在日ファンクの生演奏も!? 古川雄輝主演、河原雅彦演出の舞台『室温〜夜の音楽〜』取材会レポート

レポート
舞台
2022.6.1
河原雅彦、古川雄輝、浜野謙太(左から)

河原雅彦、古川雄輝、浜野謙太(左から)

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舞台『室温~夜の音楽~』が2022年6月25日(土)から世田谷パブリックシアターほかで開幕する。
 
ケラリーノ・サンドロヴィッチが2001年に作・演出を手掛けた本作。人間が潜在的に秘めたる善と悪、正気と狂気の相反する感情を、恐怖と笑いに織り込んだ本作は“ホラー・コメディ”として絶賛され、第五回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
 
記録にも記憶にも残る傑作戯曲の誕生から21年。今回、数々の話題作を世に送り出した河原雅彦による新演出版として上演される。開幕まで1ヶ月を切った5月31日、都内で取材会があり、演出の河原、出演する古川雄輝浜野謙太が登壇した。

【あらすじ】
田舎でふたり暮らしをしているホラー作家・海老沢十三(堀部圭亮)と娘・キオリ(平野綾)。
12年前、拉致・監禁の末、集団暴行を受け殺害されたキオリの双子の妹・サオリの命日の日に、さまざまな人々が海老沢家に集まってくる。巡回中の近所の警察官・下平(坪倉由幸)、海老沢の熱心なファンだという女・赤井(長井短)。タクシー運転手・木村(浜野謙太)が腹痛を訴えて転がり込み、そこへ加害者の少年のひとり、間宮(古川雄輝)が焼香をしたいと訪ねてくる。
偶然か…必然か…。バラバラに集まってきたそれぞれの奇妙な関係は物語が進むにつれ、死者と生者、虚構と現実、善と悪との境が曖昧になっていき、やがて過去の真相が浮かびあがってくる…。


「一緒に組めていなかったらやっていなかった」在日ファンクの音楽を生演奏

河原雅彦

河原雅彦

ーー稽古が始まって半月ぐらいが経ちますが、手応えはいかがでしょうか。
 
河原雅彦(以下、河原):この舞台は21年前に拝見しておりまして。僕の仕事は演出家、作・演ではないので、常に面白い本を気にしています。ケラさんの作品って、もちろん舞台は同じ畑の後輩なので見る機会も多くて、とても尊敬している面白い作家さんなんですけど、なかなか本が……。演出するという立場になると、自分でもケラさんの作品をやってみたいと思う時に、預かるにはハードルが高い。ナンセンスな部分もあるので。そんな中、ケラさんの本をやってみたいなと思った時に、真っ先に思い浮かんだのが『室温』でした。だから誰にでも分かると思います。
  
僕はとても音楽が好きなので、これまでもいろいろなミュージシャンやバンドとお仕事させていただいています。何年間に1回、ミュージシャンとコラボをしないといられない(笑)。ミュージシャンも同時に探していて、それも合致したのが『室温〜夜の音楽〜』という作品でした。
 
当時はケラさんはたまさんとやっていて、たまさんありきでこの話を作られた。たまは解散しているので、ケラさん自身も『室温』の世に出ることはないだろうと思っていたみたいなんですけど、これまたケラさんの作風と同じように、たまの世界観も唯一無二なものであった。『室温〜夜の音楽〜』と副題にあるように、音楽と共にある作品だと思うので、そこでなんか一緒にこの作品とコラボできるミュージシャンはいないかなと思った時に、音楽性は全く違うんですけど、たまの音楽の土着感から考えて、あ、ファンクだと思って。
 
それで在日ファンクさん。はまけん(※浜野謙太のこと)くんもお芝居は見させてもらっていたんですけど、俳優としてお仕事をしたこともないし、とてもちょうどいいと思って。どの役者さんよりも先に在日ファンクさんとお仕事できないかというところからオファーして。だから、一緒に組めなかったらやってないですね。オファーを引き受けていただいて、このような取材会ができる運びになって、幸せでございます(笑)。

河原雅彦、古川雄輝、浜野謙太(左から)

河原雅彦、古川雄輝、浜野謙太(左から)

ーー改めて本作はどのような内容のストーリーなのでしょうか。
 
河原
:簡単じゃないんですよ、ケラさんの本の話をまとめるのは。双子の美人さんがいて、その父親がオカルト作家。女子高生コンクリート詰め殺人事件をモチーフにしているんですけど、双子の妹さんが亡くなっていて。舞台はとある漁村で、その人はサオリさんというその妹の命日で、その日に変わった人たちが訪ねてきて、とんでもないことになる1日。
 
ホラーコメディという風に銘打たれているんですけど、ケラさんの作品って世にあるホラーコメディとは違って、とても文学的で深淵。なんていう感覚ですかね。嫌な気持ちになるというか、居心地が悪いというか、得体の知れない気味の悪さや違和感がベースになっているんですけど、なんでもない日常に見えるものが、実は見えない。でも、それはわかりやすく見せているわけではない、微妙なバランスの本。
 
コメディに見せるのが難しい本なんだなというのを、稽古に入って改めて感じています。ホラーコメディなのに「笑えるので来てください」という話でもなくて。ブラックファンタジーとも言える、ファンタジーの一面もあって、ホラーだ、コメディだ、ファンタジーだと言っておきながら、簡単にジャンル分けできるものでもない、カオスがとても魅力の作品だなと思っています。

浜野謙太

浜野謙太

ーー在日ファンクは生演奏で参加されますが、作品の中の音楽のあり方や魅力を教えてください。
 
浜野謙太(以下、浜野):河原さんとイチから組み立てさせてもらったので、ある意味、共犯というか、そういう気持ちが強くて。ともすれば演出に口を出しそうになる(笑)。
 
河原:ともすれば僕も黙って言うことを聞いてしまいそうになる(笑)。
 
浜野:ノってきているというか。在日ファンクも、このために書き下ろした新曲があるので、そういう場を心広く提供していくださったことにめちゃくちゃ感謝しています。最初、バンドメンバーは「お芝居で? 音楽を演奏するの?」と疑心暗鬼な感じがだったんですけど、やり始めたら、ノっていますね。めちゃくちゃ混ざり合って、一緒に作っている感じがする。僕らバンドがライブだけでは表現できなかったようなことが、もしかしたら今引き出されている可能性があって、バンドはすごくノっていますね。新しい一歩を踏み出させていただいたことに感謝です。
 
河原さんが(ケラさんの作品のことを)違和感とおっしゃっていたけど、僕らのバンドもそういえば違和感から始まっていたなと。日本で、アメリカで流行っているファンクとかロックとかをやることにおいての違和感を大事にしなきゃなと思って、在日ファンクという名前をつけたんですよね。今、あっと思いましたね。
 
河原:ゴージャスになると思います、おそらく。それも欲しかった。たまさんと音楽を変えるという時点で、見た目も真逆に振っちゃえぐらいの気持ちでいました。これまで、生演奏の舞台は何本も経験していますが、こんな編成でやったことないから。今まだ役者さんもイメージしきれていないと思うんですけど、在日ファンクさんが舞台上で生で演奏をしてくれるのは、ケラさんとの作品のいいギャップになるんじゃないかなと思いました。

古川雄輝、3年ぶりの舞台「役柄と向き合ういい時間」

古川雄輝

古川雄輝

ーー主演の古川さんは、現状の手応えはいかがですか。
 
古川雄輝(以下、古川):舞台自体が3年ぶりになります。映像の作品ですと、稽古期間を設けることがないので、「稽古ってこういう感じだったな」という新鮮さもありますし、久しぶりにやるにあたって楽しくやりたいなと思ったものの、まだそこには至れてないかなという感じですかね。
 
稽古が始まって1週間ぐらいですけど、今はそれぞれの役柄を紐解く時間をとっていまして。「この役はこうだ」という役の共通認識をみんなで持つ時間をとっている段階なので、それがもうちょっと進んでいくと、楽しみながらできるのかなと思うんですけど。まだちょっと必死に役柄をやろうと思っている状態ではありますね。ドラマなどはスピードが重要になって、普段はそういう時間がとれないので、役柄と向き合ういい時間を過ごせているのかなと思います。
 
ーー演じられる間宮という役についてどう思われていますか。
 
古川:うーん……お答えできないです、正直。稽古が始まっている前は「こうなんじゃないかな?」ということを取材の中でもお話ししたりもしたんですが、いざ稽古が始まってみると、本をそこまで深く読めていないことに気づいたんです。今はみんなで書かれていない部分も含めて話し合っている段階で、思い描いていた人物像とちょっと違うところに間宮がいる。
 
「どういう役ですか」と聞かれると、難しくて答えられないんですけど……河原さんがおっしゃったことをヒントに「こうなのかな?」というのを作り上げている段階です。

河原雅彦

河原雅彦

ーー河原さんから見て、古川さんはどんな俳優さんですか。
 
河原:声が大きくない(笑)。どんな俳優さんというか、どんな人かが重要だと思うんですが、とても誠実だと思います。分からないことは分からない、出来ないことは出来ない、と。出来たふりばかりをする人が多い中でね。先に進まなくてはいけないので、分からないなりにもやってみてという無茶もあるんですけど、分からないなりにでも、要求したことに近いものを出してくれる。そこから「じゃあなんでこれを要求するか」とチューニングを合わせる時間があって、いろいろな話をして、理解をしてやる。
 
そういうことができる。それは僕にとっては、その人の今が明確に見えるし、とてもやりやすい。古川くんが腑に落ちた時は、そこに古川くんの魅力がのびのびと加味されるわけで、オリジナリティのある間宮になるんじゃないかなと思ってみています。
 
ちゃんと上がっていって、止まっていることに対して誠実に向き合う。それは演出家にとっては、信頼できる人だなと。ケラさんの本が難しいのは当たり前で、普通の作家さんの本で「へぇ〜」の相槌ひとつも作用があって、気が抜けないんですよね。今はそういうところを細かく詰めているので、大変なんです。好きでやっていますけど、大変だなと思いながらやっています(笑)。

ーー古川さんは3年ぶりの舞台出演ということについての意気込みを改めてお聞かせください。
 
古川:毎回出来ない部分があって、壁に当たったりするんですね。3年経っている間で、他の役柄も経験しているので、舞台の現場に戻った時にうまくいくかなとも考えていたんですけど、当然うまくいかない部分もあって。思っていた何十倍も難しくて。だいぶ早い段階で壁にぶつかっている感じですね。
 
ーーやはり難しいという思いが一番強いですか。
 
古川:僕ができていないだけかなと思っていますが、そうですね。さっき河原さんが言っていたように「へぇ」の一言で意味があるとかは読み込めていなかったので、難しいなと思います。

浜野謙太

浜野謙太

ーー浜野さんは運転手の木村役ですが、お芝居の意気込みをお願いします。
 
浜野:木村がまたメインキャストたちと違う立ち位置なんですよね。木村についてのディスカッションをしたときに、ファンタジー側の人間だとお話をされていたので、ああそうか、と。最初に河原さんが、物語の大局から逆算しないでつくってみようというお話をされていたのですが、まさに木村は断片の連続で、何を考えているのか分からないところから組み立てています。「えっ」っていう台詞がいっぱいあるんですけど、それが全て違うんですよね。台本が手放せない日々です。木村はこれから完成すると思っています。
 
ーー浜野さんと古川さんは互いの印象は?
 
浜野:みんなで話していると、本は難しいけど、みんな役者さんだし、分かっているのかな〜という雰囲気になるんです。でも古川くんはポカーンとするんですよ。軽々しく返事ができないとき、分からないときは。それが僕にとってはまさに間宮だなと思って。もう出来ているじゃんって思います(笑)。
  
河原:マスクしてポカーンが伝わるってすごいよね。
 
浜野:信頼できるんですよ、そういう人って。
 
古川:このあと答えづらいですね(笑)。同じシーンはなかったんですけど、同じ作品もあったりして、いろいろ拝見していますが、技があって、引き出しがいっぱいある俳優さんだろうなと思っていたんです。今回、稽古をして、木村のお芝居が面白いので、その印象通りなんだなという感じですね。

本を預かる以上、ケラさんとの「喧嘩」に「勝ちたい」

古川雄輝

古川雄輝

ーー本作のどんなところに魅力を感じられますか?
 
古川:答えられないな……(笑)。難しい部分でもあるんですけど、ズレが生じるのが面白いと思っています。ホラーコメディというジャンルの中、例えば怖い話をしているとして、その場にそぐわないものがテーブルの上にあったりして、それが面白いんだと。そういうズレが生じるのがホラーとコメディが混ざり合っていて、観ている側が面白いのかなと思います。

ーーホラーコメディというジャンル自体はお好きですか?

古川:そうですね、観ていたら面白いなと思うんですけど、やる方は大変ですね。
 
河原:正直(笑)。「ここ笑ってください」というものではないんですよ。普通のホラーコメディって、一目して、ここが面白い、ここはギャグをやっていると分かるんですけど、ケラさんは照れ屋なのかな(笑)。ずっと潜ませておく本だから、普通に読むと読めちゃうやりとりばかりなんだけど、「ここ面白いと思って書いているんだよ」というのを共通認識を持って進めないと、コメディにならないという特殊な本だと思います。一口に言えないんですよ。

舞台『室温~夜の音楽~』メインビジュアル

舞台『室温~夜の音楽~』メインビジュアル

ーーこの作品を通して、改めてお客様にどういう時間をお届けしたいですか? お客様に一言お願いします!
 

河原:僕の好きなものとして、一口に「面白い」で済んじゃうものとか、一口で「悲しい」と済んじゃうものにはあまり興味がなくて、いろいろな感情を持って帰れるもの——それが不快感でも、純愛でいい話だったなでも何でもいいんですけど——そういうものがもともと好きなんですね。多面的なものがストレートなものよりも好き。

この話も、どこまでも狂っていて、どこまでも美しいというのが、裏と表にあったりする話。「美しい狂っている」という言葉よりも、「どこまでも」が大事で、そこを掘って書く作家さんは少なくて、ケラさんはその中のひとりだと思っています。どこまでも狂っているから、どこまでも悲しいことになったり、どこまでもおかしい状況になっている本ですね。真っ黒で真っ白な話ですかね。
 
ファンクというのも、どういうイメージをみなさんが持っているか分からないですけど、多面的なんですよ。聴き込むと、いろいろな顔があって、この戯曲にとてもマッチする。ひとつ心配だったのは、はまけんくんがフロントマンをやって、タクシーの運転手もやること。けど、はまけんくんの多面的なところもいっぱいみて貰えると思いますし、お芝居も音楽もとても好きだから、在日ファンクさんとケラさんの作品の面白さが融合して伝えていけたら、かなりオリジナリティのあるものになるのではないかなと思っています。
 
本を預かるって、喧嘩じゃないですけど、いつも勝ちたいと思う。勝ち負けじゃないのはよく分かっているけど、僕らで集まって、初演にはない面白さのところまでいかないと負け。「これをやりたい」ということだけではなくて、大きなリスペクトを持っていかないと。21年ぶりにやるにあたって、初演をそのまま再現するとなったら目標が変わってくるしつまらないから、ベースがしっかりある上で我々なりの『室温』を作るところまで到達しないと、ケラさんに申し訳ない。いまベースを作っているところです。勝てるように頑張ります(笑)。
 
浜野:音楽もあって、結構濃い感じなんですけど、生演奏って実はそんなに疲れないと思う。なっている音楽を聞かされるよりは。そういう意味では楽しんで、「長いな」と感じられたら終わりですけど、楽しんで観ていただけたらいいなと思います。うざいようにやるので(笑)。(古川さんの方を見ながら)めっちゃ悩んでいますけど、役者さんは今の時点でとても魅力的だと思います、まじで。
 
河原:(古川さんに)元気出せよ!(笑)
 
古川:魅力的なキャストのみなさんのお芝居と音楽が加わって、あまり演劇を観たことない人も来ると思うんですけど、純粋にホラーコメディを楽しめるのかなと思います。深くまで読み始めると、どこまでも深読みができてしまう作風なので、演劇が普段から好きな方からすると、すごく面白いんじゃないかなと思います。

 取材・文・撮影=五月女菜穂

公演情報

舞台『室温~夜の音楽~』

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:河原雅彦
音楽・演奏:在日ファンク
出演:古川雄輝 平野綾 坪倉由幸 浜野謙太 長井短 堀部圭亮 ・ 伊藤ヨタロウ ジェントル久保田
 
企画・製作:関西テレビ放送
 
 
<東京公演>
日程:2022年6月25日(土)~7月10日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
料金:S席9,500円 A席7,500円 (全席指定・税込・未就学児入場不可)
主催:関西テレビ放送 サンライズプロモーション東京
お問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
 
<兵庫公演>
日程:2022年7月22日(金)~24日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール(兵庫県西宮市高松町2−22)
主催:関西テレビ放送 兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
運営協力:サンライズプロモーション大阪
お問合せ:芸術文化センターオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00 / 月曜休 ※祝日の場合は翌日)
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