法村珠里が語る、プリマバレリーナとしての軌跡と現在~法村友井バレエ団が『ロメオとジュリエット』を上演

2021.10.13
インタビュー
クラシック
舞台

法村珠里 JURI HOMURA 撮影:尾鼻文雄

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法村友井バレエ団は、1937年に法村康之、友井唯起子によって大阪に設立された。現団長の法村牧緒は、日本人として初めてレニングラードバレエ学校(現在のワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミー)に留学した、日本におけるロシア・バレエの第一人者。名門のプリマバレリーナである法村珠里は、法村牧緒と元プリマバレリーナの宮本東代子との間に生を受けた(兄はダンスールノーブルとして知られる法村圭緒)。モスクワのロシア・バレエ・アカデミーでマリア・イワノワに師事した後に帰国し、卓越した技術とドラマティックな表現力を持ち味に活躍中だ。2021年10月23日(土)大阪・フェスティバルホールで上演する『ロメオとジュリエット』でジュリエットを踊る名花に、意気込みや近年の軌跡、産休からの復帰、今後の展望を聞いた。
 

■「無我夢中で突っ走っていた」デビューの頃

――2005年の『シンデレラ』で初のソリスト役を踊り、2008年に『眠れる森の美女』全幕でオーロラ姫を踊ってバレエ団本公演の主役デビューを果たしました。それ以後は次々に主役に挑んでいました。当時どのような心境でしたか?

今思うと未熟で周りに支えられっぱなしでした。どうすれば先輩方のように素敵に踊ることができるのだろうかと考え、先生方にご指導していただきました。毎日発見がある環境に感謝しつつ、無我夢中で突っ走っていた年月でした。若かったので、今とは少し違う無敵さというか、テクニックやパワーで魅せることには自信がありました。

『ドン・キホーテ』 撮影:尾鼻文雄

――『ドン・キホーテ』(2010年)のキトリや『エスメラルダ』(2009年)のエスメラルダが各紙誌で高く評価されました。その後『ジゼル』(2012年)ジゼル、それに2013年に文化庁芸術祭新人賞を受賞した『白鳥の湖』のオデット/オディールのようにバレエ・ブラン(白いバレエ)でも力を発揮されるようになりました。やはり古典中の古典の作品は難しかったですか?

難しいですね。お客様それぞれのイメージもあります。『ジゼル』の場合、「ジゼル役はこうあるべき」という先生方のご意見も参考にしましたが、東代子先生、牧緒先生が踊られていたビデオを見返した時に「これが私の目指しているジゼルなんだ!」としっくり入ってきたんです。先生方に直接指導してもらえる環境が身近にあったので心強かったです。『白鳥の湖』の時は公演前にロシアに行って学びました。毎日刺激的で、体は限界だけれども「もっとこうしたい。こう動きたい。そのためにはどうしたらいいんだろう?」という研究をたくさんできました。

『白鳥の湖』 撮影:尾鼻文雄

 

■財産となったプロコフスキー版『アンナ・カレーニナ』

――ドラマティックな表現力が最高に発揮されたのがアンドレ・プロコフスキー振付『アンナ・カレーニナ』のタイトルロールではないでしょうか。2009年の新国立劇場地域招聘公演の際に初日を飾り、2015年に大阪で上演された時に文化庁芸術祭優秀賞を受賞されました。文豪レフ・トルストイの長編小説を、アンナと愛人のウロンスキーの愛憎を中心に構成した重厚な物語バレエです。ターニングポイントになった作品ですよね?

『アンナ・カレーニナ』は法村友井バレエ団にとって凄く価値のある作品だと思います。装置・衣裳の一式を持っていますし、プロコフスキー先生に直接指導していただいたことは財産です。先生はご高齢で体が弱られていて口で説明されるのですが、熱意にあふれていました。どうしたら先生の思うようにできるのか試行錯誤しました。2回目は、先生がどのような気持ちでご指導されていたのかが分かる気がして、自分の中でも余裕ができました。

『アンナ・カレーニナ』 撮影:尾鼻文雄

――アンナ・カレーニナは若くて美貌の持ち主ですが、高官である夫カレーニンを裏切り、青年将校ウロンスキーと恋に落ちます。しかし幸せは束の間、ウロンスキー共々社交界からも追放され、絶望し、列車に飛び込みます。アンナの感情を表すために何を心がけましたか?

私の中に「アンナのウロンスキーへの愛は本当だったのかしら?」「こんなにも愛が崩れるのはあっけないのか?」という気持ちがありました。家に帰って息子のセリョージャが寝ているのを観た時、自分が一番愛していて本当に大切なのはこの子なんだと感じる。それがお客様の心に響かないといけないので、そこに持っていくために研究しました。セリョージャ役の子とは、ちょっとずつ心を開いてくれるようによくしゃべるようにしていました。

『アンナ・カレーニナ』 撮影:尾鼻文雄


 

■葛藤も抱えながら産休へ

――2018年10月の『エスメラルダ』で2009年に続いて二度目のエスメラルダ役を踊ったのを機に産休に入りました。どのように決意したのですか?

バレエの道だけでいくのか、子供を産んでも体が欲するのであればバレエを続けるのか。主人はどちらでも好きなようにしていいよと言ってくれました。子供を持とうとすると、ダンサーとしてのブランクが生まれます。でも、絶対にほしいと思っていました。それに、産休に入ってバレエ団を見守るというか、どのように動いているのかを見てみたいという思いもありました。

『エスメラルダ』 撮影:尾鼻文雄

――2020年秋に男児を出産されましたが、いつまで教えをされていましたか?

9月の発表会まで仕事をしていたので、お腹が結構大きな状態でした。しかし、生徒たちにも支えられエールを送ってもらったのでうれしかったですね。私自身、お腹が大きくなる自分の体が許せなかったんです。やっと子宝に恵まれたけれども、生徒の指導もしていたのでお腹が大きくなると見本を見せられないという葛藤がありました。10か月お腹の中に息子がいて一緒に過ごした時間は長く感じましたが、出産はあっという間の安産でした。

――妊娠中に新型コロナウイルス感染症が感染拡大しました。どう過ごしましたか?

妊娠が分かったのは、ちょうどコロナが流行り出した頃でした。暗い世の中になってしまったじゃないですか? その中で、妊娠を言うに言えないというか、明るいニュースなんですけれど、話題にするのは控えなければという思いはありましたね。

『エスメラルダ』 撮影:尾鼻文雄


 

■産後復帰を経て“踊り魂”ふたたび

――安産の後、どれくらいでレッスンに復帰しましたか?

年末なので2か月後くらいでしょうか。少しずつレッスンをしに行きました。

――産休前に比べて変化はありましたか?

全然違いました。今までできたことができなくなりました。体の節々が毎日悲鳴を上げていましたね。骨盤が大きくなって動き難くなる部分もあるし、脚も上がりません。ストレッチをして少しずつ戻していきましたが、周りも「無理しないでね!」と励ましてくれて優しかったです。

――産休の間、一度バレエ団を引いた視線から見守ってみたかったというお話がありました。ダンサーは新世代も出てきましたし、指導者の先生方も杉山聡美さんや圭緒さんが中心になってきました。傘下のバレエ学校から一貫したロシアン・スタイルで通しつつ、上演作品も古典を軸にアップデートされている印象を受けます。法村友井バレエ団の現在をどう感じていますか?

他のバレエ団にもそれぞれの良い点や魅力はありますが、法村にしか出せないものがあります。ドラマ性であったり、レパートリーの多さや豪華な装置・衣裳だったりしますし、ダンサーの資質もそうです。でも、若い団員で「こういう時にどうすればいいんですか?」と聞いてくる子は伸びるけれども、どうしたらいいのか分からない子もいるのでアドバイスをしています。良いところと、まだまだ未熟な部分の差を埋めていきたいですね。そのために主役が引っ張っていかないといけない点を伝え、アドバイスしたりしていました。これからは法村にしか出せない良さを伝えて、お客様、ファンを増やしていきたいですね。途絶えてほしくない芸術なので。

『不思議な仔馬』 撮影:尾鼻文雄

――現役ダンサーとしてバレエ団に所属して踊り、ご指導もされ、それに育児・家事もされています。時間の管理などは大変ですよね?

大変です。自分のことは後回しです。今もリハーサル前に息子をお風呂に入れて、終わったらそこから寝かしつけ、寝入ってからようやく自分のことができます。でも幸せです。頑張れる活力をくれるというか、パワーにつながっています。本当に疲れている時は「ごめん、しんどい!」って、兄(の圭緒)に息子をお風呂に入れてもらいます(笑)。兄とは9歳年の差があるので私が小さい頃も面倒を見てくれたし、子供が2人いるので育児がとても上手なんですよ!

――舞台復帰は2021年6月の『不思議な仔馬』(演出・振付:法村牧緒、振付:法村圭緒)のジプシー役でした。再び舞台で踊った印象をお話しください。

復帰して最初に踊るのがジプシーだなんて(笑)。圭緒先生の振付は難しくて大変でしたが心は燃えました。踊り魂を学ぶことができましたね。バレエは主役だけではないので、一人一人が輝く舞台であってほしいと思いました。

『不思議な仔馬』 撮影:尾鼻文雄


 

■“初心”を大切にチャレンジも

――2021年10月23日(土)に『ロメオとジュリエット』(演出・振付:法村牧緒)が上演され、7年ぶりにジュリエットを踊ります。ロメオは今井大輔さんです。抱負をお聞かせください。

本当に美しくて切ない物語なので、誰もが知っています。大人も涙する感動のシーンがありますし、法村にしか出せない豪華絢爛な舞踏会の群舞もあります。出演者が誰一人として欠けてはいけない重要人物なので、よく話し合うようにしています。「私はこう動きたいんだけど、どう思う?」「僕はこうしたいから、ジュリエットはこうしてくれる?」とかいうふうに。大輔くんはロメオにぴったりです。こんなにも開花するんだというくらいに。私も彼がどう動きたいのか、どういう気持ちで踊っているのかを分かってくるようになってきたのでリハーサルが楽しいです。お互いが感情を伝える時に、もう少し繊細さも出せるように研究していきたいです。

『ロメオとジュリエット』公演チラシ

――今後も踊っていかれますよね?

踊れる間は踊っていきたいです。主役だけではなく、貴族や村人でも何でも踊り演じられるような、そういう気持ちでいきたいと出産してから思うようになりました。初心に戻ってではないですけれど、心が広くなったのかもしれません(笑)。

『ロメオとジュリエット』リハーサル 撮影:尾鼻文雄

――『アンナ・カレーニナ』はまた拝見したいです。実際に母となった立場で踊るアンナがどうなるのかも見てみたいです。

大変なので踊りたいとは簡単に言えないのですが、チャレンジしてみたいとは思います。

――法村友井バレエ団にはグランド・バレエ以外の一幕物もあります。たとえば『シェヘラザード』の王の愛妾ゾベイダをまだ踊られていませんね?

(祖母の)友井先生が妖艶に踊った話を聞いているだけですが、遺されている写真を見ると今にも動き出しそうです。芸術家だったんだなと感じます。私がそれを出せるかどうか分からないですが、血を継いでいることはお客様にも伝わるだろうし、いつかは踊ってみたいですね。

『ロメオとジュリエット』リハーサル 撮影:尾鼻文雄

オンライン取材・文=高橋森彦

公演情報

法村友井バレエ団『ロメオとジュリエット』

■日時:2021年10月23日(土)17:00開演
■会場:フェスティバルホール(大阪)

【芸術監督・演出】法村牧緒
【指揮】江原功
【演奏】関西フィルハーモニー管弦楽団

■メインキャスト:
【ジュリエット】法村珠里
【ロメオ】今井大輔
【ティボルト】今村泰典
【マーキューシオ】豊永太優
【ベンボーリオ】山本庸督
【キャピュレット】法村圭緒
【キャピュレット夫人】堤本麻起子
【乳母】大力小百合
【ロレンス神父】郷原信裕
【ジプシー】坂田麻由美 佐野裕子 中内綾美
【道化】山野有可 池田健人


全席指定・税込 BOX 席 11,000円 S 席8,500円 A 席7,500円 B 席 6,500円
※3歳未満のお子さまは入場できません。※3歳以上は入場券が必要です。
※出演者への面会及びスタンド花・楽屋見舞など全て、コロナウイルス感染予防対策として、お断りさせて頂きますため、ご遠慮下さいますようお願い致します。
 
■お問い合わせ:法村友井バレエ団 06-6771-6475