近藤良平×入手杏奈×油布直輝に聞く~ジャンル・クロスⅠ 近藤良平 with 長塚圭史 『新世界』まもなく出帆!

2022.4.22
インタビュー
舞台

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2022年4月、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に近藤良平が就任した。さっそく2022年4月29日(金・祝)~5月1日(日)に就任第一作としてジャンル・クロスⅠ 近藤良平 with 長塚圭史『新世界』が上演される。“クロッシング”をテーマに、多彩なアーティストたちが交わる話題作だ。シェイクスピアの『テンペスト』などをモチーフとして創作中の舞台について、演出・振付の近藤、出演の入手杏奈(ダンサー)、油布直輝(サーカスアーティスト)に聞いた。

■いろいろなジャンルが“クロス”することで生まれる、新たな可能性

――4月1日から彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任されました。昨年から次期芸術監督として活動されていましたが、このたび実際に就任されたお気持ちは?

近藤良平(以下、近藤):辞令交付式がある朝、家から出ようとしたらクルマのエンジンがかからなくて。バッテリーが上がっちゃって。いい感じのスタートでした(笑)。コロナ禍なので順風満帆ではないですが、1つでも可能性を開くために始めることができたという印象です。

――新体制のテーマは“クロッシング”です。そこには〈多彩なアーティストがクロス〉、〈地域あるいは地域間でクロス〉、〈多様な人々がクロス〉という3つの“クロス”の意味が込められています。「ジャンル・クロス I 近藤良平 with 長塚圭史 『新世界』」は、ダンス、演劇、サーカス、音楽などのアーティストがが共演する、まさに〈多彩なアーティストがクロス〉して行う公演です。実際に出演者の皆さんが集まり接してみていかがですか?

近藤:いろいろなジャンルが集まっていておもしろいですね。たとえばサーカスでも、油布くんはシルホイールといって大きな輪っかを使ったり、クラウドスウィングといってロープをブランコ代わりにしたりとかしていますし、(長谷川)愛実さんはエアリアルという空中パフォーマンスをしている。ダンスは身体のみで立っているので、自分たちよりも高いところ、空中を知らない世界なんですね。そこが新鮮で、“クロス”といってもいろいろな要素が現れています。そして、もう1つ思うのは、演奏したり、しゃべったり、皆それぞれに大事にしている部分に愛情があるんですよ。

――入手さんはソロダンスをされたり、ダンスカンパニーの公演に出られたり、演劇の舞台でも活躍していますが、今度はまた違った座組ですね。

入手杏奈(以下、入手):今回のチラシのようにワクワクする世界です。ホールでも稽古ができているんですが、サーカスの人が舞台の上の方を回ったり、楽団の人が実際に楽器を置いて演奏したり、いろいろなものが混ざってクロスしていく感じがしています。自分自身はそこに構えずに身を置いて楽しみながらやっています。

――油布さんは、サーカスアーティストとして国内外で活躍されています。今回の現場に入ってみていかがですか?

油布直輝(以下、油布):いつもはクラシックなサーカスの中で5分くらいのナンバーをやることが多いのですが、個人的には誰かと何かをやることに興味があります。サーカスは技だけできれば完結する部分もあるんですけれど、そうではなくて技を通して伝えるというか、そうした方向性の作品を創りたいと思っていたので、今回のジャンル・クロスからは稽古の段階から吸収するものがいっぱいあります。学びがあって幸せな感じで稽古に臨んでいます。

――プレ稽古をされたそうですが、そこでは何を?

入手:最初はワークショップ的に体を動かしたり、どこで使うか分からないけれど振付をやってみたりしました。

油布:それぞれの動きの特性とかを見るためのワークショップですね。サーカスとは関係なしにお題をいただいて、自分がどう動くかというものでした。

――入手さんは近藤作品に何度か出ています。近藤さんは入手さんのどこに惹かれますか?

近藤:世にたくさんのダンサーがいますが、その中でもさまざまな意味で魅力的です。一風変わっているじゃないですか?クラシックダンサーでもないし、コンテンポラリーダンスというくくりをする必要があるのかなという気もする。そういう人を僕は好きなんですね。

入手:ありがとうございます(笑)。

近藤:今回ダンスというくくりで出てもらっている人は、柿崎麻莉子さん、四戸由香さんも含めて皆ひと癖ふた癖ありますよね。ザ・コンテンポラリーダンスという感じではない。

■投げかけられるキーワードから膨らむ“新世界”

――油布さんを始めとしてサーカスアーティストの方が出られるのは、彩の国さいたま芸術劇場舞踊部門のプロデューサー(現プランニングアドバイザー)佐藤まいみさんの提案だそうですね。

近藤:いろいろな人とやってみたかったんです。サーカスといえばフィリップ・ドゥクフレさん(注:フランスの振付家、演出家)にもお会いしているけど皆さん豊かなものをお持ちです。

――近藤さんはコンドルズ主宰なので、学ランを着た男たちが踊るコンドルズのイメージが強い方もいるかもしれません。でも、東京・神楽坂のセッションハウスで「リンゴ計画」を長年続けてきましたし、2010年に新国立劇場主催公演で「近藤良平 トリプルビル」が行われました。そうした近藤さん個人のカラーも埼玉ではもっと出てくるのかなと想像しているんですが。

近藤:「近藤良平 トリプルビル」の時は、大貫(勇輔)くんとか、コンドルズに絡む前の平原慎太郎とかに出てもらいました。僕も楽器を演奏して、皆に羊みたいな恰好をさせましたね(笑)。昔からそういう融合的なことはやっていました。ある意味サーカスっぽかったかもしれません。

――近藤さんにとってサーカスとはどのような存在ですか?

近藤:フェデリコ・フェリーニの映画が好きで。イタリアの田舎から始まっていく原風景や、道化師が一生懸命やっても失敗するみたいなことに興味があります。あとサーカスって、油布くんがやっているシルホイールの輪を持ち上げるだけでも大変で孤独な闘いなんですよ。もの凄い地道な作業で、素敵と思うよりも人間の営みみたいなものを先に見てしまいます。

チラシビジュアル

――サーカスが入ると空間の使い方にも幅が出ますね。

近藤:それは凄く大きいです。舞台の縦の空間をなかなか埋められない中で、いとも簡単に生身の人間が上に行ってしまう。演出の可能性が増えますね。縦を使うイコール浮遊感であったり軽さであったり、それを実際に感じられるのは新しいですね。

――クリエーションでは、それぞれの分野は取り払っているのですか?

近藤:そう。できる限り手ぶらな感じで。15人出るんですが、それぞれが様になるようなことをするのではなく、まずはなんとなく立ってみませんか?と。

――演出補・出演の長塚さんはKAAT神奈川芸術劇場芸術監督で、かつてコンドルズにも出ていた盟友です。それぞれの持ち味がある人たちを、長塚さんと共にどう活かすのでしょうか?

近藤:現実的にやっているのは、圭史と話し合って出てきた言葉のキーワードからシーンを創ること。役者にとっては当たり前かもしれないけれど、今までにない緊張感がありますね。音楽でリズムを刻んだものだと、跳ねた感じとかそういうものを吸収していくことも必要です。

――今回シェイクスピアの戯曲『テンペスト』を基にしているそうですね。

近藤:モチーフにしていますが、ストーリーが分かるようなものではない。シェイクスピアが単独で最後に書いたと言われていますが、その意味を探そうとしたりしています。

――どういったキーワードを投げているんでしょうか?

入手:良平さんがテキストを書いてきました。

近藤:かなり珍しいことですよ。僕が30年くらいやっている中では。(公演チラシの表面を指して)ここの「私は あなたから うまれた」からしてそうです。そうした言葉で、物語ではないです。

■“クロス”することによって「絶対におもしろくなる」(近藤)

――クリエーションの手応えはいかがですか?

入手:すべてがおもしろくて、広い世界を見ているようです。いまは手放しでそこにいる感じですが、最終的には自分の身体で具体的になってくるんだと思うんです。サーカスには道具があったり、音楽の人には楽器があったり、俳優の人には言葉があったりします。で、ダンサーには何があるんだろうと。話すかもしれないし、歌うかもしれないし、もしかしたら物と関わるかもしれない。体を以て同等にいろいろなものとその場に居られたらいいなと思います。

油布:凄く新鮮です。他の人の強みに憧れがありますね。自分は道具を使う性質上、ダンサーのように細かい動きとか躍動感とか表現的なところが乏しいと思っているので、そういうのを見ていると凄いなと感じます。身一つでできるダンサーは凄いし、音楽家の方もゼロから音を出しているわけで。自分はどういうことができるのだろうかと思いますね。今回は技を見せるショーではないので、どういう形でサーカスが入っていければいいのかを考えています。

――ミュージシャンなども含めて同時進行形で絡んでいるのですね?

近藤:そうですね。音楽は5人の方と一緒。サックス、ドラム、ギター、ピアノ、トロンボーンなど、それぞれの得意分野がありますが、「私、こんなことができるかもしれない」というものを出しているんです。それが新鮮ですね。しかも今回のために集まっているメンバーなので皆探っている。新しい音楽が生まれる可能性があるんですよ。あと切り絵師も出てくるんですが大きな存在です。ここは謎のままの方がおもしろいと思います(笑)。

――『新世界』と付けたのは、新しい世界を提示したいという意思を込めているんですよね?

近藤:そういう意味合いも含んではいます。それに『テンペスト』の中にも「素晴らしき新世界」という言葉が出てきますよね。何でも吸収できるタイトルじゃないですか?

――『テンペスト』=嵐という意味ですが、新たな嵐は生まれそうですね。

入手:混ざっている感じはしますよね。どれが上で、どれが下でという優劣じゃなくて。一回全部をボウルに入れるじゃないですけれど。

――最後に本番に向けての期待感をお話しください。

油布:ジャンル・クロスというか、ミックス、絡み合っているのを感じています。「サーカスをやります」という意識が薄れていますね。いい意味で見たことがないようなものをお見せできるのではないかと思っています。楽しみに観にきてください。

入手:これから多分想像していないようなことがたくさん起こるでしょうが、それも楽しみです。じっくり創って、よいものをお見せできれば。観る方にとっても「新世界」を提示できればと思います。がんばってお稽古します!

近藤:マイナス要因になるものは何もありません。絶対におもしろくなると思います。

取材・文=高橋森彦 撮影=池上夢貢

公演情報

ジャンル・クロス I 近藤良平 with 長塚圭史 『新世界』
 
■日時:2022年4 月29 日(金・祝)~5月1日(日)各日15:00 開演(全3公演)
■会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
■演出・振付:近藤良平
■演出補:長塚圭史

■出演:
近藤良平
長塚圭史
入手杏奈、柿崎麻莉子、四戸由香、青井想
<サーカスアーティスト>
油布直輝、長谷川愛実、天野真志
<切り絵師>
チャンキー松本
<ミュージシャン>
岡田カーヤ、栗原務、鈴木井咲、西尾賢、リョコモンスター
 
■料金(全席指定):
一般: 5,000円/U-25 *:2,000円
埼玉県民優待: 3,500円
埼玉県民優待(U-25*): 1,200円
※埼玉県民優待は埼玉県内のセブン‐イレブン店内のマルチコピー機「セブン」からご購入ください(セブンコード検索 093-285)。
芸術監督就任を記念!おトクなグループ
2枚以上のご購入がおトクです!
一般5,000円のところ、2枚以上のご購入で1枚あたり3,500円!
(U-25* は1枚あたり1,200円!)
*公演時25歳以下の方対象/ご入場時に身分証明書をご提示ください。

■詳細:https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/93099/
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