『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』安彦良和監督、古谷徹、武内駿輔インタビュー

インタビュー
アニメ/ゲーム
2022.6.2

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TVアニメ『機動戦士ガンダム』の序盤のエピソードの1つであった「ククルス・ドアンの島」が劇場版として2022年6月3日(金)に公開される。なぜ今「ククルス・ドアンの島」なのか、安彦良和監督、アムロ・レイ役の古谷徹、そしてククルス・ドアン役の武内駿輔に訊いてきた。

(C)創通・サンライズ

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ククルス・ドアンの物語は普遍的なテーマ

――監督からお話をお聞きしたいのですが、なぜ今ククルス・ドアンの物語を描こうと思われたのでしょうか?

安彦:話せば長くなるので、一言で言うと必然と偶然が微妙に絡み合ったんです。ククルス・ドアンか…そうかあったかっていう感じで。ずっと気になってたんですけどね。

――安彦監督が描かれた漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以後THEORIGIN)にはククルス・ドアンのエピソードは入ってなかったですよね?

安彦:入れられないんですよ。どうみたって真っ先に除外する話ですから。

――確かにTVアニメ『機動戦士ガンダム』でも、本編のストーリーとは外れたテイストでしたよね。

安彦:違うんですよ。

――そういう風に本編から切り離されているストーリーであるからこそ、今回改めて映画化することになったと?

安彦:話が深い。非常に不変的なテーマなんです。だけど本編の流れの中ではどうしても除外される。それで昔から気にはなっていました。

――前に『THEORIGIN』のインタビューで「気にはなっている。『地獄の黙示録』(日本は1980年公開)的な作品で、いい話だよな。」みたいな事を言われていましたよね。

安彦:『地獄の黙示録』とほぼ時期的には同じじゃなかったかな。何か似てる事やってるな、っていうのは昔からありましたね。

――なるほど。今度は古谷さんにお聞きしたいんですけど、改めて最初期の頃のアムロを演じてみていかがでしたでしょうか? アムロはまだ戦いに迷っている時期で、やっぱり原点に立ち返る、ではないですが演じるうえで難しさがあったのかなと?

古谷:難しいという風には全く思わなかったですね。15歳のアムロっていうのは本当に色々なメディアで毎年のように40年以上演じてきましたので、アムロそのものに関しては全く迷い無く。ただちょっとアニメとしてやらせてもらうのは懐かしいな、という思いはありましたけど、僕の方はそんなに迷いはなかったです。

――確かにアムロは今でも出番が多いですよね。そして武内さんが演じるククルス・ドアンですが、武内さんよりも実年齢より上ですが、役が決まった時、どういう風にやって行こうって考えられたのでしょうか?

武内:そうですね。凄くやりがいがあるし、プレッシャーもありますが、チャレンジさせていただける機会ってなかなか無いので、頑張ろうと思いました。実年齢とのギャップをどう埋めるか、現代アニメーションで描かれる30代の男性像というよりかは、放送当時の大人像というか、そういったものを踏襲して今回は出来たらなという風に考えていました。そういった意味でファーストシリーズをもう1回観返したりして、当時の『機動戦士ガンダム』で描かれている年齢感、この人はこういう芝居なんだなとか、そういったところを意識して練習しました。

(C)創通・サンライズ

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――ちなみにククルス・ドアン役に決まったポイントっていうのは、やはり監督が関わられてるのかなと思うんですけど、ポイントはどこだったのでしょうか? やはり武内さんの渋い声なのかなと。

武内:僕も聞きたいです。

安彦:(武内さんを改めて見ながら)いやあ、いいお声ですよ。

武内:ありがとうございます。

安彦:24歳?

武内:はい、24歳です。

安彦:24歳でこの声かよって。芸暦はいつからなの?

武内:芸暦は高校生からなので、16歳からですね。

安彦:芸暦はその声で始まってるの?

武内:年々声は低くなっていって、それこそ僕は近年のアニメは凄い好きですけど、お二人が活躍されていた70年代、80年代の時のアニメとかを見て、僕も声優さんになりたいなと思っていたので、高い声よりは渋みのある泥臭いっていったらあれですけど、そういうのをやりたいなとずっと思っていたんです。だから今回はまさに自分がやりたかった役がやれたので凄く監督に感謝しています。

――僕らもこのインタビューの前に観させていただいたんですけど、武内さんの声が凄くハマっていました。

武内:ありがとうございます。

――とはいえ、やはりアフレコの時は緊張したりされたのでしょうか?

武内:やっぱり難しい部分はありましたけど、そこは古谷さんの演じる15歳の青年を演じた時の上手さっていう言葉では表せられないぐらいの素晴らしいものがベースとしてあるので、大先輩の胸を借りてやらさせていただきました。もうどうしようか、って自分が考えるのもおこがましいぐらい「これに乗っかれば大丈夫じゃん!」っていうぐらいのものが最初にあったので、本当に古谷さんに助けられました。そして自分もこういう事を将来、40年後に出来るようになっていたいなって思いました。

――横にいるので言いづらいかもしれないですけど、古谷さん、武内さんの演技はどうでした?

武内:本当に聞きたいです。

古谷:アフレコの時、僕は1人で他の人達の声は一切無かったんですね。でも映像を観て、あの体格だったらこういう声だろうなっていうのを自分でイメージして演技をしてた訳ですけど、それを昨日初めて完成した動画を見せてもらって、ドアンの声を初めて聞いた時に、自分のイメージとピッタリ重なったので、正直これでいけると思いました。

――やはりこのご時勢だからアフレコは個別だったんですね。

武内:生で対面したかったです。

古谷:さっき武内さんが言ったように、ちゃんと僕の芝居に噛んでくれてる。だから本当に彼の方が大変だったと思うんです。距離感にしてもニュアンスにしても、僕に合わせなくちゃいけない。僕は1人でやったから、自分の思い通りにアムロを演じさせてもらっただけで、それがちゃんと噛み合って、そこにあの二人がいるかのようになっているので、本当によかったと思いました。

安彦:今回はおっしゃってるように最初に古谷さんが録って、最後にドアンを録ったんです。最初に古谷さんを録った時は、まだドアンを誰がやるか決まっていなかったんですよね。

古谷:そうでしたよね。

安彦:難航したんです。

――そんななかでドアン役が決まったのって絶対に嬉しいですよね。

武内:凄く嬉しかったです。僕は、声優を目指し始めた時に「困った時の武内俊輔」っていつか呼ばれるようになりたいって思っていて。他の役者さんとかそういう風に呼ばれてたりしたのを見たりしてて、いいな、僕も将来こういう風になりたいなって思っていたんです。今回そういった意味では難しかったんですけど「武内さんに決まりました」って言われた時に「何かお困りの事はありましたか!任せてください!」っていうぐらいの気持ちに凄くなれたので、ありがたいお話でした。

(C)創通・サンライズ

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進化していながら懐かしさもあるホワイトベースクルーのやりとり

――今回はホワイトベースのクルーが久々に揃って出演していますが、それぞれ声優さんも変わったりしてる訳じゃないですか。やはり思う所ってやっぱりあったのでしょうか?

安彦:『ガンダム』の御三家って、古谷さんと古川(登志夫)さんと、池田(秀一)さん。ここは不動なんだけど、他の方は声優さんがリニューアルしたばかりなので、ホワイトベースクルーがほぼ揃った話は欲しいなと思っていました。こういう形で実現したのは嬉しかったですね。

――懐かしい気持ちと、全く違和感無いな、という二つの気持ちがあって、古谷さん、武内さんは実際に出来上がったものを観られていかがでしたか?

武内:日本の芸事の在り方の良さというか、伝統芸能かのように昔からイメージが変わらないのですが、でも現代に沿って絵も綺麗になったり、演技も当時から古谷さんもそうですし、どんどん進化していってるっていう。作品としてのイメージを崩さず常にそういうことをし続けるという事の凄さと、美しさみたいなものが凄く詰まっている感じがしました。

――ホワイトベースのクルーの中でも、やっぱりアムロとブライトのやりとりが印象的で、絵は新しいのですが、ああっそうだったよなっていうのが凄く嬉しく感じました。

武内:そうそう。

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――メカニックでもガンペリーが動いてるだけでぐっときましたし。古谷さん的に、ホワイトベースのクルーのやりとりというのは何か感じられることはあったのでしょうか?

古谷:感無量ですよね。懐かしいですし、一人ひとりの個性があのままだなと思えて、それぞれがちゃんと描かれているのが嬉しかったですね。確かにあの当時、アムロとブライトってこういう関係だったよなって思えたし。

――微妙な緊張感があるというか。

古谷:そうですね。

――二人とも青いというか、序盤は完全に打ち解けてない感じがまだあって。

古谷:まだね。ちょうどそういう時期ですもんね。それにブライトとミライもこうだよなって思えたし。

安彦:ブライトの台詞は意識的になるべくいっぱい作ろうと思って。

古谷:そうなんですね。

安彦:『THEORIGIN』でも本当、二言三言なんですよね。だから今回は声をいただきたいなと思ったんです。

生活芝居はアニメだってこのくらい出来るぞっていうのをやりたかった

――今回は子ども達がいっぱい出てきます。当然アムロは子供たちと絡むのですが、年上のお兄ちゃんとして絡んでいくっていうところがしっかりと描かれていたと思うんです。なぜ子供たちの生活や日常のやりとりにフューチャーしたのでしょうか?

安彦:ある意味、子供達が主役なんですよ。アムロも主役なんだけど子供達も主役で、彼らの生活芝居がね。そしてなるべく自然に子供らしくしたかった。だから意図的に子役を使って、出てくるのと同じような年頃の子を使ったんです。

武内:子役の子たち上手かったですよね。

古谷:凄い可愛かったです。

安彦:正直、子供には難しいと思ったんですよ、しかも大人と同じように、何回かに分けて録るわけですし。集まってガヤガヤしたものはノイズが入って録れないから。どうしようかなと思ったんですけど、それがみんな上手いんですよ。

武内:そういう意味では助けられましたね。子供達がしっかりしてるから。

古谷:活き活きしてる感じですね。それが素敵。

――それは感じましたね。

安彦:そのあたりは、もちろん作画も結構苦労してるので見て欲しいな。生活芝居って難しいんですよ。見た目は地味ですけどね。派手派手しいのはわりとコツを覚えれば簡単だったりもしますが。

武内:食卓でみんなそろってるシーンなんかも本当に細かいですし、子供達もうまかった。

安彦:そういう意味では作画のスタッフも苦労してくれたと思います。色んなところで言ってるんだけど、もの凄く生意気な事を言うと、日本映画は子役の使い方として、お行儀が良かったり、わざとらしかったりして、子供らしくないんだよね。アニメだってこのくらい出来るぞっていうのをやりたかったんですよ。

古谷:安彦監督ならではだと思いますよ。子供達の動きやあどけなさ、表情とかが凄くリアルじゃないですか。それが結果的にあのコミカルさになったりしてるんじゃないかと僕は思うんですね。自然なコミカルさというか。

安彦:これは古谷さんに関してなんだけど、実感無かったんじゃないかなって思うんですが、お世辞じゃなくて古谷さんまた若返ったなって気がして。ホワイトベース隊っていう制服を着た演技ではなくて、子供達の所に降りて来てくれたお兄ちゃんの芝居をしてくれてる。それが変な言い方だけど涙腺が緩むんですよ。

古谷:ありがとうございます。

(C)創通・サンライズ

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――子供達との絡みじゃないと見れないアムロの一面ではありますよね。基本的に戦っていて、大人との触れ合いのほうが多いですよね。それこそシャアもそうだし。

安彦:先ほどのお話の中でブライトも出たけど、アムロはもう自分の中でも結構エリートだと思ってる訳です。場数を踏んで来ている。それをブライトにつまんない用事を言いつけられたところから始まるんだけど、そのつまんない用事どころか、子供のレベルにまでなってしまう。それは非常に象徴的な事なんです。

子供達をしっかりと導いているククルス・ドアンという大人

――最後の質問になりますが、ククルス・ドアンの物語が43年ぶりに劇場映画化されるわけですが、改めて『機動戦士ガンダム』で描かれた一年戦争ってどういうものだと思いますか?非常に難しい質問ですが。

安彦:一年戦争って誰が言い出したのか分からないし、あれが1年で収まるのかっていうのは難しいところだけど、はっきりと市民権を取っちゃってるからしょうがないんだけどね。戦争に巻き込まれ、少年達の日常が大きな力によって破壊される。でもその日常を引っ張った人間ドラマがあって、それと大きなうねりが絡み合うっていうのがファーストの特徴なんですね。日常からスタートして、小さい子供達の日常がある所を大きな波動が飲み込んでいくっていう。これからどうなるか分からないけど、今もまさに世界で戦争がおきている。ちょうど、そういった世界情勢とも重なる部分があって。そういった世の中の動きの中で「ククルス・ドアン」を世に出すっていうのは、ある強一種の宿命かなって。ガンダムシリーズの中でも、この日常と大きな波動のせめぎ合いというのは、ファーストだけ、ファーストが一番その感じが強いんじゃないかと思いますね。

武内:どうしても逃れられない物っていうのは存在するんだっていう、そういうものに巻き込まれた時に、足掻いた人間達の軌跡っていうのでしょうか。各々の考え方があって、僕は『ガンダム』はどっちかが敵って言い方をするものではないと思いますし、そういう抗えない何かがあってどうしても争わなきゃいけないってなった時に、全体はともかく個人がどう思い動いて行くのが大事かっていう、個人で考えていく事の大切さみたいな物を1年戦争が残してくれたんじゃないかなというような気がしています。

(C)創通・サンライズ

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――確かに『ガンダム』で描かれているのは単純な勧善懲悪ではないですからね。

武内:今回のドアンはアムロとは敵対する存在ですけど、ドアン個人としてはそういう事にはせず、アムロを1人の子供として迎えるんですよね。アムロもそういうドアンの対応や、子供達に触れ合う事で、そういう大きな何かに沿って物事を決めるんじゃなくて、アムロっていう人間がドアンや子供達をどう思うかっていうのを、凄くこの映画が教えてくれている。そういったメッセージ性が込められてる物なんじゃないかな、と僕は一年戦争と呼ばれている物を通して思いました。アムロの考えもあるし、シャアの考えもある。大事なのは大多数の中で流されるのではなく、自分の考えを持って自分自身で行動していく事の強さと、結果それは今回の場合だと和解、じゃないですけどお互いが同意して武器を捨てるという事に結論付けられるんじゃないかなと思うので、そういう軌跡を描いてくれたのが一年戦争なんじゃないかなと思います。

古谷:やっぱり『ガンダム』は愚かで悲惨な戦争は繰り返しちゃいけない、というのがテーマに流れていて、そして子供達は人類の未来への希望だというのが、この『ククルス・ドアン』という作品にもある。大人が守らなくてはいけないとつくづく思いますよね。『ガンダム』が素敵なのは、その愚かな争いを避けるには、人同士が分かり合える、分かりあう事が一番って、それしかないんだって言っているんです。やっぱり相手の立場になって相手の事を理解するっていう事が全てなんじゃないかなって思います。そういうことが一年戦争を通じて描かれてるんじゃないですかね。

(C)創通・サンライズ

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――富野監督とか安彦監督という戦争を経験してきた方々が作った作品が一回りして、今にハマったというか、そういう部分もあって今上映する意味が物凄くある作品なんじゃないかなと感じました。

武内:そういう意味では、古谷さんがおっしゃられたように、ちょっとネタバレになっちゃいますけど、作品中に子供達が「これならどんな敵が来ても怖くない」って言った時に、ドアンが「そうじゃない、恐ろしいものだから」ってちゃんと導く事の大切さというのも描かれているので、そういうのも是非観て感じる何かのきっかけになれればいいなと思います。

取材:加東岳史 構成:林信行 撮影:大塚正明

 

上映情報

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』

6月3日(金)全国ロードショー(Dolby Cinema/4D同時公開)
 
■STAFF:
企画・制作:サンライズ/原作:矢立肇 富野由悠季/監督:安彦良和/副監督:イムガヒ/脚本:根元歳三/キャラクターデザイン:安彦良和 田村篤 ことぶきつかさ/メカニカルデザイン:大河原邦男 カトキハジメ 山根公利/総作画監督:田村篤/美術監督:金子雄司/色彩設計:安部なぎさ/撮影監督:葛山剛士 飯島亮/3D演出:森田修平/3Dディレクター:安部保仁/編集:新居和弘/音響監督:藤野貞義/音楽:服部隆之/製作:バンダイナムコフィルムワークス/主題歌:森口博子「Ubugoe」(キングレコード)

 
【メインキャスト】
アムロ・レイ:古谷徹
ククルス・ドアン:武内駿輔
ブライト・ノア:成田剣
カイ・シデン:古川登志夫
セイラ・マス:潘めぐみ
ハヤト・コバヤシ:中西英樹
スレッガー・ロウ:池添朋文
ミライ・ヤシマ:新井里美
フラウ・ボゥ:福圓美里
エグバ・アトラー:宮内敦士
ウォルド・レン:上田耀司
ユン・サンホ:遊佐浩二
セルマ・リーベンス:伊藤静
ダナン・ラシカ:林勇
マルコス:内田雄馬
カーラ:廣原ふう

 
公式サイト:g-doan.net
公式 Twitter:@g_cucuruzdoan

配給:松竹ODS事業室
(c)創通・サンライズ
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