなとあきらめている自分がいるんです。でもその一方で、だからこそわかり合いたいと思う自分もいて。わかり合いたいから人は何とかコミュニケーションをとろうとするし、自分の内面にあるものを何かしら表現しようとする。僕が表現にこだわるのも、そこな気がします。

自分ってこういう人間なんだ、この気持ちわかるよねっていうのを、いろんな人と共有したい。だから表現を通して誰かに見せている。いろんな意見があると思いますが、自分ひとりでやっていたらそれは表現じゃないと思っていて。第三者の目にふれて、初めて表現に足りうるものとなる。だから人に見せる。

僕が芝居をし続けるのもそれかもしれない。ただただ誰かとわかり合いたいという気持ちですね。

梅津瑞樹

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ーーさっき怒りのエネルギーが原動力だとおっしゃっていましたよね。その気持ちはすごくわかるんですけど。一方で年齢を重ねるうちに怒りだけは走れなくなる日がやってくるなと僕自身も実感していて。違う燃料を用意しないと同じスピードでは走っていけない気がしています。

めちゃくちゃその気持ちがわかります(笑)。いつか枯渇するんじゃないかという怖さがある。僕の中にも。なまじこうしてちょっとずついろんな方から自分という人間を受け入れられはじめていて。その実感が自分にもあるからこそ、この怒りがどこまで持続するかという不安があります。

だから、たまには意図的に自分を怒らせないとなって考えたりもするんですけど、それはそれでちょっと違うしなというジレンマがあったりで(笑)。大学時代、文章を書いていたとき、他人の才能が羨ましくて、その苦しさに耐えきれなくて逃げ出すように文章から離れたんですけど、その苦しさはいまだにあるんですよ。何をするにしても、どこにいても、つきまとうものなんですね、きっと。

ーーこれは予想でいいです。これから先、走り続けていく上で、梅津さんはどうすると思いますか。新たな怒りを見つけるのか。それとも怒り以外の燃料を手にするのか。

どうだろう……。今ふっと思ったんですけど、確かに怒りを常に抱えながら走ってきたけど、同時に喜びもあるんです。表現として何かひとつ吐き出すたびにほっとしている部分もあって。やっぱり自分を受け入れてもらえた安堵感って大きいですし。そういった意味では、怒りが圧倒的にデカいエネルギーなだけであって、厳密には怒りオンリーじゃなくて、いろんなものが僕をここまで走らせてくれた気がします。

この先どうなるかはそのときになってみないと僕にもわからないですけど。ただ、僕は中学受験をしていて。そのときからずっと背中を誰かにこづかれている感覚があるんです。目を閉じると、まるで時計の秒針みたいにチッチッチッて音が耳のすぐ横で鳴っているような。しかもそれが受験戦争に苦しんでいた小学生の頃から今に至るまでずっと消えずにあるんです。

その感覚に名前をつけるなら、焦りがいちばん近いのかもしれない。いろんな焦りがないまぜになって、常に僕を追い立てている。そういうまだ自分でも正体をつかめていない何かとせめぎ合いながら、これからもやっていく気がしています。

今回、一人芝居をやれる機会をもらえたからには、その正体をつかめていない何かの一部だけでもわかるといいなって思っています。観たお客様さんに「観れてよかった」って思ってもらえるように全力で取り組みますので、劇場でお待ちしております。

梅津瑞樹

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取材・文=横川良明  撮影=池上夢貢

公演(配信)情報

SOLO Performance ENGEKI
『HAPPY END』
 
■日程・会場:2021年2月17日(水)~23日(火・祝)東京・シアターサンモール
 
■脚本:宮本武史
■脚色・演出:粟島瑞丸(演劇集団Z-Lion)
■音楽:坂部剛
■出演:梅津瑞樹
 
:<全席指定・公演パンフレット付> 9,800円(税込) ※未就学児入場不可
■一般発売日:2/14(日) 10:00~
 
【配信情報】
■配信サービス:イープラス「Streaming+」
はこちらから→ https://eplus.jp/solo-happyend-st/ 
 
■視聴販売:2月11日(木・祝)12:00~
■視聴:4,000円(税込)
初日公演ありがとう動画付視聴:4,400円(税込)
※初日公演ありがとう動画付視聴は2/17(水)19:30まで販売。
 
<STORY>
小山内風太が産まれた日。その日は、太陽の膨張によって100年後に人類が滅ぶことが発表された日だった。
世界は人類滅亡を回避すべく、さまざまな策を講じていく。
そのいっぽう、風太は、ごくごく日常的な生活を送っていた。
勉学に励み、友人を作り、役者になるという夢を抱いて生きていた。
しかし、年月の経過に伴い、彼を取り巻く環境もじりじりと変化していく。未来がないということを実感した人

類は、どのような生き方を選ぶのか。
そして風太は、友と、家族と、そして夢と、どう向き合っていくのか……

この物語はただただ、日々を懸命に生きるごくごく平凡なある男の物語。
 
■公演特設HP  https://solo-engeki.com
■公演公式Twitter @EngekiSolo
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