『斬られの仙太』出演者・伊達暁×陽月華×木下政治座談会!~俳優にとって劇団とはどんな場所なのか?~

2021.3.25
インタビュー
舞台

左から木下政治、伊達暁、陽月華

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キャストはフルオーディションで選ばれた16人。新国立劇場の演劇 2020/2021シーズンにおける、シリーズ「人を思うちから」の第一弾は三好十郎『斬られの仙太』(2021年4月6日~25日)だ。貧困の果てに常陸を出て、江戸で剣の使い手になった仙太郎が、水戸天狗党と出会い騒乱に加わっていくというストーリー。上村聡史による演出で、俳優陣も場面転換などに加わるという。三好十郎の言葉のダイナミズムと、殺陣のケレン味がいかに混ざり合うのか期待が高まる。伊達暁陽月華木下政治の3人が、本作について、また「劇団」という場所について、それぞれの思いを語り合う。

◆デフォルメされた、演劇らしい演劇

——『斬られの仙太』は、戯曲のとおりに上演すると7時間あり、今回は休憩を含めて4時間30分という上演時間で、稽古は大変だと思います。

伊達 初日まであと20日くらいですが、佳境です。昨日から幕ごとに通して稽古するようになりました。早く進行しているようでも、なにせ4時間超の芝居なので意外と時間がありません。

木下 稽古日程からするとまだ中盤なんですけどね。2時間くらいの芝居ならかなり早い進行ですけど、倍以上ありますから。

伊達 場面転換も役者の手で動かすところがあったり、場内アナウンスも役者がやったりで、手作り感がありますね。80人の役を16人の役者が演じ分けています。今回、僕は一役ですが。

木下 そのぶん、仙太の台詞は膨大だもんね。僕らは何役も演じ、黒子のようにも動きます。

陽月 男性陣の肉体労働っぷりに比べて、私はけっこう楽をさせていただいてるので稽古場では大変なふりをしています(笑)。殺陣もすばらしくて、普通にお客さんとして見ている気持ちになるくらい。昨日の稽古でも、俳優同士がお互いを向き合うよりも、少し広角的にしようという話になって。

伊達 僕ら自身は現代人なので、どうしても相手の役者に身体が向いてしまうじゃないですか。時代物で、現代では使わないような台詞もあるから、面と向かって話をする感じではなさそうだと。正面を切って客席を見つめるというより、若干、はすに構えるというか。

——その角度で演じる際、役者さんの生理としてはどうですか?

伊達 やっぱりスイッチを切り替える必要がありますね。今回の場合、そういう見せ方をするほうがいいことに、現場全体で最近気づいたところです。

木下 いろんな舞台があるけど、とにかく役者はオーダーを受けてやってみる。ずっと、その積み重ねなんですよね。特に、時代劇の台詞まわしは言葉を尽くすところがあります。さらに三好十郎さんの台詞は、少しポエトリーだったりもする。現代劇とは違う飛躍の仕方があると思います。今回は、デフォルメされた演劇らしい演劇というか。身近なものをシンプルに表現する現代演劇のスタイルと異なって、めちゃくちゃ演劇的です。

陽月 演劇やっているぞって感じがします。

伊達 斬った斬られたの世界で、ワクワクするような痛快娯楽活劇ですね。それでいて、三好さんは、生きたいと渇望する人たちを描いている。エンターテインメントなんだけど、実際に人を斬るというのはどういうことだろうと思ったりもしますね。仙太は喜んで人殺しをしているのではない。でもやっぱり斬るわけです。現代人の僕としては、人を斬ることに抵抗はあるんだけど、当時の時代背景では不思議なことではなかったはずですし。

陽月 お恥ずかしながら、戯曲を読むまで水戸天狗党のことをあんまり知らなかったんです。なので、「なんでこんなに斬り合ったりするんだ?」と思いながら読んでいました。それから、命がどうだ、志がどうだって、男の人ってそんなことばかり言うんだなって、ちょっと斜めから読んでいました。でも、そういう男性たちと関わる女性の描写もあって、読み続けていると、急激に作品を好きになる瞬間があって。さらに稽古で殺陣が加わると、めちゃくちゃカッコよかったです。

伊達暁

——伊達さんは、水戸天狗党を題材にした舞台『あかいくらやみ』に出演されています。

伊達 天狗党との出会いは、いくつかの小説でした。僕の読んだものは、天狗党に義があったという視点の作品だったのもあって、天狗党に共感していることのほうが多いです。天狗党の人たちは不幸な結末を迎えてしまった。なぜ彼らの思いが京都まで届かず、多くの人が死ななくてはならなかったのだろうと考えることもあります。

——困窮を極めた仙太は、天狗党という組織に期待していたのかもしれません。

伊達 そう思います。スカウトされて、天狗党に賭けてみよう、貧しい農家の生活を変えようという期待や希望を抱いて加わったのだと思います。

◆しんどさを見せない「武士」らしさ

——ところで、伊達さんは武士っぽいと言われることがあるようですね。

陽月 そうそう、武士っぽい!

木下 立ち姿を見ていると、本当に武士っぽいなーって思うよ。

伊達 そうですか?

木下 伊達くん、今、肉体的にもマインド的にもかなりの負担で、きっと大変だろうと思うんだけど、それを周囲に見せないんです。僕なんか、しんどいときはしんどい顔をして甘えちゃうんだけど、伊達くんは、自分の内側にあるものを抑えて、黙って立っている。そこに武士性を感じますね。

伊達 自分では武士っぽいかなんて分からないです。ただ、大変なのは当たり前なので、そこでしんどい表情を見せたとしても、「ああ、しんどいんですね」と、そう思われて終わるだけだしなあ(笑)。

陽月 しんどいときは言っていいんですよ(笑)。

伊達 あえて見せないようにはしているかも。

木下 きついときはいつでも遠慮なく(笑)。でも、主演としてのそういうスタンスはとても大切で、現場の士気を高めるし、それでみんなが引っ張られるんですよね。

陽月 私は「疲れた!」って言うことでエネルギーを蓄えるタイプです。「ああ疲れた!」と発散したら元気になります。ただ、空気クラッシャーになってしまうのはよくない。だからネガティブでなくて、ほがらかに「疲れたねー」って言い合える環境みたいなものが大切かなって思います。今、稽古場にはさわやかな感じの空気が流れていますね。

木下 正直になることによって、現場がよくなることもあるからね。みんなが前向きな気持ちになる「疲れた!」だったらいいんですよ。

陽月華

◆俳優にとって「劇団」とはどんな場所?

——伊達さんは阿佐ヶ谷スパイダースのメンバーで、陽月さんはかつて宝塚歌劇団に属し、木下さんはM.O.P.に解散公演まで加わっていました。「劇団」という場所に、それぞれコミットしておられます。

木下 僕はスカウトで劇団に入ったんです。同志社大学の学生劇団で1年くらい経った頃、OBのマキノノゾミさんから強引にスカウトされました。マキノさんとふたりきりで話して、「おまえも俳優でやっていくんだ」「一緒に東京に行くぞ」って。

陽月 それって、天狗党みたいじゃないですか!

木下 たしかにそうだね(笑)。最初は断ったんですよ。でも、今この場で決めろと迫られて、翌日には学生劇団をやめて……。今では笑い話ですけど、かなり手荒な勧誘でしたね(笑)。

伊達 阿佐ヶ谷スパイダースは、学生の頃に戻った感じです。宣伝のために、役者たちでチラシを作って、立て看板にペンキを塗って、セットも自分たちで作ることが当たり前だった。公演規模が大きくなって、俳優がほかのセクションの仕事に関われなくなっていきますよね。どうやって一つひとつのパーツが動いて、作品が出来上がるのか、もう一度自分たちで全貌を把握したいという気持ちです。

木下 阿佐ヶ谷スパイダースは、劇団化したときに若い人が増えましたよね。それって新鮮だったんじゃないかな。

伊達 自分がオーディションで選ぶ側になるとは思いませんでした(笑)。

——伊達さんも高校時代、長塚圭史さんに誘われて演劇を始めたんですよね。

伊達 はい。

陽月 そうだったの? じゃあ、伊達さんもスカウトだったんだ(笑)。

伊達 そういうことになるのか。

陽月 おふたりともそうだったのかー! 私なんて、バリバリ受験しましたから。志願兵です(笑)。

伊達 圭史とはクラスが一緒だったんです。僕はサッカー部だったんですが、圭史が卒業公演をやりたくて、体育会系の同級生たちを集めていて。

——陽月さんにとって、狭き門を突破した宝塚歌劇団はどんな場所でしたか?

陽月 特殊な環境と言われることが多いですが、15歳から18歳の女の子しか受験できないという世界はやっぱり特殊です。私は超絶宝塚ファンで、そこに入りたい一心で受験しました。だから廊下を直角で曲がるのが楽しいみたいな(笑)。でも、私が入った頃は直角で曲がるルールはなくなっていました。それなのにわざわざ直角で曲がっていましたね。電話番をするとか、スリッパを並べるとか、それも下級生の仕事です。

木下 上下関係がきっちりしていそうだよね。

陽月 そうですね。私も劇団に慣れてきて、ちょっと反抗期のような時期になると「なんでこんなことやらなきゃならないんだ」って、ふてくされることがあったんです。でもある先輩の言葉が今もすごく残っていて。楽屋では、常にスリッパをきれいに並べておかなくてはならないんですけど、たくさんの人が目まぐるしく出入りするから、落ち着いてからまとめてやろうと思ったら「それは違う」と。「スリッパの乱れた状態を見て、役者がネガティブな気持ちを抱えたまま舞台に上がったら、それはお客様に伝わってしまう。ここで綺麗に並べるのは、舞台の一員として参加していることでもあるんだよ」と教えてくれました。劇団で不思議だと思っていたルールも、すべて根拠があったんです。

木下 うちの劇団には、ルールらしいルールはなかったなあ。しいて言うなら、先輩の俳優が若手にダメ出しするとき、必ず演出家の前で言うことになっていました。

伊達 誰もいないところに呼んで、みたいなことはしない、と?

木下 そう。基本的にみんなが周知しているなかで話すということになっていました。明確なルールではなかったけど。

陽月 恋愛禁止でしたか?

木下 それはなかった。まあ、主宰と女優が結婚していますからね(笑)。でも、稽古場で下ネタを言うことがいっさいありませんでした。マキノさんがそういうタイプの人だったというのもあるかもしれない。ただ、男性キャストだけになった公演で雑談になったとき「好きな女性のタイプを話し合おう」となって、そこで初めて下ネタというか、性癖みたいな話になって盛り上がりました。

——修学旅行の夜みたいですね。

木下 そうそう、そんな感じ。あの日はめちゃくちゃ楽しかったなあ(笑)。同じ劇団の仲間の、それまで見たことのない表情を見られて、発見がありました。

木下政治

——阿佐ヶ谷スパイダースには、ルールはありますか?

伊達 まあ、遅刻厳禁くらいですね(笑)。ルールではないけど、役者たちが公演全体に関わって、俳優以外の仕事にも積極的になることが前提ですね。稽古期間中は稽古場でごはんタイムがあるんですけど、その時の米も担当した劇団員が炊きます。

木下 僕らも最初の頃は、ナグリを持ってセットの仕込みをやっていました。劇団が大きくなると、それができなくなる。でも、劇団の最後のほうは自分たちでやれることはすべてやるという方針に戻りました。それこそセットや小道具なども自分たちでやろうと。そうしたほうがより楽しかったですね。今回も、全員で芝居を動かしているじゃないですか。場面転換もできる限り役者がやっているから、すごく今回は劇団的です。

左から木下政治、伊達暁、陽月華

伊達 稽古場もおもしろいですよ。(陽月に)昨日は上村さんに色気が出過ぎているって、言われていたよね。

陽月 その話、ここでしちゃうの?(笑) お蔦という芸者の役では、私にない色気をかき集めて一生懸命やっているんですけど、別の百姓の役のときに上村さんから「色気が漏れてますよ」みたいに言われて。この役で色気出したらお蔦で足りなくなるし(笑)。

木下 出さなくていいところで色気が出ちゃった(笑)。

陽月 だから必死で色気を集めなきゃ。補充しなきゃ!

——色気って補充できるものなんですね。

陽月 そうそう! 補充しないと不足しちゃうんですよ。今、自分にはない色気をかき集めています(笑)。

木下 今回、本当にプロデュース公演とは思えないくらい劇団的ですね。役者が黒子をやることもたくさんあるし。みんなで関わっている。

陽月 宝塚のときは、たとえば美術も会社組織で動いていて、伊達さんや木下さんのように、制作関係に関わることはありませんでした。でも宝塚時代、小道具作りは下級生の係だったんですよ。ペットボトルで電話を作るなんてこともありました。今回、やっぱり劇団のときを思い出すことがいっぱいあって、すごく楽しいです。

伊達 全員で作っていることが舞台上から伝わっていくと、僕たちもうれしいですね。


取材・文/田中大介
撮影/曳野若菜

※編集部注:感染症対策をおこなったうえで、取材・撮影をしています。

公演情報

人を思うちから 其の壱
『斬られの仙太』

■作:三好十郎
■演出:上村聡史

■出演:青山勝 浅野令子 今國雅彦 内田健介 木下政治 久保貫太郎 小泉将臣 小林大介 佐藤祐基 瀬口寛之 伊達暁  中山義紘 原愛絵 原川浩明 陽月華 山森大輔

■公演日程:2021年4月6日(火)~4月25日(日)
■会場:新国立劇場 小劇場

料金】
A席7,700円 B席3,300円

■問い合わせ:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999(受付10:00~18:00)
■HP:https://www.nntt.jac.go.jp/play/kirarenosenta/

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