817日ぶりのライジングサンは、この国にとって大事な宝となるーー音楽史に刻まれた『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』現地レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』 撮影=編集部
『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』2022.8.12(FRI)〜2022.8.14(SUN)北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
8月12日(金)、13日(土)に北海道の石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージで『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』(以下、『RSR』)が開催された。言わずもがな、2020年・2021年はコロナ禍の中で止む無く中止に……。個人的にも3年ぶりの来場ではあったが、入場ゲートをくぐり、目の前の広大な大地を観た瞬間、「遂に帰って来た」という強烈な想いでいっぱいになった。テントサイトには既にたくさんのテントが設置されていて、バーベキューを楽しむ姿も多く見受けられる。もちろん、それぞれが守らなければいけないルールの上で楽しんでいるのも伝わってきた。バカ騒ぎでは決してなくて、胸騒ぎな僕らの特別な日が本当に帰ってきたのだ。
『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』 撮影=編集部
例年の約10ステージあった状況を考えると、今年はSUN STAGE、EARTH STAGE、Hygge STAGEという3つのステージで会場の規模も縮小されているが、それでも全体を歩き回れば、その尋常じゃない広さには驚くしかない。縮小されてもこの広さかと、北海道だからこそのスケール感である。
ZION (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
そしていよいよ、12時30分。EARTH STAGEにて、公募で選ばれたいわゆる若手・新人アーティストが登場する「RISING★STAR」枠で、ZIONのライブによりスタート。元NICO Touches the Wallsの光村龍哉が新たに始動させたというある意味、規格外のバンドである。それも北海道の十勝にスタジオを作って拠点を置いている『RSR』に出るべくして出た彼ら。緩やかで壮大なサウンドは、まさしく北海道を感じさせる。
13時30分定刻になると、『RSR』の立ち上げから関わってきたひとりであり、主催のWESS・若林良三氏が開催挨拶をするためにステージに現れた。個人的には、この方の挨拶を心待ちにしていた。ただ、名を名乗るわけでも無いので、観客の中には誰なのかわからない人もいただろうが、その誠実な挨拶を聞けば、何かしら感じたはずである。どうしても
3年という長い期間が空いてしまったことは受け止めていたが、改めて日数換算されると、どれだけの長い期間、開催されなかったかがリアルにわかる。世の中は戦争といがみ合いの真っ只中だが、この場が音楽と愛に満ち溢れるように力を貸して下さいと言った後、「泣いちゃうよね……」と言ったようにも聞こえ、その後の「もう言わなくてもわかるよね」の言葉も響いた。主催者とはいえ、あくまで裏方なので、そこまで気にする必要も無いかもしれないが、観客が楽しめる場所を作るために一生懸命動いてくれている人がいることを少しでも知ってくれたらうれしい。そして若林氏の「『RISING SUN ROCK FESTIVAL』というくらいなので、このロックバンドから!」と言って紹介されたSUPER BEAVER。若林氏からバトンを渡されたボーカルの渋谷龍太は登場するやすぐに、817日ぶりであることを強調して、1曲目「美しい日」へ。渋谷も若林氏と同じく本当に誠実な人なのだと改めて思えた。
SUPER BEAVER (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
3年前のライブレポートでも書いたが、どうしても地元・北海道出身者に注目したくなる。2018年に「RISING★STAR」として出場するも、その後は2019年初日の台風による中止と本格的出場を阻まれていたズーカラデル。ボーカルの吉田崇展は「みなさんの代わりに我々がでっかい声で歌います!」と宣言していたが、今回のリベンジ出演で故郷に錦を飾った感もあり、喜びが感じられたライブであった。Hygge STAGEのワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)とNOT WONK・加藤修平のソロ名義であるSADFRANKもそうだが、彼らの様な若き北海道出身ミュージシャンが『RSR』の将来を引っ張っていって欲しい。特に加藤は、今年1月に札幌 PENNY LANE 24にて開催された『BABY Q in EZO』にも出演しており、このイベント自体が『RSR』3年ぶり開催に向けてのキックオフ的イベントにも感じただけに、ラインナップに名を連ねてくれているのはうれしい。
ズーカラデル (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
移り変わりが激しい音楽シーンにおいて、メインステージのSUN STAGEに3年前と変わらず出場し続けているミュージシャンは本当に頼もしい。その代表格でもあるクリープハイプ。ボーカルの尾崎世界観は登場しても、すぐに歌わずハンドマイクで、ゆっくりじっくり観客に話しかけた。Twitterのエゴサーチでお馴染みの尾崎だが、前回出場した時につぶやかれた言葉を引用して、「久しぶりの『ライジング』ですが、相変わらずやれることをやりたいと思います」と静かに語り掛ける。去年リリースのアルバム収録曲「ナイトオンザプラネット」から始めるあたりも、今の自分たちに自信を持っている現れでかっこよかった。
クリープハイプ (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
夏に聴きたくなる人気曲「ラブホテル」なども歌う中で、「ナイトオンザプラネット」と同じくアルバム収録曲「一生に一度愛してるよ」も歌う。多くの人が集まるフェスなどでは人気曲を並べる方が喜ばれることもあるが、尾崎はそれを安全牌と捉えて、いかに飽きられることなくドキドキさせられるかに重点を置く。何よりも忘れられるのが怖いと素直に話して、先人たちみたいに20年経とうと覚えられたいと切に願う。「クソ暑い中でバラードをやりやがってという記憶でもいいから覚えといて欲しいです」という言葉からのバラード曲「exダーリン」は、彼らしい真っ直ぐさで信頼できた。
OAU (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
3年前のライブレポートで、細美武士と共に「今年最大のキーマン」と書いたのがTOSHI-LOWだった。詳しくは3年前のレポートを読んでもらうのが一番だが、音楽シーンを、フェスシーンを盛り上げようとする意識と気遣いがとてもある人だと思う。EARTH STAGEにOAUとして登場する彼だが、サウンドチェックからCMソングを歌ったり、本番ではSUPER BEAVERの渋谷にステージを横切らせたりと、とにかく楽しいことを仕掛けてくる。ボーカルのMARTINが英語で話した上で、すぐに日本語でも「待ってた? ウチらも待ってたんだよ! やばいよ! 言葉に出来ない……ありがとう」と気持ちを込めて話しかける。ズーカラデル同様、彼らも2019年初日に出場するはずが中止になったリベンジ出演組。だからこそ、想いが溢れ返っている。また、TOSHI-LOWはユーモア交じりに他のフェスをイジリながらも、「いっぱいフェスあっていいじゃん。世界見たら大変な事がいっぱいあるけど、俺らは選択肢の中で、戦いに行くんじゃなくて、フェスに行くんだよ、音楽を聴くんだよ。それが世界を変えるんだよ」と訴えかけて、今年頭にリリースされたばかりの新曲「世界は変わる」を歌った。
TENDRE (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
リベンジ出演組などと書いてはいるが、もっと言うと2020年も2021年も出演者は発表されることすらなく中止になっているわけで、想いが溢れ返って当たり前である。そして、想いは今年のステージで爆発するわけで。Hygge STAGEのTENDREも穏やかな音楽性ながら、その音楽への気合いは凄まじく、ステージから少し離れた場所にいてもビシバシと音が届きまくっていた。想いだけでなく、人が溢れ返っていたのも納得である。同じくリベンジ出演組であるEARTH STAGEの中村佳穂も念願の初出場の喜びから「絶対いつもやらない歌をやろう!」と言って、本人が主演声優を務めた映画『竜とそばかすの姫』の劇中歌「Swarms of Song」を歌うサービスも! この3年で取り巻く環境がガラッと変わった彼女だが、とてつもなく大きな成長を肌で感じさせてくれた。
中村佳穂 (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
岸田繁(くるり) (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=山下恭子
早いもので気付くと時計の針は夕刻18時30分を指しており、初日終盤を迎えている。Hygge STAGEは岸田繁の登場だが、観客たちははやる気持ちを抑えられず、早くから立って彼を待ちわびている。登場するやいなや、「座っててええで。座っとき座っとき」と観客たちの逸る気持ちを制する。これ何気ないシーンだが、とても大好きなシーンであった。フェスは朝から夜までの長丁場であり、それも野外だと疲れはたまるし、その上で2日目はオールナイトである。
HyggeSTAGE 撮影=編集部
だからこそ、まったりくつろいで落ち着ける場所も重要になってくる。そういう意味では、色鮮やかなデコレーションやアートが楽しめて、夜になるとライトアップが美しいチルアウトスペースがあるのも『RSR』の良いところ。3年前に訪れた時に誠に気に入って、心身ともに落ち着けた3つのスペースがある。札幌で音楽、アート、スパイス料理を発信するショップ・PROVOのオーナー吉田龍太プロデュースによるPROVO、Candle JUNEが森をコンセプトに、たくさんのキャンドルで飾ったTAIRA-CREW、また、飲食や雑貨の販売、シーソーなどの遊具もあるRAIN TOPEというスペース。今年新設されたHygge STAGEには、その3つのスペースの居心地良さや快適さを思い出していた。
HyggeSTAGE
ちなみに「Hygge」は、デンマーク語で「居心地が良い空間」や「楽しい時間」といった意味。北欧は1年の半分以上が雪に閉ざされているので、だからこそシンプルかつ少しの工夫で質が良いものを楽しむという考え方があり、北海道にも通じるところから作られたステージである。このように座って落ち着いて楽しめる空間は、私のような40歳過ぎの大人には非常にありがたかった。
ASIAN KUNG-FU GENERATION (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
フードエリアからは、ちょうどSUN STAGEの真上に見えた満月が美しい夜。初日のSUN STAGEのラストを飾るのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。見渡すと会場後方まで観客でみっちり埋まっている。肩車された女性観客も見受けられ、なにがなんでもどうしても観たいという想いがくみ取れた。それに応えるかの様に、ゆったり落ち着き払って歌っていく威風堂々な姿には、もはや貫禄すら感じる。歌っている最中にも、どんどん観客が増えていくのがわかった。事前のインタビューで主催のWESS若林氏は、ステージ最後の出順だけがハイライトでは無いので、ヘッドライナーという概念は『RSR』に適用しにくいと話している。まさしくそうではあるのだが、これだけ待ち望まれている様を目の当たりにすると、流石にヘッドライナーと称されても全く異論が無いほどの風格を感じざるをえない。ちょっとした会場の空気の変化にユーモア交えて返すゆとりある佇まいから、ラストナンバー「君という花」での激烈な待ち望まれ感まで、とにかく印象に残る出番だった。
YOASOBI (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
EARTH STAGEラストのCreepy Nutsでは、SUN STAGEで出番を終えていたYOASOBIがコラボで登場したり、クリーピーの直前には、ずっと真夜中でいいのに。が登場するなど、いま若者に大人気のアーティストがしっかりとブッキングされていることにも目を見張るものがあった。幅広い層の音楽ファン、全ての世代の観客の期待に応えられるのは、メインステージからコンパクトなステージまでを擁する広大な『RSR』だからこそである。
Creepy Nuts (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
次のページは……
■『RSR』の歴史とルーツをたどる、2日目レポート
ーーNUMBER GIRLの解散発表。急遽出演のフジ、レキシ、藤井 風がみせた絆。BEGINが届けた平和と音楽への想い