可知寛子インタビュー ~ 魅惑のかちひろこは本当に魅惑的だった/『ミュージカル・リレイヤーズ』file.1
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可知寛子
今やミュージカル界きってのユーチューバーと言っても過言ではない女優、可知寛子。
2020年4月、緊急事態宣言が発令され多くの舞台が公演中止を余儀なくされる中、You Tubeチャンネル「魅惑のかちひろこ」を開設。動画を公開するやいなや、ミュージカルファンを中心に大きな話題を呼んだ。そんな彼女は2010年以降、『ミス・サイゴン』、『エリザベート』、『モーツァルト!』等、数多くのミュージカル作品にアンサンブルキャストとして出演してきた確かな実績を持っている。
今回は、ミュージカルになくてはならないアンサンブルキャストとして活躍する人々に注目!
2021年4月に開幕するミュージカル『ゴヤ -GOYA-』の出演を控える可知に、ロングインタビューを行った。You Tubeでの活動はもちろん、これまでの女優人生を振り返ってもらったのだが、知られざる衝撃エピソードに笑いの絶えないインタビューとなった。
【特報】SPICE Presents『ミュージカル・リレイヤーズ』配信版~Shall We Talk開催決定!
■開催日:2022年12月14日(水)19:00~
■出演:可知寛子、福田えり、森加織/菅谷詩織(演奏)/らんねえ(アフタートークMC)
詳細は当ページ下方の「配信情報」をご参照ください。
■魅惑のかちひろこ おすすめ動画は主演女優・主演俳優シリーズ
――可知さんと言えば、YouTubeチャンネル「魅惑のかちひろこ」が大人気。替え歌、メイク、ミュージカルトークなど、バラエティ豊かな動画が2021年3月時点で計30本上公開されています。数々の斬新なアイディアはどうやって生み出されているのでしょうか?
パロディネタは日々考えています。自分がミュージカルに出演する立場になる前、観客として観ているときから「ミュージカルって結構ツッコミどころ多いな」というのはずっと思っていたんです。元々はネタ帳もなかったんですけど、最近はありがたいことに皆様からの期待の声もあるので、思いついたらネタを書き留めるようになりました。
――YouTubeを始めてから、周囲の反応はいかがですか?
実はYouTubeを始める前からパロディ的なライブを自分で主催して行っていたんですよ。なので、以前から仲の良い人たちにとっては驚きはなかったと思います。「あいつまたやりやがったな」くらい(笑)。でも、私がミュージカル女優であることすら知らなかった地元の友達から「子どもがYouTubeで見つけてきたよ」と連絡をもらうこともありました(笑)。親にも話していなかったんですが、検索して見つけたらしく「動画見てるよ」とLINEがきたことも。あと、オーディションのときに「YouTube見てます」と若い俳優さんに言われると本当に恥ずかしくて(笑)。「あの人あんなに踊れないんだ」と思われているんじゃないかと心配になるので、オーディション会場ではできれば話しかけないでほしいです(笑)。
可知寛子
――(笑)。可知さんは全ての動画をご自身で、しかもスマホ1台で撮影されていらっしゃいます。苦労もあると思うのですが、どういったところが大変ですか?
メイク系の動画はいつも大変ですね。撮影中にインターホンが鳴っちゃうこともありますし、とにかく最後まで撮りきらないと途中でコンビニにも行けないですし(笑)。一人で撮影しているので、もし撮れていなかったらどうしようという心配もあります。例えばエリザベートの朝食(「エリザベート」の名曲歌いながらめっちゃいい感じの朝食作ってみた)やアリエルの動画(アリエルがあの名曲歌いながらめっちゃいい感じにステーキを焼く動画)などは、撮影する場所や角度をシーン毎に変えていくので、1シーンでも撮れていないと大変なことになります。撮影中はスマホのバッテリーもどんどん減っていくし、LINEが見れず連絡も返せないですし、いろいろ大変です(笑)。
――これまでに公開された動画の中で、可知さん自身が特に気に入っているものを教えてください。
主演女優・主演俳優シリーズです。私の中ではかなり気に入っていたんですけど、再生回数があまり伸びなくて(笑)。最初にラジオ体操を撮って、それがすごく好きだったので調子に乗ってモーニングルーティーンまで撮ったのですが、大して伸びないという……(笑)。ぜひもっとたくさんの方に見ていただきたいです!
ミュージカルファンのための「ラジオ体操第一」
■USJから東京へ ミュージカル女優への道
――ここからは、可知さんがミュージカル女優になるまでについて伺いたいと思います。そもそもミュージカルとの出会いは何だったのでしょうか?
私は静岡出身なのですが、地元で上演される劇団四季のミュージカルをよく観ていました。すごい大ファンで追っかけをするという感じではなく、ふわっとしたミュージカルファン。だから自分もできると思っちゃったんでしょうね(笑)。
――学生時代に歌やダンス、お芝居などの経験は?
小学生から中学生くらいまでは、ピアノを頑張っていました。ピアノ科がある高校に進むためにはコンクールで優秀な成績を収めないといけないのですが、そこでちょっと挫折をして。結局、音楽とは関係のない進学校に進みました。その高校に入るためにものすごく努力をしたので、入ってからちょっと落ちこぼれちゃったんです。それもあって「一から学べばできるんじゃないか」という変な自信が湧いて、勢いで大阪芸術大学のミュージカルコースに入りました。そこでミュージカルを目指す友達と出会って影響されて……という感じです。
可知寛子
――では大学を卒業されてからプロとして活動を始めたんですか?
そうです。卒業後も大阪にいたので東京の演劇の情報があまりなく、ミュージカルを仕事にするための道もわかっていませんでした。当時は劇団四季、ディズニー、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のオーディションを受けるか、東京に出て事務所に所属するための活動をするくらいしか知らなかったんです。卒業のタイミングでいくつかオーディションを受け、そこからUSJで3年間働きました。
――初舞台は?
2007年の『WiCKED』USJ特別版のグリンダ役でした。まだ劇団四季で『ウィキッド』が上演されていない頃だったので、どれほどそれが重要な役かということすらわかっていなかったです。
――USJの『WiCKED』はショートバージョンのショーとはいえ、初舞台が『WiCKED』のグリンダってすごいことだと思います! USJでの3年間はどうでしたか?
それがすっごく楽しかったんですよ! 正直いつまでもいれそうなくらいでした。でも契約が更新されていく中、自分を奮い立たせないといけないなと思って「いや、やめよう。私は東京に行くんだ!」とあてもなく東京に出てきたんです。最初の1年くらいは全然仕事がなくて、スポーツジムでアルバイトをしていました。
――ジムというと、トレーナーをされていたんですか?
いえ、ジムの事務です。受付です(笑)。
――可知さんのプロフィールを拝見したとき、「特技:競技登山、ロッククライミング」とあったので、てっきりトレーナーかと思いました(笑)。
(笑)。高校のとき登山部で、ガチで競技登山をやっていたんですよ。静岡は山もいっぱいあるので、そういう競技がさかんなんです。でもそれは高校のときのことで、今はもう登れません(笑)。(隣にいるマネージャーさんに対して)ちょっとそこ、特技じゃなくて趣味にしといてもらえますか?(笑)
このおかげかわかりませんが、『エリザベート』(2015年)の新演出版に出演したときに役立ったことがあります。劇中でシシィ(エリザベートの愛称)が木から落ちるシーンがあるのですが、新演出版からは影絵のような映像演出になっていまして、その影絵、実は私なんです。信じられない高さに登らされて落下しました(笑)。
可知寛子
――あのシシィの影は可知さんだったんですね!
はい。私は元々作品の中でも影シシィを担当していたんです。本役の方は着替えがあるので、代わりに私がシシィの衣装を着て扇で顔を隠しながら歩くシーンがありました。影シシィはそのときの本役の方と同じくらいの身長の人が選ばれるらしいんですけど、別に影絵は私じゃなくてもいいじゃないですか(笑)。
――確かに(笑)。どうやって撮影したんですか?
スタジオに3メートルくらいの金属の骨組みが組んであって、下にスタントマンの方が使うようなマットが置いてありました。多分普通の人だったら怖くて登れないような高さだと思うんですが、登山とロッククライミングの経験のおかげで上手にサクサク登れました。そこから足を滑らせて落下する映像を撮って、演出の小池修一郎先生に送ったときの「(小池)もっと足を踏み外してほしい」「(可知)はい!」というやりとりまで覚えています(笑)。シシィのかわいい衣装とカツラをつけることができたのはいい思い出です。
――少々脱線してしまいましたが(笑)、これまでに出演されたミュージカル作品で特に印象に残っているものを教えてください。
『COCO』(2010年)というミュージカルが、私が東京に出てきて初めての舞台だったので特に記憶に残っています。当時の稽古場の細かいこと、例えば「あのとき演出家さんがこんな服の色だったな」ということまで覚えているほど。私にとっては初めての憧れのミュージカルの制作現場で、「私がやりたかったことはこれだわ!」と感じました。あとは、『ミス・サイゴン』(2012年)のオーディションに海外からクリエイターさんがいらっしゃっていて新鮮でした。オーディションにも何百人という人がいて、今までにない雰囲気だったんです。本番に至るまでの稽古も初めて味わう感覚が多く、おもしろかったですね。
■「いろんな役割を味わえるのは、アンサンブル冥利に尽きます」
――可知さんはその後、多くのミュージカル作品でアンサンブルとしてご活躍されています。アンサンブルならではのやりがいは、どんなところにありますか?
やりがいはいっぱいあります。一つの作品の中でいろんな役替りをして出演することはもちろんですが、アンサンブルは役以外にもいろんな形で作品と関わるんです。時には舞台上の空気を変えるための存在や、舞台セットになったり、影コーラスで声だけのシーンがあったり……とにかくいろんな役割を味わえるのはアンサンブル冥利に尽きますね。私はすごく好きですし、楽しいなって思うんです。
可知寛子
――いろんな役割を担うからこその大変さもあるのではないでしょうか。一つの作品で複数の役を演じることが当たり前だからこそ、演じ分けも重要になってきますよね。
ミュージカルでは衣装、メイク、カツラなどがすごく助けてくれるんですが、それらを上手に身につけられるかどうかも大切です。それは技術的に早いとかではなく、例えばカツラをまるで自分の髪の毛のように見せるとか、さっきまで農民だった人が間違えて貴族の服を着ちゃったように思われない姿勢でいられるかとか。役に与えられる付属的なものを自分の中でちゃんと消化できるかどうか、ということも能力として必要だと思います。
――なるほど。メイクや衣装の早替えも、きっと我々の想像以上に大変ですよね。
お客様が観ているときの体感よりも忙しいと思います。「舞台上で1曲歌っていたから余裕なのでは?」と思ったとしても、実際1曲2分くらいで、服を全部脱いで着て、しかもタイツも靴も履き替え、アクセサリーも変える。これを日常生活でやろうとしてみるとかなり忙しいのでは。早替えだけはあまりに壮絶なので見せられないですね(笑)。
――今までに出演された作品を振り返ってみて、大変だったなあという舞台裏エピソードを教えてください。
いっぱいありますが、『エリザベート』ですね。キャストの人数も多くて余裕がある作品に思うかもしれませんが、意外とアンサンブルの枠がやることがたくさんあってタイトなんです。通常の舞台ではステージの上手と下手に袖があって、舞台後方は行き来できるように通路があります。でも某劇場で、『エリザベート』のセットが大きいために舞台後方の通路が通れないということがありました。舞台の真下の奈落と呼ばれるところまで階段で駆け下りて、ダッシュしてまた階段を駆け上がれば反対の袖にすぐに行けるということで、本番中にその方法で移動することになったんです。4人の女官が両手でドレスの裾を持って奈落をダッシュする姿は、現場で“マリオカート”と呼ばれていました(笑)。
――貴重なエピソードをありがとうございます(笑)。可知さん自身がミュージカルを観ることもあると思うのですが、可知さん流のミュージカルの楽しみ方を教えてください。
自分が出演するようになってからは、つい知っている役者さんを見ちゃいますねえ。でも、アンサンブルキャストに注目して観るということはこの仕事を始める前からやっていたと思います。私は劇団四季の『キャッツ』が好きだったんですけど、いろんな猫がいる中でタンブルブルータスという猫がすごく好きで。その猫がメインで踊っているシーンではなく、舞台後方でゴロゴロ寝転んでいるところをずっと観る、みたいな楽しみ方をしていました。他の作品でも「あのアンサンブルの人はこのシーンでこの枠を踊るんだわ」とか考えながら観るのがおもしろかったです。当時はSNSで感想を共有するということもなかったので、「こんな楽しみ方をしているのは私だけかも」と思っていました(笑)。
可知寛子
――さて、この連載では、「注目の人」を教えていただいています。可知さんが今注目されているアンサンブルキャストさんを3人、教えていただけますか?
若手だったら髙橋莉瑚ちゃんですね。元々競技ダンスをやっていて、今までにないタイプの魅力を持っている方。動画も見たんですけど、歌もすごいよくて、グローバルに輝けちゃいそうな人だなあと。男性では、動画(【一気見】気付いたら一緒にコタツ囲んでる気分になるミュージカル会議22分)でも言ったんですけど、下の名前が出てこない伊藤(広祥)くん(笑)。彼とは一度しか共演したことがないんですけど、とにかく目を引くしすごいパワーがあるんです。役者としても存在感が合って良いなあと思っています。
あとは、大阪芸大時代から同期の福田えりちゃん。お互いに東京に出て『モンティ・パイソンのスパマロット』(2012年)のオーディション会場で偶然会って以降、長いこと共演が続いたんです。彼女が受かって私が受からないこともよくあって、同期ではあるけれど、常に前を進んでいたえりの背中を追いかけてきました。彼女がいなかったら、途中で辞めていたかもしれません。年齢が上がっていくにつれ私たちは衰えることもあるけれど、彼女はそれを乗り越えて力強く頑張っているからすごいなあ、と注目しています。
――これまでを振り返ってきましたが、改めて可知さんがいつも大事にしていることは何ですか?
勘で決断して悪くなったことってないんですよね。だからそのときの直感って大事なんだなあって思います。悩むのではなく、やりたいと思ったことを勢いでやってきたことが全て繋がって今があります。もちろんそれで失敗もしてきたけれど、絶対どこかで取り返せるので。犯罪とかじゃなければ(笑)、何をしても大丈夫という気持ちでやってます。
――最後に、これからどんなミュージカル女優になりたいと思いますか?
私だからこの役を演じてください、と言われるようになりたいです。私であることが必要なんだと思ってもらえるように、個性的な活動をしていかなきゃなと思います。自分は歌唱的にもルックスにおいても標準的なプレイヤーで、すごく個性的なものを持っているわけでも、何かが飛び抜けてうまいわけでもありません。そんな私でも、例えばYouTubeのように違う一面を見せることで注目してもらえるということを知ってほしいですし、そのための活動もしていきたいです。ただ、最近受けたオーディションで「YouTubeはおもしろかったけど本物は……」的なニュアンスの反応があったので(笑)、名前だけが先走らないよう、役者としてもおもしろいと言ってもらえるように頑張りたいと思います。
可知寛子
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢
可知寛子プロフィール
【魅惑のかちひろこ】魅惑のかちひろこ – YouTube
配信情報
21:00~21:30 アフタートーク(Zoom)
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公演情報
日程・会場:
2021年4月8日(木)~29日(木) 東京・日生劇場
2021年5月7日(金)~9日(日) 名古屋・御園座
演出:鈴木裕美
作曲・音楽監督:清塚信也
出演:
今井翼
小西遼生
清水くるみ
山路和弘
仙名彩世
塩田康平
天宮良
キムラ緑子