<2015年末回顧>一期一演!友成礼子の「当日券で観た演劇」ベスト5
「地を渡る舟」チラシ画像
1位 てがみ座『地を渡る舟』(10/23~11/1 東京藝術劇場シアターイースト)
2位 『プルートゥ PLUTO』(1/9~2/1 Bunkamuraシアターコクーン)
3位 ミュージカル『RENT』(9/8~10/9 シアタークリエ)
4位 OFFICE SHIKA PRODUCE『竹林の人々』(7/30~8/9 座・高円寺)
5位 ミュージカル『HEADS UP!』(11/13-11/23 KAAT神奈川芸術劇場)
2015年は、演劇を愛する皆さんにとってどんな観劇イヤーだっただろうか。私は個人的に、2015年は最も当日券に駆け込んだ年となった。そこで、“当日券で観た”という観点から2015年の演劇を振り返ってみたいと思う。
新しい公演が発表になり日程表とにらめっこ、念願のを入手するまでに毎回生まれる一喜一憂。また、それと同じぐらい予定が立てられず先行販売への申し込みを見送ったり、評判が良く行ってみたいと思った時にはすでに完売…などという体験をされる方も多いのではないだろうか。
しかし、そこで諦めることなかれ!演劇公演には、ほとんどの場合当日券が用意されているもの。先着や抽選など、販売方法は時と場合により様々なパターンがあるが「どうしても観たい!」という気持ちがあれば、なんとかなったりする。また、予定が空いたのでふらりと足を運んで「思わぬ感動と出会えた…!」なんてことも醍醐味の一つで楽しいものだ。
1位に選んだ、てがみ座『地を渡る舟』は、大変評判が良く観たくなり急遽足を運んだ作品。同じように駆けつけた人たちで、当日券には長い列が出来ていた。もらった整理番号はキャンセル待ちの番号だったが、劇場側が手を尽くしてくださったおかげで観ることができた。この作品は2013年に初上演され、第58回岸田國士戯曲賞と第17回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされたものの再演。どうにもならない時の流れの中、必死にこの国のかたちを留めようとする日本人たちの姿を、光と影の描きだす美しい舞台だった。長く記憶に留めておきたい・・・そう思える作品と出会えた瞬間ほど、幸福を感じることはない。
2位の『プルートゥ PLUTO』を上演したBunkamuraシアターコクーンでは、立見席が販売される場合があることをご存知だろうか。劇場の中2階、2階のサイド席の後ろ側が、立見席の場所となる。かなり見切れる場所からの観ることになるが、どうしても入手できなかった公演などの場合大変ありがたい。ただし、長時間の公演の場合はちょっとつらい。『プルートゥ PLUTO』は、観逃さなくてなくてよかったと心底思った作品となった。3時間の公演だったが、観ている最中も観終わったあとも、立ちっぱなしの疲れも忘れるほどの興奮状態。原作に対するリスペクト、映像などを取り入れた表現の多様化、そして主演を務めた森山未來の身体が生み出す無限の可能性。まさに“傑作”と言える作品だった。
3位の『RENT』は、少し特殊な当日券の出し方をしていた作品だ。この作品では、生みの親であるジョナサン・ラーソンの考えのもと、公演当日に最前列の10席をリーズナブルな価格で販売する”エンジェルシート”制度が伝統となっている。2015年の『RENT』は、次世代スターとも言える豪華メンバーが集結し、前売はすべて完売。そのため、この”エンジェルシート”を求め、連日多くの人が劇場に詰めかけていた。日によっては、100人を超えることもあったという。私は3日足を運んで、運良くエンジェルが手元に舞い降りてきてくれて観ることができた。本来の趣旨とは少し違うかもしれないが、演劇への期待と渇望がひしひしと感じられる光景が広がっており、作品から受けた温かな感動と合わせて忘れられない記憶となった。
4位に挙げたOFFICE SHIKA PRODUCE『竹林の人々』は、劇団鹿殺しの丸尾丸一郎が自伝的小説をベースに書き上げた作品ということで、いつもの劇団鹿殺しのテイストとは少し違った一面を観られた。高円寺に立ち寄った際にふらりと立ち寄ってみたのだが、小劇場の熱をはらんだ濃密な作品と出会えた。
5位の『HEADS UP!』には、友人の熱烈な勧めで足を運んだ作品。演出を手がけたラサール石井が構想10年作り上げたというだけあり、綿密に作られたストーリーと素舞台からバラシまで見せるという試みが非常に面白かった。演劇好きほど、見どころの多い作品だったように思う。結末を知ってから観ると、また違う芝居に見えてきそうで、もう一度足を運べなかったことが心残りでもある。
以上、”当日券で観た”という観点からこの1年に上演された作品の中で印象深かったものを振り返ってみた。遠方の人はそう簡単に足を運ぶことはできないかもしれないが、最近では当日券を「当日引換券」として事前販売をするケースも増えている。公演ごとに違うので、前売を入手し損ねてしまった方も、急遽予定が空いた方も、諦めずにこまめに情報をチェックしてみてほしい。2016年も、演劇と観客が劇場で出会う、一期一会ならぬ”一期一演”がたくさん生まれることを願ってやまない。