『鳴神』上演にあたり市川海老蔵からのアドバイスとは? 市川右團次、市川右近親子出演の『伝統芸能 華の舞』取材会レポート
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(左から)市川右團次、市川右近 /オフィシャル提供
市川右團次、市川右近親子の共演で昨年初めて開催された『伝統芸能 華の舞』が2021年も開催される。
昨年は右團次と右近で『連獅子(れんじし)』を披露して話題となったが、今年は素踊り『楠公(なんこう)』で楠木正成、正行親子をそれぞれ勤め、親子の別離の場面をどのように見せるのか期待が高まる。また、歌舞伎十八番『鳴神(なるかみ)』では右團次が鳴神上人、大谷廣松が所化白雲坊、市川弘太郎が所化黒雲坊、市川笑三郎が雲の絶間姫を勤め、右團次と笑三郎、弘太郎の数年ぶりの共演にも注目が集まる。
今公演に向けて、右團次と右近が合同取材会に出席し、その思いを語った。
まず、『鳴神』をやるにあたって市川海老蔵からのアドバイスがあったか、という質問に右團次は「いろいろ細かくセリフのことなども教えていただきましたけれども、『一番根本にあるのは鳴神上人の高僧であるという気位なので、それを忘れずに演じてください』とご指導いただいた。そのお言葉を忘れずに演じさせていただければ」と答えた。
今回、これまで数々の舞台で共演してきた笑三郎と、子どもの頃から知っているという弘太郎と久しぶりの共演となることについて右團次は「私は40年の長きにわたって三代目市川猿之助(現・猿翁)の下におりましたので、そこで共に学んできた部屋子の皆さんと一緒に芝居ができればと思っておりました」という思いを以前から抱いていたことを述べ、「久しぶりに澤瀉屋の方とお芝居をさせていただけるので非常に嬉しく思っております」と笑顔を見せた。
昨年に続き2度目の開催となる今回への思いを問われると、右團次は「昨年は、当初3月に上演を予定していたが、新型コロナウイルスの影響で3月は福岡での1日きりの公演になってしまい、その他の公演のほとんどが10月に延期となりました。それでも無事にオープニングとして上演できたことを大変嬉しく思うし、コロナ禍でお客様にも感染対策をとっていただきながら、公演を喜んでいただけたということがあっての今回だと思っています」と、昨年のことを振り返った。
(左から)市川右近、市川右團次 /オフィシャル提供
公演の内容については「『鳴神』は美しい女形が出てきたり、派手な立ち回りがあったり、最後は皆様よくご存知の六方で花道を引っ込むというような、これぞ歌舞伎、という歌舞伎十八番。この作品を上演するにあたり、その前に上演する演目として何を選ぼうかとなったときに、私は日本舞踊の家の生まれで、子どもの頃に舞踊家の父と一緒に踊っていた長唄の大曲『楠公』をぜひ倅と一緒に、素踊りで演じさせていただきたいと思ってこの演目を選びました。能楽師の方のご協力もいただき、能楽独調『楠露(くすのつゆ)』という演目と併せて【楠木正成二題】と銘打って、昨年とは趣向の違った形での公演をご覧いただこうと思っています」と思いを述べた。
鳴神上人という役の魅力を問われた右團次は「根底にある品位や気構えが見えなくてはいけないとは思っているが、ちょっとチャーミングなところだったりとか、絶間姫にだまされて怒り狂うところとか、鳴神上人の中にいろんな人物像がいると思うので、そういうものを描ければ」と役への解釈を述べた。
公演への意気込みを尋ねられた右近は、素踊りについて「今までは衣裳とかお化粧とかをしていたけれど、今度はお化粧もしないで踊るから大変だと思います」と緊張の面持ちで答えた。
右近と一緒に稽古をするのか、という質問に右團次はうなずきながら、「『楠公』に関しては、私が踊ったときは父の振り付けで、今を去ること40数年前のことになる。そのビデオは彼(右近)にも見せたが、今回は藤間勘十郎さんの振り付けになるので、またイチから構築していかなければならないと思っている」と答えた。
(左から)市川右近、市川右團次 /オフィシャル提供
右近の成長ぶりと、親子共演への思いを尋ねられた右團次は「昨年の『連獅子』は、3月に1日やった以外は10月に延期になったので、その間ずっと『連獅子』のことを考えて過ごしたということが、彼にとっては成長に繋がっているんじゃないかと思う。今回は素踊りという形なので、扮装するわけではなく素顔に紋付袴で舞台に登場したときに、その役に見えなくてはいけないので、その心の持ち方というものを彼には勉強してほしいなと思うし、私自身も勉強したいなと思っています」と、親子で学ぼうという姿勢を見せた。また、右團次自身は『楠公』の正行を11歳頃から13歳頃の間に父親と何度か演じているが、ちょうど右團次が東京に単身で上京した頃と時期が重なるため「父と別れて住んでいるという経験の中で何度か演じたので、正行の気持ちがわかる部分が僕の中にはある」、その一方で右近については「(父親である自分と)ずっと一緒にいるし、コロナ禍でなお一層一緒にいる」と自身との経験の違いを述べ、そのあたりの心情について「話して伝えていければ」と師であり父である顔をのぞかせた。
お互いを役者としてどう見ているか、という質問に対して、右團次は「厳しい稽古でも弱音を吐かず、感情を自分の中に溜めて、それが表ににじみ出てくるような役者。今回もそういう彼らしいところが出てくれれば嬉しい」、右近は「立廻りがかっこいい役者。六方とか、自分もやってみたいなと思う」とそれぞれ答え、お父さんのようになりたいか、という問いかけに右近は迷わず「はい」とうなずいた。
夏休み中の楽しかった出来事を聞かれた右近は「最近卓球を家で始めました」と答え、それを受けて右團次が「テーブル卓球です。僕は嫌がっているんですけどやらされて、結局一緒に盛り上がっちゃうんです(笑)」と親子でステイホームを楽しんでいる様子を笑顔で話した。
コロナ禍での全国巡業についての思いを問われると、右團次は「これは覚悟の巡業だと思っている。感染対策を万全にして、各地のお客様に迷惑をかけないように心がけたい。各地でお芝居をさせていただいて、お客様の笑顔や拍手に勇気と元気をいただいている。1回きりしかない空間というものをこの世情の中でもお客様と共有して、喜んでいただきたい」と語った。
最後に右團次が「歌舞伎のいろいろな部分をご覧いただける演目になっている。通常の歌舞伎公演よりも値段が安く上演時間も短めになっているので、歌舞伎が初めてだという方にもぜひご覧いただき親しんでいただければ嬉しいです」と締めくくった。
(左から)市川右團次、市川右近 /オフィシャル提供
『伝統芸能 華の舞』は、2021年10月~11月、全国16会場で22公演が行われる。
取材・文=久田絢子