約2年の熟成期間を経てついに上演 渡辺えり・キムラ緑子W主演『有頂天作家』取材会レポート

2021.12.16
レポート
舞台

(左から)キムラ緑子、渡辺えり、齋藤雅文

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2020年3月・4月に上演を予定していたが、コロナウイルスの影響を受けて中止となっていた『有頂天作家』。今回、2年の時を経て、同キャストによる上演が実現する。“有頂天”シリーズの第4弾は、名優・杉村春子に書き下ろされた名作『恋ぶみ屋一葉』のタイトルを『有頂天作家』と改め、渡辺えりとキムラ緑子のW主演で描く。恋文の代筆業を営む前田奈津(キムラ緑子)と、死んだと思われていた元芸者の小菊(渡辺えり)の二人が作家の加賀美涼月(渡辺徹)をめぐって繰り広げる、ちょっと複雑な恋模様と騒動を描いたコミカルで繊細な物語だ。

上演に先駆け、渡辺えりキムラ緑子と作・演出の齋藤雅文による取材会が行われた。

齋藤雅文

齋藤:やっと上演することが叶い、とても嬉しいです。昨日読み合わせをしまして、皆さんのキャラクターがイキイキと息づいているのがよく分かりました。稽古を通して、より重厚な作品になっていくのではないかと期待しています。

元々杉村先生の時に書いた作品ですが、同じような演劇体験をしてきた世代でリメイクしてみたいという思いがずっとありました。僕のように大劇場で育った劇作家に与えられている使命は、舞台上でいかに俳優を光り輝かせるか。そしてそれを見た方に喜んでいただけるかです。えりさんと緑子さんが今までにない魅力を発信して、徹くんも絡んで、密度の濃い会話劇になるという予感がしています。

2年前には、延期を重ねてゲネプロを4回やりました。作り込んできたものを、同じメンバーでできるのを嬉しく思っています。歌も踊りもある、笑って泣ける芝居になっており、僕もゲネプロでかなり泣かされました。ぜひ期待してください。

渡辺えり

渡辺:約2年前、本番に向けて死ぬ気で稽古をしたものの残念ながら中止。ようやくできるのを嬉しく思っています。

この戯曲に出会ったのは30年前くらい。その時にすごい芝居だと思って号泣しちゃって。齋藤さんにお会いして、この方がお書きになったのかと印象深く感じました。この作品は明治時代の話で、男社会で女性がなかなか仕事を持てなかった時代の女性文学者の生き様を描いていることに感銘を受けたのを覚えています。

役については、私が9年前に親友を亡くして、会いたいのに会えない状況なので、信頼している親友が20年ぶりに目の前に現れたらどんなに幸せかを考えながら演じたいと思っています。女性の友情って固くて強いものなんですよね。その時々で動かされる場合もありますけども、男女の恋愛よりも濃くて強くて揺るぎないと私は思っています。可哀想な役どころでもありますが、頑張って演じたいと思います。

キムラ緑子

キムラ:2年前にもこうやって会見をしたので、今とても不思議な気持ちです。

お客様にお見せすることなく、2年近くこの芝居を寝かせて。ようやく皆さんの前でお芝居ができるのがすごく嬉しくて、絶対に楽しんでもらいたいという気持ちが強く湧き上がっています。えりさんとお芝居するのも2年ぶり。稽古場だけでやらせてもらって、その後えりさんが他の方とお芝居しているのを見に行って、ちょっとジェラシーを感じたりして。改めて、こうしてえりさんと芝居ができる、齋藤さんの演出を受けられる、前のメンバーも全員揃って、もうワンランク上の芝居にできるんだという気持ちでいっぱいです。

ーー前回ゲネを4回やったということですが、2年ぶりの稽古はいかがですか?

渡辺:昨日本読みをしましたが、忘れているもんですね(笑)。時代が明治なので、現代とは違う言葉もあって。でも、動きは全部思い出しました。それと思い出したのが、羽織が着れなかったこと。ゲネプロでも羽織を脱いで畳むシーンができなくてぐしゃぐしゃになって、見た方が笑いすぎて椅子から落ちていました(笑)。今回は完璧に、着慣れている人になりたいと思っています。

キムラ:本読みをして、2年弱で確実に年を取っているのを感じました。これはいい意味で、先ほども寝かせると言いましたが、脳や体って深いところに台詞を落ち着かせるんだなと。湧き上がってきた芝居が前にやった時とは全く違う感覚ですごく面白かったんです。皆さんを見ていても、作品が表面的なものではなく、より深いところまで表現できると実感しました。

齋藤:ゲネプロ4回のうち、最初は関係者にたくさん来ていただき、かなり喜んでいただいて、カーテンコールもなぜか3回もやったので僕らにとってはほぼ初日でした。演出に関しては変えません。この2年間、スタッフも役者も色々考えたと思うんです。それは確実に役に反映されます。熟成させた時間は無駄にならず、舞台の成果に反映されると信じています。

ーー友情のものがたりということですが、渡辺さん・キムラさんにとってお互いの存在はどんなものですか?

渡辺:有頂天シリーズでずっとコンビを組んでいたので、他の方と芝居をしても、ことあるごとに思い出していましたね。緑子ちゃんならどうしただろうとか。そういう存在だというのを、違う人とやってみて気付かされました。緑子ちゃんが出ている舞台は全部見ていて、変な言い方ですけど、この2年でどんどん成長している。役者さんとして一皮も二皮も剥けていく様子を、観客として見せていただきました。自分も2年で成長していると思うので、得たものを全部出し切りたいと思っています。緑子ちゃんも、この2年で培ったものをぶつけてくれるんじゃないかと楽しみにしています。

キムラ:(渡辺の言葉で)しみじみ泣けてきちゃったんですけど(笑)、私にとってえりさんは、本当にすごい人。すごい役者というよりもっと大きなすごい人間で、刺激を受けています。目指す存在であり、いつも厳しく明るく逞しい人です。一緒にお芝居をする中でもらったものもたくさんあります。これからもえりさんを目指していきたいし、一緒にやれるこの時間を大切にしたいと思います。

ーーお二人にとって、“有頂天シリーズ”はどんなものか教えていただけますか?

渡辺:日本の劇作家というのは、昔からすごい方が多いんです。例えば、有頂天シリーズ第2段『有頂天一座』の北條(秀司)さんとか。素晴らしい作品なのに、再演されずに眠っているものがたくさんある。小説と違って、戯曲は上演されることではじめて命が宿るんです。それを齋藤先生が現代に合わせて味付けして、今の世の中に必要な笑いや夢見る力を与えてくれる。

演劇っていうのは、苦しい人の視線に立って成り立つものだと思っていて。どんな悲劇でもどんな運命でも、ハイテンションに見せていく。そこに古典を蘇らせるっていう松本プロデューサーの意図と、それを現代に生かすっていう齋藤さんの思いと、私たちのコミカルな演技を入れた企画が“有頂天シリーズ”だと私は思っています。

キムラ:私が勉強不足で読んだことのない作家先生の作品に触れ、演じる機会に巡り会えたのは、このシリーズのおかげです。また、私は淡路島出身なんですが、このシリーズが始まった頃、両親をはじめとする島の人たちが大勢、みんなでバスに乗って見にきてくれたんです。それで大笑いして帰って、今でも「面白かったね、ああだったね」って大切な思い出にしてくれている。そういった反応もあって、私にとってとても大切な作品です。

ーー“有頂天シリーズ”の「有頂天」に込められた思いや意味を改めて教えていただけますか。

渡辺:「有頂天になる」というのは、ある意味気が狂った状態ですよね(笑)。少し小馬鹿にしたような意味というか、シェイクスピアの喜劇のフェステとかが行動してる状態じゃないですか。その状態まで持っていく、狂気の部分を必ず芝居の中にいれていくという意味だと私は捉えています。

キムラ:私もそうだと思います(笑)。あと、「有頂天」って響き、私の中ではすごく楽しそうなイメージがあって。「ここに行けば楽しいことがあるんじゃないか」って思ってもらえるようにという意味を込めていると思っています。

ーーこの2年間、人と実際に会うことが難しい時期でした。また、本作のキーワードとして「手紙」があります。文字で伝えることの意味について、考えたことがあれば教えてください。

渡辺:SNSの時代になって、逆に文字を使うようになりましたが、それが恐ろしくて。飲み会で言って殴り合っていればいいようなことを、酔っ払ってつい書いちゃったら炎上して、人生が変わってしまうような時代じゃないですか。手紙の場合は、書き終えて出すかどうか考える時間があるし、届くまで数日かかる。すごく吟味した言葉を書けるのが良さだとつくづく感じています。

それとうちの両親、今は2人とも介護施設にいるんですけど、私が上京してきた頃から毎日手紙をくれて、段ボールに3箱くらいあるんです。忙しくて封を切っていなかったものを今、改めて読み返していて。読んでも読んでも終わらない両親の愛情と、親の手紙を読む暇もないくらい仕事に没頭してここまできた自分。2年前の初演では感じなかった気持ちに向き合っているところです。

キムラ:手紙って、SNSの文字とは全然違いますもんね。母の手紙とか、その文字が母そのもの。私は今それを捨てようかどうしようかすごく迷っていて。いなくなっちゃった時に辛すぎるから。

渡辺:いや、捨てない方がいいよ。私、親友からもらった手紙もたくさんあって、時々読んで思い出すから。自分が死んだ時どうせ捨てられちゃうんだからさ(笑)、生きてる限りとっておいた方がいいよ。

キムラ:じゃあとっておきます。ものすごく苦しいものになるから思い出だけにしておこうかとすごく悩んでいたんです。手紙ってそれだけ力があるし、何物にも変え難いものですよね。

出演は、渡辺えり、キムラ緑子に加え、大和田美帆、影山拓也(IMPACTors/ジャニーズJr.)、春本由香、瀬戸摩純、長谷川純、宇梶剛士、渡辺徹。2022年1月15日(土)~28日(金)まで京都の南座、2月1日(火)~15日(火)まで新橋演舞場で上演される。

公演情報

《喜劇名作劇場》恋ぶみ屋一葉
『有頂天作家』
 
作・演出:齋藤雅文
出演:
渡辺えり
 
キムラ緑子
 
大和田美帆
影山拓也(IMPACTors/ジャニーズJr.)
 
春本由香
瀬戸摩純
 
長谷川純
宇梶剛士
 
渡辺徹
 
■日程・会場:2022年1月15日(土)~1月28日(金)京都・南座
【南座ご観劇料(税込)】
1等席:12,500円 2等席:7,000円 3等席:4,000円 特別席:13,500円
 
 
■日程・会場:2022年2月1日(火)~2月15日(火)東京・新橋演舞場
【新橋演舞場ご観劇料(税込)】<一般発売日:12月18日(土)10:00>
1等席:12,000円 2等席:8,500円 3階A席:4,500円 3階B席:3,000円 桟敷席:13,000円
 
【新橋演舞場公演ホームページ】https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo_202202/
 
<ものがたり>
時は明治43年、処は東京。売れっ子作家の加賀美涼月(渡辺徹)の処へ、入門志願の若者・羽生草介(影山拓也)がやってくる。涼月は草介の小説を一読するとけちょんけちょんに貶すが、なんの気まぐれか草介に玄関番を命じる。
夕刻、恋文屋一葉こと前田奈津(キムラ緑子)が涼月を訪ねて来る。奈津と涼月とは昔は尾崎紅葉門下の兄弟弟子同士。その後、樋口一葉に惚れ込んだ奈津は紅葉門下を離れるが、一葉が急逝すると奈津も筆を折り、いまは荒物を商いながら恋文の代筆などで暮らしを立てていた。以前より涼月に淡い恋心を抱いていた奈津は、しばしば訪ねてきては話に花を咲かせていくのであった。
そんなある日、奈津の住まいへかつての親友・羽生きく(渡辺えり)が尋ねてきた。嫁ぎ先で死んだと聞かされていたきくが現れ、奈津は腰を抜かすほど驚く。事情を聞くと、家出をした息子の草介から涼月の元で玄関番をしているとの便りが届き、慌てて上京したとのこと。きくと涼月はかつて想い人同士であった。紅葉の厳しい教えにより泣く泣く別れ、また涼月に今は家庭があると思い込んでいたきくは、奈津に草介を連れ戻すよう頼みに来たのである。奈津の胸は俄かに波立つが、きくと涼月を会わせずに草介を帰せば、総て解決すると考える。しかし、涼月がまだ独身であることがきくの知るところとなり――。
 
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