2年ぶりの開催「豊岡演劇祭2022」記者会見レポート~「アジアの演劇人が憧れる演劇祭に、ここから始めることができれば」(平田オリザ)
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『豊岡演劇祭2022』記者会見に出席した平田オリザフェスティバル・ディレクター(左)と高宮浩之演劇祭実行委員会会長(右)。
城崎温泉や神鍋高原などの多数の観光・リゾート地を有する、兵庫県豊岡市を中心に開催される演劇祭「豊岡演劇祭」。2年前に第一回を開催し、アートと観光を一緒に楽しめるイベントとして、県外からも多数の人が訪れるほど注目されたが、昨年の第二回は、兵庫県に緊急事態宣言が発出されたため中止となった。そのリベンジとなる第三回は、地元企業との連携を強め、決して「舞台だけ観てとんぼ返り」などはさせないような、観光一体化&地域密着型のフェスティバルとなる。2022年6月23日に、演劇祭実行委員会会長の高宮浩之と、フェスティバル・ディレクターの平田オリザ(青年団)などが出席した会見が、豊岡市内で開催された。
今年は公演数だけで80以上、関連企画を含めると100以上のイベントを行う予定と、まさに国内はおろか、アジアでも有数の規模となった豊岡演劇祭。その中心となる公式プログラムは、今年は「ディレクターズプログラム」「フェスティバルプロデュース」の二部門制となった。「ディレクターズ……」は、平田が選出した国内外のバラエティに富んだ8作品。「フェスティバル…… 」は、まちづくりや観光と関わる4作品を上演する。
山海塾『降りくるもののなかで―とばり』。 ©Sankai Juku
「ディレクターズプログラム」は、昨年も参加を予定していた「山海塾」「岩下徹×梅津和時」「Platz 市民演劇プロジェクト」「ヌトミック」「青年団」が引き続き参加。特に世界的なダンスカンパニーで、但馬エリアでは初めて公演を行う山海塾は「今回の大きな目玉」だと平田は言う。Platzは唯一、昨年演劇祭が予定されていた期間中に、但馬エリアの市民限定で公演を敢行。今回はその作品を改訂した、新ヴァージョンを上演する。
「南河内万歳一座」の内藤裕敬が作・演出を務める、Platz市民演劇プロジェクト『新・豊岡かよっ!』(写真は2020年上演の『豊岡かよっ!』より)。
岩下徹×梅津和時は、昨年の予定よりもステージ数と会場を増やし、より多くの人が観劇できるように。ヌトミックが上演する『ぼんやりブルース』は、この延期期間の間に「第66回岸田國士戯曲賞」最終候補に選ばれる快挙を果たし、今回は新演出版を上演。青年団は演目を『日本文学盛衰史』と『銀河鉄道の夜』に変更。特に「第22回鶴屋南北戯曲賞」を受賞した『日本……』は、関西初上演となる。
ヌトミック『ぼんやりブルース 2022』。 ©comuramai
新たに加わったのは「劇団あはひ」「カミーユ・パンザ/エルザッツ」「ノイマルクト劇場+市原佐都子/Q」。劇団あはひは「CoRich舞台芸術まつり! 2019春」で、学生劇団で初のグランプリを獲得した気鋭の団体。ベルギーを拠点とする演出家、カミーユ・パンザが率いる「カンパニー・エルザッツ」は、平田オリザのテキストを用いて、数々の賞を受賞した舞台を引っ提げて待望の来日。[城崎国際アートセンター(KIAC)]芸術監督・市原佐都子は、オペラ『蝶々夫人』を原案に、スイスの劇場と共同制作した注目作を上演する。
劇団あはひ『光環(コロナ)』。 photo by bozzo
このプログラムのコンセプトについて、平田は「挑戦的な言い方をすると、コンセプトはありません」と語った上で、その狙いを以下のように明かした。
「全国の演劇ファンの方に、どういうプログラムなら、バランスよく観ていただけるのか? 観たいと感じていただけるのか? という視点で選んでいます。ただ、一つひとつの(公演)場所には、ある程度の統一性を持たせた展開にしました。[KIAC]は国際性、[芸術文化観光専門職大学]は現在大きく変わってきている、大学で演劇を学ぶ意味について考えさせる演目です」。
「フェスティバルプロデュース」は、文学と縁の深い城崎温泉の、あちこちの飲食店でリーディングを行う『よるよむきのさき』や、観光列車と演劇を組み合わせた『うみやまむすび×スイッチ総研』という、特に演劇に興味がない層も気軽に楽しめそうな催しもあれば、ロングスパンで新しい地域芸能の創作に挑んだ「烏丸ストロークロック」の野外劇まで、こちらも幅広いラインアップ。『山月記』は第一回にフリンジで参加した作品だったが、非常に高い人気を集めたため、今回は公式プログラムに選定されている。
カミーユ・パンザ/エルザッツ『思い出せない夢のいくつか』。 © Dominique Houcmant
さらに、全国から参加者を公募した「フリンジプログラム」は、今回は60近い団体の参加が決定。こちらも、屋内外様々な会場で公演を行う「セレクション」、一会場に複数の団体が登場する「ショーケース」、豊岡駅前や城崎温泉の路上で芸を披露する「ストリート」の三部門に分かれている。平田は「今年は(公募の)宣伝をがんばったこともあり、応募がすごく増えて、中には『公式プログラムでもいいのでは』というぐらいのレベルの劇団もありました。来年以降は、アジアからも応募が来るような演劇祭を目指したい」と、その充実度と将来性に自信を見せた。
ノイマルクト劇場+市原佐都子/Q『Madama Butterfly』。 © Philip Frowein
以上2つに加えて、地元の企業や他地域の演劇祭と連携した企画「連携プログラム」も行われる。「SCOTサマー・シーズン2022」の若手演出家育成企画『新ハムレット』公演や 、京都の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT」参加アーティストの滞在制作などを開催。特に早坂彩が演出する『新ハムレット』は、築100年を超える芝居小屋[出石永楽館]が会場なので、ここならではの相乗効果が期待できそう。また「演劇祭の大きな楽しみ」として、平田も地域の人々も実現を望んでいた「フェスティバルナイトマーケット」が、今回は日高と豊岡市街地の二つのエリアで大々的に行われる。それ以外にも、各自治体が独自のマーケットを計画しているそうだ。
岩下徹×梅津和時 即興セッション『みみをすます (谷川俊太郎同名詩より)』。 photo by bozzo
それぞれの会場はかなり広範囲におよぶ上、電車やバスも正直本数が少なくて、公式のプログラムですら、終演時間には公共交通機関がないことが予想される催しもある。その辺りについて、平田は「移動する時間や待つ時間、乗り継ぎの工夫なども含めて、都会型ではない芸術祭の楽しみ方に、お客様にも慣れていただけたら。(芸術以外に)温泉やいろんなアクティビティも含めて、どれを選ぶか悩むのも楽しみな演劇祭に育っていけたらと思います」とコメント。とはいえ今年は、会場によっては臨時バスを出すことを検討しているそうだ。
(左から)高宮浩之演劇祭実行委員会会長、平田オリザフェスティバル・ディレクター。
そして2022年の演劇祭のキャッチ「ここから、はじまる。」にこめた思いについて、高宮と平田は以下のように語った。
「コロナやウクライナの戦争で、みなさんも生活が変わってきていますが、我々豊岡の観光業者も、この2・3年で大きく変わって参りました。でもやっとコロナも落ち着き始めて、少しずつ明るい兆しが見えてきて、演劇祭も今年はなんとか開催できそうだと。地域住民でも結構初めて(参加)の方もいるし、ここからもう一度、新しい暮らしや楽しみ方など、いろんなことが始まっていけばいいな、という思いがあります」(高宮)
「今[KIAC]は東南アジアの(利用)希望者が年々増えているのですが、[KIAC]の選定アーティストになると、自国の助成金に有効になるようなんです。ここに日本に残された、数少ないブランド価値があるわけで、豊岡演劇祭も、そういうアジアから選ばれる、アジアのアーティストが憧れるような演劇祭になっていきたい。10年後、20年後に『あ、あそこから始まったんだな』と振り返ってもらえるような演劇祭を、今年始めたいということで、こういう名前を付けました」(平田)
青年団『日本文学盛衰史』。
さらに平田は、昨年の中止の口惜しさと、今後の期待について、以下のようにも語った。
「豊岡や但馬が、国際的なリゾートに成長していくための一つのシンボルとして、この演劇祭が機能していければと思っていました。そういう意味では、最初から観光業界・産業界と手を取り合って始まる、日本で初めての芸術祭と言っていい。その意義は非常に大きかったので、去年できなかったのは本当に残念でしたが、ここから再スタートです。開校した(芸術文化観光専門職)大学と演劇祭と地域産業界が、一緒になってやっていく初めての演劇祭で、もう期待でパンパンですね。特に学生たちにとっては、(入学後)初めての演劇祭。大学の志望動機に『演劇祭に参加したくて来ました』という人もいたぐらい(笑)、非常にみんな楽しみにしています。
集客は1万人を目指していますが、3割が地元の方たち、4割が関西圏、残り3割が全国かなと考えています。ボリュームゾーンはやはり、関西圏の演劇ファンの方たちです。最近小劇場系(の団体)は関西公演が減っているので、東京まで行かなくても、集中的に旬の上演が見られるというのは、演劇祭の大きな機能。たくさん来ていただきたいのですが、できるだけ地元の方たちにも観てほしいので、但馬エリアの方が先に
青年団『銀河鉄道の夜』。
多くの都市型の演劇祭は、どうしても劇場から劇場へと効率よく移動することに気を取られ、その周辺にある「街」での楽しみを見落としがちだ。しかし豊岡演劇祭の場合、次の移動に1時間2時間空くのもザラという不便さを、逆に「その間温泉に入ればいいや」「評判のカフェに寄ってみようか」など、おのずと劇場以外の楽しみに目を向けるようになる……ということを、実際第一回の演劇祭に参加した、筆者自身が実感している。
この原稿を書いている時点では、まだ詳細は出ていないが、中止となった昨年度は城崎温泉で、演劇祭の観客向けの特別宿泊プランが実現した例もあった。飲食店や観光施設の時短要請や人数制限も緩和され、第一回よりも来訪者を楽しませる要素は増えるだろう。平田が宣言した「より地域とつながる演劇祭」がどのようなものになるか。まさにここからが始まりだ。
(文中敬称略)
『豊岡演劇祭2022』イメージビジュアル。
公演情報
《ディレクターズプログラム》
・山海塾『降りくるもののなかで-とばり』
・Platz 市民演劇プロジェクト『新・豊岡かよっ!』
・ヌトミック『ぼんやりブルース2022』
・劇団あはひ『光環(コロナ)』
・カミーユ・パンザ/エルザッツ『思い出せない夢のいくつか』
・ノイマルクト劇場+市原佐都子/ Q『Madama Butterfly』
・岩下徹×梅津和時 即興セッション『みみをすます(谷川俊太郎同名詩集より)』
・青年団『日本文学盛衰史』『銀河鉄道の夜』
・お食事×文学×リーディング『よるよむきのさき』
・城崎発演劇列車 JR西日本観光列車「うみやまむすび」×スイッチ総研
・小菅紘史×中川裕貴『山月記』
・烏丸ストロークロック『但東さいさい』
・SCOTサマー・シーズン2022『新ハムレット』
・『フェスティバルナイトマーケット』
・『演劇人コンクール 最終上演審査』
・KYOTO EXPERIMENT 2022『KYOTO EXPERIMENT 2022×豊岡演劇祭2022』
■会期:2022年9月15日(木)~25日(日)
■会場(ディレクターズプログラム):
豊岡市民会館、豊岡市民プラザ、芸術文化観光専門職大学、城崎国際アートセンター、出石永楽館、但馬國總社 氣多神社、大生部兵主神社、但馬漁業協同組合 竹野支所、やぶ市民交流広場、香住区中央公民館
※その他のプログラムも、但馬エリア各所で開催。詳細は公式サイトでご確認を。
■料金:公演によって異なる。高校生以下は全公演無料。
■発売:
但馬地域先行/7月28日(木)12:00~
全国/8月4日(木)12:00~
■問い合わせ:https://toyooka-theaterfestival.jp/contact/ ※7月中旬から豊岡駅前にフェスティバルセンターを開設
■公式サイト:https://toyooka-theaterfestival.jp/