梶浦由記『ソードアート・オンライン』との関係性から紐解く「アニメーション劇伴が担うべきもの」とは

インタビュー
アニメ/ゲーム
2021.7.16
梶浦由記

梶浦由記

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『魔法少女まどか☆マギカ』『空の境界』『Fate/stay night [Heaven's Feel]』などのアニメ作品、そしてNHK連続テレビ小説『花子とアン』など数々の劇伴を担当する作曲家、梶浦由記。上記作品に加えて、彼女の代表作の一つがアニメ『ソードアート・オンライン』だ。現在作品の音楽をオーケストラで届ける『ソードアート・オンライン フィルムオーケストラコンサート』が開催中。加えて10月30日からは新作劇場版『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』も公開される。今回梶浦由記に『ソードアート・オンライン』についてという形でインタビューを行った。作品に関わって10年目を迎える梶浦の作品に対する思い、そしてアニメーション劇伴を制作するということについて聞いてみた。

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

「swordland」はキリトくん大活躍のテーマ

――まずは直近のお話からお聞きしたいのですが『ソードアート・オンラインフィルムオーケストラコンサート 2021(以後フィルムオーケストラコンサート)』が開催されます。今回は監修となっていますが、どのような関わり方をされているのでしょうか?

今回は監修と言いつつもアレンジしてくださる方も、もう本当に付き合いが長い方なので、こちらからお願いしたような形です。オーケストラコンサートをやるなら石川(洋光)さんにお願いします、って。今までで一番深い関わり方をさせていただいているかな、とも思っています。リハーサルの音源を聴かせていただいたのですが、すごくいい感じになっていると思います。楽しみです。

――今回の『フィルムオーケストラコンサート』は選曲にも関わられているのでしょうか?

もちろんこの曲が聴きたいな、っていうのはあったんですけど、みなさんの記憶に残っている曲が一番いいな、と思っていたので、ご提案いただいた曲に「これもやったらどうですか?」ぐらいで選曲に関わらせていただきました。

――今回は『フィルムオーケストラコンサート』ということで、アニメの映像もあって、のことになりますしね。

そうですね。ただオケが生演奏なので映像と合わせるの大変そうですよね(笑)。どういうふうになってくるんだろう、って。

――ある意味そこが今回の『フィルムオーケストラコンサート』の注目のポイントかなと。そして『ソードアート・オンライン(以後SAO)』の楽曲を本当に沢山作られていて、語り尽くされているかもしれませんけど改めて『SAO』という作品の印象をお聞きしたいです。

私の中の『SAO』は「キリトくんカッコいい」なんです。私はアスナちゃん推しなんですけど、でもアスナちゃんとの関係性も含めてキリトくんって、すごくカッコいい。なんていうのかな、キリトくんって、無理のないヒーロー像でありながら、ちょっと頼りないようなところもチラッと見せつつ、本当に辛いところ、大事なところで絶対に助けてくれる、っていう心憎さと心強さがちゃんとある。そこが全ての起点だったんですよ。だから逆に、最新のテレビ本編『アリシゼーション編』はすごく衝撃でした。

――確かに『アリシゼーション編』の途中からキリトは車椅子にのって、守られる側でした。

キリトくんが活躍できなかった作品はすごく衝撃がありましたね。

――『SAO』とキリトの活躍は確かにほぼイコールですよね。そして今回このインタビューに合わせてミュージックコレクションを改めて全部聴きなおしたんですけど、先ほどおっしゃっていたように、やっぱり「swordland」っていうのは、先ほどのお話にあった「キリトのテーマ」でもあるのかな、っていう。

完全にそうですね。もうあれは「キリトくん大活躍のテーマ」っていう感じで作っています。

――改めてあの力強さと壮大さみたいなものが、『SAO』の世界観の牽引力のひとつになっているのだな、と感じました。

そうなっていると嬉しいですね。あの曲は、もともと最初のプロモーションビデオの時に作ったんですけど、すごく初めは悩んで。小説はすごく重いんですけど、絵柄はすごく可愛らしいじゃないですか。この絵柄が動いて、バトルも多くテンポ感も早いであろうアニメーションにつけるのに、この曲はちょっと重すぎるのではないか、という。そして実際プロモーションビデオも、やはりすごくテンポ感が早くて、軽快に戦っているシーンも多かった。「もしかして私は重い曲をつけすぎたのかな」とすごく気がかりだったんですよ、実は。あとから「すいません、曲重すぎましたか?」と監督やプロデューサーの方とか皆さんに伺ったら「いやいや大丈夫です」って言っていただけたので安心しました。それで実際アニメが始まって、第1話に流れた時に「あっ、よかったかも」って自分でも思えた。プロモーションビデオの時にトライアンドエラーというか、いろいろと悩むことができたのがよかった。

――僕も『SAO』の第1話を当時見た時の衝撃って凄くて。もちろん原作も読んでいたんですけど、そのアニメ化、キャラクターになって声がついて、動いて音楽がついて、って時のハマり具合が完璧だったんですよ。特に『SAO』に関してはその当時小説知らなかった人たちも、第1話を見て「すっごい面白そうなものが始まった!」っていうのがTwitterでも話題になったのを覚えています。改めて思うと第1期の放送は2012年なんですよね。あっという間に来年アニメ10周年という。

早っ!そんなでしたっけ?ビックリですね。

――そんな10年の間、ずっと『SAO』ってものに関わり続けていらっしゃるわけじゃないですか。この10年間関わり方はそんなに変わってないとは思うんですけども、先ほど話題にのぼった『アリシゼーション編』はその中でも梶浦さんの中でも違いがあったと?

そうですね。やっぱり『アリシゼーション編』に入った時に「おっ」ってなりましたね。それまでは、その舞台が変わろうと、やっぱり「キリトくんカッコいい」の世界だったんですよ、ずっと。世界が変わったことによって、ここはちょっとメタルテイストにしようとか、『フェアリィ・ダンス編』では空の世界観だからテンポ感上げて軽快な音楽増やそうとかはあったんですけど、でも「swordland」が流れれば全て解決じゃないけど、ちょっとした印籠みたいなところがあったんですね。

――印籠、お約束というか、それが出てくればいつもの流れに戻る的な。

残り15分になったら印籠と音楽が流れる的な(笑)。悲しいことも取り返しの付かないこともあるけれど、でもキリトくんが最後は絶対光を見せてくれる、というか。でも『アリシゼーション編』になって、いきなりゲームの世界じゃなくなるじゃないですか。それまではゲームの世界で、ログアウトできなくてもゲームの世界なんですよね。自分のオリジナルの世界はちゃんと外にあって、ちゃんとそこに行けば助かるっていうか。だけど『アリシゼーション編』はゲームの世界じゃないんですよね、中にいる人にとって。小説読んでいた時もショッキングだったんですけど、小説読んでいた時はそこまで思わなかったんです。

――実際に音楽を付ける段階になってイメージが変わったと?

音楽作り始めると、なんか今までの『SAO』のゲーム世界の音楽だとちょっと軽く感じるというか、ここがゲームの世界じゃない、自分の生きている地に足がついた世界で殺し合っていると思うと、ゲームっぽい音楽をつけちゃうと全然合わないんですよね。だから、これはちょっと違った感覚でもう少しリアリティのある感じにしたいな、と思ったので。やっぱり『アリシゼーション編』に入ってからグッと重くなったかな、っていう感じはしています。

――確かにそうかもしれないですね。もともとそのゲームから出れなくなって、っていうゲームの世界のお話ではあったんですけど。『アリシゼーション編』ってユージオとアリスを筆頭に、生身の人間なのかAIなのか、どんどんあいまいになっていくというか。

彼らは自分たちがAIだって意識はないですからね。彼らの認識で音楽を書くと、あそこは普通の世界なんです。死んだら終わりの、命あるただの人間の世界。ゲームのファンタジーじゃなくて、人間の土臭いファンタジーが始まったんだな、っていうのを書き始めてから、『アリシゼーション編』は改めて感じました。

――そこは曲を作っているなかで気づきがあった、という感じなのでしょうか?

作っても合わなくて、「あれっ?」て思って。なんとなくそれまでの延長のつもりで作っちゃうとテンポ早すぎたり、ちょっとデジタルにしたら全然乗らないとか。「このシーンでかけるはずの音楽」っていうのを作ってみて、そのセリフを自分でも読みながらやってみたりするんですけど合わない、っていう。『アリシゼーション編』は提出する前に、結構作り直しましたね。実際に作ってみないと分からないことでした。

――長く『SAO』という作品に携わる中での変化というか、気づきというのがまだあったと。

そうですね。「こんなにここで世界が変わったんだ」っていうのが、やっぱり作っていて感じるというか

――なるほど。そして10月には『劇場版ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア(以後プログレッシブ)』が劇場公開されます。原点にもどってきたではないですけど、アインクラッドの世界がまた観れるという。

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

正直嬉しいです!アスナ推しとしては最高です!最高です(笑)。

――そうですよね。『プログレッシブ』は正ヒロインが戻ってきた感じはありますよね。

アインクラッドの世界はやっぱりすごくハードだけど、好きな世界だったので。もう一回この世界で遊べるんだ、というか。多分ご覧になる方にもあるんじゃないかと思うんですよね。「もう一回ここに帰ってこれた」っていうような感覚がある作品なんじゃないかな、って思います。

――リメイクで昔のゲームがもう一回遊べる的な感覚というか、そういう感じはありますよね。

まさにそんな感じじゃないかと思うんですよね。

――とはいえ今回改めて『プログレッシブ』に楽曲を作った、ということもあり、最初に作ったものを意識された部分もあったと思うのですが。

そうですね、監督や音響監督の岩波さんと話した時に、やはりアスナのメロディをガンガン使っていきたい、という話がありました。なのでアスナのために作った曲のアレンジが非常に多いですね。あとは新しいキャラクターもいるので、そこはもちろん違うメロディになってます。一期本編に出てきたアスナは最初から強かったので、戸惑いや強くなって行く過程の音楽は必要なかったんですが、今回はそういった感情に合わせてアスナのメロディーを様々に変化させました。今回も全てフィルムスコアリング(映像に合わせて楽曲を付けていく手法)でやらせていただいたので、非常に楽しかったです。

――ドキュメントバラエティ『7RULES(セブンルール)』で制作過程の一部を拝見させていただきました。

アニプレックスさんには絵をすごく提供していただいて、ありがとうございました。まだ封切り前なのにあんなにサービスしていただいて本当に恐縮です。

――作曲風景の映像はかなり貴重な映像ですよね。梶浦さんは、こういう環境で楽曲作っているんだ、ってリアルに伝わってきました。

うちはシンプルなもんなんです、本当に。作業場では生楽器は一切録らずレコーディングは外スタジオへ行ってやるので、ミニマムな環境なんです。

『SAO』の魅力は二人が早々にくっつくところ

――改めて推しであるアスナというキャラクターの面白味、良さってどういうところにあると思われていますか?

自分がしっかりあって、もうなんかカッコいいんですよね。私はもう『SAO』は二人が早々にくっつくところが好きなんで。

――確かに。

いつまで経っても「えーでも〇〇くんは私のこと好きなのかしら……」みたいになられていると、イラッとするじゃないですか。でもそうではなくて、好きってなってすぐに二人が夫婦! みたいになっているところが最高なんです。

――確かに早々に夫婦になりますからね。その目線で『SAO』好きって面白いです。

ともかくあの二人がイチャイチャしてればしているほど楽しい。それにアスナもカッコいい。あとなんかいろんなこと思っているかもしれないけど、チラッと見るぐらいで、あんまり余計な事を言わないんですよね。

――そうですね、アスナは控えめ、ともちょっと違って言葉を発しないところで信頼を感じるというか。

キリトくんが他の子とイチャイチャしていても、「ん?」みたいな。少しだけお姉さんな感じで。そういう立ち位置的にすごく好きだし、強いってところも好きですし。あの二人の関係性って、イチャイチャとは言いましたけど、あんまりくどくなく、でもすごく信頼しあっている感じが、すごく好ましい。

――確かに。『SAO』の好きなところが「早々にくっつくところ」って、すごく腑におちました。そしてずっとくっつかない話もありますからね。

それはそれで恋愛モノの醍醐味なのかもしれませんが、あまりくどいと、いい加減にしろ、とか思うじゃないですか(笑)。

――確かに(笑)。話を戻しまして、やはりアニメ『SAO』は梶浦さんの楽曲の力が作品力を上げていますよね。

そう言っていただけると本当に光栄です。ともかく作品力がすごいので音楽がそれに貢献できているとしたら本当に嬉しいですね。

――『SAO』はもう一大サーガになっていると思うのですが、梶浦さん的に音楽で勝負している部分っていうのはあるのでしょうか?

基本的には裏切らないことだと思って作ってます。やっぱりなんだろう、意外性じゃなくて、特に『SAO』に関してはこのシーンで一番かかってほしいであろう音楽を提供したい、っていうのが一番大きいかも。ドラマがしっかりしていて、起承転結がしっかりあって、原作がすごく面白い。私が原作を読ませていただいて、すごく気持ちが盛り上がるところがある。すごく泣きたくなるところとか、感動するところとか。やっぱりそこのその感動をそのまま届けたい。感動したところはみんなが感動してくれるような音楽をつけたいんです。で、泣いたところはみんなが思う存分泣いてくれる音楽をつけたいし、もうまさにキリトくんカッコいい、ってところはキリトくんカッコいい、って。『SAO』って悪役が超悪役じゃないですか、割と。

――そうですね。殺人ギルドのラフィン・コフィンの面々とか、ある意味、分かりやすい悪役が多いですね。

悪役は本当に悪い奴で。そこはもうみんなが本当に「こいつクズだな」って思うような悪役を見たいし、そういう物語の魅力がもう本当にありとあらゆるところにある。その魅力があるところにそのまま音楽をつけたいというか、変に裏切りたくないんですよね。だから素直な音楽をつけたいなっていうのはありますね。

アニメーションの舞台である空間を絵と音楽で作っている

――ここ最近、劇伴作家さん、作曲家の方々がフィーチャーされることが多くなってきたなと思っていて。『SAO』の楽曲を梶浦さんが手掛けて表にでることで、作曲家の人の地位向上ということではないのですが、ファンの期待度だったり、認知度っていうのはすごく上がっていると感じています。そういう音楽も作品の中でしっかりとクローズアップされ始めている、というのは感じられたりしていますでしょうか?

どうかな……基本的に裏方ですからね。地位が向上する必要もそんなにないかな、っていうか、なんていうのかな、認識される必要もそんなに感じてはいない、っていう言い方をするとかえっておこがましいかもしれませんが。

――アニメーションの中で音楽が占める重要性が認識されてきたことで、世間から見られる印象が少し変わってきたといいますか。

そんなに意識していないんですけどね。まあでも、いいことなのかもしれない(笑)。わりと海外では、作曲家やプロデューサーをフィーチャーする印象がありますし。日本でもアニメの世界はわりと裏方的なの人たちのプライオリティは高い気はします。

――なるほど。

ドラマであったり、実写映画の方はなんとも言えないですけど、アニメに関していうと、そういうクリエイターにスポットをしっかりと当てていこうという傾向は年々増してきたかな、と感じています。多分、実写映画よりも傾向的にアニメの方が音楽は派手ですよね。良し悪しではなく、やっぱり人が動いていないので。私、いつもアニメに音楽をつけている時に思うんですけど、実写映画って風景を裏切る音楽をつけても成立するんです。すごい広いところに乾いたピアノの音とかを流しても、実写映画って結構平気なんですよ。

――ああー、はい、想像できますね。

だけどアニメーションの音楽って、特殊なシーンだったら別かもしれないんですけど、自分の今までの経験からすると、すごく広いシーンに乾いたピアノを流すと一気にガッと狭くなっちゃうんです。だからやっぱり、アニメーションって音楽も空間を作る役割を、実写より少し多めに担っていると思うんです。例えば絵でももちろん広い絵なんだけど、そこに音楽も加わることによってその広さがちゃんとリアルに近づいてくるというか。だからアニメーションって音楽がより密接に関わっている気がするんです。実写だと音楽がなくて成立するところも、アニメだと音楽があった方がいい、成立するっていうシーンも多いと思うんです。

――確かに実際にないもの、アニメの中の世界を説明するためには、映像という視覚だけではなく、音楽という聴覚が担っているとこは大きいと思います。

それは多分、そのシーンのセリフを際立たせるっていうよりは、後ろの世界観を少し密接に感じてもらうために音楽があった方がいい、っていうシーンがアニメーションの方が多い気がします。そういう意味で見ている方は、アニメーションの中における音楽の大切さを無意識に感じてらっしゃるのかもしれないですね。

――まさにそれでいうと『フェアリィ・ダンス編』なんかはそういう印象がパッと浮かぶところがあるかもしれないですね。浮遊感のある曲とかが多いですし。

そうですね、速かったりフワッとした曲とか、『フェアリィ・ダンス編』はそういうイメージの曲を結構作りました。世界観に合わせて。楽曲を作る時には必ず背景画をいただくようにしているんです。

――なるほど、先ほどおっしゃっていたように世界や空間を感じさせるために背景画が必要だと。

そう、背景画を見ながらやると「このぐらいの広さだから、音楽もこれぐらいにしておくとグッと広くなるんじゃないかな」とか。そこはすごく気を付けていますね。前に言った「裏切らない」っていうのはそういう意味もあって。空間を裏切らない、っていう。例えば背景画をいただいて、思ったより暗いっていう作品もあるじゃないですか。そしたら音楽も暗く、下の方に溜まるようなグワーっていう空間を演出するようなものを意識して作っておくと、作品の世界の暗さが際立つというか。『フェアリィ・ダンス編』みたいに、空がキラキラしている時は、ちょっと上の方のキラキラを増やして広くしておこう、みたいな。同じ曲でも音の使い方とか、弦の詰め方とかで結構違うんですよね。

――下の方に溜まる感じとか、上の方のキラキラ感とか、具体的に音がどうなっているかまで分かりませんが、その感じはものすごく伝わってきます。

なんていうのかな、音楽が作品に合わせて空間をちゃんと広げておけば、逆に音楽に耳が囚われずストーリーに没入できる感じがする。背景と音楽が自然に一つになって世界を作ることができていれば、その前で行われる物語がすごく自然になるような気がしてるんです。

――そうですね。ちょっと脱線してしまうのですが、それこそマーベルの『アベンジャーズ』とかファンタジックで実写なのにアニメ的じゃないですか。ああいう曲って確かに今おっしゃったような空間やその世界観を成立させる曲を入れているな、って印象があります。その中でもやっぱり『SAO』でいうと「swordland」みたいにキメの曲がかかると、言われていた水戸黄門の印籠じゃないですけど「キリト来た!」って感じるものはあるのかもしれないし。その相互作用はすごくアニメーション的なんだなと感じました。

多分想像力の問題なんですよね。実写だと想像力を使わなくても、案外その空間の広さってもう無意識に感じられると思うんですけど、アニメーションの場合だとどんなに美しくてどんなに広さがあっても、やっぱり本当は知らない景色じゃないですか。その外側、やっぱり広さって画面の外側ですよね。そこを感じるために音楽が一役買っていることが結構多いんじゃないかな、とは思います。

――このお話をお聞きしたら一刻も早く帰って『SAO』を見直したくなっているんですけど(笑)。でもその差異はすごくあるのかもしれないですね。音を消して見たらつまらない、みたいなところはあるのかもしれない。

きっとある意味その音消して見たらつまらないと言うのは、逆に作っている映像側の方がちゃんと音楽を信頼して作っている証だと思いますね。

――確かにそうですね。音楽を含めて作品として考えていると。

音楽が入ったらこうなる、と音楽の余地をちゃんと考えて作ってくださっているからこそ音楽がないとつまらない、っていう。ある意味、そこに信頼関係がある。音楽を信用してないと、SEとセリフと画だけで全部詰め込んじゃって、ギッチギチになっちゃう。

――余白がない映像になってしまうと。

余白がない。そこは逆に音楽が入ったらこうなる、ってことをご存知の方だからこそ余地を残してくださる。っていうのは結構ありますよね。

――ちょっと脱線したお話になってしまいましたが、改めてそんな楽曲を詰め込んだ今回の『フィルムオーケストラコンサート』の聴きどころをお聞きしたいです。

私の曲って基本オーケストラ曲じゃないんです。例えば昔のゲーム音楽って基本オーケストラの曲をシンセ音源に置き換えて作っているものも多いじゃないですか。『ドラゴンクエスト』なんかそうですよね。

――8bitに落とし込んで、ってことですよね。

そうですね。でも私の曲って弦は入っているけどオーケストラ編成の曲ではないんです。それが今回オーケストラになるので、実はイメージもかなり変わっているんですよね。なので今回は私の曲そのままでは決してないというか、私の曲は本当にオーケストラアレンジしてオーケストラに変身させたらこうなるよ、っていう。

――生まれ変わったら、といいますか。

そう、生まれ変わった感じですね。だからそこを逆に楽しんでいただきたいというか。オーケストラアレンジになったら、今まで聞き馴染んでいた『SAO』の楽曲がこんなふうに生まれ変わります、っていう。そこを楽しんでいただけたらな、って思っています。

――編成もすごいですよね。

コーラスだけで20人いますからね。すごくゴージャスなんですよ。

――『Yuki Kajiura LIVE』ライブとかを拝見すると、確かにその弦の印象が強いのかな、って思うんですけど。

そうですね、弦はものすごい使うんですけども。

――ベースやギター、そしてドラムのサウンドが中心にある。

そうですね。私の音楽って基本はロックだったりテクノだったりなんですよね。だからアレンジのやり方、オーケストラに落とし込むのが大変だと思います。だから時間かけてアレンジしていただきましたし、やっぱりオーケストラはオーケストラじゃないとできないことがあるので。

――餅は餅屋じゃないけど、オーケストラならではのものがあると。

そうですね。で、普段私たちが刻んでいるリズムを、例えばブラスで刻んでもらったらそれはそれでめちゃくちゃカッコいいとか。オーケストラじゃなきゃ出せないリズムを刻んで、その上で『SAO』の楽曲を奏でてくださっている。オーケストラって生で聴く喜びも大きいとは思うので、可能な方は是非会場で聴いてほしいです。

――作品の空気感を広げる音楽が、更にオーケストラアレンジっていうところでまた違う、映像との組み合わせになりますしね。

そうですね。映像と一緒にごらんいただくと、また全然違った形になると思います。そこも、私もすごく楽しみにしています。

――もう一つ、今回サブスクリプションでの配信が決まったということで、ご自身の作られた劇伴楽曲がサブスクで聴けるようになったことへの想いなどはありますでしょうか?

やっぱり『SAO』面白いな、って思って、じゃあちょっとBGMも聴いてみようかな、って思ってくださった時にすぐサブスクで聴いていただける、っていうのは純粋にすごく嬉しいです。サブスクで予習していただいて、コンサートでこういうふうになるんだ、って楽しんでいただくこともできると思うので。

――ある意味、これからはコンサート会場やライブ会場に入って始まる前にスマートフォンで楽曲を聴いておいて、本番のコンサートのアレンジを楽しむ、ということにもなってきそうですよね。

そうですね。

――やっぱり音楽が身近になってきた感じはありますね。では最後に『フィルムオーケストラコンサート』に『プログレッシブ』とまだまだ『SAO』に関わることはこれからも増えていかれていくと思うのですが、最後にファンの方に一言コメントいただければと思います。

まず『ソードアート・オンラインフィルムオーケストラコンサート 2021』は本当にもう、オーケストラじゃないとできないことが詰まっていて、『SAO』の世界をオーケストラっていう本当に違う音楽として楽しんでいただけると思うので、迫力のある世界を十分堪能していただけたらと思います。『劇場版ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の方は…これ結構すごいです(笑)。絵も綺麗なのは勿論、迫力もすごい、凄まじい感じになっていますし、もう一回あの世界にいって、「こういうことだったんだ!」とか、「あの後ろでこういうことが起こっていたんだ!」とか、もちろん、今回の劇場版から見ていただく方も面白いと思うんですけど、「SAO」シリーズをご覧になっている方はもっと楽しんで頂けると思うので、是非是非ご覧いただきたいです。

インタビュー・文=加東岳史

 

ツアー情報

『ソードアート・オンライン フィルムオーケストラコンサート2021』

■開催日程/会場:
7/17(土)ロームシアター京都 メインホール
9/11(土)北九州ソレイユホール
9/23(木・祝)日本特殊陶業市民会館 フォレストホール

上映情報

『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

2021年 10月30日(土) 全国映画館にてロードショー
 

【STAFF】
原作・ストーリー原案:川原 礫(「電撃文庫」刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:河野亜矢子
アクションディレクター・モンスターデザイン:甲斐泰之
キャラクターデザイン・総作画監督:戸谷賢都
サブキャラクターデザイン:秋月 彩・石川智美・渡邊敬介
プロップデザイン:東島久志
美術監督:伊藤友沙
美術設定:平澤晃弘
色彩設計:中野尚美
撮影監督:大島由貴
CGディレクター:織田健吾・中島 宏
2Dワークス:宮原洋平・関 香織
編集:廣瀬清志
音楽:梶浦由記
音響監督:岩浪美和
音響効果:小山恭正
音響制作:ソニルード
プロデュース:EGG FIRM・ストレートエッジ
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
製作:SAO-P Project

 
【CAST】
キリト:松岡禎丞
アスナ:戸松 遥
ミト:水瀬いのり

 

■公式HP:https://sao-p.net/
■公式ツイッターアカウント:https://twitter.com/sao_anime

(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project
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