tacicaの歴史と現在地に触れた、結成15周年記念公演「象牙の塔」

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2021.4.6
tacica 撮影=安藤未優

tacica 撮影=安藤未優

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tacica結成15周年記念公演「象牙の塔」  2021.4.3  中野サンプラザ

4月3日土曜日、tacicaの結成15周年記念公演「象牙の塔」を、配信を通して体感した。本来は昨年4月5日に行われるはずだったライブの、1年越しの開催だ。東京・中野サンプラザでの有観客公演に加え、リーズナブルな価格設定の配信が用意されたのは、世の中の状況と多くのファンの思いを汲んだ行動だろう。tacicaの15周年を共に祝いたい人は、5年前よりも、10年前よりも、着実に増えている。午後7時、リズミックな、明るいイメージのSEに乗ってメンバーが登場する。特別なことはしない、ただ歌い演奏する姿をそのまま見せる。tacicaらしい、むき身のライブの始まりだ。

猪狩翔一(Vo/Gt)がエレクトリックギターをひと掻きすると、おもむろに歌い出す。1曲目「烏兎」は、大らかな広がりを持つミドル・ロックバラードで、ソリッドなベースとドラム、深いリヴァーブをかけたギターの音色が激しく美しい。昼夜2回公演、今はその2ステージ目だが、猪狩の声は驚くほどに力強くフレッシュだ。続く「aranami」は昨年にリリースされた新しい曲で、明快なリズム、アッパーな高揚感、ポップなメロディを兼ね備えた、心弾む1曲。サポートの中畑大樹(Dr)と、野村陽一郎(Gt)を加えた4人の演奏は一体感に溢れ、音質は素晴らしく良く、カメラワークはオーソドックスに、歌う表情と演奏する手元を映し出す。ストレスなく音楽を楽しめる、ハイクオリティの配信だ。

「tacicaです。『象牙の塔』へようこそ。いろいろ制限がある中で、来てくれてどうもありがとう。配信で見てくれている人も、ありがとう。最後までよろしく」

訥々とした猪狩のMCに続いて歌われたのは、「命の更新」。ちょうど10年前、2011年にリリースされた、躍動感あふれるドラムが聴きものの、エモーショナルなロックチューン。小西悠太(Ba)のコーラスも思い切り叫ぶように、気合が入っている。その小西のファンキーなベースラインがリードする「YELLOW」は、マイナーコードとメジャーコードが光と影のように入れ替わり、ぐいぐいと前進してゆく。「SUNNY」はそこへさらに推進力を加え、U2的なディレイを効かせた精密なギター、マーチング風のリズムが一体となって突き進む。中畑が、叩きっぱなしの激しいプレーでバンドをけん引する。猪狩の太い歌声は、U2のボノにだって負けちゃいない、強力なパワーと説得力で迫り来る。まばゆく白い光がステージを包み込む。ライブは早くも、クライマックスだ。

「去年出たシングルの、2曲目に入っていた曲です。本当は、去年の4月5日にやりたくて、今日までかたくなにライブでやらなかったので、今日ついにその、『象牙の塔』という曲をやります」

完成間近の未来図を、壊して創る人になろう。徹底的に壊された心、治してあげる人になろう。――「象牙の塔」は、猪狩の自伝にしか聴こえない率直な歌詞と、どっしりとしたギターロックの骨格を持つ、ミディアムテンポの骨太チューン。わざわざ画面に歌詞の字幕を出してみせたのは、どうしても今伝えたいことが、ここに詰まっているからだろう。溢れ出す言葉の量が、サウンドをはみ出して字余りになる、熱気と衝動がすさまじい。続く「冒険衝動」は、強烈に歪ませた小西のベースが先導するグランジめいたアレンジと、サビの突き抜けたポップさが見事な対比を成す、柄(がら)の大きな1曲。2020年11月、tacicaのプライベートレーベル「SEMELPAROUS」からの初リリースとなったこの曲は、15周年のその先へ向けたスタートダッシュの第一歩だ。激しく迫り来る演奏に、一歩も引けを取らない猪狩の歌声が素晴らしい。唯一無二、本当に特別な声だ。

「16時からの回で、『北の国から』の話をしたら、あんまりいい空気じゃなくなったので。なので、曲をやります」

時々こうした、とぼけたMCをはさんで笑いを誘うのも、tacicaのライブではよく見る光景。生真面目すぎるほどにシリアスな楽曲が多いtacicaだが、北海道の大地で生まれ育った人間らしく、どこかに常に自然なユーモアや、大らかな開放感があるのが、ライブで体感するとよくわかる。そしてtacica流のダンスチューンと呼びたい「煌々」は、まさに煌々とまばゆい光溢れるステージの上で、あくまでポジティブに明快に。猪狩がアコースティックギターに持ち替え、ゆったりとした三拍子に乗って歌う「ordinary day」は、後半の印象的なコーラスを含めて、どこまでもいとおしく包容力を持って。歌い終えた猪狩が「この歌詞、今、すごいしっくり来るんだよね」とつぶやく。この向かい風に立ち向かって、立ち止まっても。飽きて止める事などないよ。Ordinary day、生きて行くだけ。――まるで2020~21の世界を予言して、その先の希望を見据えるかのような歌詞が、日々の暗いニュースに疲れ乾いた心に、澄んだ水のように沁みわたる。

「こうして生きていくだけなんだな、と思います。また、ライブハウスなのか、CDなのか、配信なのか、また会えたらなと、無責任に僕は思っています。今日は、来てくれてどうもありがとう」

全10曲の本編を締めくくる、ラストチューンは「回転盤」。リズミックな三連符のロックバラードが高揚感を呼び、背後から照らす赤いライトと、歪んだギターが心地よい刺激をもたらす。精密な安定感とエモーションを兼ね備えた人間力溢れる演奏と、朗々と歌い上げる猪狩の歌と。ターンテーブルの映像が画面とシンクロする、ささやかなエフェクトが彩を添える。

「新しい曲をやろうと思います。結成記念日の、4月5日から配信が始まります。この4人で録った曲です」

アンコール、1曲目に披露されたのは、初公開の新曲「ねじろ」だった。美しいグリーンのスポットライトが降り注ぐ中、メロディアスに、しかし雄々しく突き進むスローロック。小西のベースがしっかりとルートを刻み、野村のギターが官能的なロングトーンを奏で、間奏で猪狩のギターと会話するように絡み合う。派手さの代わりに熟成を、声高なメッセージの代わりに静かな共感を。そして本当のラストチューン「アースコード」は、この日演奏された楽曲の中で最も古い、2008年に世に出た曲。U2風のディレイを駆使した若くみずみずしいサウンドと、大人びた味わい深い「ねじろ」との間に、tacicaが15年で到達した音楽の深みがある。

「象牙の塔」とは、学者、芸術家が、自らの理想の世界に閉じこもり、孤高の生活を送るという比喩表現で、皮肉の意味に使われることの多い言葉だ。それをあえて、結成15周年のテーマに掲げた意味は何か。新曲「ねじろ」のその先に、tacicaが見据える音楽性とは? 未来図とは? 謎が多いほど面白い、結成15年の節目を超えてさらに、tacicaの音楽の旅は続いてゆく。


取材・文=宮本英夫  撮影=安藤未優

ライブ情報

tacica結成15周年記念公演「象牙の塔」
アーカイヴ配信中
アーカイブ視聴期間:4月3日(土) 21:00 ~ 4月10日(土)23:59
配信 ¥2,800(税込)
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