FINLANDS恒例のワンマンライブ“記録博2021”は2年連続配信ライブながらその醍醐味をとことん味わえる圧巻のステージだった

レポート
音楽
2021.2.17
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2021.01.24『FINLANDS 2デイズ・ワンマンライブ「記録博2021」』@下北沢 BASEMENTBAR

彼女もこの日、言っていたけれど、たしかに「デジャブ?」という感覚はあった。FRSKIDのHIYOKO a.k.a. CHICK BOYによって手掛けられたシンボルアートが映し出されたデバイスの画面、その前に鎮座して今か今かと開演するそのときを待ち侘びる時間。2018年にスタートし、今年で4回目を迎えたFINLANDS恒例のワンマンライブ“記録博”がまさか2年連続で配信ライブになろうとは、唯一の正式メンバー、塩入冬湖(Vo & Gt)もさすがに想像しなかっただろう。本来ならば2デイズワンマンとして行なわれる“記録博”、「記録博2021」と冠された今回も1月23、24日の2日間に渡り、東京・下北沢BASEMENTBARにて有観客での開催が予定されていたのだが、コロナ禍第三波に見舞われるなか1都10県に再発出された緊急事態宣言によって、昨年7月の「遠隔 記録博2020」と同様に1月24日のみの無観客配信ライブへと急遽変更を余儀なくされたのだ。不本意か、不本意じゃないかと彼女に問えば、そりゃあもう確実に前者と答えるだろう。ファンだってもちろん同じ気持ちだ。ただ、だからといって残念とか悔しいとか、そんな気持ちを燻らせたままではもったいない。直接顔を合わせることは叶わなくてもライブはライブ、他ならない場所でありひとときであることに変わりはないのだし、ならば配信ライブならではの醍醐味をとことん味わってもらおうじゃないか——そんな気概が、開演時刻と同時にシンボルアートから切り替わったステージの光景、凛々しく佇む塩入の立ち姿に滲んでいる。結論から言えば、デジャブなんかじゃまったくなかった。半年前とはまたまるで異なる、2021年1月24日だからこそのFINLANDSの記録が、この日を目撃した視聴者全員の脳裏に刻まれたに違いない。

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 サポートドラマー、鈴木駿介のスティックが鳴らす4カウントを合図に塩入の歌とギターがゆらりとライヴの幕を開ける。追いかけるようにサポートギタリスト、澤井良太が鳴らす甲高いフィードバックノイズと、サポートベーシスト、今井彩の抑えめながらも盤石なビートが重なる。オープニングナンバーは「USE」だった。聴き手を一気呵成に跳ね躍らせ、熱狂の坩堝に叩き込むようなアップチューンではけっしてなく、むしろ熾き火のようにじわじわといつまでも胸の奥を灼き続けて消えない、そんな熱量を孕んだこの「USE」。2年前、FINLANDSのオリジナルメンバーであり塩入冬湖と二人三脚で活動してきたコシミズカヨ(B)の脱退が決まり、それを発表する場となった2019年の「記録博」にてエンディングソングとして流すために塩入がひとりで初めてベースまで自身で演奏してひとりで全編を作り上げた楽曲であり、その後、リリースされたFINLANDS初のライブDVD『“BI TOUR”~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO~』にはこの曲をダウンロードできるシリアルコード付きのカードが封入され、コシミズ脱退後、初めての新曲として世に出された曲だ。別れの痛みを真正面から抱きしめ、ひとりになってもFINLANDSを続けていくという塩入の決意を発露した、バンドにとっても彼女自身にとっても大きな節目の1曲と言ってもいいだろう。「USE」がライブのオープニングを飾るのは筆者の知る限り今回が初めてだが、ミディアムスローに紡がれるアンサンブル、淡々と、けれどときにむせぶようにして吐き出される歌声には、この曲が生まれた状況からさらに先へと歩を進めた今の塩入、今のFINLANDSだからこそのタフネスが宿っていると感じられた。いまだ収束が見えないコロナ禍の現状、バンドにもそれを取り巻く環境にもまだまだ困難が付きまとうことだろう。バンドだけじゃない、これを観ている一人ひとりだってそれぞれに難しさを抱えているはずだ。そうした今に対峙して、それでも“お気に入りの未来”を諦めるわけにはいかないんだ、そうだろう?と画面の向こうへと訴えかけ、鼓舞するような力強さがこの日の「USE」にはたしかにあった。

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「こんばんは、FINLANDSです! よろしく」

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 短く歯切れのいい挨拶とともに2曲「カルト」に突入、直前までのしっとりとした余韻はたちまち霧散し、小気味よく躍動する演奏が弾む空気を画面の向こうへと届ける。「ゴードン」で加速する疾駆感。ヒリヒリとした焦燥を孕む澤井のギターリフを筆頭にスリリングに絡み合うイントロ、「バーーラァーーーードォォォ!」とドスを利かせた塩入のタイトルコールが追い打ちをかけるように視聴者のテンションを爆上げしたこと間違いなしの「バラード」、そのどこまでもとめどない狂騒。しゃくりあげるようなボーカリゼーション、独特のビブラートを駆使して放たれる「ウィークエンド」の一語一句は、弾丸のごとく撃ち抜かれる快感を聴き手にもれなくもたらしたことだろう。

 

「改めまして“記録博2021”をご覧いただいているみなさん、こんばんは。FINLANDSです。よろしくお願いします」

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 序盤戦を駆け抜け、改めてそう挨拶する塩入。カメラクルーやスタッフらの拍手に「あ、まばらな拍手、ありがとうございます」といたずらっぽく笑みをこぼす。昨年3月に開催予定だった「記録博2020」がコロナ禍で7月に延期されたものの結局、配信ライブという形になったことに触れ、「今年はもうできるかなと思ってたんですけど、デジャブかな?っていう感じで、また無観客配信ライブになりました」と説明。「今日は雪の予報だったし、できたら家を出たくないだろうしね。私も今朝起きたときは寒くて、外に出るのがちょっとヤだったもん」とぶっちゃけて笑いを誘うと「でも家だったら暖房をガンガン効かせて、楽しく観ていただけるんじゃないかなと。配信ライブは自分の好きなように観れるのがひとつのいいところ。最後まで楽しんでいただければと思います」と告げて「UTOPIA」へ。インスタントな交歓とドライにまとわりつく孤独感、それらを俯瞰でただ見つめる達観した視線。虚ろで渇いた世界観のなんと官能的なことだろう。リズム隊が織りなす無機質で低体温なビートと感情を波立たせ掻きむしるギターサウンド、のっぴきならない恋情をそのものみたいな歌声の三位一体が静かにグルーブする「sunny by」。ウィスパーボイスを基調にしたポップかつポエティックな耳触りも心地好い「Hello tonight」の、その深層に呑み込んだ〈ハッピーエンドが泣いてしまうほど/わたしはあなたのものがいい〉というハッとするような本音に陶酔せずにいられない。そうした身も蓋もない残酷さ、欲望を綺麗事にしない美しさがFINLANDSというバンドの無二の魅力なのだと思う。

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 それにしても、この日のFINLANDSはいつにも増して伸びやかだった。前回の経験があるからだろうか。振り返るに「遠隔 記憶博 2020」が行なわれた半年前はまだ新型コロナウイルスの実態も今以上に未知だった。このウイルスの謎をなんとしてでも解明せんと全世界が躍起になる一方で、人々は太刀打ちしようのない恐怖に見舞われ、人と人とが触れ合うという人間にとって何より大切な拠りどころを奪われるしかない理不尽。そうしたなかで開催された「遠隔 記憶博 2020」——FINLANDSにとって初となった無観客配信ライブは、当たり前だったことが当たり前でなくなってしまった現実の渦中にあってなお、当たり前のものを当たり前のまま、当たり前に守っていくのだという意気で終始満たされていたが、今回の「記録博2021」はいい意味でリラックスした、ライブそのものを喜び楽しむ空気に全編を通して包まれていると感じられた。もちろん本稿冒頭に記した通り、最高の配信ライブにしようというチーム一丸となっての気概はビシビシと画面から伝わってくる。だからいってガチガチに肩肘を張るようなムードは一切なく、塩入を始めとする全員がごく自然体かつ無邪気に、互いに音を重ねること、そこに歌を乗せて放つこと、そうして振動する空気をダイレクトに肌で感じること、すなわち音楽というものにひたすら没頭しているのがとても印象的だ。すっかり腹が据わったと言おうか、前回そこはかとなく漂っていた寄る辺なさは影を潜め、配信だろうとなんだろうと揺らぐことのないFINLANDSの真髄を堂々と見せつける迫力と貫禄がこの日のライブにはあった。いっそうスムースかつ洗練されたカメラワークもその一助となっていただろう。前回よりもさらに踏み込んでメンバーに迫り、ひときわ生身に近い姿を切り取っては視聴者に届けてくれたからこそ、幾度となく画面の存在を忘れて食い入ることができた。お馴染みの厚手のコートに身を包み、歌いながら首元のファーを巻き直す仕草、顔にかかったピンクの前髪の向こうからまっすぐにカメラのレンズを捉える妖しくも挑発的な瞳、小首を傾げて文字通り斜に構えて歌う物憂げな表情、ここぞという刹那をもれなく捉える的確さがライブの臨場感をいちだんと盛り上げるのだ。

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 FINLANDSの始まりの曲と呼ぶべき「ナイター」から最新の配信リリース曲「まどか / HEAT」までバンドのキャリアを万遍なく網羅して組み上げられた充実のセットリスト。なかでも特筆すべきは初披露された新曲だろう。「ここでひとつFINLANDSから大切な大切なお知らせがございます。2年前は2人しかいないメンバーのうちのひとりの脱退を発表して終わるっていう地獄みたいな終わり方をしたので、今回はいい発表をしたいと思います」と切り出した塩入は来たる3月24日に3rdフルアルバム『FLASH』がリリースされることを報告、それに伴って4月10日から東名阪を回るワンマンツアー“FLASH AFTER FLASH TOUR”の開催も明かすと「今日はいいお知らせができて本当によかった」と満面の笑みを浮かべた。アルバムのなかには塩入の祖母に向けて作った曲があること、祖母はすでに記憶を失くしてしまっていると告げ、「初めて死んでしまうから人に会えなくなるわけじゃないんだなって思いました。それと同時に、死んでしまったからって会えなくなるわけじゃないんだなということも」と言葉を続ける。「祖父母は私にとってすごく大切なことをいろいろ施してくれたと思うんです。そのやさしさ、その命の続きで私は今、生きているんだなって。私も、血が繋がってても繋がってなくても、誰かに繋ぐことができるかもしれないし、誰かが繋げて生きてくれるかもしれない。人間っていいことも悪いこともバカみたいに繰り返していく生き物ですが、そうやって生きていけるなら悪くないなと思いました。私はあなたの命の続きで生きているという気持ちを込めて」、そう言って演奏された「ナイトハイ」に息づく思慕の、なんと深く温かいことか。ゆったりと柔らかでシンプルで衒いのないストレートな音像が、塩入の慈愛をたたえた歌声にやさしく寄り添って、聴き手をも大きく包み込む。連綿と繋がれてきた魂、生きるということはただそれだけで正しいと、そっと頷いてくれるような曲だと思えた。続いて演奏された「silver」は昨夏、コロナ禍によって経営難に陥った東京のライブハウス・吉祥寺WARPを支援するプロジェクト“SAVE THE WARP”の一環で制作されたオムニバスアルバム「WARP TREE」に収録された、こちらは一転、軽快にシンクロする塩入と澤井のギターリフも小気味よい、FINLANDS節炸裂の1曲。塩入本人のnoteにて歌詞が公開されているが、綴られた一筋縄ではいかない“あなた”と“わたし”の丁々発止はいかにも彼女の作品らしく、これからのライブでどんな育ち方をしていくのか実に楽しみだ。

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「配信ライブに切り替わってからずっと、みなさんには画面越しでしかお会いできていませんが、今年は直接会えたらいいなと思っています。お客さんがいないライブハウスに慣れすぎてしまったので、もう一回、お客さんが来てくれるライブハウスに入ったときに新しい気持ちになれそうだなって、それもひとつ楽しみで。ツアーも始まりますし、みなさんにまた全国津々浦々でも会えることを願っています」

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 そう塩入が告げてなだれ込んだ終盤戦、怒涛のごときステージはやはり「まどか」で締めくくられた。半年前の「遠隔 記録博 2020」にてラストを飾ったときにはただただ切実な祈りとして響いてきたこの曲だが、今回は祈りの先にあるもっと能動的な意志、きっぱりとした決意のようなものが滲んでいるように聴こえた。この日のMCのなかでコロナ禍に翻弄された1年を振り返り、「ずっと生きづらかった」と告白し、「きっとみんな口にしないけど生きづらいんだろうなと思って過ごしていた」と一人ひとりの苦しみに思いを馳せた塩入。平時であれば考えなくてもいいはずのことまで考え、とことん自分自身と向き合った1年間。曰く「深くて長い夜の底みたいな」日々もまた、この日に辿り着くために必要な時間だったのかもしれない。「いつか思い出として“あのときつらかったな”って話ができればそれはそれでいいのかな。だから、みなさん生きていてください」と語りかけた言葉には半年を経て「まどか」に新たに宿った強さに通じる、たしかさが感じられた。

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 記録とは証だ。世界新とか金メダルみたいな華々しさなどなくていい。その日、その瞬間がたしかにあったということは、それだけでかけがえがない。記録を刻みながら日々が続いていくこと、それは間違いなく希望なのだと2021年1月24日、FINLANDSの「記録博2021」に確信する。次は“FLASH AFTER FLASH TOUR”、ファイナルとなる東京公演はZepp DiverCity(Tokyo)だ。そこに刻まれる記録とははたして。見届けずにいられるわけがないだろう。

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取材・文=本間夕子

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