服部百音(ヴァイオリン)&亀井聖矢(ピアノ)インタビュー 二人のヴィルトゥオーゾが贈る極上のクリスマスコンサート 

2021.11.10
インタビュー
クラシック

亀井聖矢、服部百音

画像を全て表示(7件)


次世代の日本のクラシック音楽界を担う二人のホープ、ヴァイオリニストの服部百音とピアニストの亀井聖矢が贈る極上のクリスマスコンサートが2021年12月8日(水)・9日(木)東京オペラシティ リサイタルホールにて開催される。二人の真価を堪能できる意欲的なラインナップに期待も高まる。次から次へとサプライズを繰り出し続けている二人のヴィルトゥオーゾに、今回のコンサートにかける意気込み、そして、ともに分かち合う音楽への情熱や、未来への視座などを思う存分に語ってもらった。二人から感じられる知的でフレッシュな感性は、今後も業界に新風を巻き起こしてゆくに違いない。

「私の根幹部分に共鳴してくれる」(服部)、「作品に対する理解と探求心に尊敬する」(亀井)

――まずは、12月の演奏会に向けてのお二人の意気込みをお聞かせください。

服部:クリスマスの雰囲気が漂う、楽しい演奏会になると思います。クリスマスなので特別に、作品の奥底に迫る緊迫感漲るというスタイルとは少し違う、珍しいタイプの作品もプログラミングしていますので、自分自身にとっても新鮮なものになると感じています。

亀井:僕自身もクリスマスにちなんだショパンのソロ作品も弾かせていただきますし、自分たち自身も、誰よりも楽しんで演奏したいと思っています。

服部:気軽にお越しいただけたら嬉しいですね。

――お二人は昨年の11月の毎日ゾリステンのコンサートや、今年6月には八ヶ岳でも共演していますが、共演してみてどのような感触を持っていますか?

服部:まず「音楽的な方向性が似ているな」とすごく感じています。昨日も一回目の合わせをしましたが、初めての曲を最初に一回通して弾いた時も、ほぼ分裂することなく、7~8割方の方向性が同じだと認識しました。ヴァイオリンは様々なピアニストと共演するので、その点についてはよくわかるのですが、このような事はとても珍しい現象なんです。

服部百音

――‟あうん” の呼吸という感じでしょうか。

服部:本番ではさらにそれを感じると思います。

亀井:呼吸感やエネルギーの持っていき方などは言語化できない難しさがあると思うんですが、見えないものに感触の良さを感じるのは、確かに相性の良さなのかもしれません。服部さんと僕の場合は、プログラミングの段階ですでに波長が合うんです。

服部:曲の好みがとても似ているんです。

亀井:なので、弾いていて、とても楽しいですし、合わせているうちに二人の音楽が二倍にも三倍にもなって、本番になるとそれがさらに……

服部:例えば、リハーサルではなかったやり取りをどちらか一方が始め出すと、さらにかけあいが始まって白熱したラリーのように続いていく感じもありますね。

―――服部さんは、亀井さんの音楽家としてのどのような部分に一番惹かれますか?

服部:演奏家によって、時に作品や音楽よりも自意識や自己顕示のほうが勝ってしまうケースが往々にしてあるんです。私自身はそういった演奏にならないよう心掛けているつもりですが、その作品の本質的な魅力や本音の部分を音で浮き彫りにしていく過程が一番幸せで、亀井さんは音楽でそこに非常に共感してくれます。

――亀井さんはいかがでしょう?

亀井:百音さんを音楽家として尊敬している部分はたくさんありますが、まずは、一つひとつの作品に対する理解と探求心です。百音さんと合わせる時は、多数の音源を聴いて臨みますが、それでも、現場では「こんな魅力があったんだ!」、「こんな聴かせ方があったんだ!」と、つねに新しい発見に遭遇しています。それは、百音さんが曲そのものの分析だけではなく、作品すべてに付随することを多岐にわたって捉えているからこそ生まれ出るものなんだと、本当に尊敬しています。

亀井聖矢

クリスマスにふさわしい重厚かつカラフルな作品たち

――今回のラインナップは、フランク、ストラヴィンスキーと大曲が二曲続き、他作品もかなり技巧的で、中身の濃いプログラムに仕上がっていますね。

服部:確かに重量級ではありますが、いつもの私の演奏会からすれば軽いほうです。フランクのソナタもいろいろな演奏スタイルがありますが、我々のアプローチはとても濃厚で、さらっとお洒落に弾き流すというよりは、言いたいことをはっきりと言って帰る!という感じになっていると思います(笑)。

ブラームスの「FAEソナタ 第三楽章(スケルツォ)」は、今回初めての試みですが、冒頭からピアノの見せ場がありますし、「亀井君に合っているかな」というところもあり、選んでみました。一曲目ですし、ブラームスの人生等々を深く感じるというよりも、純粋に作品として楽しんでいただけるかな、と思っています。

――ストラヴィンスキーの作品は、バレエ作品「妖精の口づけ」にちなんだ一連の組曲ですね。

服部:ストラヴィンスキーが、チャイコフスキーのピアノ曲や歌曲の旋律からのインスピレーションを取り入れて書いたバレエ音楽なので、中身はかなりチャイコフスキーです(笑)。和声の動きやリズム、独特のシンコペーションなどはまさにそのものです。そこにストラヴィンスキーらしさも加わっているという点もとても興味深いと思います。バレエ作品がべースになっているので、妖精が登場する情景なども、舞台を見ているかのように音のイメージで思い起こさせられたら嬉しいですね。

――現時点で発表されているラインナップですと、亀井さんのショパン作品(スケルツォ 第1番)のソロ演奏も予定されていますね。

亀井:はい。この作品は、緊迫した提示部や再現部に対して、中間部にポーランドのクリスマスキャロルが用いられている部分があって、この演奏会にふさわしいと思いました。提示部、再現部の激しさに対比して、中間部の旋律に込められた祖国に対する思いや、家族との記憶などの情感がとても際立たっていて、フワッと幻想的に描写されているところが僕自身とても好きです。

――他にも作品が加わる予定ですか?

亀井:僕のソロがもう少し増えて、曲間に挟まれる予定です。何を弾くかも楽しみにしていただけたらと思います。

亀井聖矢、服部百音

――この演奏会のプロモーション用の動画を拝見しましたが、大変完成度の高いものでした。収録はどのような感じでしたか?

亀井:前半に撮影したシマノフスキーとラヴェルのツィガーヌは、昨年、毎日ゾリステンのコンサートでもご一緒した時に演奏した作品ですので……

服部:困ったらこの二曲、楽譜を忘れたらこの二曲っていう感じですね(笑)。

亀井:なので、お互いの呼吸感もわかっていますし、ちょっとした遊び心も入れられるくらいの余裕もありました。

服部:一回、二回くらいでOKが出たので、ライブ演奏的な臨場感があると思います。

亀井:後半に撮影した二曲 ラフマニノフの「パガニーニよる狂詩曲 第18変奏曲」とパガニーニ「24のカプリス」から第24番は、今回の撮影で初めて演奏しました。パガニーニのカプリスはもともと無伴奏の作品なので、僕がオリジナルでピアノ部分を作曲しました。自分自身の編曲作品をしっかりと動画公開するのは初めての挑戦で、リストやラフマニノフっぽい要素、怪しげな雰囲気や民族的な曲想など、変奏によって様々な色合いの変化を意識しました。

服部:そうなんです。亀井版のピアノパートによって曲想が変わっている分、ヴァイオリンのパートも原曲とはまったく別物になっていて、とても興味深い作品に仕上がっていると思います。

服部百音&亀井聖矢 それぞれの音楽

――服部さんは、普段から圧倒的にショスタコーヴィッチやプロコフィエフなどのロシア近代の超技巧的作品に取り組まれることが多いですが、この時代の音楽に惹かれる理由は?

服部:特にショスタコーヴィッチ作品に関しては、小さい頃に聴いた時の衝撃が忘れられなかったというのが理由です。あまりにもカッコよくて、いつか弾きたいと憧れていました。ただ、当時10歳でしたので、その頃に師事していたザハール・ブロン先生から「精神的にも、技術的にも少し早いから、もう少ししたらね」と言われていました。

そして、15歳になって、ようやく先生に教えてもらえるようになりました。音楽だけではなく、先生は曲の生まれた時代背景――例えば、銃声や爆撃なども音として描写しているなど、作品の持つ時代の殺伐とした情景を15歳の私に細かく説明してくださいました。そして、そんな凄惨な状況の中で生まれてくる人間の愛情や純粋な気持ちというような相対するものも、音として表現されると、すべてが一つになって、このように壮大な作品になるんだよということも語って下さいました。

服部百音

年齢が上がるにつれて、(ショスタコーヴィッチの)シンフォニー作品なども聴くようになって、作品それぞれに込められた意義、例えば、ショスタコーヴィッチ独特の皮肉的な語法やパロディ的なものを暗号的に読み説く面白さがわかるようになってきたんです。それも、正解が一つではないんですね。いくらでもアプローチの仕方があって、エンターテイナー的な解釈すら可能なんです。

その中で、つねに「ショスタコーヴィッチ自身がイメージしたものにより近いものは、どうだったんだろう?」と考えて音作りをするのが本当に楽しくて、どっぷリハマってしまったんです。古典派やロマン派の音楽はある様式の中での美学が求められますが、この時代の作品は、自分自身の想像力が膨らむほどに際限なく音に落とし込める魅力があると思っています。

――亀井さんの演奏というと「超絶技巧へのあくなき挑戦」という言葉が、まず思い浮かびますが、クラシック音楽作品において、“超絶技巧” というものが訴えかけるメッセージや、Virtuosity(ヴィルトゥオージィティ=名人芸)というものの意義について、どのように考えていますか?

亀井:僕としては、決して名人芸的なものを見せたいわけではないですし、そもそも、超絶技巧自体は音楽の本質ではないと考えています。ただ、作曲家たちがあえて複雑で難しい音符を並べたのには、それなりの意味や理由があると思うのです。

歌や弦楽器・管楽器などの楽器は、感情の動きを細やかに表現する旋律をロングトーンなどで持続させることができますが、ピアノは物理的にそれが不可能で、むしろ音は減衰してしまいます。ただ、減衰してしまう一音では表現しきれない感情でも、対旋律や伴奏にさまざまな音を並べることによって、それが波となりエッセンスとなり、内面から溢れ出る感情の揺れをより繊細に表現できると感じています。つまり超絶技巧と一口に言っても、より豊かな表現を求めた先に生み出された一つの手段であるという解釈もできると思うのです。なので、それぞれの音に込められた意義や理由を一つ一つ考えて音楽を作っていくことをいつも意識しています。

亀井聖矢

服部:こんなにピアノがハードな曲目をビクともせず、快く受けていただけるピアニストはそういないので、亀井さんには本当に感謝しかないです。曲の魅力を最大限に生かすために、固定概念に捉われずに、互いに自由にトスし合えるという関係性は、稀有なものと感じています。

亀井:今回のプログラムは、シマノフスキーをはじめ、すべての作品でピアノの比重が大きいですし、僕の中では、決して単なる伴奏とは思っていません。かといって、ソロ演奏でもありません。そこはデュオ・アンサンブルとして、ちょうどよい塩梅を作りだしていけたらと思っています。ピア二スティックに技巧的な部分もありつつ、ヴァイオリンにトスを受け渡しながらの演奏というのは、またソロとは違う難しさがありますが、だからこそ生まれてくるエネルギーというのを感じています。

……ただ、百音さんのヴァイオリンを聴きたいという方々には、たまに「亀井君、ちょっとウルサイな」というコメントを見る時もあるのですが……。

服部:そういうのはいいの。ソナタなんかはヴァイオリンの曲であっても、お互いに言いたいことを言い合わないと聴いていてつまらないので、そういうスタイルこそが本来あるべき姿だと思います。

亀井:と、いつも言ってくださっているので、僕も遠慮せずに、伴奏とは思わず積極的に絡んでいくようにしています。

これからの日本のクラシック音楽に向けて

亀井聖矢、服部百音

――お二人とも、これから20代を謳歌するわけですが、これからの10年に描いているものはありますか?

服部:私の場合は20歳迄があまりにも早く過ぎ去ってしまって、そのうちの10年間の修業時代はいつもレッスン漬けで同じような生活を送ってきました。そこで叩き込まれたものは、もちろん財産になっていますし、ここ数年で、それらの財産をもとに、音楽的にも、人間的にも自分から自発的に出てくる考えや思いが確立してきたという実感もあります。

ただ、「10年後にこうなっていたい」という壮大なヴィジョンを描いているわけではありません。もともと、あまり大きな目標をもつのが苦手なんです。というのも、今まで目の前にある事柄につねに全力疾走して、すべてを発揮することに集中してきたので、今後もそうあり続けるとは思います。一方で、もう、いい歳になってきたので(一同驚愕!)、少し視点を変えてみたいな、とは思ってはいますが……。

一つだけ思う所は、日本のクラシック音楽の在り方に、少しでも変化をもたらせたらとは思っています。日本のクラシック音楽の立ち位置や存在の在り方は、海外とは全く違う、というのはスゴく感じています。

例えば、日本独特な現象で、「いい曲」と言われているから有名になっていくとか、人気曲のランキングも10年以上変わっていません。そのような固定観念でクラシック音楽を捉えるのではなく、スポットライトのあたっていないところにもすばらしい名曲もありますし、マイナーな作品にも、「こんなにエキサイトできる素晴らしさがあるんだ!」という新たな価値観をより多く方々に持っていただけたらと思っています。

私としても、弾き方や思い次第で、聴衆にそれがいかに伝わるかというのを、最近、感触として把握できるようになりました。弾き手側の心がけ次第で、前知識が無くても、お客様がじっと息を呑んで聴き馴染みの無い曲でも聴いてくださっているんです。なので、私もシマノフスキーなどの作品を積極的に増やしたりして、聴衆との新たなコミュニケーションを楽しんだりしています。そのような意味で、クラシック音楽における意識的な改革に少しでも前向きに貢献できたらと思っています。

亀井:クラシックというと、一般的には癒しやリラックスというような受動的なイメージがあるかと思うのですが、僕が目指しているのは、お客様自身も曲の世界に入り込んで楽しんでいただける、良い意味でのエンタテイメント性のある能動的なステージです。少し前までは、演奏者が出てきて、演奏して、はけて、というのの繰り返しでしたが、最近は、僕自身も積極的にマイクを持って作品解説をしたり、つねに客席と一体化できるように心がけています。どのように作品にアプローチするかを、お客様に少し言葉で提示するだけでも倍以上に楽しめると思いますし、クラシックの敷居を下げるというより、広く深く楽しんでいただくための"はしご"を提示していく役割を担うことが重要だと思っています。

――締めくくりに、読者へのメッセージをお願いします。

服部:一年を振り返っていろいろ思いが込み上げてくるような熱量を持った濃厚な作品を集めてみましたので、クリスマスコンサートにしては盛りだくさんすぎるかもしれませんが(笑)、今回は亀井君も一緒にやってくださるので、きっといい演奏になると思っています。亀井君のソロもありますので、皆さん、とても楽しみにしていてください。

亀井:いろいろな情景が目に浮かぶようなクリスマスにふさわしいカラフルな作品ばかりです。僕たちも、目いっぱい楽しみながら演奏したいと思いますので、皆さんにも楽しんでいただきたいと思います。

取材・文=朝岡久美子 撮影=池上夢貢

公演情報

服部百音&亀井聖矢 クリスマスコンサート“Storia”
 
日程:2021年12月8日(水)、9日(木)
開演:18:30~ (開場 17:45~)
会場:東京オペラシティ リサイタルホール
 
出演:服部百音、亀井聖矢
曲目・演目:
ショパン/スケルツォ第1番 ロ短調 (ピアノソロ)
フランク/ヴァイオリンソナタ イ長調
ストラヴィンスキー/ディヴェルティメント
 
シマノフスキー/ノクターンとタランテラ(8日)
ラヴェル/ツィガーヌ(9日)
他 ※休憩含む120分
 
料金(全席指定):5,500円
一般発売:2021年10月23日(土)10:00~12月5日(日)18:00
  • イープラス
  • 服部百音
  • 服部百音(ヴァイオリン)&亀井聖矢(ピアノ)インタビュー 二人のヴィルトゥオーゾが贈る極上のクリスマスコンサート