龍真咲、チェロとピアノとの三重奏で聴かせる『はるかそよかの音楽に恋して meets 龍真咲』選曲のこだわりは「歌がメインではないこと」
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龍真咲 撮影=福家信哉
元宝塚歌劇団月組トップスター龍真咲が、姉妹演奏家の林はるか(チェロ)、林そよか(ピアノ)と共演するコンサート『クラシックコンサートの新しいカタチ” チェロ&ピアノ&ヴォーカル『はるかそよかの音楽に恋して meets 龍真咲』〜クラシックから宝塚歌劇ナンバーまで〜』。2月19日(土)にサンケイブリーゼホール(大阪)にて開催され、また配信もおこなわれる同公演。宝塚時代はもちろんのこと、2016年9月の退団以降の出演舞台などでも圧倒的な歌唱力を見せており、今回は久しぶりにそんな彼女の歌声が堪能できるとあって早くから注目をあつめている。公演に向けて万全の状態……かと思いきや、龍からは「私は、やり過ぎると良くないんです」と意外な答えが。インタビューでは、凛々しいパフォーマンスの裏側にあるチャーミングな素顔を引き出すことができた。
龍真咲
――「1年9ヶ月ぶりにステージ復帰」と言われていますが、芸能活動をお休みしていたわけではないですよね。先日の記者会見でも、「そんなつもりはなかったけど、Wikipediaを見たら活動休止と書かれていた」とのコメントで笑いを集めました。
「ちょっと! 書いたのは誰ですか」という感じでした(笑)。ラジオやライブなどにも出演していたのにそう思われるんだったら、この際、どんな活動をしてもずっと「活動休止」でも良いかなと。
――パーソナリティをつとめていらっしゃるラジオ番組『龍 真咲のMOONLIGHT PARTY』(ニッポン放送)に手相芸人の島田秀平さんが出演された際、「2022年にチャレンジする活動が、来年以降も生かされていく」と占われていましたね。
その話を聞いて、すぐに今回のコンサートのことが頭に浮かびました。あと島田さんからは「龍さんはどんなことでも100(パーセント)でやりたい性格かもしれないですけど、60くらいで良い」と言われて、気負っていたものが軽くなりました。私はいつも、「完璧にやらなきゃいけない」となるので。ただ、今回の公演に関してはそこまで自分を追い込まなくても良いくらい、スムーズに物事が進んでいて「こんなに段取り良くいくことなんてあるのかな」と逆に不安になるくらいなんです。
龍真咲
――つまり「公演は常にハプニングと隣り合わせ」ということですね。
きっと何かあるはずですから。例えば宝塚時代、『1789 -バスティーユの恋人たち-』(2015年)で私はロナン・マズリエという役を演じていたのですが、腰に差している斧がなかったときはさすがに焦りました。腰に手をやったとき「……ないやん」と一瞬、固まりました(笑)。下で観ていた下級生たちや指揮者の先生もびっくりしていて、「どうする、どうする」となっていました。みんなのあの顔は一生忘れられません。何とかアドリブで乗り越えましたが。
――宝塚の舞台でそんなハプニングも乗り越えられたら、どこで何が起きても大丈夫ですよね。
そうなんです。何があっても冷静に対応できます。別の作品でも、相手を刺すときに使用するナイフがなくて、絞め殺す展開に変えたりして。宝塚は1作品を何度も鑑賞するファンの方もいらっしゃいますから、その回を観た方は「あれ?」となったはずだし、逆にレアでおもしろかったのではないでしょうか。
――龍さんはいろんな経験をされていらっしゃる分、そういうおもしろいお話をたくさんお持ちですよね。島田さんからも「お笑いのユーモア線が増えている」と指摘されていましたし、バラエティ路線はいかがですか。
もしご依頼をいただいたら考えますが、そんなにおもしろい話ができる人間ではありませんから(苦笑)。島田さんからは「釣り番組に出た方が良い」とアドバイスされたけど、気の利いたトークはできないし、魚が釣れずにしびれを切らして、「魚を針にくっつけて釣れたように見せましょう!」とスタッフさんにお願いしちゃうかも。
龍真咲
――ハハハ(笑)。そういえば今公演のオフィシャルインタビューを読んだのですが、そのなかで、「林姉妹とは演奏家と歌手の関係性にならないようにしたい」とおっしゃっていました。その言葉の真意を教えてください。
本来、ボーカルが参加する演奏のコンサートでは、その歌を聴かせることがメインになりますよね。だけど今回は、あくまでクラシックコンサートであり、私のファンの方が「龍真咲の歌を聴きに来る」という内容にはしたくないんです。それ以上のものを作りたいというか。私が歌いやすいように演奏をしてもらうと、薄っぺらくなりそうな気がしています。そうならないために、選曲にこだわっていこうと思いました。
――なるほど。
林はるかさんのチェロの演奏にしても、どれだけ効果的に音楽として構成されているか。お客様にはそういう部分をじっくり聴いてもらいたいのです。間奏部分も原曲通りではなく、林姉妹がせめぎ合いを見て欲しい。おふたりも、「オーケストラを背負っているような感覚です」とおっしゃっているので。私からも「チェロの演奏だけで歌ってみたい」など、いろんなリクエストをしました。最初に作ってもらったデモ曲が、これは決して悪い意味ではなく、よくできすぎていた気がしたんです。でもそうではなく、ピアノとチェロの楽器の持ち味を最大限に出せる方法をもっと模索できないかというお話をしました。
龍真咲
――すごく聴き応えがありそうです。
改めてできあがってきたものは、楽曲としてものすごく深みがありました。聴いて、興奮しました。それだけのものを林姉妹が作ってきたので、私自身もしっかり集中して挑まないと飲み込まれてしまうかもしれません。
――それは緊張感みたいなものですか。
緊張というよりも、どれだけ精神統一できるかという感じです。自分の世界をちゃんと作り、パフォーマンスにスッと入っていけるかどうか。宝塚の新人公演で初主演をつとめたときの気持ちに近いかもしれません。あのときは、自分にピンスポットがあたって、そのライトを浴びると目の前が光で真っ白になり、慣れるまで周りがよく見えませんでした。だけど眩しい顔なんてできない。嬉しかった反面、その光のなかにいることへの戸惑いもありました。あの感触は忘れられません。今回も、舞台に上がってから歌い出すまでに、気持ちと呼吸をちゃんと整えられるかどうか。それが鍵になってきそうです。
――そのための準備もかなり入念におこなう必要がありそうですね。
ただ、私の場合はやりすぎるのも良くないんです。歌も、聴き込み過ぎると「この曲は何の話をしているんだろう」と違う疑問が生まれてきちゃう。曲のなかに「花」が出てきたら、「どんな花なのか。どこに咲いているのか」と、歌うことよりもその答えの方が気になってしまう。聴き込んだり、歌い込んだりし過ぎると形が見えてしまって、気持ち良く歌えなくなるんです。だから、イメージできるくらいで留めておかないと。宝塚時代も練習や本番で同じ物語を何度も繰り返すから、だんだん分からなくなっていったことがあります。歌詞に登場する言葉も、字面や語感のことを考えすぎてしまったり。
龍真咲
――そんなことがあるんですね! あと、今回の公演は演奏だけではなくトークパートを楽しみにしている方も多いはず。
私が歌うのは2部なのですが、休憩前の1部の最後でトークをすることになっているので、いろんなものが崩壊しないかなと……。お客様に「あの人、これから本当に歌えるんだろうか」と心配されそう(笑)。お喋り自体は好きだから、話すうちに楽しくなってしまうと思うんです。そこは司会の関純子さん(カンテレ)が頼みの綱です!
――そういった部分も含めて、クラシックコンサートに馴染みがない人でも楽しめる公演になりそうですね。
林姉妹は本当におもしろい人たちですから。姉のはるかさんは鉄道を貸し切ってYouTubeの撮影をするくらいの鉄道好き。妹のそよかさんは宝塚が大好きで、そういうドレスを着て演奏をする。演奏家の人間味にもスポットがあたる公演になるはずです。あと、林姉妹は間違いなくこれからさらに羽ばたいていきます。その生い立ちを追いかけていくプロジェクトとしても楽しみです。
――龍さんも今後、さらにいろんなチャレンジを考えているんじゃないですか。
私は「大人プロジェクト」というものを考えています。大人だからこそできることを、ファンのみなさんたちとやっていきたい。私は以前から夢があって、それは「お腹いっぱい、シャインマスカットを食べること」なんです。シャインマスカットをたくさん食べることって、大人にしかできないことじゃないですか(笑)。そういう楽しい企画をやっていこうと考えています。
龍真咲
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉